焦凍と障子は呆然として運ばれていく尾白を見送っていた。
「ぐぎいいいいいいいい、がああああああああああ」
喉を押さえ悶え苦しむその姿は、彼の受けたダメージが致命傷に値する事を物語っていた。
彼らはわかっていたのだ。一つ間違えれば、ああなっていたのは自分たちであるという事を。
「ぎゅあああああああああああああああああああ!!」
身悶えし体を捩じらせる。その動きでタンカから落ち、本人はそこに這い上がろうと藻掻くもののその手は虚しく虚空を掴むだけであった。
「しっかりしたまえ!!尾白少年」
オールマイトが緊迫した表情で必死に呼びかけるものの、その声が彼に届いているかは定かではない。
紫に変貌した顔色。肺は新鮮な空気を求めるもののそれは能わず無駄に口をパクパクさせるだけに留まっている。
他の生徒たちは青ざめた顔でその様子を見守るばかりである。
「なあ、助かるよな」
上鳴が震える声でポツリと零した。
「あ、当たり前でしょ」
それを咎めるように耳郎が返事をするものの、その声には力がない。彼女もわかっているのだ。今、彼の体内では
生と死が鬩ぎあっている事を。そしてそれがどんどん良くない方へ傾きつつある事を。
「・・・・・・・・・」
爆豪だけは無言のままその様子を見つめ、静かにしかし力強く手を握り締めた。
生徒たちは今はっきりと理解したのだ。ヴィランと戦うとはどういう事かという事を。ヒーロー活動はまさしく命がけであるという事を……。
「あがっ……」
虚空に伸ばされていた手が力なく崩れ落ちる。
そして尾白は絶望と共に言葉を吐き出した。
「殺してくれえええええええええええええええええええええええ」
その悲痛な絶叫を聞き、全員その原因を作った者へ顔を向けた。
お前はこの絶望に満ちた叫び声を聞いて何か思う事は無いのか…と。
「ふーーーーー」
その有様を作ったヤニカスといえば…。
ゆっくりと煙を肺に吸い込むと、それをゆっくりと空へと吐き出し言った。
「ニャーまた何かやっちゃったかにゃ」
時間はわずかに遡る。
●
全身タイツが受け持つ授業はヒーロー基礎学っていうらしいにゃ。
何でもヒーロー側とヴィラン側に分かれて対戦ゲームやるらしいにゃ。
ケイドロのリアル版かにゃ。
ふっふっふ、これはもうニャーの独壇場ではないかにゃ。前世で散々FPSやってた腕を思い知らせてやるにゃ。
敵にも味方にも散々邪魔者扱いされた芋砂の腕前見せてやるにゃ。
目をつぶったら永遠に目をつぶることになるにゃ。だからニャーは戦場では眠らないにゃ。
と徹夜でやり込んで気分悪くなったニャーに死角はないにゃ。
とか考えているうちにどんどんみんなクジを引いていくにゃ。
にゃ!!お茶子ちゃんはあのもじゃもじゃとにゃ。大丈夫かにゃ、オタクは現実の女性にちょっと優しくすると勘違いしてしつこいにゃよ。
ソースは前世のニャーにゃ。ニャーたち二人はあんなに愛し合ったんだけどにゃ。
二人の間には障害が多すぎたにゃ。近接禁止ってどういう事にゃ?
他には…爆発三太郎とメガネが組んだにゃ。ニャーもⅭ4特攻を散々やったから、あの爆発小僧には親近感が湧くにゃ。以前先達として色々教えてやろうと話しかけたら
「何考えてるんだ、テメェ」
とキ〇ガイを見る目で見られたのは忘れてないにゃ。
腹マイトは様々な場面で活躍できる有力な戦法にゃのに…。
あとこの二人が組んだら、委員長とヤンキー物みたいで面白いにゃ。
大体あの手の漫画は普段反発してる二人が、お互いのいい所を見つけて最終的に結ばれる話が多いにゃ。
……生モノ好きが特攻してきそうにゃ。
そう百ちゃんやピンクに言ったら、妙に目をキラキラ輝かせて反応してきたにゃ。なんか怖いにゃ。
そうこうしているうちにニャーが引く番がきたにゃ。
ニャーだけ休んでヤニ吸ってるって事にならんかにゃ。前世で二人組作った時は必ず余ってたのに、こういう時だけ数に入れられるのは嫌なものにゃ。
えー、ニャーの相方は……
「あ、よろしく」
尻尾だったにゃ。
また地味な個性にゃ。どうせならニャーの相方は時間を止めるとか、挟まると並行世界と行き来できるとか、結果だ、結果だけが残るような強キャラが良かったにゃ。そしたらニャーはヤニ吸ってのんびりできたのににゃ。
仕方ないのでここで一服するにゃ。
「佐藤少女、授業中は禁煙だぞ」
やるせないにゃ。
体内のヤニが切れる前に脱走する事を考えていると、一回戦で戦うの以外観客席みたいな部屋に回されたにゃ。
一回戦目はお茶子ちゃんとストーカー予備軍コンビと三太郎とメガネコンビにゃね。
予備軍は自分を破壊するほどの超パワーだったし、三太郎は爆発させる個性、メガネはエンジンだったかにゃ。
予備軍は体鍛えるとオールマイトみたいな事できそうだし、メガネはジェットエンジンとかニトロエンジンに進化しそうにゃ。ポケモンみたいに。
「あの、ポケモンって何?」
「ポケモンっていうのは野に遊んでいる野生動物を捕まえて戦わせる娯楽にゃ」
この世界、一度世紀末世界になりかけたとはいえ娯楽が少なすぎにゃ。
マンガも限られているし、ゲームは無いし。
まあこの娯楽がない世界で下手にマンガとかあったら、影響を受けたバカが世界征服とか魔王になるとか言い出しかねないから丁度いいかもにゃ。
っているわけないにゃ、そんな中二病患者みたいなの。
くっ、高羽さえいればこの世界に穏当にお笑いを広げてくれたものを…。
「だから高羽って誰ですの」
「伝説の芸人にゃ」
娯楽の無い今だったら作れるんじゃにゃいか。ゲームでガチャとか設定したら天井無し、排出率表示無しで娯楽の少ないこの世界なら破産するまで回すのいるんじゃにゃいか。いや基本的に粗暴犯による単純な暴力事件ばかりが犯罪のこの世界ならマルチやネズミ講の法整備も進んでない可能性ないかにゃ?
ニャーがヴィラン落ちしたら考えるにゃ。
三太郎は個性伸ばすと相手を爆弾に変えたり手から戦車みたいなの打ち出せたり、手首集めたりしそうにゃ。
超パワーと無重力と爆発とスピード。
「この中で怖いのはお茶子ちゃんの個性だけにゃ。残りは片手間で処理できるにゃ」
そう言うと、周りからギョッとした目を向けられる。
「そうなの?こういう授業だと一番向いていないのがお茶子ちゃんだと思ったけど」
「緑谷のパワーも爆豪の爆破も派手で見栄えがすると思うけどな」
そうかにゃ?
「当たらなければどうってことないにゃ」
ニャーがとっておきの決め台詞を言うと、何故か一歩引かれた目で見られたにゃ。
おかしいな、ここ笑う所にゃ。
「ケロ。あれを躱せるって事はやっぱり佐藤ちゃんって猫の個性なのかしら?」
首を傾げてるとカエルの子が話しかけてきたにゃ。
「突然ごめんなさいね。私思ったこと何でも聞いちゃうの」
「別にいいにゃ。ニャーの個性は……」
「「「わあっ」」」
彼女に答えようとした時、急に周りから歓声が上がったにゃ。
「ずっけぇ、爆豪。奇襲なんて男らしくねえ」
どうも訓練が始まって三太郎が奇襲をかけたらしいにゃ。
ここは一つニャーの知識を披露するにゃ。
「奇襲(サプライズ アタック)など戦場格闘技では基本の一つにすぎんにゃ」
ニャーの一言にうるさかった周りが静まり返ったにゃん。
「狙いは相手が油断しきっている時のみに絞るのが得策にゃ」
あれ?オールマイトまで黙ってこっちを見つめてるのは何故にゃ?
「尚、襲撃の際には地形を吟味すべしにゃ」
「今、佐藤少女が言ったように、屋内ではヴィランの奇襲にも警戒しないといけない。緑谷少年と麗日少女は核を守ってると思い込んで油断したかな」
なんか全身タイツにマウントを取られたにゃ。
全員がなるほどという顔をして頷いているにゃが、最初に言い出したのはニャーにゃよ。
もっとも一番最初に言ったの地上最強の生物にゃが。
そういえば前世でやってたカイドウと勇次郎の最強生物対決どうなったのかにゃ。
弱き者がヤムチャポジだったのは覚えてるのにゃが……ゴリラが乱入してから覚えてないにゃ。
ドゴォ
ニャーが前世を思い出してしんみりしていると、何かでっかい音が聞こえたにゃ。
にゃ!!マジか!!
あのもじゃもじゃ、ビルの上層部をぶち抜いてるにゃ。
みんな凄いと騒いでるけど、ニャーには一つ懸念があるにゃ。オールマイトもそれに気付いたようで難しい顔をしているにゃ。新米教師でも生徒の事には真剣になるのにゃね。
その懸念とは………
お茶子ちゃん、大丈夫にゃね?
一応一番大きい音が出る防犯ブザー持たした方がいいかもしれないにゃ。
もじゃもじゃは女慣れしてないみたいだし、笑顔で対応してるお茶子ちゃんに勘違いする危険性は大きいにゃ。
ニャーの前世みたいに想い合って付き合うのならいいにゃ。思えば彼女との出会いも、店で彼女がニャーに微笑んでくれたのがきっかけにゃ。
……近接禁止出した裁判所はまだ許してにゃーよ。
ニャーが前世の甘酸っぱい思い出に浸っていると、お茶子ちゃんが核兵器に抱き着いて試合は終わったにゃ。
その後も試合は続いたけど、何と言うか地味にゃ。
もっと時空を一周させたり、万物を黄金に変えたり、動物園に入ってきた弱き者をおもちゃみたいに弄ぶ個性とかにゃーのかにゃ。
「そんなのがヴィランにいたらこの世界が終わるわね」
カエルの子の突っ込みがありがたいにゃ。
んじゃ突っ込み入れられたところでヤニ吸ってくるにゃ。
「尾白の個性は何にゃ?」
「俺?俺の個性は尻尾。この尻尾を自由に操る事ができるんだ」
「ふーん、なんか地味にゃ」
「地味っていうなよ、自分でも気にしてるんだから。あと格闘技には自信があるよ」
「おお、それは凄いにゃ。波動拳打てるにゃ?波動拳」
「はどうけ…何それ」
「波動拳は全身の気を掌に集めて放つ技にゃ。飛び道具の基本にゃよ。じゃあ舞空術くらいは使えるにゃ?」
「ごめん…それも知らない」
「飛び道具も使えない。空も飛べないで格闘家を名乗っているのかにゃ?尻尾にはダンかザンギくらいがお似合いにゃ。せめて界王拳くらい使えるようになってから名乗るべきにゃ」
「何か理不尽なんだけど。で、作戦はどうするの?佐藤さんの個性教えてほしいんだけど」
「作戦?まず尻尾が突撃してあのマスクとタイマンに持ち込むにゃ。相手はパワータイプだから厳しいだろうけど、負ける瞬間に回線切断するにゃ。そしたら相手が怒って試合放棄するにゃ」
「え?回線切断って何??」
とニャーが完璧な計画を立てていると、オールマイトがスタートの合図をしたにゃ。
バカな!!早すぎるにゃ!!
「佐藤さんが煙草吸ってて遅れたせいじゃないかな。仕方ないからこの部屋で迎撃を…」
尻尾がそこまで言った時、不意に部屋の気温が下がったにゃ。
「これは……足が捕られて……」
「にゃー氷にゃ、こたつで丸くなるにゃー」
騒いでいるうちに足元が完全に凍り付いたにゃ。
さ゛ん ね ん ニ ャ ー の ほ゛ う け ん は こ こ で お わ っ た に ゃ
●
完全に凍り付いたビルを前に焦凍は一息入れた。
相手の足を完全に止めた確信がある。
「すげぇ、ビルが完全に氷漬けだ」
「最強すぎるだろ、あの個性」
控室でも見ていた生徒が口々に騒いでいる。
後は屋内に入り、核を見つけるだけ。
勝利を確信し、二人はビルに入ろうとした。
その時
起きてはならない事が起こった。
書き溜めが切れたので、以降投稿に間が空きます。