英雄讃歌 第四章 作:如月@カクヨムとなろうでも投稿しています
アリスが防御、ゼルが攻撃という試合展開になってから、しばらく膠着状態が続いていた。アリスとしては基本的にゼルの攻撃手段に対して、ジャンケン的に有効な魔法を選択して相殺と反撃を用いて魔法を展開していた。
一方で、ゼルは出が早い魔法か、攻撃範囲が大きい魔法を中心に魔法を展開していき、相手の防御が崩れるタイミングや遅れたタイミングでさらに魔法を畳み掛けるような展開を意識している。
どちらも有効手も、目立ったミスもなく長時間続くと、どうしても集中力が切れる。
「“ダークボール”、“ダークカッター”。」
「“ファイアカッター”。」
それは起こった。まず、アリスはゼルの放った魔法を適切に処理して、二つの魔法を威力が減衰したとはいえ、返した。それに対して、ゼルは片方を魔法で、片方をエアーステップの移動により回避しようとした。
そして、回避が間に合わず、ダークカッターはゼルに衝突して、バランスを崩す。
「“ダークイレイザー”、“フレイムマイン”。」
「くっ……!!“エアーシールド”。」
アリスはゼルがバランスを崩した瞬間を見逃さずに、確実に有効打が取れるだろう隠していた魔法を発動する。アリスの背に六つの闇の球が出現し、そこからそれぞれ闇の光線がゼルに向かって放たれる。
さらに、ゼルが地面に降りることを想定して、もう一種の機雷の配置も忘れない。それに慌てたのはゼルである。どうにか風の盾を魔法で創り出し、闇の光線を防ごうとするが、数が数であり、全ては防ぎきれない。
その結果、アリスの予想通りに地面に近づいて徐々にゼルは降りてくる。
「……“ダークランス”、“ダークボム”。」
「“ウィンドカッター”、あっ……」
ここでアリスはゼルの予想だにしていない行動に移る。それは杖を両手に握りしめて、ゼルの方向へと駆け出したのだ。ゼルとしては完全に純粋な魔術師であると仮定していたばかりに、焦りが発生する。
アリスの魔法に対して有効な対抗手を打ち放つことは出来ず、そのままダークランスの威力の減衰をさせながらも、ゼルはダメージを食らってしまう。ダークボムは宙に浮かびながら、ゼルに近づいていく。
しかし、ダークボムは移動速度が遅い魔法のため、着弾することはない。
「くそっ……!!」
「“フレイムピアー”、“ダークピアー”。」
そして、近づいてくるアリスに対抗しようとその場で立ち止まり、ゼルは杖を構える。アリスの行動がブラフであることを気がつかず。
アリスはゼルがその場で立ち止まったことを確認すると、地面から魔法の針が飛び出るピアー系の魔法を発動する。すると、当然ながら物理方面の対抗策を考えていたゼルは対処方法を思考することができずに、二つの魔法が着弾する。
「このっ、“ウィンドバースト”。」
「“ダークシールド”、“ナイトビジョン”」
「はっ……くっ!!」
ゼルが用いた魔法は前方を風で押し流し、広範囲に攻撃する魔法である。この場面では、今の現状をリセットして、一から戦況を構成したいため、全ての魔法を等しく吹き飛ばそうと考えたのだ。
それに対して、アリスは防御魔法でダメージを軽減させながら、発動した魔法はナイトビジョン。夜でもものが見える夜目になることができる魔法である。それがゼルに効果を反映させ、次の瞬間に辺りが真っ白になり視界が奪われることとなった。
「“ダークイレイザー”。」
「……“フレイムシールド”。」
視界を急に奪われたにもかかわらず、ゼルはすぐさま反応して防御魔法を前方に展開する。それは半分正解であり、半分不正解である。その防御魔法はダークボムとぶつかり、ダメージを確かに軽減した。
しかし、次に放ったダークイレイザーの魔法を軽減させることができずに、全てそのまま着弾してしまう。ダークボムという、移動速度が遅い魔法を宙に浮かばせておくことで、シールドを破壊させるという戦法が奇麗に決まった形である。
「ぐっ……」
「“ダークアロー”。」
――――――パリン。イリアの最後の魔法が当たったことでゼルの決闘のタリスマンが破壊され、その場に崩れ散った。
ここに継承戦・先鋒戦の勝敗が決した。勝利したのはレオン陣営・アリスである。
「やめ!!ただいまの勝負、アリス=クライツの勝利!!」
しんと一瞬会場が静まり返ると、次の瞬間には爆発的な歓声でレオン陣営の勝利が祝福される。それに対して、ピースサインを上にあげるアリスに会場のボルテージはさらに上昇する。
まずはレオン陣営が白星を一つ。あと二つ取ればレオン陣営の勝利となる。
「お疲れ様。」
「うん。私、やったよ。……これで私も、隣に立てるかな?」
「ああ。勿論だ。」
選手の待機場所に戻ってきたアリスはイリアの出向かいに嬉しそうな表情を浮かべながらも、どこか不安な様子がまだ残っていた。それは継承戦に参加する動機ともなったイリアの隣に立っていること。それが本当に達成できるか不安だったから。
それに対して、イリアは満面の笑みで頷いた。最初からアリスを隣に立つ資格があるかといったことを考えたことはなく、パーティーとして今の形の方がいいと考えていた。
「えへへ。それなら良かったよ。」
「ははは。勝つのを信じてたからな。」
「俺からもおめでとうと言おう。絶対に勝ってくれると信じていた。」
イリアの祝福の言葉の次にはレオンの祝福の言葉である。イリアとレオンは両者とも勝てると信じてはいたが、それでも不安が残るもの事実であった。
それが今回のように最後は圧倒するような試合展開となったことに安心感と共に、歓喜を思い浮かべるのも当然だ。
「うん。ちゃんと白星取ってきたよ。」
「流石だな。」