英雄讃歌 第四章 作:如月@カクヨムとなろうでも投稿しています
「まだ何かあるのか?」
「魔法が対処されたのなら、剣術で戦うだけだ。」
ロイドは不敵な笑みを浮かべるとその手に持つ剣をイリアに向けた。窮地に陥ってもまだ自信があるその姿からは他にも、戦える手段を持っていることが見て取れる。
「剣術で、ね。」
「行くぞ!!」
ロイドはわざわざ宣言してイリアの方に向かって駆けていく。そのロイドの様子を見つめながら、イリアは剣を構えて待つ構えである。
「“クレイホール”、おらっ!!」
「……知ってたぜ。」
ロイドはイリアに攻撃するその直前に、足元に穴を開ける魔法を発動する。イリアの意識が攻撃の防御に、ロイドの剣先に向かう時に死角となる地面に魔法を発動することで、態勢を崩して、勝負を決めに掛かる。
ロイドの魔法のタイミングは完璧であった。イリアが足に体重をかけるその瞬間に発動していた。しかし、イリアはその攻撃を完全に読み切っており、態勢を崩すこともなくさらにロイドの攻撃にまで完璧な対応を行う。
「なにっ……!!くそっ。」
「次はどうするんだ?」
焦った声を出すロイドはイリアのカウンターにどうにか反応を返すが、じりじりと追いやられていく。自分の策が確実に成ったと考えた瞬間に、完璧な形で返されたため動揺を隠すことができないのだ。
「“サンドストーム”、“サンドアーマー”。」
サンドストームによる砂嵐は広範囲魔法であり、魔法を斬れる聖剣であっても斬れるものではない。魔法の核となる場所に刃を当てることができれば、別であるが。辺りが砂で舞い視界が悪い環境では簡単には叶わない。
環境構築とその環境に適合する魔法の鎧。砂で出来た鎧は流動性を併せ持っており、着るものに違和感を覚えさせない。さらに、砂が動的に衝撃を感じ取り、剛性の高い層と流動性の高い層を何重にも展開して、攻撃を砂の内部に通さない。
「厄介な。」
「“サンドランス”。」
至近距離からのサンドランス。砂で形成された魔法は砂嵐の中では見えにくく、僅かに変わる砂の流れを見ることでしか、魔法の発動方向を観測できない。ただ、ロイドは砂の中に隠れるばかりではなく、剣を持って突撃する。
居場所の把握は隠れる場合に比べて楽であるが、一方で攻撃のバリエーションは豊富である。その点で対処の難しさというものはある。
イリアとしても至近距離の魔法はどうにか反応することができたとしても、剣による攻撃は掠ってしまう。
「くっ、どうするか。」
「このままだとジリ貧だぞ。」
イリアがこの状況を解決できる手段は限られる。ロイドの魔力切れを狙う。ロイドの攻撃タイミングを捉えて、カウンターを決める。サンドストームの魔法の核となる部分を壊す。この三つだ。
そうなった時に前の二つは現実的ではない。魔力切れを起こす前に決闘のタリスマンが破壊される。また、攻撃タイミングを掴むためには癖となる起こりを見つけなければならないが、視覚が閉ざされている状態では難易度が高い。
「“サンドアロー”。」
「ちっ……。」
ロイドはイリアに向けて攻撃を続ける。周りと同系色の攻撃は流石のイリアと言えども回避しずらく、どうにか聖剣で弾くことで精いっぱいであった。
複数回行われるロイドの攻撃にイリアは冷静そのものであり、その場に立ち止まったままロイドの攻撃を捌いていった。
「……。」
「な、どこ行くんだ!!」
イリアが突然後方に振り返り、一直線に走り出す。それに慌てたのはロイドであった。焦ったようにイリアに見つかることも気にせず、全力で追いかける。
そのロイドの様子にさらに確信を得たイリアは一段速度を上げて、ついに見えてくる。イリアの走った先にはサンドストームの核。普段は小さく見えない核は魔法の規模に比例するように大きくなっており、魔法文字が浮かぶ球体がそこにはある。
「これだな。」
「な、何故?」
イリアが魔法の核の位置を特定した方法とはロイドの攻撃が頻出する方角を割り出し、ロイドの攻撃先の方角として一番少ない場所に向かって走っただけである。
もし、ロイドの反応が動揺ではなかったら、その反対。攻撃を撃ってきていた方角。ロイドのいた方角に向かうつもりでいた。単純な話である。
「攻撃する方向が偏っているからな。私が攻撃を避けて行った先に偶然見つけることを嫌ったのだろう?」
「くっ……!!」
「さて、終りだな。」
ロイドの心理的に魔法を斬ることができると知っていると、どうしても核からイリアを遠ざけたいと考えるのが妥当である。そうなると自分の背後に隠し守るか、相手が近寄らないように誘導するか。その二択が選択肢として挙げられる。
宙に核を置くことも原理上は可能であるが、その場合効果範囲の関係上で継承戦の戦場において、全域を巻き込めなくなる可能性があった。それ故、戦場の中心付近でより広範囲に影響を及ぼせる場所という条件も必須になる。
砂嵐は止み、イリアとロイドは対峙する。ロイドが取れる手は数少ないが、諦めるという手だけはない。ロイドはイリアに向けて剣を向けて駆けていく。
「まだだ!!」
だが、動揺したロイドではイリアに一太刀も入れることができずに、そのまま地面に伏すことになった。
「やめ!!ただいまの勝負、イリア=ローズベルの勝利!!」
先鋒戦と次鋒戦よりも大きな歓声が会場を揺らす。大将戦が近づくにつれて、会場のボルテージは上がり、それに比例して人々の歓声は大きくなっている。
レオン陣営が白星二つ。ドラコ陣営が白星一つ。レオン陣営が勝利にリーチをかけた。
「約束通り勝ってきたぞ。」
「信じていた。後は俺だけだな。」
「ん?副将戦があるだろ。」
待機場にてイリアが帰ると、レオンが出迎えた。二人はハイタッチを交わすと歓喜の表情で対話を開始する。
副将戦を残す中でレオンは自分が戦闘を行う前提の反応を返し、それにイリアは不思議そうに首を傾げた。
「ああ。そうだな。……ふっ、俺も戦いたくなっているのかもしれないな。」
「ははは。その気持ち分かるぞ。」
どうやらレオンもまた、会場の熱気に当てられるように戦闘への意欲が高まっているようだ。強く握られた拳は少し震えており、その時が来ることを待ちきれないでいた。
「まずは副将戦だな。」