英雄讃歌 第四章 作:如月@カクヨムとなろうでも投稿しています
「さて、次は私か。」
「一勝一敗。頼んだぞ。」
「ああ、任せておけ。」
次は中堅。イリアの戦闘である。イリア本人としては心配の微塵もないが、レオンはここで一勝できると踏んでいるため、負けられては困る。そのため、信頼しながらも、祈るような目線が含まれている。
「では、二人の戦士は線の上にお立ち下さい。」
「よろしくな。」
「相手は嬢ちゃんか。まぁ、手加減はしてやれないが、済まないな。」
イリアの体面に立っているのは高身長で、ガタイの良い大男であった。その男としては何気なく言ったことだった。しかし、イリアにとっては挑発されたも同然だ。
「はは。気にしないでくれ、こちらこそボコボコにしてしまって悪いからな。」
「はっはっは。嬢ちゃんが?小枝みたいに細い腕で?」
「「……。」」
挑発されればイリアも黙ってはおらず、相手に対して煽り文句を口にする。鼻で嗤った言葉は的確に相手をいら立たせて、ぎろりとした瞳がイリアに向けられる。
そして、男は大きな笑い声をあげながら、筋力もなさそうなイリアの腕をあげつらい嘲笑する。そこには筋力も、技術もないと暗に含まれており、これにはイリアもピクリと眉を動かす。
「レオン陣営、中堅!!イリア=ローズベル!!」
事前に聖剣召喚をしていた聖剣アレクシスがその手には握られており、いつもの青と白を基調としたチェック柄のスカートと鎧は色合いも統一感がある。その出で立ちはどこかの騎士のようだ。
「ドラコ陣営、中堅!!ロイド=コーベル!!」
そして、ドラコ陣営のロイドは装飾も何もない無骨な鎧と剣。傭兵上がりのようなどこか粗野な印象を抱かずにはいられないが、それと同時に頼りがいのありそうな雰囲気も持っている。
両者はお互いのことを睨み合うと、今か今かと審判の挨拶を待っている。
「両者構えて……はじめ!!」
「“クレイガード”。」
「土魔法かよ!!」
初手、ロイドによる壁の作成。視覚が届かないように工作。土魔法を用いるものにとっては、定番になる手である。男の如何にも戦士であるという出で立ちからは想像できない魔法攻撃。
これにはイリアもたまったものではない。今から剣をまじ合わせる気満々だったのにも関わらず、魔法戦闘となりそうな様相にがっくりとした表情を隠すことはなかった。
「“ソナー”、“クレイホール”。」
「……探知魔法、ね。」
その間にも男は冷徹に魔法を繰り出していく。ソナーは魔力の波を円球に放つことで、音波が返ってくる速度や波の変化などを観測して、見えない位置まで状態を確認することができる魔法である。
ソナーは便利なもので、魔法側が演算を行ってくれるため、自身で波の波形を解析することや、距離の測定をする必要がない。魔法という法則を超越するから成立するものだ。
その後に放つ魔法は穴を開ける魔法。ちょうどイリアの足の場所に穴が発生して、そのことからイリアはロイドが位置の特定が可能であると推測を立てる。
「“サンドホール”、“クレイピアー”。」
「な、砂魔法!?てことは、水も使えるのか。」
続いて、再度発生する穴を開ける魔法。本来は同じ魔法は二度リキャストタイムを挟まず使うことはできない。つまり、他の属性魔法であると分かる。
砂魔法は土魔法と火魔法の複合属性に位置する魔法であり、土魔法とほとんど性能としては変わらないが、粒度の違いや水の吸収性、魔法体系が若干違うなど、細々としたところで違いがある。
足を砂に取られながらも、イリアはピアー系の魔法を回避する。
「嬢ちゃん、詳しいじゃないか。」
「そのなりで魔法使いかよ。」
「魔法使いではないがな。魔剣士と呼んでくれたまえ。」
イリアの驚きの声はロイドに届いており、そのロイドから返答が返ってくる。ロイド曰く、魔剣士であると。魔法を主軸として今は展開しているが、剣術も同様に扱えるという器用な男である。
「なるほど。……土、火、砂、剣とオールラウンダーか。無属性は扱えないのか。」
「さ~て、どうだろうな。“クレイゴーレム”。」
「うわ、ゴーレムまで。」
イリアにとって次の問題は無属性魔法を扱えるか。それである。無属性魔法に属する魔法は他の魔法を強化するものが多く、一つあるだけで戦況を変えるほどのものもある。ダブルマジックも、マジックチェインも、魔法の性能として強すぎるのだ。
そこに追い打ちをかけるようにゴーレム練成魔法まで使うロイド。どこまで広範囲の魔法が扱えるのか。対人戦闘において厄介な魔法が続々と出てくる。
「そう言えば、聖剣召喚“聖剣ルプトゥーラ”。」
「……聖剣召喚?“サンドゴーレム”」
「へへん。これは楽勝かもな。」
聖剣ルプトゥーラは魔断の聖剣であり、その名の通りに魔法を斬りはらうことができる聖剣である。イリアが持つ聖剣の内、一番攻撃的であり、それでいて魔法に対する最高の防御手段でもある。
今回においては攻撃・防御魔法、ゴーレムまで幅広く対応できる聖剣ルプトゥーラは保有する聖剣の中で一番今の状況に合致しているだろう。
「反撃開始だ。」
イリアはひとまず、目の前の壁を切り払う。その瞬間、魔法はバターのように抵抗なく切り裂かれて、そのまま魔法の粒子になって宙に消えた。イリアはそのまま、次の壁目掛けて駆けていく。
「……!!聖剣って、ずりぃ!!」
「はっはっは。斬れるぞ!!」
ロイドは土の壁が消えるのを確認すると、聖剣という存在に悲鳴をあげる。今までイリアを追い詰めるために作られた壁やゴーレムたちは簡単に切り裂かれて、そのまま元に修復することができないのだ。
それをずるいと称さずになんと称すのだろうか。魔法使い殺しと命名を変更するべき聖剣を使うイリアは、今のロイドにとって悪魔以外の何物でもない。
「ふっふっふ。追い詰めたぞ。」
「さて、どうだろうな?」