英雄讃歌 第四章   作:如月@カクヨムとなろうでも投稿しています

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「休憩するか。」

「うん。全然勝てなかった。」

 

 イリアとアリスは数度戦闘を行ったが、そのいずれもイリアが勝利を収めていた。魔法戦においてはアリスの方が有利な部分が多いが、しかし、それをイリアは圧倒的な経験の差で覆していた。

 とはいえ、それはアリスが弱いということではなく、イリアを捉えそうになる場面は幾度もあり、そのたびイリアが何とか状況を打破していったという形であるから、いずれはイリアに黒星を付けることができるだろう。

 

「ははは。まだ負けるつもりはないからな。でも、中々手強かったぞ。機雷を用いた戦法は相手の行動を制限できるし、相手の魔法を見て判断して対応するまで早かった。」

「えへへ。そうかな?」

「ああ。自信持っていいぞ。これはうかうかしていられないかもしれないな。」

 

 最初に行った戦いは固定砲台対機動力重視の戦いであったが、イリアは自分の役割を戦いの度に変化させており、機雷を用いた戦法は一定以上の成果を収めていた。

 最初からアリスは出来ていた相手の魔法に対して有効な魔法をぶつけるという技術。そう言った面ではアリスの元来のセンスが出たと言ってもいいだろう。魔法に対抗する技術の精度は非常に高く、数度の戦いの中でも過不足なく魔法の運用を出来ていた。

 

 

 

 イリアはアリスと戦いの中で感じた所感を伝えながら、今後の展望を語った。その会話がひとしきり終わった頃。壁に休憩するようにもたれかかっていた二人は、周りを見渡し始める。

 

「入口は気持ち悪い感覚だったが、案外中は普通だな。」

「うん。そうだね。壁に立て掛けてある剣は【剣聖】様のものかな?」

「あ~、どうなんだろうな。ダンドールは最期までここで鍛錬したというけれど。」

 

 訓練の間は構造としては簡素であり、床は真っ平で天井がアーチを描いているだけの建物であった。その中に物と言えるものはほどんどなく、唯一あるのが壁に立て掛けられた剣の数々だけであった。

 

「剣、使えそうだよね。」

「実用性ありそうな剣ばかりだな。ん?」

 

 実際に壁に立て掛けられている剣は実用可能なものだけで構成されており、それを用いて訓練を行えるようにしているのだろう。剣としても他国で作られたであろう形状の剣や類を見ない形状の剣など多種多様な剣が揃っている。

 その剣を見渡している時にイリアはふと視線を一か所に固定する。

 

「どうしたの?」

「いや、何故かネックレスがある。剣ばかりの所にアクセサリーがあるのが不思議で。」

 

 イリアの視線の先には剣ばかりのこの空間に似つかわしくないネックレスが一つ壁にかけられている。その隣には無骨な剣が一本だけあり、他の件に比べても異質さを感じさせるものであった。

 イリアがネックレスに近づき、それを手に取る。すると、ネックレスは発光し始めて、やがて一人の人間の形を形成していく。

 

「……誰じゃ?」

「え?……そっちこそ。急に現れて。」

「儂はダンドール。剣の道を鍛え始めてどれほど経っただろうか。」

 

 ダンドールと名乗るその人物は、イリアの知っている姿ではなかった。ダンドールは姿形が年老いた老人そのものであり、【剣聖】と呼ばれているとは信じがたい程にみすぼらしい格好をしていた。

 元々、剣の道以外に関心が薄いからこそであるが、剣もネックレスのすぐ側に立て掛けられていた無骨な剣であるから、どうにも信じがたいものがあるだろう。

 

「ダンドール?……【剣聖】!?」

「ぬ。お主、手に持っているのは儂のではないか。まさか、盗人か?」

 

 イリアが驚きに目を見張っている間にダンドールは目聡く、イリアの手にあるネックレスを見つける。

 そのネックレスを見た瞬間にダンドールは手に握ぎる剣でイリアに斬りかかった。ただただ真っすぐに振られた剣はイリアの意識の外から襲い掛かる。

 

「ぐっ、お、落ち着け。アリスちゃんは逃げるんだ。」

「ほう。仲間を逃がすとは殊勝じゃな。しかし、盗人の仲間を逃がすわけにはいかぬな。」

「くっ……!!」

 

 イリアは意識外から迫る剣をどうにか防ぎ、アリスに逃げるように伝える。そのイリアの指示に瞬時に反応したアリスだが、ダンドールもまた反応しており剣が一振りされる。

 それにイリアは反応を返して、受け止めるがこのままでは次第に反応をしきれなくなり、突破されることは間違えがない。

 

「受け止めるか。中々骨があるようじゃの。では、これはどうじゃ?」

「ちょっ、待てって。」

「興が乗ってきたの。次はこれはどうじゃ?」

 

 ダンドールは目を細めて笑みを浮かべると、イリアの視界から姿が消える。次の瞬間にイリアは後方に振り向きながら、何とか剣を振るう。その剣はダンドールの剣と偶々衝突して受け止められた。

 それにダンドールは増々笑みを深めると、今度は腰を落として構える。速度よりも威力を重視した構えであり、イリアはヒリヒリと針を刺すような感覚を全身に感じている。

 そして、雷を思わす轟音を立てて剣が振り下ろされ、イリアが聖剣で受け止めとすると、その剣ごと断ち斬ってしまった。聖剣は光の粒子になって宙へと返っていく。

 

「イリアちゃん。私はもう大丈夫!!」

「分かった!!久しぶりだな、ダンドール。」

「……?儂はお主を知らんぞ?」

 

 次の攻撃は受け止められなかっただろうイリアはアリスの声が耳に届くと、ダンドールに声掛けをする。その言葉にダンドールは動きを止めた。

 

「カルア!!」

「やっほ。久しぶり。」

「ぬ。カルアではないか。」

「あれ?ダンドールはおじいちゃん?」

 

 イリアの声に対してカルアは訓練の間へと出てくる。そのカルアの姿を認めたダンドールは懐かしそうな視線を向けながらも、意識はイリアから逸らすことはない。

 カルアはダンドールの姿にぱちくりと目を瞬かせると、こてりと国を傾げた。

 

「そういうカルアは随分若いの~。」

「英霊は全盛期に戻るはず。」

「儂は今が過去を超え、未来が今を超える。常に全盛期じゃからの。」

 

 本来、英霊とは生物としての枠組みから超越しており、その姿は死ぬ直前の姿に限定されない。英霊としての全盛期の姿に組み変わるように設計されているはずなのだ。

 それなのにダンドールが全盛期の姿を老人となっているのは、それすなわちダンドールの言う通りに今この瞬間も全盛期を更新し続けているということである。

 

「ん。それはそう。だけど、肉体は若い方が強い。」

「ふはは。甘いのう。身体は朽ちようとも、その身に宿る剣心はそのまま。技術は肉体の性能など簡単に超えよう。」

「流石、剣馬鹿。」

「誉め言葉じゃ。」

 

 剣という技術だけを極めた先にあるのは肉体を超越した圧倒的な剣理。肉体の性能よりも、その技術が集約している神経回路の方が遥かに重要であった。歩くと言った動作と同じように、半自動化された動作の集合は反射で最適解を繰り出すことを可能としている。

 その半自動化された動作の最適化をこの瞬間にもしており、その神経回路の形成がなされていない肉体に戻ってしまう方が、ダンドールにとっては圧倒的に弱くなってしまう。

 

「俺はアルベルトだが、納得してくれるか?」

「ん?……まだじゃな。一つ勝負と行こうではないか。」

「……ただ、戦いたいだけだろ。」

 

 そんなダンドールはやはりただの剣馬鹿であり、何よりも剣を振るうのが好きなのである。剣を振るうことができる機会を逃すダンドールではなく、本当であろうが、嘘であろうが剣で語れば分かるという話である。

 そんなダンドールにイリアは呆れたような表情を浮かべているが、所詮は同類である。本心においては戦えるという事実に高揚感を感じていた。

 

「ほっほっほ。楽しませてもらおうぞ。」

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