物間寧人が居る。
普段浮かべているような皮肉な笑みではなく、両の頬を引き攣らせる様に上へと上げたとても嫌な笑みを浮かべて……物間寧人が嗤って
居る。
物間寧人が居る。
騎馬戦の騎手になり嫌な笑みを浮かべつつ、ハチマキを取るべくスタンバイして……
居る。
物間寧人が居る。
三人の物間寧人が騎馬となり、ひたすら他の騎馬の隙を伺って……
居る。
物間寧人が居る。
物間寧人同士が手を取り合い、それを物間寧人が駆る。物間寧人たちはそれ一組だけではなく、その横に物間寧人たちが、さらにその奥に物間寧人たちが
居る。
「幻術なのか?」
誰かがボソリと呟く声が聞こえた。
「何だ…アレは!?」
「また幻術なのか!?」
「幻術か?……イヤ…幻術じゃない!…イヤ、幻術か?また幻術なのか?…イヤ」
「何だ?アレは!」
「また幻術なのか?」
その言葉通り、グラウンドには物間寧人が満ち溢れていた。
正面の物間寧人が物間寧人のハチマキを取るべく手を伸ばしたのを、物間寧人はコピーした「大拳」を使い撃ち振るう。
物間寧人の拳の直撃を喰らった物間寧人の騎馬が崩れ地面に倒れるのを尻目に、右から隙を伺っていた物間寧人が素早く手を伸ばす。
「どうする?このままじゃ計画どころじゃなくジリ貧だぞ!!」
騎馬の円場が声をかけるも、物間寧人は物間寧人の対処に追われそれどころではない。
「わかってる!!何とか隙を見つけてA組に押し付けるぞ!!」
A組が一千万点に釘付けになっている隙にハチマキを集める作戦は完全に破綻していた。大体前提となる一位のヤニカスが姿を現そうとしていない。
しかし一位不在にも関わらず、会場は大盛り上がりである。
「死ねや!!金髪野郎!!」
『おおっとA組爆豪、後ろから忍び寄っていた物間寧人を爆破!!そのまま物間寧人を無視しA組轟のグループに襲い掛かる』
振り向く焦凍。その傍らには凍らされた物間寧人が。その横から物間寧人がそっと忍び寄るのを凍らせて動きを止める。それを警戒して距離を取る他の物間寧人。
「緑谷!!この闇の群れを切り抜けた先に光はある!!右14時に峰田の騎馬が!!」
「うん!!でも物間君たちが邪魔してて……」
『おおっとこちらでもA組同士が対陣。立ちふさがる物間寧人を蹴散らしての対陣だ!!しかしB組物間寧人は次々に出てくる』
「ケロッ、左から物間君が来るわ」
「物間はオイラがモギモギで止めるから、障子は緑谷たちの方を頼む」
プレゼント・マイクの言葉通り、倒したはずの物間寧人の騎馬は何時しか組み直してこちらへと迫ってくる。
観客の歓声と爆笑を背に物間寧人は横の物間寧人と示し合わせ徐々に距離を詰めてくる。別の物間寧人が動きを阻害するべく隣の物間寧人と背後に迫る。
物間寧人が物間寧人の隙があったのを幸い爆豪へと迫る。
物間寧人を蹴散らすべく適当に威力の込められた爆破を「大拳」を使い防ぐ。
「ちっ、金髪野郎か!!今半分野郎で忙しいから金髪野郎の相手でもしてろ!でないと他の金髪野郎みたいにブッ殺すぞ!!」
そう嘯くと、爆豪の乗った騎馬は方向を変え周囲の物間寧人の処理に勤しむ焦凍の方へ向かった。
後を追おうとするも横からの物間寧人の攻撃に対処せざるを得なく、それを断念する。
周囲の物間寧人を一掃した物間寧人は手近なA組を追おうとする。
刹那。頭を下げた物間寧人の寸前頭があった場所を巨大な掌が過ぎていった。
「何をするんだ!!」
「ごめん。本物だと思わなかった」
攻撃した拳藤が謝り、次の瞬間物間寧人のすぐ横を攻撃した。
物間寧人のハチマキを狙っていた物間寧人はその攻撃をダイレクトに喰らい、周囲の物間寧人を巻き込みながら飛ばされていく。
それを見た物間寧人は思わず溜息を吐いた。
支えている騎馬も少し気を休める。
「あのヤニカス、僕に何か恨みでもあるんだろうか?」
思わず零れる愚痴に、拳藤は目をパチクリさせた後に答えた。
「多分だけど、絡んだのが間違いだったんだろうね」
「え?あの個性をコピーしようとした時の事?あれで酷い目にあったのは僕の方なんだが」
「そうそれ。後でブラドキング先生とも話したんだけどね。アイツ、あんたの事をヤニ仲間だと思ってる節があるよ」
「え?!」
「多分あの取り合いだろうね。あんたのことを喫煙者だと思ってるのかも」
思わぬ返答に頭を抱える物間寧人。
そんな彼に向かって、彼女はさらに恐ろしい一言を放つ。
「多分私の勘だけどね」
拳藤はさらに言葉を続ける。物間寧人にとって悪夢とも成り得るソレを。
「きっと彼女、これからもあんたに絡んできそうな気がするよ。ダル絡みも含めて」
拳藤の無情な言葉に物間寧人は絶望の叫びを上げた。
●
にゃ~校長と相澤先生のWの説教は効いたにゃ。
やっぱりフライングはまずかったにゃ。
いくらニャーが「ルールは守っている」って言っても、「ルール守る以前の常識だ」と言われる始末にゃ。
ミッドナイト先生もついでに注意されてたのは気の毒だったけどにゃ。
あれだけ怒られたのは久しぶり……でもないにゃ。
二日前、学食でランチラッシュのマジ切れの方が怖かったにゃ。
学食でうんこの話してたら、厨房から包丁持って飛び出してきたにゃ。あれはどんなヴィランよりも怖かったにゃ。
ニャーは知らなかったにゃ!!学食でカレーフェアやってる事を知らなかったにゃ!!
と平謝りして、出禁二週間でやっと許してもらえたにゃ。
包丁はよりによって殺傷力高い出刃包丁だし、マジでドイツの肉屋に売られて饅頭にされるかと思ったにゃ。
良い子のみんなは『八仙飯店之人肉饅頭』でググったらだめにゃよ。
『フリッツ・ハールマン』や『カール・デンケ』でググるのもだめにゃ。
そんなこんなで説教も次の競技が来るって事で、続きは後日って事ににゃったけど……。
ニコチンが足りないので校舎裏でヤニ吸ってたら、相澤先生に首根っこ掴まれて連行されたにゃ。
何でも次は騎馬戦で組み分けの必要があるらしいのにゃが、ニャーがいないって事でちょっとしたパニックになったらしいにゃ。
ニャー説教が嫌で聞き流してたにゃが、この騎馬戦、紹介物競走の結果で持ち点が変動するらしいにゃ。
で一位になったニャーの持ち点は……
一千万点!?
アホかにゃ?
昔の適当なバラエティー番組でもこんな点の付け方せんにゃ。
これじゃ誰も……
え?何でみんなセットになってるのかにゃ?
「どこ行ってたんですの?もうじき騎馬戦が始まりますわ!!」
「やっぱり一位って事で組み分けのペナルティか何かあるん?」
「もうみんな組作ってしまったぞ!!」
「はっ、このヤニカスの事だからヤニでも吸ってたんだろ」
百ちゃんとお茶子ちゃん、メガネ始めみんなが声をかけてくれるにゃ。
あと三太郎の解像度が高すぎるにゃ。
みんな優しいにゃ。
ニャーは誰が組んでくれるのかにゃ?
って……なんでみんなそこで目を逸らすにゃ?
「ヤニ子ちゃんの強いのはわかってるけど……」
「流石に一千万点は……」
「全員に狙われるしね」
わかってないにゃ。
こういうのは一千万点に目をくれず、二位か三位狙いで暗躍するのが一番効率がいいにゃ。
仕方ない。奴と組むにゃ。
「おい、金髪。シケモクやるからニャーも入れるにゃ」
「い、いらないよ。大体何でA組とくまなきゃいけないのさ」
「さっきニャーのヤニを取った罰にゃ。わかったらさっさと入れるにゃ」
ニャーの言葉に周りがぎょっとした目で金髪を見たにゃ。
「も……物間……お前……」
「ご、誤解だよ。君も変な事言い出すのやめてくれないかな!!」
「事実にゃ。ニャーの捨てたヤニ必死で拾い集めてたにゃ。ブラドキング先生もしっかり目撃してたにゃ」
「あ、あれには理由が…」
「どんなわけにゃ?言っておくけど女性の食べ残しが欲しかったっていうのは理由にならんにゃ」
「風評被害流すの止めてもらっていいかな!!」
なんか金髪の周囲の人間が一歩距離を取ったにゃ。
こころなしか女子の彼を見る目が冷たくなった気がするにゃ。
「あ、あれは君が……」
「ニャーは何もしてないにゃよ。金髪が勝手に寄ってきて急に集めだしたにゃ」
「いや、でもこんな所で個性バラすわけにもいかないし……」
何やら小声でブツブツ呟きだした金髪。
コイツあれにゃ。やっぱりもじゃもじゃの亜種にゃ。
とっておきのシケモクを差し出すニャー。
後ずさりする金髪。
それを見てますます引く周囲。
良くわからんがカオスにゃ。
結果的に拳藤ちゃんとブラドキング先生の執り成しと時間切れでニャーが金髪のパーティーに入るのは無理だったにゃ。
金髪が何故か泣きそうになってたにゃが、ニャーに仲間になって欲しいなら素直にそう言えばよかったのににゃ。
同じパーティーの仲間に変態扱いされてたのが原因じゃないにゃよね。
「で、佐藤さん。どうするの?」
本当に当てがなくなったところでミッドナイトが心配そうに声をかけてくれるにゃ。
やっぱり優しい先生にゃ。
仕方ないにゃ、ボッチみたいで嫌にゃけど……
「ニャーが四人分になるにゃ」
とりあえずボンボンとニャーに似せた煙人形を三人出すにゃ。
こころなしかすっげー面倒臭そうな顔してるにゃ。やっぱニャーに似せたのは間違いだったかにゃ。
オールマイトに似せたら色んな所から文句が出そうだし、三太郎にするかにゃ。
「ふざけんな!!俺に似せてみろ、ブッ殺すからな!!」
おっといかんにゃ、口に出てたかにゃ。
他のみんなを見ると、目が合った途端にそっと逸らされる。
「まあブドウとビリビリでいいかにゃ。この二人ならいくら雑に扱ってもいいと古事記にも書いてあるにゃ」
「勘弁してくれよぉ!!」
「いくら俺らでもそれは泣くぞ!!」
「でも目立つことは間違いないにゃよ。絶対に他の組や科の女の子の目に留まるにゃ」
「「…………………………やっぱやめとく」」
葛藤の跡が涙ぐましいにゃね。後一押しで何とかなったかにゃ。
もう面倒くさくなったし、金髪でいいにゃ。
ヤニが好きみたいだし、煙で自分が作られたら泣いて喜ぶにゃ。
ん?良い事考えたにゃ。
元々の作戦では監獄ロックで試合が終わるまで引きこもっているつもりだったにゃが、煙人形にハチマキ集めさしたらもっとニャーにかかる圧力減るんじゃないかにゃ?
物間を構築し物間を兵装し物間を教導し物間を編成し物間を兵站し物間を運用し間物を指揮する我らこそ遂に物間すら指揮する我らこそ「物間寧人」にゃ。
よし、そうと決まれば騎馬はニャーのままでいいにゃ。
集めさせる方に一手間加えてっと……
にゃはは、試合が始まったらみんな驚くにゃよ。
●
『いくぜ!残虐バトルロワイヤルカウントダウン!! ……3、2、1!!』
開始を前に緊張が盛り上がる場。その場に……
『START!』
カウントダウンが終わり競技が始まると同時に、無数の物間寧人が場に溢れ出した。