今回、飯田の言葉遣いがおかしいですが、ミステリに寄せてみたらこうなりました。ご寛恕ください。
名探偵 皆を集めて さてと言い
あまりと言えばあまりな逆転劇に観客たちは呆然としている。
プレゼント・マイクも一瞬実況を忘れるほどだ。
ただ一人、相澤だけが
『あいつ、また何かやりやがったな』
と呟いて微妙な顔をしている。
「にゃはは~。ニャーの勝利にゃ。高らかにニャーを讃えるといいにゃ」
ヤニカスの言葉に場が一気に沸き返る。
呆気に取られていた観客たちも大歓声を上げている。
「あのヤニカス、今度はどんな手を使いやがった」
自分たちの活躍をダシに使われた爆豪が切れる。
「…………………………」
焦凍は無言で観客席に座る父親を見つめている。
その双眸に込められた感情は余人には理解しがたい。
ちなみに父親はこの結果を受けて火力が上がり、周囲の人間から迷惑気な顔で見られている。
デクもまた呆然としている。
勝利を確信した時に横合いからそれを奪われたのだ、さもあらん。
ただその脳は猛烈に回転していた。
『おかしい。佐藤さんの個性にテレポートはなかったはずだ。それなのにあの時はゴール地点に急に現れたように見えた。思えばこの競技における佐藤さんは初めからおかしかった。スタート地点の轟君による足止めに引っかかったのから不自然だ。ヤニ子さんの個性ならすぐに脱出、いや引っかかる事さえなかったはず。その後もことごとく妨害に引っかかっている。普段の彼女なら簡単に突破できるはずなのに……』
同じ疑問はA組全員が共有していた。
『おおっとぉ、そのまま三人の争いになると思ったが、まさかの佐藤が一位へと。マンガかアニメのような大逆転だ!!』
プレゼント・マイクのアナウンスも絶好調。
このままヤニカスの勝利で終わると思われたが……。
「アニメ、アニメ!!そうか!!」
不意に飯田が叫んだ。
「待ってください!!この障害物競走にはある仕掛けがある!!」
そしてやにわにヤニカスに向き直る。
「そして仕掛けを作ったのは君だ!!佐藤君」
それを受けてヤニカスも不敵に笑う。
「にゃはは。ニャーに憑いてる化け猫はそう簡単には落ちんにゃ」
「いや、謎は全て解けた!!この世には不思議な事など何もないのだよ、佐藤君」
「今からそれを証明して見せる!!兄さんの名にかけて」
「ブラコンかにゃ?」
カスの突っ込みは風に溶けて消えた。
くしゃみをしたどこぞの自称魔王。
それとは関係なく衆人環視の中始まった探偵劇に観客もヒーローも興味津々である。
相澤も時間が押しているけど止めるに止められない。
「まず僕いや俺が初めに違和感を覚えたのは、佐藤君が初めに氷に足を取られた時でした。一見些細なようですが、ここに重大な過誤があった」
飯田は揺るがぬ視線でヤニカスを見る。
「妨害に引っかかったように見えますが、これはおかしい。なぜなら佐藤君は個性上あの妨害に引っかかる事はないはずですから」
「なにも不自然じゃないにゃ。ニャーは相澤先生から個性を使う事を禁止されてるにゃ。脱出は不可能にゃ」
その言葉に観客やヒーローが騒めく。
「個性禁止ってどういう事だよ」
「そんなにヤバい個性なのか?」
騒めきを他所に飯田は続ける。
「それもあり得ない。先生が言ったのは大規模な個性を使う事の禁止だ。佐藤君なら周囲を巻き込む事無く無効化出来る」
「どうかにゃ?脱出の過程で周りの人を巻き込むと考えたかもしれんにゃ」
鋭い眼光で自分を見る飯田に対してヤニカスは小動もしない。
むしろこの状況を楽しんでいるかのようにも見える。
もしかするとトリックを暴かれる事は彼女にとって前提、その後に何かそれをひっくり返す何かを用意しているのではないか。そんな疑問が飯田を襲う。
折しも日は陰り、カスの顔は影になる。
ネコ特有の光る眼だけが自分を見つめる。
その瞳に見透かされているような恐れを感じながら飯田は言葉を続ける。
「次に不自然だったのはいつの間にか第二関門にいた事。あの時は周りにだれもおらず、個性も使い放題だった。しかし佐藤君は不自然に崖から落ちそうになった」
「アレも自分のミスにゃ。足を滑らしたにゃよ」
ヤニカスは煙草を咥えて嘯く。
火はついていないものの先端を上下に揺らす様はこちらをおちょくっているかの様。
いや、むしろ彼女にとってこの状況も娯楽なのかもしれない。
「人がいる所で使えないって……」
「自爆系か何かか?」
会場がさらに騒めく。
「先ほどのプレゼント・マイク先生の言葉。その中に解決のヒントがありました」
「ん~ここにいる全員がさっきの台詞を聞いてたけど、特に不自然な言葉って無かったけど?」
「アニメです。アニメが参考になりました」
「アニメ?アニメが何の関係があるんだ?」
「昔のアニメはセル画を次々にコマ送りにする事で画面を動かしていました」
「つまり彼女は昔のアニメのようにデコイをコマ送りのように置いていたのです。そしてステージに注目が集まる寸前にそれを出していった」
「ちょっと待って?デコイを置くって言ってもヤニ子ちゃんにそんな時間なかったけど?スタート地点から出遅れていたほどだし」
葉隠の言葉に飯田は答える。
その言葉の中にはこのトリックを考え付いた者への敬意さえ込められているようであった。
「そう、彼女は誰にも気付かれないように先行していたんです」
「え?でも先行してって言ってもヤニ子ちゃんにはそんな暇無かったんとちゃうん?むしろ出遅れてたし」
とお茶子が疑問を呈する。
「そう普通に考えれば無理です。でもたった一つだけ彼女と葉隠さんだけが可能だった」
みんなの頭に透明化という単語が浮かぶより早く、飯田はヤニカスに向き直り言った。
「フライングですね」
猫耳の少女は黙したまま答えず。
ただその口に張り付いたチェシャ猫のような薄ら笑いがその言葉を何よりも肯定していた。
「「「フライング!?」」」
「そうこの障害物競走で禁止されているルールは『コースを離れる事』だけ。それ以外の行為は何も禁止されていない」
飯田はそこで一息入れ、言葉を続ける。一方のヤニカスは微動だにしない。
彼にはその姿が観念しているのか、余裕の表れなのかはわからない。
「つまりフライングは禁止されていない!」
「「「な、何だってーーーーーーーー!!」」」
あんまりと言えばあんまりなルールに会場がどよめく。
いくらルールに抵触していないからって、本当にやる奴がいるか!!
「つまりヤニ子さんの関門前での悪ふざけは……」
八百万の問いに飯田は確信をもって頷いた。
「そう、目立つことによってフライングしたという事を押し隠す。つまりあれらのデコイはある事実を隠すためのデコイでもあったわけです」
「つまり全貌はこうです。姿を隠した佐藤君は皆の用意が整う前に自分の代わりになるデコイを置いて先行。コースを進みながら薄くした煙でデコイの設置をしながら飛ぶことでザ・フォールと地雷原を回避。集団に巻き込まれていては使えませんが、これなら誰もいないから相澤先生に言われた集団の中での個性禁止も満たしているわけです。そして本人はゴール手前のトンネルの中で潜み、適宜にデコイを出しつつ緑谷君らがゴールする寸前で潜伏を解いたわけです」
パン、パン、パン
と拍手の音が鳴り響いた。
拍手の主はヤニカス。
満足したような笑顔で無心に手を叩いている。
「よくできましたにゃ。ニャーの行動がこれほど読み切られるとは思わなかったにゃ」
その言葉に会場中からブーイングが飛ぶ。
B組や普通科たちも「いいのかこれ」という表情で戸惑っている。
A組はまたかと苦笑い。
一転騒がしくなった会場、それでも次のヤニカスの言葉で静まる事となった。
「Plus Ultraにゃ」
唐突に雄英高校の言葉を出され戸惑う人々にカスは続ける。
「ニャーはこの言葉をルールの向こうにって意味にとったにゃ。ルールは超えていくものにゃ」
カスの言葉に校長と相澤のみならずミッドナイト以外の教師全員のコメカミに青筋が立つ。
名言を汚すな!!
ランチラッシュはそっと立ち上がり、包丁を研ぎに厨房へと向かった。
先日の学食での蛮行はまだ許されていない。
「な、な………」
あまりと言えばあまりの言葉に飯田が絶句するのを他所にカスは続ける。
「それに全てはニャーの掌の上にゃ。この競技は全てニャーの小さな掌から一歩も出ていないにゃ」
「その証拠に……ミッドナイトの許可は取ってあるにゃ!!」
一同はその言葉に全員ミッドナイトの方を向くも彼女は
「少年探偵……青春…………青い春………」
と半ば上の空である。
『と、とりあえず優勝は1-A 佐藤ヤニ子。次の競技に移るとするぜ』
プレゼント・マイクがヤケクソ気味に巻きに入る。
『それと佐藤。校長と俺から話があるから生徒指導室に来い』
相澤の怒りをこらえた声がそれに続く。
こうして第一競技はグダグダなまま、幕を閉じるのであった。
「もう説教は嫌にゃ~~~~~~~~~~~~」