「…………という作戦立ててるけど実行してもいいにゃ?」
「あの短時間で良く考えたわね。でも障害物競争よ。コースを守っているか疑問だし、流石にその方法を取られるのは教師としてちょっと……」
「考えてみて欲しいにゃ。これからヒーローとして出会うヴィランには謎めいた個性や凶悪な罠を駆使してくる奴もいるのに違いないにゃ。言うなればこれは予行演習にゃ。それに何しても良いって言ったにゃよ」
「うーん……」
「それに幻影を張って志望者を選別する軍隊もあるらしいにゃ。常に気を付けておかないとヒーローは何処で寝首を掻かれるかわからないにゃ」
「でもこれは学園祭で全国放送もあるのよ。普通に競争している横でそんな事されたらあなたの評判にも傷が付きかねないわ。やっぱりダ……」
「少年漫画の中には協力して敵の能力を暴くのが多いにゃ。ニャーもみんなにそれを体感してほしいにゃ。仲間と協力して敵の秘密を暴く……青春にゃ」
「青春!!」
「そうにゃ。青春にゃ!!学生同士の協力プレイで卑劣な敵の個性を使った罠を暴くにゃ。これぞ青春にゃ!!青い春にゃ!!」
「いいでしょう!!特別に許可するわ。でも後でみんなに謝っておくようにね。あ、あと飴あげる」
「バレたら考えるにゃ」
第一競技の開始!!
開始の合図と共に生徒たちが一斉に飛び出そうとした。
それよりも早く地面が氷に覆われたる。
開始早々の妨害に大半の生徒がその足を地に縫い留められた。
「あいつとの合体技なら一網打尽に出来たかもな」
そう言って戦闘に飛び出したのは轟焦凍。
「待ちやがれ!!半分野郎!!」
「君だけの独壇場にはさせない!!」
そしてそれを追うは予想していたらしいA組。
『おおっとAー1の轟。いきなりの妨害行為だ!!大概の連中は足が凍って開始が遅れてるぞ!!』
『アイツの個性なら広範囲の妨害が可能だ。スタート地点で人が固まっている状態ならさらに効果が上がるだろう。考えたな』
『大半の生徒が動けない中、後を追うのはA組の面々、これを予想してたのか!!おおっと、A組で一人氷に捕まったのは佐藤ヤニ子!!足が凍って藻掻いている』
「にゃー、あしがこおって うごかないにゃー」
『妙だな?アイツの個性なら氷漬けにされるはずはないんだが……』
『A組唯一のピンチって事か!!そのわりには台詞も何か棒読みだけどな。おおっと、そうこうしているうちに先頭集団は第一関門に差し掛かったぜ!!』
トップを走る集団の前に覆いかぶさるように巨大な影が表れる。
『第一関門はロボ・インフェルノだ!!さあこれをどう突破……っておいおい』
『合理的だな。凍らせて倒れるようにすることで突破と妨害の両方を兼ねている』
表れたのはロボットの大群……が、それらは先頭を行く焦凍の腕の一振りで凍り付いた。
「烈風拳にゃ。ここに烈風拳の継承者がいたにゃ。ギース・ハワード見てるかにゃ。ここにお前を継ぐ者がいたのにゃ」
ヤニカスが何やら一人で興奮してる。
周りの人間も「烈風拳って何だよ!」「ギースって誰!」と突っ込みたいのを我慢しつつ、妨害の突破を図る。
が、半端な姿勢で凍らされたロボット達は徐々にその体を傾け……。
「にゃー つぶされるにゃー」
『何人かの生徒が下敷きに受ける……って佐藤、さっきまでスタート地点にいなかったか?』
「今だれか下敷きになったぞ」
「死んだんじゃねーのか?」
周りがざわつく中、切島がロボの装甲を破って現れるも……
「え?あの猫耳の子は?」
「まさか下敷きになって……」
「雄英の体育祭でとうとう死者が出たか」
そのまま姿を現さないヤニカスに会場が騒めく。
生徒たちも戸惑いを見せるが、お構いなしに突破を図るA組を見て恐る恐る先へと進み始める。
観客は潰されたヤニカスが未だ姿を見せない事にざわついている。
『全員第一関門を難なく突破だ!!全部凍らせるのはずりーだろ!!じゃあ次は第二関門だ!!落ちればアウト!! それが嫌なら這いずりな!!ザ・フォール』
ロボの群れを突破し走り続ける生徒たちの前にロープが張り巡らされた崖が表れる。
その様はまさにアスレチック。下が見えれば…だが。
観客が余りのスケールに圧倒されていると、誰かがそれに気付いた。
「おい、崖を見ろ。誰か落ちそうになってないか?」
「本当だ!!必死な顔で齧りついている!!」
「にゃー おちるにゃー たすけてにゃー」
よく見ると猫耳の少女が今にも落ちそうになっていた。
「「「またあいつか!!」」」
会場の気持ちが一つになった瞬間であった。
『おおっと、いつの間にか先回りしていたAー1佐藤。だが渡るのに失敗したのか今にも落ちそうだ!!しかし落ちても安全なように下には……』
「嘘にゃ!!」
マイクの実況にかぶせるようにヤニカスは叫ぶ。
その叫びは血を吐くような焦りに満ちていた。
「堕ちたら死ぬにゃ!!みんな、よく聞いて欲しいにゃ!!これは体育会のふりをした公開殺人ショ……」
そこまで言ってカスは力尽きたのか指が崖から離れた。
「にゃああああぁぁぁぁぁぁぁ しにたくないにゃー」
絶叫を残して崖下へと消えたヤニを見て、生徒たちの足は完全に止まった。
あんまりといえばあんまりな台詞にガヤガヤと騒めきだす観客席。
ちょっとコメカミに血管が浮き出た校長に相澤先生。苦笑いをするミッドナイト。
困惑するB組に、何かやらかすだろうと思っていたので足を止めないA組。
『大丈夫、大丈夫だから。落ちても安全だから』
とアナウンスを忘れて素の先生に戻るプレゼント・マイク。
『佐藤!!これ終わったら生徒指導室に来い!!』
と放送されているのを忘れ怒る相澤。
「あのヤニカス。何かするのはわかってたが……」
「しかし狙いがわからねえ。悪目立ちするだけだろうに」
トップ争いを続ける爆豪と轟。
それぞれの反応をしながらもレースは第二関門へと差し掛かろうとしていた。
深く身を隠しながら、ヤニカスは彼らを見ていた。
そして思う。どうやらこの試合の秘密に気が付いたのはニャーだけらしいと。
「みんな、何をしてもいい。という言葉を軽く考えすぎにゃ」
何をしてもいい。とは相手に白紙手形を渡すに等しい行為。
何故学校側がそういう一言を付け加えたのか、彼らはもっと良く考えるべきであった。
「これならわざわざ妨害に引っかかる必要は無かったにゃ」
そう、本当の狙いから目を逸らさせるためにわざわざ妨害にまで引っかかったというのに。
全くみんな真面目過ぎる。そう思ってまた一つ溜息を吐く。
「それにしても三つ目の妨害はやばかったにゃ」
問題だったのは三つ目の妨害だけ。
万が一地雷を踏んでいれば、自分の狙いは全て白日の下に晒されていたであろう。
が、それも杞憂。
広範囲の個性の禁止という相澤先生の通告を守った上であそこを突破できたのは、あの言葉の意味を理解したのが自分だけだったからであろう。
さもなければ他の人間を巻き込んでいた。
「さて、誰が来るかにゃ」
誰が来ても自分の負けは無い。仕掛けは全て終わっているのだから。
「投了にゃ」
見ている先ではA組が次々にザ・フォールをクリアし落ちることを必要以上に警戒したのかB組がそれに続く。
普通科、経営科、サポート科はヤニカスの言葉に捕らわれたのか進むことが出来ない。
本当の狙いに気付かされないためだったが、A組のサポートになるなら結構なことだ。
ヤニカスは迫りつつある彼らを見て思う。
彼らはそこにいる。
そしてニャーはここにいる。
「順調にゃ、全く持って順調にゃ」
『第二関門での熾烈なトップ争いから抜け出たのは轟と爆豪の二名だ!!先頭が一足抜けて下はダンゴ状態!上位何名が通過するかは公表してねぇから安心せずにつき進め!!』
トップを走る二人の前に開けた地形が表れた。
風で巻き起こる土煙。そしてその向こうからふらふらとやってくる人影。
『そして早くも最終関門!その実態は……一面の地雷原!!!怒りのアフガンだ!!!地雷の位置はよく見りゃわかる仕様に……ってまたお前か佐藤ヤニ子!!お前の個性はどうなってるんだ!!』
土煙の中から現れたのは血塗れのヤニカス。
それを見た観客はもうドン引きである。
会場がヒエッヒエになってるのにも関わらずヤニ子は捲し立てる。
「に、逃げるにゃ!!地雷の中に一定割合で本物が……」
ふらふらと歩く彼女の足元で何かを踏む音がして……
光と軽い爆発音が起きた後、もうそこには誰もいなかった。
血管が二つ三つ増える校長と相澤先生。
『大丈夫!!この地雷!威力は大したことねぇし、音と見た目が派手なだけだから!!』
冷え切った空気を必死で盛り上げようとしているプレゼント・マイク。
第二関門の途中にも関らず足が鈍るB組と普通科。
カスの戯言など意に介さないとばかりにスピードを上げるA組。
トップを走る焦凍に迫る爆豪。
「てめえ、宣戦布告する相手を間違えてるんじゃねぇ!!」
『ここで先頭が変わったぁ!!』
二人の争いの会場のボルテージも上がってきて、学校側も一安心。
「エンデヴァーの息子と入試一位の一騎打ちか!!」
「入試一位の子、真面目なのに闘争心もあるか」
会場が再び盛り上がろうとしたその時、後方が大爆発した。
『偶然か故意か!!A組緑谷、爆風で……』
マイクの実況を掻き消すくらいの歓声が上がる。
宙を舞う緑谷に対して空を飛び追いかける爆豪と大地を凍らし前へと進む焦凍。
冷え切った空気は完全に元に戻っている。
「この二人の先に出た今しかない!!」
再び装甲板を叩きつける緑谷、その気持ちに反応したのか再び爆発が起きる。
そのまま走る緑谷、僅かに遅れて後を追う爆豪と焦凍。
『この結末を誰が予想できた!!』
歓声の中、勝者が決まる!!
『今スタジアムに帰ってきたその女、佐藤ヤニ子の存在を!!』
「ええ~~~~~」
盛り上がって来たところに再び水を差され、ドン引きする会場。
「にゃはは~、ニャーの勝ちにゃ。ニャーの大勝利にゃ」
空気を読まずはしゃぎまくるヤニカスに会場の空気はますます冷えていく。
『つ、続いて誰が予想できた、二位は緑谷出久』
緑谷もゴールはしたものの呆然としている。
「あのヤニカス、どんな手を使いやがった!!」
ブチ切れる爆豪。無理もない、勝利を争っていたその瞬間、まんまと横から攫われた形になったのだから。
一方の焦凍は黙って観客席を睨んでいる。その双眸に激しい感情を込めて。
次々にゴールしてくるA組の面々もどこか呆れ顔である。
「にゃはは~高らかにニャーを讃えるにゃ」
引いてる他の人間と比べて、明らかにテンションの高いカス。
そのままカスの勝利が決定しようとしたその時であった。
「待って下さい!!」
一人の男がそれに異を唱えた。
「この試合には明らかに何かの仕掛けがある!!それを解くまで勝利宣言は待ってもらえますか!!必ず解いてみせる!兄さんの名にかけて!!」
だが時間も押しているらしくプレゼント・マイクの実況は無残にも進む。
『おおっとぉ、そのまま三人の争いになると思ったが、まさかの佐藤が一位へと。マンガかアニメのような大逆転だ!!』
プレゼント・マイクのアナウンスも絶好調。
このままヤニカスの勝利で終わると思われたが……。
「そうか!!そうだったのか!!」
「謎は全て解けた!!」
読者への挑戦状
ヤニ子の勝利で決まったかのように見えた第一競技。
だがそれに異を唱える者がいた。
彼の解いた謎とは一体……。
ここで古き良き探偵小説に倣い読者諸賢には彼に先立って、この試合の謎を解いていただきたい。
明らかにされるべきことは二つ。
・何故ヤニカスはああも派手なパフォーマンスをしたのか。
・どのような手段をもってヤニカスは勝利したのか。
の二点である。
なお手掛かりは全て今までの文中にあるが、念のためヤニカスの個性で出来ることを記しておく。
紫煙拳よりデコイを作る事が出来る。結界で閉じ込める事ができる。
モクモクの実より体を煙に変える事が出来る。体の一部を飛ばす攻撃が出来る。体の一部を煙に変え飛行が出来る。
+αより「隠者の濃煙」煙で包んだものを透明にする事が出来る。「侵奪の煙庭」目に見えないほど薄い煙で周囲を覆い、煙を吸った相手の身体能力を徐々に下げていく事が出来る。
それでは読者諸賢の快刀乱麻を断つが如き名推理を期待しています。