「なるほど、ライカちゃんの剣の指南ですか。確かに、300年ほど前までは獣人奴隷と共に当時のオーナーの命で迷宮で戦っておりました。多少の心得はございますし、弓も魔法も扱えます。“前”でも“後ろ”でも、ご自由にお使いくださいな。」
「……それは大変ありがたいですね。」
少しカマを掛けてみるが、帰ってくるのは落ち着いた答え。
まぁ多少反応していたので、見た目通りの“お若い”方であることは解るんだけど……。
(この人が、ライカちゃんを恋する乙女に、ねぇ?)
私の以前の主人は、そう悪い人間では無かった。
勿論この国における基準であり、未だ故郷の森で戦っているであろう同族から見れば唾棄すべき存在なのでしょうが……。昔の一番最悪だったころに比べれば、各段にマシだった。
そんな彼に求められたのは、知識奴隷と夜の相手という役割。まぁ基本後の方でのご利用だったが、その名目で購入されたワケ。
地方豪族に位置する方だったので、領地経営とかのお手伝いは勿論させてもらったのだけれど……。うんうん、やっぱり若い子のハッスルする姿はいつ見てもいいのよねぇ。その時間がとっても短いのは残念だけど、同族のはこう、長命故に熱量が全く足りなくて色々ダメなのよ。
一時の愛でも燃え盛る様に求め合わないと、楽しくないでしょう?
(そして燃えれば燃える分だけ、繋がる時間が多かった分だけ、気持ちを割いてくれるようになる。私の趣味も果たせて、生存戦略にもなる。うんうん、こういうのを一石二鳥っていうのね!)
とまぁそんな楽しい時間。
彼が人間族の妻を迎えた際は色々あったけど、最終的に和解することが出来た。そのおかげで色々とお呼ばれして、凄い時では奥様と一緒どころか、それ以外の奴隷も合わせた酒池肉林とかもやっていたんだけど……。
人は老いに勝てない。
気が付けば奥様が亡くなり、ご主人も亡くなっていた。
アレはアレでいいというか、お見送りするのもまた乙というか。素敵な時間だったのだけれど……。まぁ、ちょっと。若様との関係構築、ミスっちゃったみたいで。
(ご主人様が私のことを愛してくれたのは良かったんだけど、ちょっと行き過ぎちゃったみたいなのよねぇ。若様からすれば『父親を奪った女狐』に見えちゃったみたいで。……こうなるんだったら、精通した時点で“食べちゃう”べきだったかしら?)
少しだけ後悔してしまうが、終わったことはどうしようもない。
あの家の中ではかなり良い生活を送らせてもらっていたが、奴隷であるのは変わりない。すぐに色々と剥奪されてしまい、気が付けば奴隷商館に売られちゃってた、ってワケ。
まぁ800年も奴隷やってると、こういうこともある。
若い時、40代くらいの人間に捕まっちゃった頃の私だったら色々悩んだり恨んだりしたこともあっただろうけど……。もうそんな若い子って年齢じゃない。すぐに切り替えが終わり、次のご主人様はどんな人だろうな~ってのを考えながら日々を過ごしていた。
ほら、私って800年近く生きてるでしょう? 記録的には500年前ぐらいのしか残ってないんだけど、それでも蓄えた知識とか技能とかは凄いのよ。流石にスキルは持ってないけど、その分値段がお高めで、ね? 売れるまで時間がかかっちゃうワケ。
(そんな時に出会ったのが、ライカちゃん。とっても“初々しい”子。)
お馬鹿な振りをして私の前に現れた、真っ黒な子。
まぁお肌はどっちかと言うと鮮やかな茶色って感じだけど、その髪色や纏うイメージから、最初に感じたのは黒だった。
奴隷になった子が良く陥る、人間族に対する強い恨みを抱いた状況。私からすれば『若いわねぇ』で終わるんだけど、偶にこっちを引き込もうとしたりしちゃう子もいる。奴隷生活を私なりにエンジョイしちゃってるこっちからすれば、色々と面倒なタイプ。
なので普段は適当にスルーしちゃうんだけど……。ちょっと気になることがあって。
(多分、育った場所の価値観とか、文化とか。そういうのが影響してるのかしら?)
少し聞き出してみると、やはり“強者を尊ぶ”文化があることが見て取れた。しかもかなり純度が高い奴だ。
最近はずっとこの国で奴隷をしていたので、今の平原。獣人が数多く住む地域の状況は解らない。しかし彼らが基本的に、強者を重く見る価値観があることは知っている。
遮蔽物が何もない平原に住んでいるからこそ、敵に襲われた際は純粋な力が重要になってくる。それが発展して生まれたのだろう文化だ。
けれどまぁ人間族との“文化交流”だったり、貨幣経済が流れ込んだりすることで徐々に弱くなっていき、そこまで重要視する子がいないのは『年々変化する新入りの獣人奴隷たち』を見てたら解ったんだけど……。
(多分、閉じた一族だったのね。だからこそ、純粋に強い者。そして戦士として立ち向かえる者を評価しちゃうタイプ。)
人間族に踏みにじられたのは強く恨んでいるが、同時にその強さを内心評価してしまっている。
どうやら彼女は上手く言語化できていない様だが、人への復讐を誓えながらも他種族を簡単に組み伏せてしまうその強さに憧れる。いやその力を求めてる、って感じ。
まぁ、とっても複雑な少女だったのだ。
(それでまぁ、そんな可愛い子ちゃんを見つければ……。遊びたくなっちゃうわけで。)
めいっぱい、構ってあげた。
純粋な子だったので色々と反応が面白かったし、素直な子でもあったから教えたことはするすると何でも呑み込んでいった。流石に私が培った“夜”に関する知識は恥ずかしさからかちょっと覚えが悪かったが、それでも初心なご主人様であればすぐに骨抜きになる様な技術を叩き込んであげられた。
まぁ“心構え”は教えてないから、使った側も骨抜きになる共依存一直線のテクニックだったりするんだけど……。
(奴隷生活って、受け入れた方が楽しいからねぇ? ……まぁ、最近はちょっときな臭いケド。)
そんなことを考えながら思い出すのは、ライカちゃんから聞き出した『この奴隷商館に来ることになった理由』。
そう、隷属魔法の不具合だ。
……この魔法。生み出された当初は非常に画期的で、しかも非常に先進的なものだった。
何せ対象者の行動を縛るどころか、やろうと思えば記憶や常識まで弄ることが出来る。まるでそこに生きる人間を駒のように扱うことが出来るようになるのだ。人類種すべてに使用できるという汎用性と、何処までもカスタムできるという多様性。そして対象者の体調に合わせて適宜変化するため、そう簡単には解除できないという高い強度。
今私達がいる帝国が成立した要因の一つであり、この国が未だ確立し続けている理由の一つが、コレだ。
(でも、それ以降“画期的な”改善は起きてない。技術的な経年劣化、みたいなものかしらねぇ?)
本当に感覚的なものだが、年々魔法自体が劣化。
そして奴隷にする者たちに耐性が出来始めてる気がする。
まぁ数百年レベルで同じものを使い続けているのだ。ほころびが出るのも、仕方のないことだろう。
重なり過ぎた命令に隷属魔法が許容限界を迎えてしまい、強い感情によって一時的に無効化されてしまう。昔はそんなことなかったのだが、たまに聞くようになった『奴隷暴走事件』もソレだ。まぁライカちゃんの言葉もあって、ちょっと気になり私に刻まれてる“首輪”。この商館に売られてきた時に刻み直したコレを調べてみたんだけど……。
(連続で“達した”時の感情とか色々ぶち込んでみたら、ぶっ壊れちゃったのよねぇ。)
うん、その時は本当に焦った。
何せ一時的な無効じゃなくて、マジでぶっ壊れちゃったのである。
周りに誰もいなかったからよかったが、久方ぶりにパニックになってしまった。私はまだまだ奴隷として色々遊びたいのに、なんか急に解放されちゃったわけである。急いで修復して、元通りにすることが出来たのは本当に良かったけれど……。
自分で隷属魔法かける奴隷って、多分私以外いないでしょうねぇ。
(まぁつまり。多分“限界”が来てる。……そろそろこの帝国もお終いなのかも。)
そう思うのも、仕方のない話だ。
何せこの帝国は、大きくなりすぎてしまったのだから。
その始まりは、皇帝。目に関する途轍もなく強力なスキルを持っていたらしい彼が国を興し、どんどんと優秀な者を集めて確立していったのがこの国だ。しかも何か上手い皇位継承法を採用したのか、後を受け継ぐ新皇帝たちは総じて優秀。
いい人材を常に揃え、常に外敵を作ることで結束し、常に勝利して拡大を続ける。
まぁ、最初のころはこれで良かったのだろうが……。
ちょっと、広がり過ぎている。
(土地が広すぎて、管理限界を既に超えちゃってる。しかも土地を動かすために必要な奴隷が足りてないせいか、常に“採取”しに行く必要。戦争する必要が出ちゃってる。でも外征したら、新しく土地が増えちゃうわけで……。)
戦功をあげた人には、報酬をあげないといけない。つまり土地を与える必要があるわけだ。
でもその土地を耕したり管理するためには人が必要で、その人に成り得る“奴隷”を手に入れるにはどこかから連れて来る必要がある。つまりまた外に攻め込んで、奴隷を狩って来る必要があるのだ。でもそうしたらまた戦争になって、戦功をあげる人が出て、土地をあげることで報酬にして。でもそしたらまた奴隷が必要になって。
際限なく広がり続ける国土。うん、本当にマズイことになっている。
そして何より、土地が増えるということは、それを管理する貴族も増えるということ。今はまだギリギリ何とかなっている様だが、既に皇帝の管理限界を超えてしまっているらしい。
彼やその配下たちは依然として優秀なそうだが、無理なものは無理。地方にいる貴族とかは結構好き勝手やっているそうな。
(本来“奴隷に成り得る資源が成長するまで待つ”はずの期間に、攻め込んで回収しちゃってる。どれだけ完璧な回収計画を立てたとしても、現場。下が無視すれば意味がない。)
上の力に限界が見えてきて、下が好き勝手暴れ始める。
そして重要な資源である“奴隷”を外に依存しているせいか、いずれ必ず限界が来るだろう。地方が暴走して好き勝手攻め込んでいるせいで、モノ自体は入ってきているが、いつ枯渇するか解らない。そしいて最悪なことに、『どんどん入って来る』ことが常態化したせいで値崩れが起き始めている。
……本来奴隷を買えなかったはずの平民ですら、手を出し始めているのだ。どこかで需要が供給を上回り、止められない価格高騰が起きる。
(皇帝と貴族の関係。土地と奴隷の関係。そしていずれ枯渇する資源を際限なく求める人間たち。……覚悟するにはちょうどいいタイミング、“だった”のよね。)
おそらくあと10年もしないうちに、この国は壊れることだろう。
今の皇帝もそれを理解しているだろうが、長年続いたこの国のしがらみが、その動きを止めてしまっている。“全く予想外の所から”候補が現れ、この国の形態や価値観を丸ごと吹き飛ばせば話は変わって来るだろうが……、そんなもの早々現れるわけがない。
(だから私は、最期の過ごし方。所謂“終活”をしようとしていた。)
帝国、この地域で一番強大な国家の崩壊は、この世界に大混乱を巻き起こすだろう。
国が崩れれば市民の生活は激変するし、おそらく奴隷たちもそう。ここまで隷属魔法が緩んでいるのだ。国と魔法、どちらが先に壊れるかは解らないが、片方が折れれば諸共消し飛ぶ。
そうなれば奴隷は人間に報復するため殺し回るだろうし、人は奴隷を恐怖し処分していくことだろう。種族同士の軋轢がより酷く成り、取りまとめていた皇帝の力が弱まることで、各地の貴族たちが独立し王を名乗る存在が乱立する時代になる。
(そして始まるのが、血で血を洗う戦乱の時代。何処にも逃げ場はない地獄の始まりだ。)
……正直、ご主人様とずっと寝台で跳ねていたい自身としては、そんなものご勘弁。
けれど奴隷の身で事を起こすことなど出来ず、もし奴隷から解放されたとしてもエルフである限り人間の国家である帝国に影響を与えることは出来ない。
なのでまぁ、もしこの町でも奴隷反乱が起きてしまえば。その時のご主人様と一緒に反乱に巻き込まれたら終わり。最後の瞬間まで恐怖を享楽で塗りつぶすかのように、愛に溺れてみるってのも退廃的で素敵かだなぁって思ってたんだけど……。
(まさか皇位継承者、その候補が目の前に現れるなんて。ふふふ、人生どうなるか。最期まで解らないものねぇ?)
ライカちゃんが新しい主人に買われたということで、盛大に“色々と”吹き込んで送り出した後。私は少し退屈な日々を送っていた。
何せ教え子というか、暇つぶしに付き合ってくれていた子がいなくなってしまったのだ。ちょっとした喪失感を覚えてしまうのも、仕方のないことだろう。
まぁ新たなご主人様が現れるまでの辛抱だ。男性でも女性でも、やることは変わらない。
最後になるだろうから私の愛に応えてくれる素敵な人が良いな、もし崩壊までご主人様が現れなかったらもう商館にいる子全部洗脳して壊れたようにみんなで求め合ってみようかな、なんて考えながら。退屈を紛らわすために自身に掛かった隷属魔法を強化できないかと遊んでいた頃……。
何故かこの奴隷商館の長。ジャックから声をかけられたのだ。
(それでアレよアレよと準備していたら、急に現れたライカちゃん。最初は『噛みついちゃって売り返されちゃったのかな?』と思ったけど……。どうやらステキなご主人に出会えたようで。)
人間族をあれほど憎んでいたはずの彼女が、ちょっとカマを掛けてみれば一瞬で赤面してポンっと爆発する様な素敵なお相手。
何故かまだお互いの初めてを捧げ合っていないっていう奥手なカップルみたいなことしてるっぽいけれど……、あの堅物ちゃんがデレデレになっているのだ。気にならないはずがない。
そして、そんな彼が私の新しいご主人様にもなるかもしれない。
(……しかもライカちゃんの話によると、皇位継承権まで持ってるらしい。)
私だって、死にたくて終活しているわけない。
可能なら寿命が来るまでずっとご主人様とドロドロに溶けあっていたい。それで寿命が来たら見送って差し上げて、また新しい人を見つける。素敵な人であれば誰でもいいけれど、もし次のご主人様が『前のご主人の御子息』だったりしたら、もっともっと素敵だろう。それが私が死ぬまで続けば、途轍もない幸福だろう。
だからまぁ、私はこの帝国にまだまだ続いて欲しいのだ。
奴隷制万歳なのだ。
……そして目の前に、この“終わり”を止められるかもしれない人物がいる。
(ほ~んと、素敵♡)
うふふ、折角二人きりでお話できる場所を頂いたんですもの。
私の愛に応えられるか、私の夢を叶えてくださるのか。
少しぐらい、見極めさせてもらいますね?
◇◆◇◆◇
(まぁ見極めっていっても、そんな大層なことをするつもりは無いのだけれど。)
そんなことを考えながら。体内に籠る魔力を回し、指先に集め始める。
体は一切動かさず、内部だけ。これだけでも彼が魔法使い、もしくは熟達の戦士であればで即座に反応しそうなものだが……、特に動きは無し。ライカちゃんが言っていた『戦えない人』というのは、本当のようだ。
ぱっと見にはなるけれど、体は鍛えているが若干芯がズレている気がする。出力はあるけれど、それを上手く発揮することが出来ないタイプ。要領が悪いというか、改善できてないというか、他に考えることが多すぎてそこまで気を向けられていないというべきか。
まぁとにかく、戦士でないことは事実みたい。
(じゃぁ。一回“攻性”を挟んで……、あら。)
指先に集めた魔力を、一瞬だけ攻撃力を持つモノに。
目の前の彼。その首を一瞬で刎ねられるだけの術式を込めようとするが……。
それよりも先に、彼の鋭い警戒と恐怖に満ちた視線。
そして直後に、他の視線が全身に突き刺さる。
(……位置的に、この部屋の天井に3つ。あとは隣の建物に7って所かしら。)
“想定通り”で思わず笑みを浮かべそうになるが、即座に術式を解除。
何食わぬ顔で他の術式へと置き換え、ゆっくりと眼前の彼に笑みを送る。
同時に指を持ち上げ動かしてみれば、それに合わせて彼の視線も動いて行くが……。既に此方に攻撃の意思が無いことを察したのだろう。あちらもまるで何もなかったかのように、視線を取り繕っている。
……ほんの少しだけ私の胸を視線がなぞったので、やっぱり気になっちゃうお年頃なのだろう。私のことを買ってくださるのなら、お礼として沢山挟んであげましょうね? あ、勿論ライカちゃんの後にだけど。
(……うん、十分ね。)
本来、奴隷は主人を傷つけることは出来ないが……。それは“主人”に限った話。
今現在、私の所有権は『この商館の主であるジャック』が持っている。つまりやろうと思えば、私に目の前の彼を殺すように命じることも可能。大事なお客様であるので可能性は低いが……。皇位継承者であれば、暗殺は常に警戒しないといけない。
“護衛する側”からすれば、気が気ではなかったことだろう。
事実、おそらくあと一瞬収めるのは遅れていれば。眼前の彼が許可していれば、殺されていたのは私だっただろうし。
……ふふ、相当大事にされているみたいね?
(かなり熟達した護衛が10名ちょっと。もしかしたらもっといるかもしれない。)
結構な経験を積んだはずの私でも、あえて“誘い出さねば”解らなかったほどの、熟練の護衛。
ほんの一瞬しか示さなかったはずの“攻撃の意思”に反応した上に、私が“主人のモノ”になるかもしれないと考え、即座に処分しないだけの判断能力。そしてもし私が本当に攻撃したとしても、守り切れるだけの高い能力。
普通ならもう処分されていそうな私の首がまだ繋がっていることからも、それは明らかだろう。
(防御特化系の魔法使いでもいるのかしら? 若干魔力の起こりが見えたし、隠れながらずっと守ってるって感じみたいねぇ。)
そんな存在を多数配備できるのだ。
彼の後援者は、かなり上。継承戦に挑むだけの財力があり、影響力もあることが推測できる。
これはとても、好ましい。
(私の夢を追い求めるなら、単なる継承者じゃちょっと足りないものね。)
もし彼が権利を持っていたとしても、“可能性”が無いのであれば、お手伝いするだけの意味が無い。
勿論、さっきまで考えていた帝国と一緒に滅んじゃうコース。この人を最後のご主人様とするのも良いだろう。私を見てちゃんと大きくなるみたいだし、欲もあって若い。センスは無いけど鍛えてるみたいだし、抱きしめるのも、られるのも素敵。
復讐できないライカちゃんがちょっと可哀想だが、みんな一緒に溶け合いながら楽しくこの世とおさらば出来たことだろう。
でも、皇位継承者。
本当に皇帝になって“国を変える”なら、必要なものが沢山ある。
「……話は変わりますが、エドモンド様。ご出身はどちらなのかしら?」
「エド、で構いませんよリシエラさん。北のモーヴィルの出身です。」
「ふふ、私も"さん"付けなどお戯れがすぎますわ? ……となりますと、伯爵家の。」
あまり詳しくないが、確か皇帝の庶子の一人が伯爵家の方に嫁いでいったはずだ。ここ百年の間に急成長してきてる家で、今も結構イケイケだったはず。領内も結構豊かで、資金力も国への影響力も高い。血筋さえ整えてしまえば、十分に皇位が狙える。
……そのご子息ってわけね。
(それでおそらく、皇族固有の能力も、持っている。)
先程ちょっとだけ私が“試させて”貰った時。
このエド様は、周囲の護衛よりも早く、私の意図に気が付いていた。こちらが攻撃しようとしたこと、そして殺意など最初からなかったこと。まるで全て“見通す”ように、察知して見せた。
まるで、初代皇帝が持っていたとされる『特別な目のスキル』。
(どんなに優秀な一族でも、代を重ねれば必ず“相応しくない”人間が出て来ちゃう。けれど私が知るかぎり、この帝国の皇室は例外。)
彼らは総じて、優秀な皇帝を輩出し続けている。
ちょっと前までは蟲毒みたいな血みどろの争いをさせてるのかな。もしくは奴隷を燃料に儀式とかしてるのかな、って思ってたんだけど、おそらく違う。
彼らのスキルは、遺伝する。
(……そりゃ、表向きは伏せるわよねぇ。)
思い返してみれば、歴代皇帝も何かしらの“見抜く”力を持っていた。
人間からすれば隠蔽のため書物にすら残っていないだろうが、私からすれば、この国が成立したその瞬間から眺めているのだ。書物に残せなかった噂なども、記憶としてしっかり覚えている。
まぁスキルが遺伝しそれが国を興せるほどに強大なものとなれば、隠すのも仕方のないことだろう。適宜外の血を入れなければ問題が出てくるため、限られた人物には教えているのだろうが……。
(ともかく、彼は資格。おそらく皇帝に求められる必須の『スキル』を持っている。……後援者と、能力的資質。ふふ、完璧じゃない!)
そんなことを考えながら。
先程“見極め”に使い余してしまった魔力を使い、ちょっとした余興を用意して差し上げる。
「失礼、エド様。お茶のお代わりはいかがですか?」
「……頂きましょう。」
使うのは、水球を生み出す魔法。
無詠唱で構築しながら術式を書き換え、指先から特別な水を生成する。
単ある水では面白味が無いと考え、花の香りを付与したものだ。これを含んで口移ししてあげるととっても楽しいことになるのだけれど……。今は控え、空になった彼のカップに注いで差し上げる。
そして同じものを生成し、そのまま口に放り込み飲み込む。
一応礼儀としての“毒が入っていない”ことの証明。けれど魔法の水には様々な要素を付け加えることが出来る。1つ目に毒を仕込み、2つ目には何も仕込まない。とかも可能だ。まぁその分生成速度に差が出たりそもそもの難度が高かったりするのだが、熟練者であれば誤魔化すことが出来る。
普通なら、一瞬でも攻撃の意思を見せた者が生み出した水など。貴種であればある程、口にするはずが無いが……。
「……とても良い香りですね。薔薇と、ライチ。あとはミントを少量でしょうか? もう少し頂いても?」
「えぇ、勿論。」
全く気にせず口に運んだわね、この子。
となると、やっぱりアタリね。スキル持ち確定!
かなり薄く調整しているはずの“混ぜ物”さえ、見抜いてしまう。この国の礼儀作法の一つである、ちょっとした“試し行為”。それを悪用した確認作業だったけど、上手く行った。
あれほど私の攻撃に強い警戒を覚えたはずの彼が、毒入りかもしれない水に口をつけるはずがない。それこそ、全て見抜いていなければ。
……んふふ、面白くなってきたわねぇ!
(さながら、『キングメーカー』って所かしら?)
彼はその素質を示し、私に夢を叶えるだけの力があることを教えてくれた。
ならばもう、全力でやり抜いちゃうのが“奴隷”というモノだろう。
ジャックによって査定された私の値段は、かなりのモノになっている。それこそ大貴族でも躊躇してしまうような値段だ。けれどそれでも私を求めてきてくれたという事は、この800年の蓄積。帝国が生まれてから今この時までの記録を欲しているのだろう。
(ライカちゃんの剣もみて欲しいみたいだけど……。本意は皇位継承戦。それへの有効活用!)
これでも、貴族に買われたり。そこで領地経営を代行したり。知識奴隷としてご主人様たちの脳みそ代わりになってあげたこともある。ちょっと前までは一豪族の所有奴隷だったが……。これまでの経歴を見てもらったからこそ、評価頂いたのだろう。
ならば、それに応えるまで。
私の手でこの子を皇帝に押し上げ、中興の祖にしてしまう。崩壊しかけた帝国を救い、より高度な奴隷制を敷き、もっとこの国を退屈しない素敵な国に作り替えてあげる。
流石に私好みの『常に酒池肉林な愛に塗れた地上の楽園』は出来ないだろうが、地方で好き勝手する貴族たちにお灸をすえ、完全な中央集権に移行するぐらいは、出来るかもしれない。目指せるかもしれない。
(そして彼が皇帝になることが出来れば……。私は皇室所有の奴隷になれる。知識奴隷だからこそ許される、素敵な場所。)
色々と上手く立ち回る必要があるだろうが、このご主人様を皇帝に押し上げることが出来れば、その功績を以て皇室預かり。もっと行けば御世継たちの教育係に成れるかもしれない。
これが出来たら、今度こそ上手く“その次の皇帝”にも愛を注いでもらう。
お父さんにしてあげたことを、小さい息子にもしてあげて性癖を破壊し尽くす。
そしてこれを繰り返すことで……。
私は老いて死ぬまで、この国と添い遂げる。
(あ~もう最高ッ! 国家と睦事って死ぬほどゾクゾクするわ!)
そう考えれば、もうやる気がモリモリだ。
これまでの歴史で、代々の皇帝たちと肉体関係を持った者。つまり実質的に国家とヤル事やってる人類など、一人もいないことだろう。後世の歴史書にどう書かれるかは解らないが、絶対に楽しい筈だ。もう何が何でも、この子を皇帝にしちゃう。
(ライカちゃんも、そういう目的で動いてるみたいだしね!)
途中で時間が来てしまい色々詳しく聞くことは出来なかったが、どうやらライカちゃんも私と同じ目的を掲げているようだ。
まぁその内容は復讐で、自分たちの一族を滅ぼした貴族を処理した後の事は何も定まっていない、ちょっとお粗末なモノであったが……。それぐらいなら、私の方で上手く調整してあげることが出来る。幸いなことに、既にライカちゃんの脳はご主人に溶かされちゃってる。復讐さえ遂げてしまえば、後はベットの上でぴょんぴょん跳ねるカワイ子ちゃんに大変身だ。
確かに復讐はすればスッキリするけど、そのためだけに短い人生使っちゃうのは可哀想でしょう? ママが良い感じにラブラブ出来る場を整えますからね……!
「あぁ、そうだエド様。実はライカちゃんから、そういうこと。貴方様の身分についても聞いてしまいまして。あの、怒らないで上げてくださいね?」
「いえいえ、此方に来ていただけるのであれば、事前に説明しなければいけないことでした。気にしていませんとも。……にしてもまぁ、儘ならないものですね。」
「そうなのですか?」
「えぇ。自身としては皇帝位など恐れ多いというか、とても務まるとは思いませんので。可能ならば田舎で落ち着いた余生でも過ごしたいものなのですが……。」
思わずと言った感じで、つい本音を漏らしてしまう彼。
そして何故か周囲の護衛たち、隠れている人たちから感じてしまう『コレが無ければなぁ』みたいな雰囲気。
(……あ、あれ? も、もしかして本人が一番やる気ないタイプ!?!?)
そ、想定外のパターンね!
〇リシエラ エロフ 奴隷
既に切り開かれ真っ平になった森だったもの、が故郷のエルフ。843歳、スキルは無し。
昔はエルフらしいエルフだったが、気が付いたら愛の人になっていた。男でも女でもいけるし、自分から奴隷になりに行くヤバい人。
人間族に対する恨み辛みは既に情欲によって塗りつぶされており、若いころは憎悪があったそうだが、今は全く気にしてない。むしろ自身が振りまく愛にどれだけ応えてくれるかを重要視しており、奴隷としての生存戦略を熟しながら自身の趣味も満たしている。
ただ流石に800年間ずっと爛れた生活を送るのは飽きがくるらしく、より華やかな生活を送るため、色々な物に手を出して修めたりしている。弓や魔法は森にいた頃から使っていたが、剣は奴隷になってから学んだ形。領地経営などの雑務や、政務などにも深い理解があり、各種族の文化や歴史などにも詳しい。
だた本人としては暇つぶしの間に覚えたことなので、どっちかというと寝室8割その他2割、ぐらいがちょうどいいらしい。
この帝国と奴隷制の崩壊を察しており、奴隷であり続けることを選ぶ自身が異端であることも理解している。そのせいか『まだまだシ足りないけど、ここで満足しておくべきなのかもね』という思考から行動を起こすことを諦め、最後のご主人と混じり合いながら国と一緒に滅びることを選ぼうとしていた。
ただ、皇位継承権を持つ主人公が目の前に現れたことで考えが変化した様であり、現在はキングメーカー。そして彼の血族が新たに紡いでいく歴史を傍で見ていることにした様だ。無論、全員美味しく食べてしまうつもり。
主人公のやる気の無さを把握したが、その程度で変態は止まらない。
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どうかよろしくお願いいたします。
次回はパイセンがパーティに加入し家に帰る所からです。