英雄讃歌 第四章 作:如月@カクヨムとなろうでも投稿しています
「こうして対面するのはいつぶりだろうか。」
「記憶にないね。でも、ずっと小さな子供の時だった気がする。」
二人がお互いに戦った記憶として残っているものは、子供の時に戦った時のものである。子供の時はまだ二人で基礎的な剣技の修行を共にしており、本格的に二人にあった流派を選択されるまでは模擬戦を行うこともあった。
「そうだったかな。」
「レオン兄さんは気にしたこともないだろうね。」
「ははは。そんなことはないけどな。」
事実、ドラコは兄の存在を意識しており、子供の時は一方的にレオンの様子を伺っていた。とはいえ、それはレオンがドラコの存在を気にしていなかったということではなく、家族としての情は確かに持っていた。
「……忘れていたことなんてないからな。」
「……僕もだよ。」
それに今もレオンはドラコのことを評価しており、政争においてもそうだったが、ドラコの優秀さというものを前提として思考を進める傾向にある。そのため、忘れていたことがないのは事実であり、また、ドラコを一番評価している人物はレオンと言ってもよいだろう。
そして、ドラコは言わずもがな、兄で、次期当主にほぼ確実で、ドラコの目から見て非の打ち所がないというものだから、意識しないというのもおかしい。当然にレオンの思考を読み取ろうと考えない日はなく、どう勝つかを常に考えてきていた。
「では、二人の戦士は線の上にお立ち下さい。」
「さて、そろそろ決着の時だ。」
「そうだね。ようやく待ち望んでいた時が来たよ。」
子供の時から続く二人の対決の決着がようやく付きそうになっていた。継承戦という絶好の舞台で誰にも邪魔されることはない。全力で戦っても死なない保証もあるという、最高の環境である。
その環境での対戦ができることに二人は感慨深いものを感じており、二人の間には火花が散っている。
「レオン陣営、大将!!レオン=ダンドール!!」
レオンの名を呼ぶ声が会場内に響くと、その声に呼応するように戦場全体を歓声が包み込んだ。その声に応えるようにレオンは腰に差した剣を抜き放つ。
単純な鉄剣でしかなく、装飾の欠片もない質素なものである。しかし、その剣をレオンが掲げると太陽の光を反射して、きらりと光る。その光景にさらに会場を包む声が大きくなった。
「ドラコ陣営、大将!!ドラコ=ダンドール!!」
続いて、ドラコの名を呼ぶ声でもう半分の熱狂が組み合わさり、それだけで空気が揺れるようであった。
ドラコもまたレオンと同じように腰に差した剣を身体の前に掲げた。ドラコの剣もまたレオンのものと同様にシンプルであり、機能美だけを追い求めた形状をしている。
「両者構えて……はじめ!!」
もう語る言葉はない。二人は構えた剣をお互いに向けて、対峙する。審判の開始の合図が二人の耳に届いた瞬間にお互いに地を蹴った。
「“迅狼・風狼顎”」
「“風燕・風見鶏”」
先制攻撃を行ったのはドラコであった。相手より先手を取り、意識の外を突く技。接敵するまで攻撃はしないという先入観を基に、接敵前に相手に攻撃を届かせることを目的としたものであり、剣風を相手に飛ばす技である。
それに対して、レオンは攻撃が来ることを予想していたように半歩身体をずらし、攻撃を回避する。ちょうどレオンの横を通った風の刃は壁にぶつかり、衝撃と共に壁をえぐった。
二人はそのまま地面を蹴った勢いのままかけて、距離を詰めていく。
「“嵐虎・連太虎”」
「“水蛇・柳水”」
またも攻撃を行うのはドラコであり、続いては本来は多対一の時に用いる鎖のように攻撃を繋げていく技を打ち放つ。その攻撃は一つ一つが意思を持ち、レオンの行動を制限するように追い詰めていく。
しかし、これもまたレオンにとっては対処できないものではなく、剣の腹や刃を使ってドラコの剣の軌道をずらしていく。これがレオンへの制限を外して、自由に動きやすい環境の構築に一役買っている。
そのまま、剣の応酬を繰り出しながら、二人はお互いに立ち位置を逆転しながらも、ドラコの攻撃とレオンの防御という構造は変わらないまま試合が進行する。
「“迅狼・狼牙”」
「“閃鷹・燕返し”、“夜鴉・陰月”」
だが、ついに構造が反転する。ドラコの虚を突く攻撃はレオンの反撃技によって弾き返される。その時に剣が少し上振れて次の振りまでの時間が発生することとなった。
その結果、レオンの攻撃が差し込まれることとなり、ドラコの身体というよりは脚を明確に狙った攻撃が繰り出される。機動性を先に潰すことにより、今後の試合展開を有利にしようという意図のものである。
「“厳熊・地硬爪”」
「“嵐虎・嵐風爪”」
それに対して、ドラコは地に根を張るようにどしりと構えて、レオンの剣目掛けて剣を振り下ろした。その剣は初速は遅く到底追いつけそうにないように思えたが、徐々に速度を上げてドラコの足に剣が到達する前に剣を弾き返すことに成功する。
ドラコの剣は腰を落とした影響か、強靭な力で振られておりレオンの剣を一方的に弾き返すだけで、ドラコは体幹をぶらすことはない。
それに対して、レオンの選択は少し距離を取っての面制圧。ドラコの初手にはなった風の刃がより広範囲になった技を放った。ただ、広範囲になった代わりに威力は劣り、また相手を斬るということよりも、吹き飛ばすことや衝撃を与えることに特化した技となっている。
「“厳熊・穴籠”」
レオンの攻撃はドラコに直撃したものの、その攻撃はドラコに一切のダメージを与えることができなかった。
ドラコの硬化した身体とさらに剣の腹で風の刃が通過する量数を限定させたことが影響としている。元々の威力の低さと相まって、一度障害物に当たってからドラコに衝突したためにダメージを大きく削減できていたのだ。
ひとまずの第一回の衝突は五分五分と言った結果で終わった。お互いに勝負手として有効となるものはなく、戦況はどちらかに偏らなかった。まだ始まったばかりの戦いで、二人の手札は場には出きっていない。