英雄讃歌 第四章 作:如月@カクヨムとなろうでも投稿しています
本邸会議が行われてから半月ほど後の話である。その日は継承戦の具体的な日程を決定する重要な会議が行われる予定であり、続々と参加者が集まっていた。
当然、レオンとドラコの両名はその会議室に足を踏みいれていた。
「レオン兄さん。準備は進んでいる?」
「ああ。もう出場者も決まっている。」
レオンとドラコは目線を合わせると火花を散らして、対話を始める。レオン陣営としてはイリア一行に二枠譲るのは確実性が減るものだったが、それ以外の二枠は予定通り部下で構成された冒険者が出場する予定である。
レオンは自分も含めて四枠を確保していれば、確実に勝敗を決めることができると考えていただけに状況は変わってしまっていた。しかし、それ以上にアリスの想いがレオンの心を動かした。
「冒険者二人、ね。変えるつもりはないのかな?」
「もちろんだ。信頼しているからな。」
「へぇ、そう。長年付き添ってきた部下じゃなくてね。」
レオンがイリアたちを信頼しているのは真実である。昇格試験のときに実力は計っていたし、また以降の行動やクエストの受注具合などを部下に調べさせることで、おおよその実力を見抜いていた。
とはいえ、イリアの英雄賛歌といった固有能力に関しては冒険中に用いることはなく知らないため、実力が上下する部分ではある。が、継承戦においては元々英雄賛歌は使用できない。
「ははは、関係の深さは長さと必ずしも比例はしないだろ。」
「……まぁ、いいさ。出場者はレオン兄さんの決めることだからね。」
関係の深さはおおよそ長さと比例関係にあるものだが、その限りでないのは確かである。その事実は否定できず、そもそもドラコとしては継承戦に出る相手がだれであれ、勝ちをもぎ取れるだけの戦略を考えるというだけなのだ。
そういう意味では対戦相手が見えている状態というのは有利であり、戦略の立てやすさが大きく変わる。勿論、相手陣営の情報を逐一精査しながらなため、結局はどちらも手札として何を持っているか分かっているのだが。
「レオン兄さん。……楽しみにしているよ。」
「俺もだ。ドラコ、本気で戦おう。」
「ふん。……よく言う」
ドラコの小さく呟くような声はレオンの耳に届くことなく、宙へと立消えて行った。
「さて、今日は忙しいところ集まって貰い感謝する。継承戦に関して詳細をつめようと考えている。よろしく頼む。」
レオンとドラコの対話から程なくして、当主であるクロウが会議室に入室していよいよ会議が始まろうとしていた。
会議室にいる面々はこの会議に緊張や興奮と言った様々な感情を持って挑んでおり、その空気感が異様な熱として会議室を充満していた。
「はい。まず、両陣営の希望とする日程はありますか?」
「俺はいつでも大丈夫だ。」
「同じく。」
継承戦の日時に関しては一応、対話による決定という表面上の風習はあるものの、実際のところは当主に一任される形になるのが、慣例である。
というのも、当主として継承戦というものの重要性は理解しているが、他にも仕事はありそればかりに構ってもいられない。そのため、当主として予定を開けられる日時が事前に通達されて、予定調和的に決定せざるを得ないというのが実情なのだ。
「では、当主様の都合の良い日となりますが、ちょうど一週間後に予定が空きそうですが、如何でしょうか?」
「それでいい。」
こうして、継承戦の日時に関しては議論というものもなく、簡単に決定してしまった。全てが予定調和であるから、会議室の誰もが口だしすることもなく流れることとなる。
「では、そのようによろしくお願いいたします。出場する選手は当日までに書類提出をよろしくお願いいたします。」
「「分かった。」」
「継承戦の話は以上とします。次の議題はーーーーーー」
この継承戦に関しての話は前座に過ぎない。他にも全員が揃っているからこそ、通しておくべき議題もあり、時間は有限だ。
そうして、複数の議題がテンポよく決定していき、熱狂だけは静けさを持って膨らみ続けている。
会議が終わり続々と面々が退室していく会議室で二人は再度対峙する。レオンが席を立つとちょうどドラコがレオンの道を塞ぐように立っている。
「レオン兄さん。」
「まだ何かあるのか?」
「本当に、本気で戦ってくれるんだよね。」
レオンを呼びかけるのはやはりドラコである。そのドラコにレオンは平常通りで、少しの感情も動いておらず、凪のようだ。
そのレオンにドラコは何処か不安げな色を表情に浮かばせて、問いかけを行う。
「ああ。俺の目的のために全力で戦うことを誓おう。ドラコも本気で向かってきてくれ。」
「……分かったよ。絶対に勝つからね。」
「ははは。期待しているよ。」
不安げなドラコの様子に気がついてか気がつかずか、やはりレオンの表情には何も変化をもたらすことはない。平常通りに熱もない声で言葉だけを発している。
表面上は和やかそうに話が進んでいるようで、見ている地点が違うよう。しかし、レオンの目は確かにドラコに向けられており、励ますようにレオンの片手がドラコの型に乗せられる。
「また継承戦でな。」
「……また、継承戦で。」
そのままドラコの横を通り過ぎて行ったレオンをドラコは目線で追って行く。
レオンが会議室から出た後に残るのはドラコだけであり、その孤独な部屋で静かに目を閉じた。
「……やれることをやるだけか。」