英雄讃歌 第四章 作:如月@カクヨムとなろうでも投稿しています
「訓練と言っても、魔法中心の戦い方をどう教えればいいか分からないからな。実戦形式で大丈夫?」
「うん。勿論大丈夫だよ。」
前世の英癒であるイリアはそもそも魔法を中心に戦うタイプではなく、物理と魔法を融合して、遊撃などを担当するオールラウンダーなのだ。
それ故に魔法中心の戦闘そのものの経験は浅く、それ単体で戦術を構築するということに関しては慣れていなかった。が、魔法の特性そのものは知識として持っており、仲間の戦いを見てきた経験からある程度のアドバイスを出来ると踏んでいた。
「杖は持っていないから、この剣で戦うな。魔法以外は使わないから安心してくれ。」
「うん。」
「やる気は十分と言ったところか。これを付けて対決しようか。」
イリアが手渡したものは古くから決闘などで用いられる決闘のタリスマンである。ある一定のダメージを肩代わりすることができるもので、一定以上のダメージを受けると自動的に破壊される仕様のものだ。
これは何故か魔物相手には機能しないようになっており、簡単に作れる代わりに魔物相手に扱えないため、利用価値が低く考えられているものである。
一方で人間相手には有効である性質があるため、護身用に街中でつけているものを見かけることもある。一般人にも手が届きやすいように格安で販売されており、豊富な柄と色が用意されているアクセサリーのような扱いをされている。
二人は決闘のタリスマンを身に着けたのを互いに確認すると、5m程度離れた位置で対面する。アリスは杖を、イリアは剣を構えると合図もなく、意思疎通をして戦闘が開始した。
「“闇の帳”、“ダーククラウド”。」
「なるほど。視界妨害か。“フラッシュ”。」
先手はアリスの魔法からだった。イリアとアリスのちょうど中心付近を起点にして、黒いベールが広間を覆うようにかけられる。そして、続く魔法によりアリスの手から雲がもくもくと立ち込めて、二人を包み込む。
すかさず、イリアはフラッシュの魔法により、闇の雲を打つ払う。視界の妨害としては効果はなかったが、イリアの足止めという意味では成功と言えるだろう。
アリスはイリアが動かないことを見ると、イリアの周りを弧を描くように移動し始める。変わらずイリアはその場でアリスの行動を観察している。
「“ダークマイン”、“ダークピアー”、“ダークミスト”。」
「……機雷か。“キュア”、“ライトサークル”。」
アリスが移動を続けながらも、攻撃魔法を発動する。アリスの移動に呼応するように闇の球体が周りに浮かび、徐々にふわふわとイリアの方へと進行していく。その球体は時間が経つにつれて薄くなっており、いずれは見えなくなるだろう。
そして、機雷で牽制しながらもアリスの魔法によりイリアの足元から針が隆起して、突き刺そうとする。それを起こりの段階で手元の剣で切り払うイリアは、次の魔法である状態異常魔法に対しても、状態異常回復魔法ですぐさま対応する。
さらに、イリアは闇の帳の光属性版であるライトサークルを発動する。互いにその属性の魔素で空間を満たすことにより、魔法の威力、速度、効果など基本的なスペックを上昇させることができるフィールド魔法である。
「“フレイムマイン”、“ダークガード”。」
「“エイムアップ”、“ライトアロー”、“ライトボール”。」
「“ダークボール”、“ダークカッター”。」
アリスは闇属性だけでなく、火属性魔法も扱うことができ、闇と火の機雷を周りに散らばせて、イリアの行動制限をかけようという狙いだ。また、ダークガードは使用者の周りに盾が浮かび、使用者に与えるダメージを軽減できる魔法であり、焦れさせながら機雷を発動しようという考えである。
魔法にはジャンケンのように相性差がある。アロー系はカッター系に強く、カッター系はボール系に強く、ボール系はアロー系に強い。その関係を利用して、相手の対応する攻撃に対して適切な攻撃を撃つことで、威力を減衰させながらも貫通して攻撃をすることができる。
「おおっ、相殺だけじゃなくて、こちらにも攻撃を届かせるか。“ライトブロー”。」
「“ダークブロー”、“ダークアロー”。」
ジャンケンには三つの手までしか存在しない。しかし、魔法においては第四の選択肢が存在する。それは純魔法属性であるブロー系の魔法である。先の三つは物理特性を内包している魔法であるが、ブロー系は物理特性が一切なく、純粋に闇や光といった概念だけで成立する魔法である。
アロー系には魔法属性と貫通属性が7:3程度で成立しているところを、ブロー系は10:0で成立している故に全ての系統に対して有効打となる。必ず全てに勝つことができる手である。
それを使うことでイリアはアリスの二つの魔法を一度に消し、そればかりかアリスにカウンターとして魔法を届かせることができる。が、アリスもまたその性質は知っており、逆にイリアに向かってアロー系の魔法が向かっていく。
「“ライトランス”。」
「っ……“ダークシールド”。」
そして、さらに第五の手。さらに上位の魔法で制圧することも出来る。アロー系の上位に位置するランス系の魔法は当然、下位の魔法に対しては勝利することができる。
ただし、ランス系と言えどアロー系に該当するので、ボール系には上位の魔法でも相殺までしかできず、対消滅が発生する。さらにランス系の上に上位の魔法が存在するが、二人はまだ使えないため割愛する。
「リキャスト管理はしているか?防御系の魔法を二つ使ってしまっているぞ。」
「悠長にお喋りしていていいの?今が最大の攻撃のチャンスだよ?」
イリアの言う通り、ここまでの戦いでアリスは二つ防御系の魔法を扱っていることに対して、イリアは未だに未使用である。いずれジリ貧になるのは目に見えており、ここから巻き返すことは難しいだろう。
「ふっ、ではお言葉に甘えようか。面制圧させてもらおう。」
「……。」
「“ダブルマジック”、“クイックマジック”、“マジックチェイン”。」
イリアが使ったのはいずれも無属性魔法である。効果は順に魔法を二度発動する状態になる。リキャストタイムの軽減。魔法が連鎖して効果を発揮するようになる。
連鎖してとは、一つの魔法が当たれば、他の同時に使った魔法も魔法効果を波及させるということであり、主に状態異常効果などを攻撃回数の多い魔法と組み合わせることで発生率を上昇させるといった利用目的が該当する。
または、攻撃魔法を連鎖させることで一発当たれば連鎖する魔法攻撃のダメージを与えることができるようになるため、命中確率が低い魔法や発動速度、移動速度が遅い魔法を命中率が高い魔法と組み合わせるなどだろう。
「“ダークボム”、“ダークランス”。」
「“ライト”、“ライトスラッシュ”、“ライトボム”、」
無属性魔法の名称を聞いた瞬間にアリスはまずいことを理解したのだろう。惜しげもなく魔法を繰り出すが、ダブルマジックにより二つ発動したライトでいずれも相殺されてしまう。
そして、光の刃が高速でアリスに近づいていき、その間にボール系の上位であるボム系の魔法まで発動する。ライトスラッシュの発動の起こりと到達速度の速さを利用して、移動速度が遅いボム系の魔法を当てようという狙いである。
「あっ……」
「勝ちだな。」
決闘のタリスマンが割れる音が訓練の間に鳴り響き、勝敗が決した。