「ライカちゃ~ん、また肘“引っかかってる”わよ~? 2撃目の意識! しっかりね!」
「おうッ!」
「あと分身ライカちゃんは走り出すタイミングが早い! もう同時攻撃は出来るんだから、相手の動きを見てテンポ遅らせれるように、ね!」
「わかったぞ!」
すごいなぁ、なんて呑気なことを考えながら、2人。いやライカの分身を含めるのならば3人。彼女達の様子を眺めていく。
リシエラさんが加入したことで、後衛が追加。より安定感が増した私達は、再度ダンジョン攻略に乗り出していた。
自身としてはもっとゆっくりでいいというか、先に進めば進むほどに皇位継承戦が近づいてきちゃうので、お家でずっとのんびりしていた方が気分的に楽なのだが……。ライカとしては、さっさとオーガとの再戦を済ませたいところ。加入翌日から彼女の指導に当たってくれたリシエラさんも『負けた経験が風化したり凝り固まっちゃう前に、済ませておいた方が良いわね!』とのことだったので嫌々突入した形だ。
まぁ、顔にも態度にも出してませんけどね? お荷物とはいえ、彼女たちの雇用者が自身です。部下がやる気出してるのに上司が変な顔して元気削いじゃったら、ダメでしょう。
「……っと! 嫌なお小言はこれぐらいね! さ、エド様? ここはひとつライカちゃんにお褒めの言葉を頂けないかしら?」
「え、私ですか!?」
「そりゃそうよ! だって貴方は私達のご主人様でしょう? 奴隷が頑張ってたら褒めてあげなくちゃ! あ! 言っとくけど、自分にはセンスないとか言って逃げるのは無しだからね? ちゃんと自分の言葉で言ってくださ~い!」
途中からこちらを揶揄うような口調でそういう彼女。
そしてかなり期待した目で、私の顔を見つめて来るライカ2人。
(ひ、1人だけでもかなり存在感あるのに、2人がかりでそんな物欲しそうな目で見ないで……! というか何言えばいいのさ!?)
未だリシエラさんの本意が何処にあるのか全く判別できないのだが……。私で遊んでいるのは、確実だろう。こちらの表情を見て明らかに楽しんでいる様だし、ライカを使って如何に自身を弄れるか、という感じ。
い、いやまぁ求められたら言葉ぐらい考えますけど、私素人ですからね?
一応簡単なことは家で習いましたけど、センス無さ過ぎて『もう武器持つの控えた方が……』とか言われたことあるんですからね! そ、そんな気の利いたこと言えませんからね! そ、それでもいいなら頑張りますけど……。
「んん! ……ライカ、とてもいい剣だったと思いますよ? これまでは一撃で終ってしまうが故に全力をそこに注いでいる様でしたが、今日のお二人はしっかりと次のことを意識しているように見えました。努力の成果が感じられて、とても素晴らしいかと。」
「ほんとか!」
「やった!」
そう叫びながら、急に此方に距離を詰めてくる2人。
は、傍から見ると可愛らしい子犬みたいな動きだけどッ! 胸! 胸当たってるから! も、もうちょっと距離感! 距離感というのを意識しよ、ね? ね? ほ、ほら現代日本とかだったら、触る意思が無くても当たっただけで痴漢呼ばわりされて、そのまま社会的な死を受けてしまうとか! 普通にあるからね!
あとここダンジョン! 危ない場所! だからステイ!
「「え~!」」
「あ、その点は安心よ? 私が警戒しといてあげるから。全力で褒めて貰いなさい?」
「「やった!!!」」
に、逃げ場。どこ? ここ?
あ、そこに無かったら無い。そっか……。
内心マジで慌てながら。これ以上何を言えばいいのかと考えながら、絶対気持ち悪いけど『鑑定』で見えた筋肉の動きとか褒めた方がいいのか、なんて考えていると……。彼女たちが何か言いたそうな顔を、向けて来る。
「あ、あの。ご主人……」
「そ、そのさ! あ、頭とか。撫でて貰っても……?」
「え!?」
かなり恥ずかしそうに、そう言って来る彼女たち。
どうしたらいいか解らず、思わずリシエラさんの方に視線を向け助けを求めてしまうが……。く、口に手を当てて『あらあら~!』とか言いそうな顔で、こっちを見てる!? ぜ、絶対助けてくれない奴!?
え、いや。頭! 頭撫でるって!? そ、ソレ大丈夫なの!? そういうのって色々問題というか、この世界じゃ既に成人してる彼女にそんな子供っぽいことしていいのかというか! というかそもそも! 上司が部下の頭撫でるとか今時アウトでしかないでしょ!
ここ異世界だけど! ここ異世界だけど!
「「だ、駄目……。か?」」
「ッ! で、では。失礼……、します。」
そう言いながら、何とか震える手を抑え、彼女の頭に手を乗せる。
彼方から言い出してきてくれたことだし、もうそんな目をされたら拒否できるわけがない。
ゆっくりと、頭部から上に伸びるその耳に当たらぬよう、ゆっくりと頭を撫でていく。不快に思われぬように、細心の注意を払いながら。ただ、感触として理解できてしまう、彼女の頭髪。そして熱。触れただけで壊れてしまいそうな綺麗な黒髪を、静かに、繰り返すように。
(あら! あらあらら! これは! これは良いわね! 自分から誘ったくせに両方とも顔真っ赤になってるライカちゃんたちは最高だし! 初心な感じ全開で撫でていて、赤面してるライカちゃんに釣られて真っ赤になってるエド様も最高! 唆るわコレは!!!)
「……あ、あの。もうそろそろ。」
「やだ」
「もうちょっと」
リシエラさんが何か小言で叫んでいた気がするが、聴きとることは出来ない。
ライカ達にそう聞いてみるが、どうやらまだ足りない様だ。
こ、こうなったらもう他のことを考えて心を落ち着かせるしかない……!
(そ、そういえば! 実際彼女の剣! 良くなってたよね! うん! 絶対そう!)
購入時の前評判は事実だったようで、リシエラさんの能力は非常に高かった。
今はまだ魔法しか見せてもらっていないが、無詠唱が出来る時点でかなりの上澄みであるといえる。それにこういう学問的な側面を持つ戦闘技術。魔法などは使用時に、かなり複雑な構築式を組んでいく必要があるらしい。かけた時間や経験がモノをいう世界だ。その能力は非常に高いと考えられるだろう。
そしてもちろん、“剣も”だ。
(素人目でも見ても、ライカの剣術。その向上速度が跳ね上がったことは、理解できた。)
これまでの彼女は一人で素振りしたり、走りこんだりして基礎能力を高めたり、分身を使うことで自分との勝負をすることで鍛錬を行っていたが……、やはりこれだけでは限界があった。
自身の映像を見て動きを検証する、みたいなことが出来るのが『分身』の強みだが、自分で見ても解らないことは一生見つけることが出来ない。それに組手相手も自身に限定されるため、どうしても変な癖が出てくる。時間をかければ直したり矯正も個人で出来たのだろうが、どうしても限界があったのだ。指導者を求めたその判断は、間違いでは無かっただろう。
そしてリシエラさんは、その役目をしっかりと果たしてくれている。
彼女だけでは分からなかったことをすぐに指摘していた様だし、ライカに合わせてかみ砕いた知識を教えているせいか、日に日にその動きは良くなって行っている。ライカが求める『一族の剣術の再現』とは少し違うかもしれないが、リシエラさんが収めていた他獣人一族の剣や、エルフが扱う軽量級向けの剣術、そして見よう見まねで覚えたらしい人間の剣術。そのすべてを少しずつ教えることで、彼女の成長を促している。
(いい先生に巡り合えて、良かったよねぇ。私としては何考えてるか欠片も解らなくて怖いけど。……というかなんでこの人はノータイムで猥談ぶち込めるんだ?)
食事の時とか偶にヤバい事言ってるし。どうやら初日ライカが自室に突撃してきたのは彼女の仕業らしいし。本気で何考えてるかわからん。
流石に、単に頭のおかしい変……
「ㇱ」
そんなことを考えていると、急にリシエラさん付近から小さな音が。
思わず其方に視線を向けてみれば。既に射貫き終わったのであろう彼女の弓と、遠く離れた通路の先で頭を吹き飛ばされているゴブリンの姿が。100m弱ぐらいの距離あったけど、寸分たがわず射貫いている。というか撃ち込むまで一切音がでなかったというか、その動きを察知できなかったというか……。
というかソレ、ダンジョン用にかなり短くした特殊なショートボウですよね? 例のクソ煩い防具屋の店主から購入した奴。有効射程もギリギリ80mとかそのぐらいだったはず。
ゆ、弓もヤバい技量をお持ちなんですね? こ、怖い……。
「あ、ごめんなさい。どうぞ続けて?」
「い、いや。流石に……」
「あ、うん。もう十分だぞご主人。」
「だ、だな。ありがとご主人。」
「あらら。私なんて気にしなくてもいいのに、ねぇ? ……ところでライカちゃん、どうだった? って聞かなくても良かったかしら? すっっごく満たされたお顔してるし! 幸せそうでいいわねぇ? でもちょっと寂しさというか、物足りなさというか? 頭だけじゃなくてもっと他にも撫でまわしてほしかったところが一杯……」
「あぁぁぁああああ!!!!!」
「それ以上喋るな先輩ぃぃぃ!!!!!」
途中からライカ達の大声にかき消されてしまい、何を言っていたのか解らなかったが……。
顔を真っ赤にしながらポコポコと二人がかりでリシエラさんを殴りに行ってるあたり、また揶揄われたのだろう。最近よく見るというか、家の中でライカが叫び声をあげていると思えば、大体彼女に揶揄われているのだ。最初は面食らってしまったが、最近は私も慣れつつある。
まぁその拳全てを難なく受け止められているので、力量差が酷く浮き上がってる感じというか……、その合間に私へグッジョブマークを送っているあたり、まだまだ余裕がありそうだ。
底知れないよねぇ、ほんと。
(……うん、やっぱり『頼り過ぎるのは良くない』よね。)
リシエラさん本人からも進言されたことだが、現在のダンジョン攻略はほぼライカ単身での攻略になっている。
勿論強力な存在であるリシエラさんを投入すれば簡単に進むことが出来るが、それではライカの成長を促し経験を手に入れることが出来なくなってしまう。むしろ戦いに投入するよりも、お荷物である私の護衛や、前回の『徘徊者』と遭遇した時のように“何かあった時の備え”として控えてくれる方がありがたい、という話になったのだ。
ライカの実力が上がってきたら徐々に合わせていく、という感じらしいが……。2人がかりで殴りかかっても全部余裕で流されてるあたり、先は長そうだねぇ。
「あ、そうそうエド様! ライカちゃんの秘密! 知ってるかしら?」
「……私が聞いても良い奴ですか、それ?」
「もっちろん! 実はなんだけど、ライカちゃんの『分身』! 感覚共有してるみたいなのよ! 昨日つい可愛らしいお尻があったからひっぱたいちゃったんだけど、そしたら2人とも『ひゃん!』って叫んだのよ!? こ、これはもう“活用”方法が色々思い浮かんで! た、楽しく成って来るわね……!!!」
「「うがぁァァァァあああああ!!!!!!!」」
あ、うん。聞かなかったことにしときますね。ライカ暴走しちゃってますし。
……まぁ一応想定の範囲というか、『痛みが共有される』と聞いた時から懸念はしていたが、本当にそうだったとは。かなり便利で使い勝手のいい彼女の『分身』だが、流石にデメリットはあるようで。今後はその辺りを考慮していくべきだろう。
(今はまだ必要ないけど、ダメージでライカ。アタッカーの動きが鈍るとなれば……。)
分身が受けたダメージをそのまま本体が受けるということは無いが、感覚が共有される以上痛みは存在する。つまり分身が全身を切り刻まれてしまったとしても、本体にはノーダメージ。しかし痛みは残るというわけだ。……訓練すればそれでも気にせず戦い続けることが出来るかもしれないが、ライカの精神的な負荷は計り知れない。確実にすべきでないし、最低でも多用してはいけない案件だろう。
当初は彼女に前衛の全てを任せる予定だったが……、専用のタンク職。
大きな盾ですべての攻撃を受け流したり、回避し続けることで攻撃を無力化する存在は、今後探していく方が良いかもしれない。
(まぁ、私一人で決める必要はない。みんなに相談して、真に必要か否か。そして必要ならどのタイミングで入ってもらうか。決めて行かないとね。)
ま、まずはライカの目標であるオーガ討伐だ。
焦らずしっかり一歩一歩踏みしめながら。ボスのいる10階層まで向かうとしましょうか。
「というかあの声、すっごい熱が籠ってたわよねぇ!? ということはつまり、やっぱり叩くよりも叩かれたい感じ! いいわねいいわね! 今後の“指導”はそういう才能を磨き抜くルートで行けば良さそうね! 幸いなことにご主人様も尽くしてくれるタイプ! ライカちゃんがどんなドMでも絶対受け入れて……!」
「それ以上喋るなぁぁぁああああ!!!!!」
「ぶっころ! ぶっころすッ!!!!!」
お二人とも。一応ここ、結構な頻度で死人が出てる危険なダンジョンなんですが。
……騒がしいのは別にいいけど。大丈夫かなぁ、これ。
と、とりあえずそれぐらいで。先に進みましょうね? ね?
〇それぞれ
・ご主人
軽く鑑定を使うことで簡易の索敵を行いながら攻略している
・ライカ
全部忘れてガチで先輩に攻撃している
・リシエラ
ライカを軽く受け流しながらご主人よりも広範囲の索敵を熟している。だがご主人にも『指揮官』としての経験を積んでもらうため、口には出さない。プロ。
次回もオーガ戦に向けて、な話になると思います。
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