英雄讃歌 第四章 作:如月@カクヨムとなろうでも投稿しています
「呼び出したのは他でもない、継承戦の話だ。」
「ようやく決まったのか?」
「ああ。日程は決まっていないが、近々開催されるだろう。」
例の如く、別荘に存在するレオンの執務室にイリア一行は呼び出されており、ついに継承戦の話が確定したことが伝られる。
そのことに一番喜色を浮かべたのは他でもないイリアである。継承戦そのものに関して興味があるのではないが、単純に戦闘を楽しめる機会が巡ってきたことが嬉しく思っているのだ。
一方でアリスとヴァンは若干不安な表情をその顔に張り付けており、執務室にはピリッとした空気が流れる。
「そうなのか。確か前の話では一戦枠を用意するという話だったよな。」
「ああ。改めてだが、引き受けてくれるか?」
「もちろんだ。宿も用意してくれたことだしな。」
緊張感のある執務室の中でイリアとレオンの二人はいつもと変わらない空気感で話を続ける。過去に英雄であったイリアにとっては慣れたものであり、レオンにとっても幼いころからこのような空気は慣らされたものだ。
前々から決まっていた通りに継承戦の五枠、実質的に四枠のうちの一枠をイリア一行に分配する方向に話はまとまっていく。
「ははは。そう言ってくれて助かる。」
「あの……」
「どうしたんだ?」
アリスがぎゅっと唇を噛みしめながら、イリアとレオンの話に介入する。顔が強張りながらも、どこか覚悟を感じさせる表情を浮かべている。
アリスのいつにない表情にイリアとレオンは驚きを内心に隠しながら、表面上はにこやかに話しやすい空気作りに努める。
「……その一枠、私に貰えませんか?」
「ほう。……イリアとしてはどうだ?」
「そうだな。……どうしてか聞いていいか?」
アリスの提案は二人にとっては予想外のものであり、若干の間が三人の間を流れる。だが、それもレオンの質問ですぐに動き始める。
イリアとしては一枠を渡すことは特に否はないところではあったが、その動機が予想することができずにいた。そのため、イリアとしてはアリスの動機を聞いてから、また判断を考えることにしたのだ。
「私、置いて行かれたくない。今のままだと、きっとイリアちゃんに付いて行くだけで精いっぱいで、追い付くことばかりか近づく事さえ出来なくなる。」
「そんなこと……」
「あるよ。私、分かっている。絶対に近づけない。だから……だからこそ、ここで私も掴みたい。イリアちゃんと隣に立っていられる未来を。」
アリスの口から語られた言葉はイリアにとっては想定外の事であり、完全に思考の虚を突かれるように否定の言葉を紡ごうにも、その先が繋がらない。
一方で、アリスの口からは流暢に言葉が繋がっており、最近思いついたことというわけでなく、前から考えていたことを改めて外に出しているような様子であった。
だからこそ、アリスの言葉には妙に強い説得感と共に、深い覚悟が含まれている。そのためか、執務室の空気は重く張り詰めるようなものとなり、そのような空気感に慣れているイリアとレオンでさえもその身に重みを感じるほどだ。
「ははははは。素晴らしいじゃないか。分かった。一枠じゃなくて、二枠渡そう。イリアとアリスの二人分だ。期待しているぞ。」
「うん。期待していて。」
「ふ、ははは。よし。決定だ。継承戦も俄然楽しくなって来たな。消化試合だと思っていたが、こうなると変わってくる。イリアもそれでいいな?」
アリスの放つ重い空気感もそう長くは続かない。レオンの笑い声によって掻き消されたためである。その笑い声は馬鹿にしたと言った様子ではなく、盤面が決定的に動いた時に発生する愉悦というのだろうか。
アリスの宣言を好ましく思い、またその状況の推移がレオンの好みに合致したからこそ一枠という最初の条件が二枠に変化された。
レオンとしてはドラコとの継承戦は事実として、確定した結果が得られる消化試合という考えだったが、アリスという異分子の介入で結果が変化しかねない要素となるわけだ。
「……ああ。レオンがそれでいいなら。」
「アリス。任せた。」
「はい。絶対に白星を取って見せます。」
イリアとしてもアリスの挑戦を否定するつもりはなかった。この結論自体は既定路線ではあるものの、その過程でアリスの発した心の淵を考えると素直に喜色だけ浮かべるわけにもいかなかったのだ。
とはいえ、アリスの成長は喜ばしいもので、自信満々に胸を張っている様子はレオンとして好ましいものであった。
「ははは。イリアもよかったな。素晴らしいじゃないか。」
「そうだな。アリスちゃんの成長を喜ばなくてどうするって話だな。……よし。特訓しようか。」
「うん。お願い。」
こうして、イリア一行には継承戦における二枠を分配されたのだった。
そして、アリスが急遽参加するということもあり、特訓することになったのである。
「特訓にうってつけの場所があるから、案内しよう。」
「助かる。」