なんやかんやありながらも、淡々と進んでいくダンジョン攻略。
物語であればここで強敵が現れて足止めを喰らうモノなのだろうが……。既にそれは先日の『徘徊者オーガ三人衆』でやってしまっている。というか既に、奴らは他パーティによって殲滅済みだ。
以前も何かで言ったと思うが、このダンジョンの低階層は『初心者保護』の観点からギルドが支援を行っている。早い話、保有している強力な奴隷パーティを持って階層に見合わない強敵である『徘徊者』を処分してくれているのだ。
一応の確認として、このダンジョンに潜る前に軽く冒険者ギルドに顔を出したのだが……。やはり撃破報告が上がっていた。
(ライカとしては自分で倒したかったみたいだから、若干機嫌が悪くなってたけど……。ま、まぁ10階層のボスとしているから、ね?)
事前に説明していたが、彼女としてはもう一度接敵する可能性を考えていたのだろう。それはもうお口を綺麗に膨らませながら怒っていらっしゃった。……リシエラさんが来てから更に精神年齢が下がったような気がするんだけど、大丈夫なんですかね? 知り合いが増えたことによる『安心』なら別にいいんですけど。
まぁそんなわけで、私達はすいすいとダンジョン攻略を行っている。
階層に見合わない『徘徊者』が出るかもしれないという危険性が無いことも無いが、アレは短期間にそう何度も出現するものではないし、おそらくオーガ程度であれば瞬殺してしまうであろうリシエラさんが加入したのだ。油断すべきではないが、正に“敵なし”な状況だろう。
(実際、すぐ戦闘終わっちゃうもんねぇ。)
確かに下に行くほど強めのゴブリン。長剣や魔法を扱うゴブリンが複数体で出てきたが、そのすべてがライカ達の敵ではない。会敵した瞬間に分身した彼女達が全力で走り出し、先に厄介な後衛職を斬殺。そして他のゴブリンもすぐに殲滅。以前同様一撃での処理で終わらせている感じだ。
(けど、リシエラさんの指示で色々と試してるみたいで。)
先程のゴブリンだが、首を落された後に更なる追撃。胴体を両断する攻撃を、ライカから受けていた。
おそらく彼女が課題としていた『突っ込んだ後の攻撃』。2撃目を意識した行動なのだろう。事実2人のライカが流れる様な動きでゴブリンを三分割していたし、対オーガ戦の準備は着々と進んでいるようだ。『タイミングをずらした攻撃』も練習しているようだし、今後の成長次第では波状攻撃を1人で全て熟せるようになるかもしれない。
「……うん、やっぱり『分身』って無法だね。」
「あら? エド様の『鑑定』も大概だと思うけど。」
「っと、失礼。」
途中から思考が口に出てしまったのだろう。ツッコミを入れてくるリシエラさんに謝りながら、そちらの方に視線を向ける。
加入時の食事会での暴走で色々と薄れてしまったが、一応彼女にも自身の『鑑定』、そして皇位継承戦周りのことは伝えている。まぁ色々思う所があったのか、明言することは避けられてしまったのだが……。自身が皇帝になることに積極的ではないことは、ご理解頂くことが出来た。
彼女が協力してくれるかどうかは未知数だが、ライカのように『ダンジョン攻略してどんどん戦いたい!』というタイプではない。少なくともライカの指南役を受け持ってくれている以上、どんどんと先に進み実力に見合わない階層にすら進もうとした時は、止めてくれるはずだ。
ライカに向ける親愛の情は、本物みたいだしね。その辺りは任せて大丈夫そう。
っと、返答しないと。
「まぁ確かに、『鑑定』が無法なのは事実ですね。軽く使うだけでも、スキルの有無どころか使い方まで解りますから。」
「初代皇帝サマみたいに国を作るのにもいいけれど、奴隷商とかでも活用できそうよねぇ。というか使い道が多すぎて上げたらキリがないわね。しかも継承するとか……。」
「血族全員に遺伝する、というわけではないですが……。ヤバいですよねぇ。」
「ん? なんの話?」
そんなことを話していると。ゴブリンを殴殺していた分身の方のライカが、魔石片手に此方に寄ってくる。
どうやらいつの間にか戦闘が終わっていたようで、解体を終わらせ周囲の警戒に戻った本体の方が、少し遠くから手を振っているのが見えた。彼女に手を振り返しながら、分身の彼女に礼を言い、魔石を受け取る。
「自身の『スキル』の話ですね。ライカのスキルはおそらく成長限界が無いので、伸ばせば伸ばすほど強くなりますが……。」
「だろ? アタシ凄い!」
「えぇ、ですね。そして負担もそこまでない。」
発動時に若干のタメが必要なこと、そして感覚共有などの明確な弱点こそあれど。一度使ってしまえば本体にダメージが残ることは無いのが、彼女の『分身』だ。
対して私の場合、使い過ぎると脳が完全にぶっ壊れてしまうほどのダメージが残ってしまう。
軽い鑑定であれば延々と使い続けても大丈夫なほどに習熟出来ているのだが、深い鑑定。以前のオーガ戦で使ったような他者の思考どころから相手の記憶すら読むような深度となると、流石に脳みそが情報過多でヤバいことになってしまう。
まぁ『思考を読む』なんて大それた力なのだ。それぐらいのデメリットが無くては釣り合わないだろう。
「あ~、うん。そうだな!」(匂いで思考を大体読める者)
「確かにねぇ。」(雰囲気と経験で大体推測できる者)
「……お二人ともどうかしました?」
「「気のせいじゃない?」かしら?」
それならいいのだが……。
そう考えながら周囲を見渡してみると、索敵に出ていた本体の方のライカが何か見つけたようで、道の奥からこちらの方に手招きしているのが見える。……正しい『分身』の扱いとしてはアンブッシュを受ける可能性が高い索敵は、本体よりも分身がした方がいいと思うんですが、何故か彼女は『分身と交代しながら』その役割を果たしている。
おそらく分身にも意識がある故の分業、不満が溜まらないようにするための施策だとは思うのですが……。
「エド様も大変よねぇ?」
「わ、私がですか?」
「そうそう、ほら分身も意識があるんだったら。不満を溜めないように“お情け”を上げる時は両方しなきゃでしょう? 今後どんどん数が増えていくみたいだし、今のうちからそのご立派様を鍛えておいた方が良いと思うのだけれど。」
「先輩!?」
「……真面目な顔で凄いこと言いますね。」
思わず突っ込んでしまう自身と、顔を真っ赤にしながら非難する分身のライカ。
だから私がそういうことするのは無いですって……。
ライカ本人には言えないが、私から見て彼女はまだ未成年だ。この帝国の法に照らし合わせれば十分に成人ではあるのだが、前世基準であればまだ高校生。手を出したら確実に捕まる年齢。あと最近若干精神が幼くなってきている手前、余計に手が出せるわけがない。魅力的であるのは理解できるんですけど、ね?
……そういえばなんだけど、奴隷の結婚とか恋愛ってどうしたらいいんだろ? リシエラさんはマジで何を考えているのか解らないし、年齢が年齢なのでその辺りは正直考えたくもないし、聴きたくもない。
(けれどライカは別。)
まだ若く、精神年齢も幼い彼女がずっとこのまま、というのはありえないだろう。
時間経過とともに成熟していくだろうし、より美しくなっていくはず。今は現状に満足してくれていると思うんだけど、今後もし彼女が『家庭を持ちたい』とか考え始めたら……。私はどうすればいいんでしょうね?
一番いいのは自由恋愛。その時にはもう帝国が崩壊してて、奴隷とかの身分が無くなっていれば自分で何とかしてもらうしかないんだけど、もしその時もまだ帝国が残っていて、奴隷制も続いていれば、彼女一人で相手を見つけるのは酷く難しいことだろう。
私としてはその辺りは好きにしてもらっていいのだが、お相手が人間族でもそれ以外でも、色々と問題なのだ。人間族であれば差別意識が付いてくるだろうし、他種族だと奴隷である可能性が高く、その持ち主に筋を通さなければならない。
(まぁ彼女の雇用者というか、最近は保護者かもしれないと偶に考えてしまう自身とすれば……。その時は全力で応援することにしよう。)
こっちは手を出すつもりなんて欠片もないので彼女は潔い身のままだし、相手が人間族であれば意識改革のお手伝いを、奴隷であれば相手主人からの買取を模索する。少々おせっかいかもしれないが、奴隷として彼女を買い取ってしまった責任、その権利全てを受け取ってしまった責任ぐらいは、果たすべきだろう。
「ということで、何かあれば気にせず相談してくださいね。いつでもサポートいたしますから。」
「ッ!?」
「おぉ~ぅ。」
そんなことを簡単に、そして彼女達には言えない部分を隠しながら伝えると。
何故か硬直するライカと、すっごく気まずそうな顔をしながら変な声を上げるリシエラさん。
……え? なんかミスった?
そう思った瞬間、リシエラさんの姿が一瞬にしてブレ、ライカを片腕で抱きしめながらその口を思いっきり抑え込んだのが見える。なんか滅茶苦茶叫んで暴れているような気がするが、完全にリシエラさんに抑えられているせいか、一切声が聞こえない。
あ、やらかしましたねコレ。
「あ、あの? ライカ? しゃ、謝罪させて頂いても……?」
「……だ、大丈夫だぞ! 気にしてないぞ! そ、それより! 本体の方が階段見つけたって!」
「あぁそうでしたか。これでこの9階層も終わり、ですね。」
絶対コレ大丈夫じゃないやつと思いながら、彼女の言葉に乗っかる。
……そう言えば、自身も中高生くらいの頃は親に恋愛云々の話題を持ちかけられることは酷く嫌だった。聞きたくなる気持ちも今では理解できるのだが、相手がいなければ話すことなど出来ないし、いたとしても気恥ずかしさから真面に応えるのは難しいことだろう。
ライカは17、前世で言う所の花の高校生だ。多感な時期である彼女に対し、配慮に欠けた発言だったのだろう。これ以上この話をするのは、気持ちを抑え折角話題を変えてくれたライカの優しさを無下にしてしまうことだろう。
(これ系統の話題は封印。今日の夕食の肉をちょっと多くすることで……、許してもらえるかな?)
一瞬ダンジョン攻略後にしっかり謝ろうかと思ったが、リシエラさんが急いで口を押えて落ち着かせるレベルだ。彼女にとっても一度無かったことにした話題をわざわざ思い出させるような行為は望んでいないだろう。
物で謝っているようなものなので、少々申し訳なさがあるのだが……。
今はとりあえず、置いておくことにする。
なにせ現在私達は、危険なダンジョン内にいるのだ。幾ら味方に心強い2人が付いているとしても、リーダーを務めている私が気を抜くことは推奨されない。それがたとえお飾りだとしても、だ。……まぁそれならさっき何で戦闘に関係ない事考えてたんだ、って話になるんですけど、それも置いておくことにする。
(というわけで、今が9階層。そして階段が見つかったということは。)
この区画のボスであるオーガ。強敵が待ち望む10階層というわけだ。
当初の予定ではもう少しゆっくりというか、地道な攻略を予定していたのだが……。あまり長引かせばライカが口をとがらせ文句を言って来ることだろう。それぐらいであればまだいいが、暴走してしまえば自身では止めることが出来ない。
まぁリシエラさんであれば止められはするだろうが、この人は本当に何を考えているのか解らない人だ。ダンジョン攻略という危険な場で下ネタをぶち込んでくるような人だし、そもそも800年以上生きて来た人の思考。そして蓄積した経験に勝てる気がしない。ライカ自身の身に悪影響を及ぼす状況であれば止めてくれるだろうが……。
自身の身に何あっても、助けてくれるとは限らない。
(とりあえずリシエラさんのゴーサインが出れば、ボス挑戦って感じかな、うん。)
“何が起きるか”解らないのがダンジョンなのだ。気を付けていかないと……!
〇何を言おうとしました?
・ライカ
違う違う違うだろ! そうじゃない! そうじゃない! こっち向けこっち! 私を見ろ! 今更他の男になびくわけないだろうがバカ! もうお前以外見てないんだよクソボケ! 解ったらなら抱け! 今すぐ押し倒せ! あぁぁもうッ! もういい! そこまでわからずやならこっちから手を出してやる! 押し倒す! 今すぐ! 今すぐ! あぁぁぁああああ!!!!!
・リシエラ
気持ち解る! 解るけど! ちょっとソレは不味いってライカちゃん! この人若干女性にトラウマあるのよ! 無理矢理したら再発しかねないし、最悪恐怖の対象になっちゃうやつ! 今後のラブラブを求めるならここは堪えるのよライカちゃん! 日々のアプローチ増やして、相手から手を出させなさいな! 貴女もそっちの方が良いんでしょ!? 手伝ってあげる! あげるから! 落ち着け!!!
あとあなたも初体験がダンジョンの床とか嫌なタイプでしょ!? 私としてはそう言うのもいいと思うけど、貴女私みたいに長生きできないのよ!? 百年たたずに死んじゃうでしょ! 時間経過でうやむやにして忘れるとか出来ないのよ!? マジでずっと引きずることになるわよ!? だから落ち着きなさいって!!!
次回はライカ視点になります。その次がオーガ戦(ライカ)になります。
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