皇帝に成りたくない男の不本意奴隷ハーレム 作:あなたちゃん
「う~ん、凄くここから逃げ出したい。」
そんなことを口ずさみながら、街中を歩く。
目の前に広がるのは、中世ヨーロッパを思わせる石と木で出来た街並み。道端に鎖に繋がれたエルフや獣人が転がっているのを無視すれば、前世の歴史家は大歓声を上げていたことだろう。
何せ魔法と言う余計な概念を省けば、当時に近しい文化をその目で見ることが出来るのだ。垂涎の光景に違いない。
まぁここが異世界、更に奴隷市場という事実に目を背ければだが。
(いや奴隷とか……、ありえないでしょ。)
何となく察して頂けると思うが、自身は転生者である。
前世日本で何処にでもいる様な男として生まれ、何か死んでこの世界で産まれ直した人間。当初は魔法や魔物が存在し、人間以外の別種族の存在に心躍らせたものだが……。ちょっとこの世界の経済構造。というかこのウチの国の構造を見て、ちょっと色々萎えてしまった。
うん。めっちゃ好戦的で、別種族嫌いで、奴隷を経済に組み込んじゃってるんですよね。
(“人間”らしいというか、何と言うか。)
周囲の別種族に喧嘩を売りまくり、戦争を繰り返す。そして倒した国家を丸ごと呑み込んでしまい、自分たちのモノにする。
それが私がいるこの国、人間族を主体とする『サン・ドルーク帝国』だ。
戦争で奪い取った土地に勝手に入植し、自分たちの都合の良い様に作り替え、元々その場に住んでいた種族たちを奴隷として運用する。それがこの国の国家方針であり、長年続いて来た社会構造だ。
前世の感覚で考えれば、スパルタやローマが近しいだろうか。
同じ種族で結束して、めっちゃ強い軍隊を作って、奴隷でその他の経済を補強する。農奴だったり鉱山奴隷だったり。人間だけではマンパワー不足で回らない経済を、奴隷を用いることで何とかする。
そして奴隷たちが反乱を起こそうとしても、先に作って置いた軍隊で鎮圧する。しかもこの世界には前世存在しなかった『魔法』という便利な手段があるのだ、奴隷たちが反発せぬように最初から“縛って”おくことも可能。
「だから初めてのオーナーでも安心安全に奴隷を買うことが可能。って言われてもねぇ?」
魔法を使った奴隷契約。
首に書き込まれる魔法の首輪であり、奴隷が主人に反抗しようとした時に作用するもの。
色々とカスタマイズできるらしく、意識を縛った絶対服従からある程度の自由行動を許したタイプまで。やろうと思えば対象に幾つかの感情を植え付けることまで可能。
まぁその分金銭がより多く掛かったり、やり過ぎると奴隷の脳がバグるなどの欠点があるらしいが……。『こういうやりこみ要素が楽しいのが奴隷契約』とさっき入った奴隷商店の店主に語られた。
(うん、ほんと未知の文化。)
そんな国に生まれたのだ。現地の文化に慣れた方が色々と楽だったのだろうが……。
うん、無理です。
前世の価値観があるのに、『奴隷最高! これから毎日酷使しようぜ!』とか言えるわけがない。非人道的すぎて倫理を疑うし、経済視点で見るならば奴隷として拘束するよりも、一市民として労働させたり消費させたりする方がよっぽど健康的だ。何より『何かミスれば自分があぁ成るかもしれない』っていう危機感や、虐げられていた者たちが一気に反抗してきた時の恐怖など、色々と欠落しているものが多すぎる。
まぁ確かに。この帝国自体数百年レベルで生き残ってるので、一定の“正しさ”はあるのだろうが……。
(近いうちに崩壊する泥船にしか見えない……!)
私が生きているうちに崩壊してしまえば、確実に起きるのが奴隷たちの大反乱だ。何かのはずみでぶっ殺される可能性が非常に高いのに、恨まれるであろう奴隷なんて買いたいわけが無い。
と言うかむしろ奴隷に優しくして『コイツは殺さないでおこう』って言われるようなルートに行きたい。ほら、近所の飴くれて話聞いてくれる優しいお婆ちゃん的なポジション。いやだって死にたくないもん。前世で死んだ記憶あるのよ? 二度目は流石に老衰で死なせてくださいよ、マジで……。
とまぁそんなわけで。“奴隷の購入”とは一生距離を置くつもりだったのですが。
「なんで私、奴隷市場にいるんでしょうね?」
私自身、こんな場所来るつもりは無かったのだが……。
今世の母から『そろそろ貴方も奴隷の使い方、人の動かし方と言うのを学ぶべきです。買って来なさい。』と言われ、金を持たされ実家から叩きだされてしまったのだ。しかも明らかに私を見張る視線、“護衛”という名の監視の目があるのだ。いつも通りこの世界の数少ない趣味である、本屋にでも入って色々と買い込む、なんて行為は出来そうない。
(心の中のお嬢様が『おクソですわよ!』って叫んでるよね。)
とまぁそんなわけで、拒否することは不可能。
故に仕方なく奴隷市場に入り、適当に店に入って『買う努力はしましたよ~!』というポーズをとるために、奴隷商店の店主と会話。世間話のノリで色々と“見聞”を深めたのだが……。
うん、未知の知識を手に入れるのは楽しいけど、こういう業が深めなのはちょっとご勘弁ですね。
「……生まれがなぁ。」
こんなことになっているのは、やはり自身の生まれが問題なのだろう。
転生者であるだけで結構特殊なのは重々承知だが、実は私自身の血筋も、かなりややこしいことになっている。
なにせこの身の立場は『伯爵家の四男』、普通に貴族である。四男であるため継承権は低いが、上の兄たちが死んだ時のスペアとして、そして兄たちを支える臣下として。一族に恥じない一定の教育を施され、保護される立場。色々と面倒なことも多かったが、自由に使える金も多いし衣食住に困ったことも無い。
まぁ、それだけなら良かったのだが……。
母親がちょっと不味いんですよね。
(私のマミーだけ“皇族”っていう、ね?)
なんと私のお爺ちゃん、現皇帝なんですよ。
つまりかなり順位は低いけど、皇位継承権持っちゃってるんですよ、私。
やろうと思わば今から帝都に行って、皇帝とか皇族全員ぶっ殺して玉座に座っても『まぁ一応権利はあるのか』って最低限の納得をされる立場にあるんですよ。
(しかもウチの母親、めっちゃ皇位に興味があると言いますか……。)
自身の祖父は皇帝だが、祖母の方は平民。
つまりウチの母親は庶子的な立場にある。
認知はしてもらっていたみたいだが、母親が平民で、何か特異な力を持っているわけもない。更に女ということもあってか皇位継承権は無し。当時から身分云々で色々と言われたみたいで、かなり歪んじゃったのがウチの母親なのだ。
(んで、それに目を付けたのが私の父親。パピーである。)
彼は側室としてウチの母親を迎え、男の子を生ませた。
つまり誕生した赤子は、1/2伯爵で、1/4皇帝という結構良い感じの血筋。若干平民の血が混じっているというのがマイナスポイントだが、帝国の法によると半分以上貴種の尊い血が流れてるので十分に継承権が手に入ってしまう。
伯爵と家の階位は少し低いが、家の規模自体は大きく、鉱山などの様々な経済基盤を抑えているので影響力自体はかなり強い。平民の血が流れているとはいえ、皇帝に認知された娘を娶れることがそれを表している。
つまりそのパワーは、“皇帝候補”を後援するに十分と言えるだろう。
(まぁそれが、この私。)
しかも私、皇族のみが持つ特異な力を生まれ持っちゃってまして……。
両親共々死ぬほどやる気を出しちゃったのは、致し方ないことなのだろう。
巻き込まれる本人としては、本当にご勘弁願いたいが。
(私を皇帝にして馬鹿にした奴らを見返したいのがマミーで、普通に皇帝の父という権力を欲してるのがパピー。う~ん、ガチの権力闘争。)
父も母も私を皇帝にしたいので、めっちゃ色々縛って来るし、求められるモノも高い。
そんなせいか、対外的には伯爵家の四男なのだが、色々と周囲から配慮されてしまう。両親は勿論、使用人たちどころか領地にいる市民たちにすら『あの人が未来の皇帝になるんべなぁ、拝んでおこ。』とかされるのだ。本当に勘弁してほしい。
というかそんな立場なせいか、『皇位継承戦に負けたらそのまま父親の伯爵位継ぐんじゃないか?』と上の兄たちに思われ、死ぬほど嫌われてしまっている。更に腹違いの母親たちからもかなりの嫌がらせを受けてまして……。
あっちからすれば自分たちの立場を奪おうとする相手だから仕方ないんだろうけど、なんでこう、ややこしいことになってるんでしょうね? 両親は何か狂気的にしか見えない愛を投げて来るし、他の家族とは関係最悪だし。
マジで全部捨てて逃げ出したい。
「そもそも、皇位どころか伯爵位も要らないんだよなぁ……。」
私の興味は、歴史や文化。
この世界の探求に向いている。
前世は歴史関係を仕事にすることは出来なかったが、趣味として嗜むことはしていた。そのせいか今世でもその方面に強い興味があり、色々と調べてみたいという欲があるのだ。
ただでさえウチの国家は色々と侵略している上に、自国主上主義的な考えがあるのだ。
そのせいか現地で築かれていた文化や歴史を軽視しがちなタイプで、自国の功績を過度に盛っちゃうタイプでもある。正確な事実を後の世に伝えるためにも、調査したり本に残したりの仕事が出来たらなぁ、みたいなのが漠然とした望みだ。
うん、だからクソめんどそうな皇帝とか、伯爵とか。なりたくないんですよね、ホントに。
(というか、歴史学んでたら否応にも解ってしまう。……マジでこの国持たないだろ。)
さっきも言ったが、この国は『戦争で勝利した相手から土地を奪い、そこにいる他種族たちを奴隷として、経済を回す』という構造が出来上がっている。
これすなわち、『勝利に依存した国家』だ。
つまり負けが続き、土地も奴隷も手に入らなければ崩壊するというか……。
(一応、対策は打ってるみたいだけど。内部も不味そうなんだよなぁ。)
そもそも。戦争に勝ち続けたとしても、奴隷に落された人々の負の感情が消えることはない。
何かのはずみで奴隷契約。隷属魔法の縛りが消えてしまえばあら不思議。いたるところにいる奴隷たちが自分の主人を殺し、一気に国家が内乱状態に突入するのだ。いつ爆発するか解らない時限爆弾が全身に巻き付いている、という感じに近い。
そんな国家の皇帝、というかそんな国の支配者側に居続けるって……。完全に死亡フラグじゃない?
(だからさっさとこの立場捨てて、地方でひっそり本でも読み続ける平民というか、隠居した爺みたいな生活を送りたいんだけど……。)
ウチの父や母からすれば、んなもん許せるはずがない。
ちょっとした趣味程度の活動。歴史書を買い込んで読む位なら許してくれるみたいだが、『お前は皇帝になるんだよッ!』というスタンスを崩そうとしない。まぁそのために多額の投資をしてるっぽいし、今の皇太子とか他の継承権持ってる奴を蹴落とすための準備、色々と進めてるみたいだからね……。
感情的にも、状況的にも。両親の頭の中では、私が皇帝になるのは確定なのだろう。
(んで、それが今回の『奴隷を買ってこい』というミッションに繋がるワケ。)
さっきも言ったが、この国は奴隷を経済の中に組み込んでいる。
それゆえにと言うべきか。皇族も貴族も奴隷を購入し、運用しているのだ。んでその“扱いの上手さ”で貴種としての資質を計るという価値観があったりもする。
ま、人の上に立つのが仕事みたいなもんだし。ウチのパピーも皇帝も、鉱山とか農園とかで大多数の奴隷を運用してたりする。その管理が出来なきゃ貴族としてやっていけないから、若いうちに小規模で勉強しておきなさい、ってことなんでしょ。
……死ぬほどやりたくないけど。
「んで更に。本気で“皇帝”目指すなら国のトップとして恥じないだけの功績がいる。」
今回母から課された課題は『奴隷を買え』だけなのだが、父親からも似たような課題が出された。
それが、『ダンジョン攻略』だ。
貴族は人の上に立つ者。強力な軍を擁していれば本人の強さはそこまで必要はないが、解り易い武勇が無ければ人はついてこない。そういった思想を持っている父的には、単身でダンジョン。この世界にも存在しているよくある魔物が出てくるダンジョンを攻略し、良い感じの功績を稼いで欲しいご様子。
確かに私って皇位継承権低いし、もし皇帝を目指すのなら他の継承権持ちの奴ら全員ぶっ殺したり蹴り落さないといけませんからね。どうしても悪評はついてくるだろうし、それを払拭できるような解り易い成果が欲しい所。あとパワーを見せつければ軍からの評価が上がり易いってことで。
まぁつまり。
パッとダンジョン攻略して皇位継承権に相応しい人間になれ! ってことだね。あ、奴隷はモノ扱いなのでどれだけ使っても“単身”扱いになります。
価値観の相違ッ!
(でも、そのせいで家から叩きだされるのはちょっと……。)
実家の領内にダンジョンは無く。攻略するならば、ある程度“難度”が高い所がいい。
ということで叩き込まれたのがこの町。迷宮都市『キトゥッグ』だ。
それ相応の支援を受けているため文句を言う事すら許されないが、ホントに急な話と言うか、『明日からダンジョンね!』なノリで通達されるのは勘弁してほしいというか。
おうちでぬくぬく歴史書とか読んでいたかった私からすれば迷惑でしかないが、両親からすればそんなもの関係ないのだろう。しかもあの二人は二人なりに、親から子への愛を向けてくるものだから本当にタチが悪い。
『ウチの子が世界で一番皇帝に相応しい!』って応援してくれるのはありがたいんだけど、目指してるモノが違うんですよ。マジで。
(ほんと、何だかなぁ。)
一応上手くやっている間は支援してくれるみたいだし、特に期限的なものはない。流石に高齢になりつつある今の皇帝が死ぬよりも前には成果を上げて欲しいらしいが、あまり急かしてくるような感じでもない。
うん。恵まれてるとは思うんですけど。
正直に本音を言いますね。
「に、逃げたい……!!!」
あ、あの。適当に家借りて歴史書読むだけの生活とか、どっかに転がってませんか……?
正直全てを放り投げて逃走を決めたいところなんですけど、周囲に監視要員が確実に潜んでいるので逃げ出すことは明らかに不可能。そして私が逃げにくい様に、ダンジョン攻略の期間中は金銭を始めとしたさまざまな支援。装備品やアイテムを買う金は勿論、私の趣味に費やすお金すら出してくれるそうだ。
くッ! さすが両親! 私の動かし方を解っているッ! ……歴史書って基本高いからねぇ。
(まぁつまり、衣食住の全てを抑えられた上に、趣味の金も監視の目も揃えられている。マジで両親の言うことに従っとかないと不味い感じ。)
どう足掻いても逃げられない状況。
嫌々でも奴隷を買い、ダンジョン攻略に励み、一定の功績を上げるしかない。
……でも皇帝になるのは普通にイヤなので、両親が許容できるギリギリの功績を攻めたいところ。んでいい感じに皇位継承戦に負けて、田舎に引っ込むのが目標ですね、はい。
(付き合わせちゃう奴隷の人には悪いけど、現状どうにもならないからなぁ。)
まぁ、アレだ。
奴隷を購入する以上、色々と配慮をしなければならない。単なる雇用契約だったら相手から切ってもらうことが出来るんだけど、奴隷ってそういう権利すらないからね。モノ扱いだし。だからこそ、面倒に巻き込まれる詫びとして生活の保障は勿論、本人の希望を出来る限り応えるべきだろう。
責任取るとか一番苦手な行為で、凄く面倒。でも雇用側になる以上、やるしかない。
あと奴隷反乱がおきたときに殺されるのが凄く嫌。優しくするので許して……!
「っと、ここか。」
そんなことを考えていると、次の目的地であった奴隷商館が目に入って来る。
この市場に入った際。一番最初にお邪魔した店舗の主から聞き出した『この町一番』が、あの店らしい。
貴族向けの奴隷が多くいて、なおかつダンジョン攻略も可能な奴隷もアリ。品揃えも良いらしく、伝手もあるのでお求めの品が無くとも他の奴隷商に連絡を取ることができる。身分や金があるならばまずここに訪れるのが良いと勧められた形だ。
……あの店主のおじさん。普通に気の良さそうな人で凄く親切だったんだけど、あれが奴隷商とはなぁ。軽く話しててなんか今の仕事を誇りに思ってそうな感じだったし、ホントに文化が違うんですよね、この異世界。
(こっちに噛みついてこない感じの人、いると良いなぁ。)
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