英雄讃歌 第四章 作:如月@カクヨムとなろうでも投稿しています
「レオン陣営、副将!!クレイ=クロード!!」
「ドラコ陣営、副将!!ボンド=バーネット!!」
次の戦いは副将戦である。レオン陣営にとって勝てば継承戦の結果が決まる大一番。クレイにかかるプレッシャーは相当なもので、普段よりも動きが硬くなっている。しかし、冒険者パーティーのリーダーということもあり、冷静さを保っている。
一方でドラコ陣営にとっても負ければ戦犯と呼ばれてもおかしくない状況。ボンドとしても観客からの熱狂、ドラコからの視線。その全てが圧力になっている。だが、やはり副将を任せられるだけのことはあり、焦りはない。
両者とも万全とは言い難いが、全力を出すには不足のない体調で副将戦が始まろうとしていた。
「両者構えて……はじめ!!」
とんっと地面を蹴る音が二人のいた場所から聞こえると、その中心でクレイとボンドは剣を重ね合わせていた。得物はどちらも同じシンプルな直剣。盾も腕に付いたバックラーと線対称の装備構成である。
違いは一つ。ダンドールの剣術を解析してできた剣術体系でクレイは閃鷹というカウンターを中心とした流派を用い、ボンドは雷竜という一撃の重さを極めた流派を用いることだ。
「ふっ……」
「はああああ!!」
攻め手はボンド。雷竜の技を使わずとも元々ガタイの良い身体から繰り出される攻撃は強力無比であり、クレイは攻撃を剣と盾で反らしながら衝撃に耐え忍んでいた。
左右上下から縦横無尽に繰り出される攻撃は受け流すには難しく、クレイにはかすり傷が増えていく。だが、それはクレイがボンドの癖を見抜くまでの話。癖さえ見抜いてしまえば、受け流しから反撃を円滑につなげることが可能だ。
「くっ……!!」
「おらっ……!!」
しかし、まだクレイはボンドの癖を見抜けてはいない。足の踏み込みと同時に繰り出される攻撃は基本に忠実で、その次の攻撃は逆に基本から外れている。リズムの違いがクレイの観察眼を鈍らせていた。
また、左右共に攻撃が繰り出される分量にさほど大きな違いはなく、逆説的に癖がないことこそがボンドの癖であるかのようだ。バランスを取ることが分かれば、それはまた次の行動を読む手助けになるというもの。
「“雷竜・竜顎”」
その時、均衡が大きく傾く。それはボンドがクレイの隙を見抜き、【剣聖】の剣術の中で雷竜の剣技に相当する技。竜の顎のように強靭で、何もかも断ち斬る意味を持つ剣技。
それは万全の状態で発揮され、遠心力と質量、速度を伴ってクレイに向かって振り下ろされる。そのボンドの攻撃は風を切る音が一拍遅く聞こえ、次の瞬間にクレイに到達する。
「……“閃鷹・燕返し”」
ボンドの攻撃がクリーンヒットして、勝負が決まるかと思ったその時に、クレイは正確にカウンターを打ち放つ。確かに、そのカウンターはボンドの剣先をずらし、さらにクレイの剣はボンドへと向かって滑っていく。
しかし、有効打とはならなかった。ボンドの攻撃が強力であったため、その衝撃に腕が耐えきれなかったからである。辛うじて剣を落とさず、持ちこたえたことは褒められるべきことであり、剣をクレイに当てられなかったのは仕方のないことであった。
「……“雷竜・竜尾”」
だが、勝負事というのはいつも無情なものであり、腕が痺れて持ち上がらない剣。その隙を逃すボンドでもなく、剣技と剣技が接続されて、返す刃がクレイに向かって振られる。
そのボンドの攻撃はクレイに防ぐことは出来ずにクリーンヒットしてしまう。クレイの決闘のタリスマンが鏡を割るような音を立てると、そのまま砕け散って宙へと還元されていった。
「やめ!!ただいまの勝負、ボンド=バーネットの勝利!!」
こうして、レオン陣営とドラコ陣営。どちらの白星も二つずつとなり、全ての結末は大将戦で決定することとなった。
共にレオンとドラコの陣営トップかつ、ダンドール家の剣技を正当に学んだ二人による勝負となる。その勝負への期待は会場を揺らす歓声と共に大きくなり、さらなる熱狂の渦が戦場を包み込んだ。
「……大将戦だな。」
「そうだな。後はここだけだ。」
選手の待機場所にいたイリアとレオンは言葉を交わす。その問いかけは確かな緊張感を持っており、二人の中の空気感を今にも切れそうな細い糸のように張り詰めさせている。
いつにない緊張感漂う空気にアリスは二人の顔を見比べながら、物事の推移を見守っている。その間もイリアとレオンはお互いにその目を合わせており、空気感はより厳しくなっていた。
「……全力でやるさ。ドラコと戦う機会はそうそうないからな。」
「だろうな。勝つために戦うだけだよな。」
「ああ。後は次の試合次第だ。」
レオンとドラコが戦う機会というものは基本的に設けられることはない。いずれも、次期当主候補としての人材であり、下手に実力が近い場合などを鑑みて剣技を交わすことを推奨されていなかった。
当然ながら、それを厳密に縛る法はないのだが、それは暗黙知として実際に存在していた。指南役としても二人がお互いに戦い合うことで、次期当主の座が近づくという事態は嬉しいものではない。正しくはリスクを取ることを嫌がっていた。
だからこそ、レオンにとってドラコと戦うというのは、記憶にある限りでは両手で数えられるくらいの事である。そのため、楽しみにしていたことに間違いはない。
「任せてくれ。」
「勝つことを祈っているよ。」
イリアの激励の言葉にレオンは返す言葉を持ってはいない。ただ拳を空へと挙げて、戦場の中心に向かって歩き出した。
ついに継承戦も最終盤。この結果で全てが決まる大将戦が始まろうとしていた。