ナリチンクエスト† ~乙女勇者は前かがみ~   作:二三零

1 / 1
00. 旅の終着地

「な?」

 

────そう 名だ

 

 一方が地に伏し、一方がそれを見下ろす。戦の終幕に出現する構図である。

 

「どうして?」

 

────我を滅ぼす者の名を 聞いておきたい

 

「ふむ」

 

 切っ先は真っ直ぐに向けたまま、剣の主は遠くを見つめるように目を細めた。

 

「そういえば、名も告げていなかったね」

 

 出会いの始めに名乗り合うのが世の法ならば、彼らはまったくその埒の外に居るのだろう。その名よりも重く背負った称号が、宿命が、彼らの闘争の根源である。存在そのものが戦うには十分過ぎる理由となった。

 

 死闘の果てに求められた問いに、初めて個としての意思を感じられたような気がする。

 乙女は少し、少しだけ微笑(わら)った。

 

「アリア」

 

 研ぎ澄まされた刃の如く、凛とした声が響く。

 

「我が名はアリアスティル・エードリケ。アトロスとクリアスティルの子。(はじ)まりの国ユルテガルドの勇者にして魔を討つ者」

 

「君を討つ一振りの剣だ」

 

────ふ

 

────エードリケ “祝福されし血統”か

 

「そうだ。生まれた時から……いや、生まれる前から僕は君を討つ為に存在していた」

 

────そうでなくては

 

────()れこそが我らの宿命 我らを結ぶ宿縁よ

 

 こちらが光で、あちらが闇。白と黒、正と邪。

 “勇者と魔王”。

 あらゆる対立する語が彼らを結んでいた。対極に置いた。

 

「そろそろ終わりにしよう」

 

 だからこそ、なのかもしれない。奇妙なつながりを感じていた。それを否定できないままに、勇者は剣を振り上げた。

 

────(わし)を討つか

 

「うん」

 

────儂を討ってもまたいつか 世界のどこかで闇が生まれる

 

「かもしれない。でも」

 

「何度この世界が闇に覆われても必ず、どこかに光が灯る。そこに僕がいなくても、僕ではない誰かがかならず闇を祓う」

 

────ふ ふ ふふふ

 

────()い 好いぞ

 

 地の底から響くような(こえ)が、不思議なほどに弾んでいた。

 

────好かろう

 

────魔王ゾーアの首を()って 其方(そなた)の誉れとするがよい

 

「ああ」

 

 構え直した刃の先で。

 

────最後に

 

「うん?」

 

────()()をくれてやろう

 

「……呪いではなく?」

 

────そうとも これは祝福

 

────儂から最後のおくりものだ

 

 乙女勇者はその時初めて、かの存在を──魔王を、恐ろしいと感じたかもしれない。

 

────其方の道行きに 幸多からんことを

 

「っ!」

 

 斬り落とした時の、粘つくような(わら)い声がいつまでもいつまでも、耳にこびりついて離れなかった。

 その首級(くび)をすぐに布で覆って、彼女は(はこ)に収めた。

 敵への敬意からではない。

 いつまたその目が開くかもしれないと、怖かったから──とは、仲間にも決して語ることはなかった。

 

 

 

 

 戦いの幕は閉じた。

 彼らの旅もまた終わったのだ。

 故郷へ。帰りを待つ人々の元へ。

 乙女勇者一行は静かな凱旋の途に就いたばかり。

 

 共に旅立った仲間が、友が。

 こうして誰一人欠けることなく並んで歩むことができる。

 世界を救った英雄という誉れより、それが何より誇らしい。

 

 何も(うしな)わなかった。

 何も奪わせなかった。

 

 ただ、ちょっと……

 

「あ、ゴメン。ちょっとお花を摘みに行ってくるね……えへへ」

 

 なんか、こう……

 

「ん?」

 

「……ぉ?」

 

 むしろ逆に……

 

「…………」

 

「ぬぁ……」

 

 

 

 

 

「ぬぁんじゃこりゃぁぁぁっっ!!?」

 

乙女の股間に……ある……!

 

あってはならない()()が……あった……ッ……!!!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。