英雄讃歌 第四章 作:如月@カクヨムとなろうでも投稿しています
「まずは皆のもの。今日は集まってもらい感謝する。しばし継承戦は行われていなかったが、此度は継承戦を行うこととなった。継承戦の結果は覆すことができず、勝者が次の当主になることとする。」
継承戦の開始はクロウの話から開始することとなった。前提として、この継承戦の結果がそのまま次期当主としての座を決定するものであり、非常に重要な試合である。
ドラコが今のまま陣営を運用していた場合、確実にレオンが当主の座についていた。それは先に生まれた分、陣営を拡大できていたからでもあるが、何よりもレオンとドラコがどちらも等しく優秀であったからだ。
だからこそ、ドラコは継承戦という場にレオンを持ち込むことでしか当主の座に座ることができなかった。迂遠な手を用いることでようやく確率として、当主の座につける可能性を得ることができたのだ。
「継承戦は5対5の星取り戦方式とする。お互いの陣営からそれぞれ先鋒、次鋒、中堅、副将を任命し、大将戦としてレオンとドラコの一騎打ちとする。8名の戦士たちは事前に決められており、順番や戦士の途中変更は禁止とする。お互いは全力で戦うように。以上だ。」
「……長かったな。いよいよ、か。」
「ん?どうした。緊張しているのか?」
「いや……どうだろうな。緊張はしていない。ただ、少し高揚しているのかもしれないな。」
客席からも覗くことができる待機場所にて、椅子に座ったレオンは膝の上で両拳を握りしめて、その拳を見つめていた。
そんなレオンの様子にイリアが声をかけると、顔を挙げたレオンはいつもと変わらない穏やかそうな表情を浮かべており、普通そのものである。だが、その瞳だけは覚悟を秘めていた。
「ははは。だよな。ここで楽しまなきゃ損だぞ。」
「ふっ、それもそうか。全力で楽しんできてくれ。」
レオンの様子をイリアは闘志の表れと解釈して、共感を態度に表す。このような舞台に立てることにイリアとしても、心の奥底から高揚感が溢れており、それを隠しきれてはいないのだ。
そんなイリアにレオンもまた相好を崩して、獰猛な笑みを浮かべた。経営者としてのレオンではなく、戦士としてのレオン。その変化にイリアもまた増々心を高ぶらせる。
「アリスも頼んだぞ。」
「はいっ……!!」
「では、二人の戦士は線の上にお立ち下さい。」
「負けない。負けない負けない負けない。負けられないんだ。」
「よ、よろしくお願いします。」
アリスに対する男は尋常じゃない様子であり、おどろおどろしい瞳をしている。今、この瞬間に命を賭けているそれは、アリスを威圧するには十分であり、じりっと一歩後ずらせる。
それでも、アリスは負けるつもりもなく、貴重な一枠で勝たないわけにはいかない。その気持ちが二歩前に足を踏み出させる。
「まずは先鋒同士の戦いです。レオン陣営、先鋒!!アリス=クライツ!!」
「……わっ、わわわ。」
どんっと空気を鳴らすような歓声が辺りに響く。レオン陣営の面々が、興奮した人間が一斉に雄叫びをあげ、圧倒的な熱量を持って戦場に降り注ぐ。
それに怯んだようにアリスはきょろきょろと顔を動かし、ペコペコと頭を下げている。その胸の付近には決闘のタリスマンが装着されている。色は白と青のものでイリアが側で見守っている。そんな意味を込めて。
決闘のタリスマンにふと手を添えるアリスは覚悟が決まったように男を見つめている。
「ドラコ陣営、先鋒!!ゼルシウス=グレーシャ!!」
「絶対に、勝つ……!!」
次いで、名前が呼ばれるとまたも、どんと空気を鳴らすような歓声が響く。今度はドラコ陣営の人間が挙げた雄叫びであり、その雄叫びはレオン陣営の声に混じり合い、この空間に一体感が生まれる。
ゼルシウス。ゼルはそれに答えるように拳を上へと突き上げ、気合い十分な様子である。
「両者構えて……はじめ!!」
「“夜の帳”、“ダークミスト”。」
「“エアーステップ”。」
アリスの一手目は自身の得意な領域の形成と視覚妨害である。イリア戦でもそうだったように、魔法戦において視界妨害は非常に強いものである。さらに重要な要素として、自分の空間、領域の競り合いである。空間として制圧している範囲が多い程、攻撃手段なども多くなり、選択肢が多くなる。
一方で、ゼルの一手目は宙に浮かぶことであった。イリアは多種多様な戦術を用いたものだが、空を飛ぶ手段を持っていない。そのため、制空権を取られた状態の戦いというものはアリスにとって初めてと言っていい。
先ほどの空間の制圧率という話において、制空権を取るということはおおよそ半分以上の体積の空間を制圧できることであり、地面までの一部空間を制圧することも可能となる。移動の容易さそのものが制圧率を上昇させるわけだ。
「空!!“ダークガード”。」
「“フレイムシャワー”。」
二手目。防御魔法である。制空権を取られた以上、相手がどのような手段で攻撃するかの見極めを優先する。そう言った判断によるものである。
それは果たして、ゼルの魔法が地面に降り注ぐ。火球が線上に変形して、地面のランダムな位置に落ちる。地面全体が攻撃範囲となっており、制空権を取ったことのメリットを最大限用いた戦い方と言えるだろう。
「“ファイアレジスト”、“ダーククラウド”。」
「“ウィンドブラスト”。」
三手目、火属性耐性を上昇させて、ダークミストをゼル対象に発動したところを、自分を対象として黒い雲が発生する。それは瞬くまに広がり、戦場を覆い隠す。
それに対して、フレイムシャワーの発動が終わった直後に風魔法により、雲を振り払った。視界の確保をすることで、空の上から一方的に攻撃できる状態を維持したかったためである。
ここまで互いの手札の確認を中心に行っている試合展開である。ゼルとしては積極的に攻めて、相手の対抗手段を確定させる。さらに、その対抗手段の対抗を先回りできるように情報を集めているところ。
「“ダークマイン”。」
「“ウィンドアロー”、“ウィンドボール”。」
四手目、アリスはここで機雷を地面に設置。いずれ、地面に降りてきた時用にトラップとしてである。現状、アリスはゼルが空の上から攻めても無駄であると証明する方法の模索中であり、自分と同じ目線で立った時に有効となる手段を今の内からおいておくことで今後の試合展開を楽にする狙いがある。
ゼルはと言うと、こちらは積極的に攻撃を仕掛けていく。初級魔法に位置する魔法を使いながら、それに対してどのように対抗するかで、相手の思考性や魔術師の腕を観察して、詰み将棋のように行動の制御を行おうというものだ。
ここで戦略的にお互いが攻撃と防御に分かれ、膠着状態に陥ることとなった。ゼルは有利な位置を崩さないようにしながら攻撃を続け、アリスは絶対に崩れない防御力であることの証明をすること。未だ有利なのは圧倒的にゼルである。