空はどこまでも高く晴れている、風は五月の爽やかさを孕み暖かさと共に吹き渡っている。
小鳥が小さな鳴き声を上げて空を横切る。
戦闘が終わったUSJには春が舞い降りていた。
が、場はひたすら悲痛な空気に満ちていた。
教師と生徒の犠牲者、それぞれ一名。
遺体は頭部を潰されて見る影もない。
肉片と頭骨と脳味噌が均等に攪拌され、生前の面影を偲ぶよすがも無い。そこにあるのは即物的な人体が破壊されているという結果だけであった。
それを前に男泣きに泣くプレゼント・マイク。静かに涙を流すミッドナイト。
それを言葉もなく見つめる教師たち。
一方の生徒たちもヤニ子の死体を前にして悲嘆に暮れていた。
涙を流す女子たち。
何かに耐えるよう拳を握り締める者、悲嘆に暮れつつもそれでも前を向こうとする者。
ヴィランの襲撃と惨劇を伴うその結果を前にして、それでも彼らは一人一人それを受け止めようとしていた。
そこへ忍び寄る煙草を吹かした影と気まずげな影。
まあニャー達なんですけどにゃ。
「佐藤さん……」
「佐藤君……」
お茶子ちゃん達がニャーの死体を前に呆然としているにゃ。
うわー酷い有様にゃね。頭の所がぐちゃぐちゃにゃ。
ハンバーグ店でバイトした時のことを思い出すにゃね。あの店妙なクレーマーが多かったけど、その後大丈夫だったのかにゃ?
それにしてもハンバーグにヤニが入っているなんて悪質なクレームの付け方にゃ。店のレビューにまで書くって多分組織的犯行だったにゃね。
おっとそれどころじゃないにゃ。
ニャーはさり気なく相澤先生から離れて二人の後ろに立つにゃ。
先生が何か言いたげな顔をしてこちらを向いているけど、そちらは自分で何とかしてほしいにゃ。
「なんでだよ」
「こ、こんなの嘘よね…」
お、カチカチと耳郎ちゃんも何か言ってるにゃ。
その調子でニャーから注意を逸らすにゃよ。
「クソがぁ」
三太郎も何か呟いてるが、もっと大きな声で言ってもいいのにゃよ。
いっそボンガボンガ個性を爆発させて目立つにゃ。
おっといかんにゃ。ニャーもこの空気の中に紛れるべく何か言わないといけないにゃ。
「終わったならヤニ吸ってきていいかにゃ」
なるべく悲痛な感じを声に込めるにゃ。
前に新品のヤニをうんこの上に落とした事を思い出してにゃ。その哀しみを声に込めるにゃ。
あともじゃもじゃが泣いているのが怖いにゃ。
ニャー彼に執着されるような優しい事何かしたかにゃ?君はそのままお茶子ちゃんとか梅雨ちゃんに熱い視線を注いでいていいにゃ。
さてニャーも悲痛な雰囲気を出して……あとは適当な時にデコイを消すだけにゃ。
これぞニャーの第一の秘策。
知らない間にみんなの中に交じって無かった事にする策にゃ。
相澤先生がジト目でこちらを見ているけど、何してるにゃ?さっさとみんなの中に紛れ込むにゃよ。
Anotherを見習うにゃ。田舎の学校で行けたんだから、雄英も死人の一人や二人紛れ込んでいても流れでうやむやになるにゃよ。
結論だけ書くにゃ。
失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した
失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した
失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した
ニャーは失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した
失敗した失敗した失敗したニャーは失敗した失敗したにゃ
始めに気が付いたのはお茶子ちゃんにゃ。
泣きながら気配に気が付いたのか、ふと顔を上げると…ニャーと目が合ったにゃ。
真っ赤になった目を見開くと、その顔に歓喜が広がり……。
その様子にその横で抱き合って泣いていた百ちゃんと梅雨ちゃんも気が付いてニャーの方を向いたにゃ。
「ヤニ子ちゃん!!」
「佐藤ちゃん!!」
「佐藤さん!!」
同時に叫ぶとニャーに抱き着いてきたにゃ。
その声にみんなも振り向くと、
「佐藤さん!!」
「佐藤!!」
「佐藤君!!生きてたのか……良かった!!本当に良かった!!」
「ホントに良かった!!オイラ死んだものとばっかり……」
あっという間にニャーを取り囲んだにゃ。
ん~失敗したにゃが、これはこれで何か悪くない気分にゃ。
向こうでは先生方も相澤先生の生存に気が付いて、一気に走り寄っていくにゃ。
あ、マイク先生が一撃殴った後、縋りついて泣き出したにゃ。
ミッドナイト先生、それを見て涙拭ってるし、他の先生も満足げに見てるし……
この空気のまま有耶無耶に出来ないかにゃ?
「で、説明してくれるかしら?」
無理だったにゃ。
落ち着いたところでミッドナイトの追求が入るにゃ。
無理にゃ。
デコイは消し忘れてました。最後の昇天シーンはノリです。
なんて言ったら確実に怒られるにゃ。良くてお説教、悪ければ袋叩きにゃ。
やむを得ないにゃ。
こうなったら第二の秘策にゃ。
「相澤先生の作戦にゃ。死んだふりして敵の隙を探すという高度な作戦にゃ。ニャーはそれを聞いた時、心底感動したにゃ。やはりヒーローは力だけではなく個性だけではなく、周囲の状況を瞬時に理解してそれを活かすという高度な頭脳が必要なのにゃ。流石は相澤先生にゃ、最後に脳味噌の動きを縛ったのも黒いのの個性を封じたのも相澤先生の作戦にゃ。生徒に被害が出なかったのもオールマイトが間に合ったのも全部相澤先生のおかげじゃにゃいか。ニャーはただ指示に従っただけにゃ。功績は全部相澤先生にあるにゃ、ニャーは手柄を横からかっさらっていったりしないにゃ。サザエさんの猫じゃないにゃ。流石は相澤先生、流石は相澤先生にゃ。是非相澤先生に清き一票を、清き一票をお願いするにゃ。あ、そうだ最後の昇天シーンも相澤先生に言われてやったにゃ。敵をだますにはまずは味方からと言われたにゃ。相澤先生は死んだふりして地下に潜り組織の全貌を探ると言っていたにゃ。ニャーは辛うじて助かったことになるにゃ。万が一相澤先生が見つかった時には国家によって改造人間にされたことにされたと言っていたにゃ。仮面イレイザーにゃ。流石は相澤先生にゃ。さすあいにゃ。その上……
「デク並みに喋るじゃねぇか。今日は……」
三太郎に呆れ顔で突っ込まれるが、今はそれどころじゃないにゃ。
これぞニャーの第二の秘策。
相澤先生に後は全部任せるにゃ。
ちなみにこの後の策は無いにゃ。終の秘策とか格好いいから考えてみたかったけど思いつかなかったにゃ。
志々雄さんは偉大にゃ。
相澤先生が信じられない物を見る目でこちらを見てるけど、何してるにゃ?肯定してニャーを助けるにゃよ。
ヒーローの本質はお節介にゃ。
ニャーの秘策も虚しく…
その後、相澤先生が保健室送りになった後、先生方に涙交じりに滅茶苦茶説教されたにゃ。
流石のニャーも何も言えんかったにゃ。
●
数日後…
雄英職員室には事件が終わったとは思えない重い空気が漂っていた。
集まった教員の顔も暗い。
校長が溜め息を吐きながら溢す。
「ヴィランが校内に侵入。幸い生徒に怪我はなかったものの、相澤君と13号君が重傷。挙句の果てには逃げられる……か。これは上からもマスコミからも突き上げが大変なのさ」
そうボヤく声には何処となく力がない。
「ソノ マスコミ ニ関シテダガ」
「敵のヴィランのボスらしき男が事件以前に校内へ侵入したことが確認されているわね。目撃者は佐藤ヤニ子、あの大活躍した子ね。問題は目撃されたのがあのマスコミ侵入事件と同じ時って事と、目撃したのが校舎裏で煙草を吸っていたという事で……」
「マスコミを目くらましにして侵入されたって事だね。確かにあの事件にはおかしい事が多かった。装置が奇妙な壊れ方をしていたしね」
「そのことに関してですが先に交戦したヤニ子さんが気になる事を言ってましたね。『あの手マンが触った途端に壁が崩れたにゃ。多分アイツ物を壊す個性にゃ』とか」
「とすると装置を壊したのもソイツか」
「このことは後で警察と公安にも伝えておくのさ。さて問題はもう一つの方だけど……」
校長が手元のスイッチを押すと、スクリーンに画像が映し出された。
それを見て何人かが眉を顰める。
「コレハ……水難エリアカ!!」
「水が完全に変色してるな」
「毒……かしら」
「そう、これは毒を撒かれたらしいのさ。しかも中にいたヴィランごと……」
校長の説明に場が一気に緊張した。
「毒の種類は不明。警察に分析してもらったけど、ニコチンとカフェインを主成分としているのは分かるけど後はお手上げと言われたのさ」
「そんな毒を味方ごと、ひでえな!!」
「ヴィラン連合、そんな非道な手を躊躇いなく使ってくるとは…嫌な相手が表れたな!!」
「幸いヴィランに死者はいないのさ。彼らの証言によると水に強い個性が集められ潜んでいたところ、急に毒が撒かれたらしいのさ」
「シカシ ナゼ水難エリアダケ……」
「うん、それなんだけどさ……」
と、ここで校長はオールマイトに目で問いかけた。
問題は何故プールが狙われたではなく、誰が狙われたかだ。
プールに飛ばされた生徒、それが問題だ。この場では校長とオールマイトしか知らないが、その中にОFA後継者がいる!!
もしヴィラン側がそれを知って邪魔なオールマイトを足止めした上で彼の抹殺を目的としていたなら!!
故に校長はオールマイトに目で問うたわけである。
ヴィラン側に秘密が漏れている事はないか、と。
オールマイトにも心当たりはない。
秘密を知っている人間は限られているし、その全てが信頼できる人間ばかりである。
だが今回の敵の動きは明らかにおかしい。
ピンポイントで狙った箇所に未知の毒物を撒いている。
しかも味方を捨て駒にするという非情な行動までとって……。
彼らの中で「ヴィラン連合」と名乗る組織の危険性の段階が上げられた瞬間である。
「まあ、それは捜査が進むまで待つしかないのさ。次の議題だけど、体育祭をどうするかだけど……」
それでも日常は前へと進む。
凶悪極まりない敵組織の出現という一抹の不安を残して。
●
というわけで今日も学校にゃ。
普通あんな事件があったらしばらく休校にするもんじゃないかにゃ?
一日ヤニ吸ってマンガ読んで過ごすというニャーの計画が台無しにゃ?
「それは計画って言わないんじゃないかしら?」
梅雨ちゃんの突っ込みが光るにゃ。
どうでもいいけど梅雨ちゃんと百ちゃん、その握った手を放してくれんかにゃ。
「佐藤ちゃんって手を離すとすぐどっか行っちゃいそうだし……」
「そうですわ!!あの頭を砕かれてるのを見た私たちの気持ちも考えてください!!」
アレに関しては全面的に相澤先生が悪……いえ、何でもないですにゃ。
全く襲撃以来みんなの様子がおかしいにゃ。
もじゃもじゃは妙に覚悟決まった様子だし、三太郎はイライラしてるし、饅頭は何か迷いが深まったようだし。
あと女性陣が妙に距離を詰めてくるのが怖いにゃ。
相澤先生が大怪我したけど生徒にもニャーも被害無かったにゃ。
みんなそれで良しとはならないものかにゃ。
お、相澤先生来たにゃ……って包帯ぐるぐる巻きにゃ。
ハロウィンの練習じゃなければ普通に入院レベルにゃね。
「…………次の戦いが迫ってる!!」
前世でもそういえば車当てた次の日、包帯を全身に巻いて出てきたのがいたなあ。と懐かしい思い出にほっこりしていると先生がとんでもない事言い出したにゃ。
何にゃ!?
前に手を付けた奴が襲ってきたから、今度は足でも付けたのが襲ってきたにゃ?
それで最終的にはデビルマンのジンメンみたいなのが襲ってくるにゃ!?
「雄英体育祭が迫ってる!」
……学校行事、面倒くさいにゃ。