英雄讃歌 第四章 作:如月@カクヨムとなろうでも投稿しています
「全力で掛かってくるのじゃ。今のままでは勝負にならんからの。」
「くっ、言ってくれるなぁ。事実だから何も言えないが、それなら本気を出させてもらうか。」
そう、事実今の状態のまま勝負を進行した場合、必ずイリアが負けるだろう。先の交差において、イリアがダンドールに勝てる芽はなく、一方的に追い詰められる状況がありありと浮かんでいる。
「カルア、頼むのじゃ。」
「ん。……はじめ。」
「ほっほっほ。懐かしいの。いつもながら、気の抜ける合図じゃ。」
アルベルトとダンドールの試合で合図を出すのはカルアに限らないが、カルアの合図は気の抜けるものであった。それは昔と何も変わらず、三人だけが過去に戻ったような、昔の日常だ。
「“英雄賛歌”。余裕を見せていられるのもここまでだ。」
「お、おお。その姿は、アルベルト……ふ、ふははは。若かりし頃を思い出す!!」
イリアは英雄賛歌により前世の力を取り戻す。それと共に光の粒子に包み込まれて、アルベルトとしての姿に移り変わっていく。
その姿に呼応するようにダンドールの肉体もまた、過去の姿を取り戻す。全盛期である今の姿を捨ててでも、過去アルベルトと旅をしていたあの瞬間に。
ここにアルベルトとダンドールが対峙することとなった。
「今が全盛期ではなかったのか?」
「そんなの関係ねぇな。お前と戦うなら、こうでなくては!!」
「ははは。相変わらずだな。」
ダンドールにとってアルベルトが死亡してから、この時をどれほど待ち望んだのだろうか。果てしない修練を重ねたダンドールの心をイリアには推し量ることはできない。
しかし、それでもイリアは今この時、この対峙を全力で挑まなくてはならない。そのことを心の底から理解していた。何よりも、自分自身がそうであるから。
「剣の腕においては全盛期ではないが、知識の面では変わらない。昔よりは圧倒的に強い!!」
「聖剣召喚“アレクシス”。」
「魔剣召喚“ディープブラック”。」
二人の手には対照的な剣が握られる。片や青と白を基調とした硬さだけを求めた長身の剣。一方は青と赤、黒で形成された攻撃面を重視した片手剣。
白と黒の剣はお互いに向けられており、貫き合うのを今か今かと待ち望んでいる。
「「さぁ、勝負だ!!」」
最初に動いたのはダンドールである。もう待ちきれないとでも言う用にアルベルトに向かって、直進する。そして、そのまま剣を振るうとアルベルトが迎撃のために放った剣閃とぶつかり、火花が散る。
ノイズが発生する。今の対峙が過去の戦況に重なり二人の間でビジョンが共有される。次に行う攻撃が二人の間で共通認識としてあり、それを実行するか、外すか。それさえもが分かる。
「ははは!!」
「やっぱりなぁ!!」
結果は実行する。かつての戦いの再現をするかの如く、同じ状態に移行した。アルベルトが放った攻撃は軽やかにダンドールに躱されて、そして剣がアルベルトのすぐ側を通過する。これは過去と同じ。
ビジョンは連鎖する。過去の何百、何千もの試合の欠片たちが二人の行動予測を容易にして、お互いが手を取り合うように同じ手番を選択する。
同じ方向、角度、速度。全てが等しく懐かしさを感じ、それに対応する手順も、力のかけ方、方向と同様に等しく返していく。それは何処に繋がっているのか、誰の勝利になるのか。そこだけが霧がかかったように朧げとなる。
「いいね。昔そのままだ。」
「だが、そろそろ織り交ぜるぞ。」
手は変わらない。何一つ進行に違いはなく、ビジョンと一致している。だが、少しのずれが発生する。一手が千分の一以下の精度で狂いが出ると、そこから精度の狂いが大きくなっていく。
二人のビジョンはいつしか全く別の光景を見始めていて、アルベルトにはその先が霧がかって何も見えない。一方でダンドールにとっては慣れ親しんだ光景。終わりに向けてビジョンの手番に沿って実行する。
「な、んだ?」
「ははは……分からないだろ。」
アルベルトに分かるはずもなかった。ダンドールが慣れ親しんだ光景はアルベルトの死後に見えた何十年もの思考の先にあるのだから。あの時から、魔王と相討ちになってからダンドールは夢の中でも、現実の中でも戦い続けた。
もう負けたくなかったから。失いたくなかったから。その光景が今、達成されようとしている。遥か遠くで見えたビジョンの、さらにその先を今まさに更新しながら。
「くっ……!!」
徐々にアルベルトが受ける攻撃の数が増えていく。もう微かな精度の狂いが大きな狂いになっていて、どこが狂っているのかも分からない。それでも、打開策をどうにか探しながら、剣を振るい続ける。
いつまでも続くかと思われた剣戟はついに終わりを迎える。
「参、った……」
「ああ……儂の勝ちだ。」
ダンドールがアルベルトの首に剣を添えたまさにその瞬間、アルベルトの英雄賛歌が消えてしまいイリアの姿に戻っていた。それに呼応するようにダンドールも全盛期の姿を取り戻しており、前よりも一層老け込んだように思える。
「ん。お疲れ。」
「ああ。」
「悪いのう。」
こうして230年越しの対峙はダンドールの勝利という形で幕を閉じた。戦いが終わった後には昔と同じような、穏やかな空気感が三人を纏っていた。