皇帝に成りたくない男の不本意奴隷ハーレム   作:あなたちゃん

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2:買っちゃったよ……

 

 

 

「おぉ! これはこれは! いと尊き方を我が商館にお迎えできるなど、光悦の至りで御座います……!」

 

「あ~。」

 

「おっと。こういうのはお嫌いでしたかな? ではモーヴィル伯爵家のエドモンド様、と。」

 

「……いえいえ、今日は単なる“エド”として来ましたので。」

 

「成程成程! ではエド様! 応接室の方にご案内させて頂きますぞ!」

 

 

ということでやって来ました奴隷商館。

 

応対してくれた受付さんにウチの家の紋章。『モーヴィル伯爵家』の紋章を見せれば、すっ飛んできたのが今目の前にいる店長さんだ。装飾は控えめだが、質の良い衣服に身を包んだ恰幅の良いおハゲ。こちらが先んじて止めなければその場で膝をつき頭を垂れようとした人でもある。

 

……まだ名乗ってなかったのにこっちの名前把握してるとか、かなりのやり手なのだろう。んで対外的にはあんま公にはしてない皇位継承権周りのことも把握済み、っと。

 

うん、前評判通りすっごく腕利きの商人さんっぽい。

 

こういうの凄く苦手。

 

 

「さ、こちらにどうぞ!」

 

 

そんな彼について行き、案内された応接室へと入る。

 

……あ~、はい。そういうタイプね。

 

内の調度品から見た限り、貴族向けの部屋であることは確か。けれど商館側が貴族よりも良いものを使いプライドを刺激しないようにするためか、最低限の飾り付けだけで済まされている。

 

けれどよくよく見てみれば、椅子や机などはかなり質が良い。色合いを抑えているのであまり高価には見えないが、裕福でない下位貴族あたりだと一生触れられないレベルだ。

 

んで。それを理解できるか否かで、真に貴種として敬意を向ける相手かどうかを判別するヤツ。

 

 

「カナーシ地方のモノでしょうか? とても良い審美眼をお持ちの様で。」

 

「……いえいえ! 滅相もございません! ささ、どうぞ其方に!」

 

 

少しオーバーリアクションながらも、こちらを上座に誘導してくれる店長さん。

 

う~ん。あちらさんの反応的に合格貰ったみたいだけど、こういうのほんとしんどい。パイプ椅子とかでいいので、見極めとかやめてくれない?

 

まぁふかふかの椅子は大好きなので喜んで座るけどさぁ……!

 

 

「では改めまして……。『フェン奴隷商館』にようこそお出でくださいました! 自身が長を務めております、『ジャック・フェン』と申します! どうぞジャックとお呼びください!」

 

「えぇ、どうも。」

 

「して、本日は何用ですかな? 売り買いどちらでも、御満足いただけるよう全力を尽くさせて頂きますよ!」

 

 

此方が堅苦しいのを望まないことを理解しているのだろう、よく通る声で此方に話しかけてくれる彼。

 

かなりやり手っぽいので、普段ならば色々と気を付けた方がいいのだろうが……。今日は超不本意ながらも、奴隷を買いに来たのだ。こちらが求めている人材は包み隠さず正直に話すべきだろう。合わない奴隷を買っちゃったら買われた側にも申し訳ないからね。

 

それに“尊き方”って初対面で言って来たことから、こちらの身分のことは把握済み。騙したり利用する様なことをすれば“何が起きるのか”も理解しているはず。

 

必要以上の警戒は、しなくてもいい筈だ。……たぶん。

 

 

「実は見聞を深めるためにも、ダンジョン攻略に挑もうと思っています。自身としてはそれに相応しい人員を探していまして……。」

 

「ほうほう、それは素晴らしきことで! 一応、我が家は“人間”の奴隷も扱ってはおりますが……。でしたら他種族の方が好ましいでしょうな!」

 

 

流石に『両親に強制されてます!』とは言えないので、良い感じに誤魔化しながら言葉を紡ぐと、人好きな笑みを浮かべる商館長。

 

……ウチの帝国は色々と戦争を仕掛けている手前、他種族だけでなく人間の国にも侵攻し奴隷にしていたりする。あと借金とかで首が回らなくなり、奴隷落ちした人とか。まぁそんなわけで、他種族のみならず、人間族の奴隷もいる。

 

 

(ほんと、飽きれるぐらい凄いよね……。)

 

 

一応この世界でも“同種族”というのはブレーキになるらしく、人間の奴隷を売り買いするのを忌避する者がいるらしい。少なくとも人の上に立つ貴族は控えるべき行いの様で、『貴族たるもの他種族を屈服させるべし!』的な考えから、他種族の奴隷を持つことが推奨されているみたい。

 

まぁ単なる建前らしくて、最近はみんなあんまり気にしてないみたいだけどね?

 

家事手伝いとかで貴族が人間の奴隷を買った、とかいう話は聞いたことあるし。

 

 

「とと! これは全てのお客様にお伝えしているのですが、もしこれが最初のご購入なのでしたら、まずは1人からの購入をお勧めしております。奴隷はモノではございますが、やはり信頼関係を築いた方がよく働いてくれますので。」

 

「えぇ、そこは心得ています。段階をもって、ですよね。それとダンジョン攻略の際だと、先に進み過ぎないための枷になりうると。」

 

「正にその通り! ……もしや既にご存じの話でしたかな? でしたら大変申し訳なく!」

 

「いえいえ。むしろ此方を気にかけて頂き、ありがたい限りですとも。」

 

 

ナチュラルに人をモノ扱いするので内心戸惑ってしまうが、何とか顔に出さず受け答えを熟す。

 

まぁ一気に増やし過ぎると統率が取れなくなってくるし、モノだろうが奴隷は知性ある存在。効率のためにもその辺りはしっかりしようね、って話だ。あとダンジョン攻略の際は、調子乗って自分たちの実力に見合わない階層に飛び込まないため、って奴。

 

ほら沢山仲間がいたら気が大きくなっちゃって、明らかに勝てない相手に勝負挑んだりしちゃうでしょう? 何事もぼちぼち、足元確かめながら進むのがいいんですよ……。

 

 

「して、それ以外の条件などは何かおありで? ダンジョン攻略に耐えうる奴隷は様々取り扱っておりますが、接近戦が得意な獣人やドワーフ、後衛が得意なエルフなど。種族や個々人ごとに得意とする戦法は異なります。エド様はどのような動きをお考えで?」

 

「あ~、どちらかと言うと、後ろから指示出しする様な感じですかね。」

 

「成程成程!」

 

 

癖でつい頬を掻きながら、そう口にする。

 

まぁはい。戦うのあんま好きじゃないんですよね。というか荒事無理です。うん。

 

一応ウチの家は武官寄りと言いますか。個人の強さも評価する感じの家だったのでそういう教育は受けてはいるんですけど……。

 

こう、現代人にはちょっと厳しいと言いますか。ぬくぬく生きて来た人間が矢面に立つのは無理があると言いますか。センスなさ過ぎて、色々と入れ込んでるはずの父親から『ちょっとお前には無理そうだな。護衛を増やすか……』って呟かれるレベルというか。

 

はっきり言って、切った張ったは苦手。血とか絶対見たくないタイプ。可能ならば後衛からのサポート、というか完全な後方支援で、お家から出たくない感じの人間です。

 

え? それなのにダンジョン攻略しないといけないんですか!? ヤダなぁ……。

 

 

「ですので、こう。戦うのが好きな方と言いますか、忌避感が無い方が好ましいですかね。」

 

「でしたら前衛職、そして戦意が高い獣人系がよろしいでしょうな! ……して、いかがいたしましょう? お任せ頂けたならば此方で何人か見繕いますが、お求めならば一人一人ご確認頂くことも可能です。その分、御足労頂くことには成るのですが……。」

 

「あぁ、でしたら後者の方で。」

 

 

奴隷という“人の命”を買う以上、最後まで責任は取らなければいけないだろう。“責任”という単語が死ぬほど嫌いな自身からすれば凄くお断りしたいが、もうどうしようもない状況まで来ている。

 

それに、何かのはずみで反乱が起きた時。奴隷選びにミスっていれば確実に殺されるのだ。こう、奴隷として買われたこと自体に此方を恨んでくるようなタイプを雇っちゃうと、本当に不味い。そのほか自身と性格が合わない人も結構いるだろうし……。

 

しっかりと見極めた方がいいだろう。

 

そんな訳で奴隷たちが集まるエリアを見に行きたいと言えば、笑みを浮かべながら大きく頷いてくれる店長。

 

 

(……それに。皇族特有のこの力を使うなら、その方が都合がいいし。)

 

 

少し思考を回しながら。立ち上がり此方を案内してくれるジャックさんについて行く。

 

応接室から出て向かっていくのは、商館の外にある離れ。どうやらここで奴隷たちが生活、もとい収納されているようだが……。開かれた扉の中を覗いてみれば、まるで家畜小屋のような光景が。

 

清潔に保たれているせいか匂いなどの問題はないが、明らかに人が住む場所ではない。

 

 

「全員整列! お客様の許可があるまで口を開かないように! ……さ、エド様。どうぞこちらに!」

 

 

私達が入った瞬間、店長が声をかければまるで軍隊のように一斉に動き出す奴隷たち。

 

ただそれだけならよく訓練されていると感心出来たのだろうが……。その場にいる全員の首元に見える、赤い魔術的な輪っか。奴隷の紋章が光っているのを見る限り、“強制”させたのだろう。この国で生きるならば慣れないといけないのだろうが、やっぱりちょっと無理そう。着ている服も貫頭衣みたいな質素なモノばかりだし……。

 

半ば現実逃避として意識を切り替え、彼らの“種族”に目を向けてみると。様々な種族モチーフな人たちが見えてくる。獣人ひとつとってもそのケモ度も千差万別のようで、人寄りの子もいれば獣に近い子もいるようだ。

 

……同じモチーフでも獣の割合の違いで別種族になる感じなのだろうか? 実家じゃ獣人さんはあんま見なかったからよく解んない。デリケートな話かもしれないので、彼らと信頼関係を築ければ聞いてみるのもいいかもしれない。

 

 

「ささ、気になった者には話しかけて貰っても構いませんので! どうぞごゆっくり!」

 

「……どうも。」

 

 

店長に軽く答えながら、更に意識の切り替え。

 

脳内に浮かぶ感情全てを奥へと押し込み、自身の血に宿るとある力を起動する。

 

そう、先ほど述べた“皇族特有”の力。

 

 

それが、『鑑定』だ。

 

 

生まれた当初は転生モノのお約束と言うか。既にこすり倒され過ぎて逆に珍しくなって来た転生特典だよなぁ、なんて思っていたのだが、どうやらウチの帝国からすれば代々の皇族が継承してきた特別な力のようで、両親に打ち明けた時は本当に上を下への大騒ぎだった。

 

なにせこの力こそが皇位継承権の順位に強く影響するモノであり、両親が『この子を皇帝に!』と本格的に考え始めた原因である。

 

……え? そんな面倒につながるのならなら隠せばよかったって?

 

うるせぇ当時はそんなこと知らなかったんだよ!

 

 

(いやだって魔法とかあるなら、こういうスキル的なものもよくあるのかなぁ、って思うわけじゃん。実際スキル持ってる人を何人か見かけたし。だったらこの世界に詳しいだろう両親に聞くのは普通な訳じゃん。『こういう力持ってるっぽいんですけど、他にもいるんですか?』って聞くじゃん普通。)

 

 

そしたら死ぬほど驚かれた上に、徐々に両親の顔が“親”から“貴族”に変化。

 

二人の脳内で急速に私を皇帝にするルート構築が行われたわけなんですよね。

 

一応母親からは泣いて喜ばれましたし、父親からも天井に頭ぶつけるほど高い高いされて褒められましたけど、あれ確実に『自分たちの野望を実現する明確な手段を手に入れた』ことに対する感情の発露、だっからかねぇ。

 

っと、まぁ色々脱線してしまったが、この『鑑定』。

 

その能力だけ見れば、結構便利なのだ。

 

 

(色んな使い方があるんだけど“対人”で使うと、その人の持ってるスキルだったり、特性だったり、色んな情報が見ることが出来る。……まぁでも、今日はスキルの有無ぐらいでいいかな。軽めの鑑定で。)

 

 

そんなことを考えながら、とりあえず一番近くにいた獣人の男性。

 

おそらくクマの血を引いているであろう彼に視線を向ける。

 

するとぱっと浮かび上がってくる青色の板。よくあるステータス表示に近しいものだ。私以外には見えないらしいし、ちょうど今は奴隷を“品定め”させてもらえる時間。あんまりモノ扱いは気が進まないのだが、選べるなら優秀な人が良いし、調べられるなら調べた方が良いでしょってことで。

 

 

( 【獣人族】【♂】【名前:ガ・ガガル】【23歳】でスキルは無し。……この人はごめんなさいかなぁ。)

 

 

かなり体格がしっかりしているので優秀な前衛になってくれそうだが、今回はご縁が無かったということで……。

 

ちなみにこのさっきから言っているこの『スキル』だが。この世界独自の特殊能力みたいなものだ。ゲームとかによくあるスキルと同様に、特殊な力が使える感じ。

 

ただまぁ死ぬまでその存在に気が付かない人間も多いし、全く使い物にならないスキルとかもある。そもそも持っている人間が少ないということで、そこまでステキなものでは無い。親から子に受け継げるものでも無いみたいだしね。

 

けれどまぁ皇族が受け継いでる『鑑定』はちょっと特殊で、継承できるうえに『他人のスキルの使い方を視ること』すらも出来る。他にも色々悪用方法があるし、これがあったから初代皇帝陛下は国を起こせたんだろうなぁ、って力だ。

 

 

(これから行うダンジョン攻略。魔物とか色々出てくるみたいだし、折角選ぶなら強いスキル持ってる人が良いよねぇ。)

 

 

私自身は戦えないが、『コイツ奴隷だけ危険なダンジョンに放り込んで、自分は家でぬくぬくしてる。機械があったら殺そ!』と思われないためにも、攻略自体には同行するつもりだ。親への兼ね合いもあるしね?

 

だがそんな時に肝心の戦力である奴隷が弱ければ、諸共攻略中に死亡。魔物に食い殺されてしまう事だろう。

 

とまぁそんなわけで。

 

今回自身が探している奴隷。もとい人材は、強力なスキルを持っている人だ。

 

勿論最初から奴隷商さんたちに『スキル持ってる人探して♡』と言えば色々と話が早いのだが、その場合見つかる可能性はぐっと下がるし、値段もかなり吊り上げられてしまう。何せ本人が使い方を理解しており、同時にそのスキルが有用な人材を“他”が放っておくことなどありえないからね。

 

 

(懇意にしてるどこかの貴族の家に売り込んだ方が早いからねぇ。)

 

 

つまり、今回探してるのは『自身がスキル持ちだと気が付いていない』人材。掘り出し物の人材だ。

 

確かに最初はその使い方が解らないだろうが、『鑑定』を用いればその指導も可能。こちらで使い方を教え、見合った戦術と装備を整え、ダンジョン攻略に勤しんでもらう。うんうん、正に完璧な作戦。購入の際は通常の奴隷、スキル無しの奴隷として売買されるのでお財布にもありがたい。そして余ったお金を趣味となどの他に仕えるのがとてもいい。

 

前世でよく遊んでた育成ゲーム的な感じでちょっと楽しそうだし、奴隷さんたちが頑張ってくれれば、私は後ろから応援するだけ済む。うんうん、とってもステキな計画だよね!

 

……まぁ実際の人間を扱ってる時点で、『ゲームだ!』って無邪気に楽しめるほどこの世界に染まってないんですけど。

 

 

(罪悪感との戦いになるから、出来るだけ“バトル”が好きな子が……。お?)

 

 

並んでくれてる獣人の皆様を鑑定しながら眺めていると、ようやく『スキル』持ちを見つける。

 

どんな方なのか興味を持ち、一瞬だけ鑑定の表示を解除し顔を見てみると……。

 

 

(……これは。)

 

 

ピンと張った天に伸びる耳に、細く伸びた鼻。

 

そしてその鋭さに相応しい整った顔つき。冷静沈着さを思わせる表情と、短めに切り揃えられた尻尾。艶のある黒髪と茶色に近い肌からおそらく犬系、ドーベルマンなどに近しい犬種の獣人。その少女だ。

 

少々あどけなさが残っているが、可愛いというよりもカッコいいと言った方が合致しているであろう容姿。……あと何より体のメリハリが凄い。胸部も臀部もかなりの装甲を持っていらっしゃる。

 

それに少し飲まれながらも、視線が下に向かわないよう注意を払いながら思考切り替え。すぐに『鑑定』を再起動し、その内容を確認し直す。

 

 

( 【獣人族】【♀】【名前:ライカ】【17歳】。それでスキルが……、『分身』!)

 

 

即座に意識をその『スキル』に集中させ、より細かな情報をチェック。

 

うんうん、実体のある分身を生成可能で、現在は1体のみだが熟練度を上げることで数を増やすことが可能。更に分身内での情報の共有が可能で、強さも本体と据え置き。もちろん装備品まで複製可能なので、完璧な状態での分身が出てくる。

 

しかもこういう能力によくある『誰が本体なのか』という状態に陥らないように、その辺りの区分はしっかりついているタイプ。発動条件もかなり簡単で、再使用までの時間もほぼなし。

 

……は? 最強か?

 

この子絶対に採用したいんですけど!!!

 

 

「おやエド様。気になるものが?」

 

「……えぇ彼女は?」

 

「確か……。名はライカ。2年ほど前の外征にて確保された個体ですな。犬の獣人ですので、信頼関係を築けば良き奴隷になることかと。戦闘への意欲も高く……、直接お話になりますかな?」

 

「ぜひ。」

 

 

完全なモノ扱いに少し表情が動いてしまったのだろう。即座に彼がこちらの変化を察知し、話題の変更を問いかけて来てくれる店長。

 

この世界。というかこの国では、こういった感覚は異端に分類される。

 

奴隷はモノであり、人ではない。それが他種族であれば猶更なのだが……。目の前で此方に視線を向ける彼女、犬の耳と尾を持ちながらも人に近しい彼女を見ると、酷い罪悪感に襲われる。私からすればどう見ても“人間”判定なのだが、この国で生きる人からすれば犬耳と尻尾がある限り完全な別種族。き、気持ちはわからんでもないけどさぁ……!

 

脳内でそんなことを考えていると、いつの間にか店長が指示を終わらせていたのだろう。彼女が口を開いたことで、意識が現実へと戻っていく。

 

 

「ではライカ、お客様が会話をお望みです。口を開きなさい。」

 

「おう!」

 

「……は?」

 

 

思い切りのよい元気な声が響き渡るが、即座に突き刺さる商館長の声。

 

 

「あ。……あ、その。はぃ。」

 

「……自由に喋っても良いですよ?」

 

 

若干ショボショボとしながら小さく返事する彼女に、一応フォローを入れておく。

 

……成程? 黙ってれば凛々しい感じの元気っ子だな?

 

というか今のやり取りで、彼女に突き刺さる商館長さんの視線が随分と鋭くなった。多分この場ですべき受け答えの仕方というか、マナー的なものを前々から教わっていたんだろうけど、それを反故にしちゃった感じ。

 

隣にいる他の獣人とかも『コイツ終わったな』って顔してるし、人によっては結構不味いやらかしだったのだろう。

 

 

「い、いえ! そのような訳には! 、た、大変申し訳ございませんエド様! すぐに“対処”の程を……!」

 

「いえいえ、構いませんとも。気にしていませんから。それで……、ライカさんでしたか?」

 

「お、じゃなくて。……はい。」

 

「自身はダンジョンに共に潜る仲間を探しています。私に買われた場合、それについてくることになるでしょう。それについてはどう思いますか? 魔物などとの戦闘に関する意見を聞かせてください。」

 

 

そう聞けば、すぐに口を開こうとする彼女だったが、即座に突き刺さる商館長からの視線。

 

さっきも一瞬『おう!』と言いかけていたし、あまり畏まった話し方を得意としない子なのだろう。ただ彼からすれば自分たちの教育が行き届いていないことへの証明になっちゃうので、『ちゃんと喋れよお前! 殺すぞ……!』って視線を送っちゃうのも理解できてしまう。

 

でも私、そういうの気にしないので……。

 

あ、商館長さんからしたらそう言う問題じゃないのね。すいません口閉じます。

 

 

「えっと、その。戦うのは、好き……、です。ま、魔物も、人も、大丈夫……、です。」

 

「良いですね。ちなみに得物、武器は何を?」

 

「剣……、です。」

 

 

なるなる、剣士ちゃん。

 

ウチの家はどっちかというと槍の家だったからあんま数ないけど、確か実家の蔵に良い感じの奴があったはず。彼女が好みとするタイプの剣かは解らないけれど、持ってきてもらうのもアリかもしれない。アレ私が生まれる前から放置してたみたいだし、武器は使ってこそだからねぇ。

 

……腹違いのマミーたちがなんか言ってきそうだから、実現するかは解んないけど。

 

 

「では、何か。したいこと、やりたいこと、欲しいものなどはありますか? 私が購入する場合、主人として出来る限りのことはしたいと思っています。その方がやる気も出るでしょうし。」

 

「肉! ……じゃなくて、あの。肉が、食べれたら、そ、それで……。」

 

 

若干こっちの声にかぶせる様に、そう叫んだ彼女。

 

けれどまぁ商館長さんからの視線によって、すぐにショボショボし始めるライカちゃん。は? 可愛いかよ? うんうん、お肉ね。おじさんたらふく食べさせてあげるからね! ……流石に今の見た目で自認おじさんは色々問題あるか。前世と合わせたら結構な年だけど、今の身体は成人したてだしねぇ。

 

 

「成程……、商館長。」

 

「あ、あの。その、エド様。この度は大変、大変申し訳なく……!」

 

「いえいえ、本当に気にしていませんから。……それでなのですか、彼女の購入を検討しております。詳細を聞かせて貰っても?」

 

「ま、誠ですか!?」

 

 

うんうん、マジマジ。

 

いいじゃんこういう元気いっぱいの子。周囲がどう思うか考えるとちょっと面倒ではあるけど、奴隷とか主人とかあんまり気にせずに接してくれそうな性格してるっぽいし、こちらとしてはとっても助かる相手になりそう。こちとら感覚が前世に引きずられてるから、頭下げられて敬われるの色々と対処に困るんよ。あと仲よく出来たら私のこと殺さずに見逃してくれそうな気がする。

 

それに、スキルがあからさまに強いヤツだし……。

 

うん、他の誰かに取られる前に確保しておきたいです。

 

だ、だって、使い方次第でヤバいほど化けるよ、『分身』って! この場にいる時点で本人もスキルの使い方解ってないっぽいけど、使える様になった瞬間、確実に『貴族向け』! いや『皇族向け』の商品になっちゃう子よ!? みんな喉から手が出るほどに欲しい子になっちゃうよ彼女は!

 

なら今のうちに保護しておかないと……!!!

 

 

「あの、えっと……。よろしくな! ご主人!」

 

「お、お前ッ! 奴隷の分際でッ!!!」

 

「ぇ、ぁ、その。よろしく、お願いします……。」

 

「はい、こちらこそ。それと、私の元に来てくれれば、自由に喋ってくれていいですからね? 堅苦しいのは好みませんし、その方が楽でいいでしょう。」

 

「ほんとか!? やった!!!」

 

「ッ! え、エド様! ほんと! 本当に申し訳なく! こ、こちらの教育不足で大変不快な思いを……!!!!!」

 

 

いやだから大丈夫ですって商館長。

 

……え? 貴族でしかも皇位継承権持ってる相手に奴隷如きがため口とか、販売元が一族郎党縛り首レベルの失態? まぁそれはそう。この世界の貴族、権力強いからね。

 

あ、しないよ!? しないからね! ほんと気にしてないからね! だから店長! 首差し出してこないで! いらないから! いらないから! ほんと大丈夫だからッ! あとライカちゃん切り殺そうとしないで! その子大事! というか買うから! ステイ! ステーイ!!!

 





〇主人公 エド

伯爵家の四男。1/4皇帝、1/2伯爵、1/4平民。

平民の血が足を引っ張ってはいるが、親の伯爵の影響力が強く、彼の割合であれば継承権を認める法があるため皇位継承権を持つ人間の一人。転生者ということもあり幼少期から一定の才を見せてしまい、両親から期待され皇帝になることを求められている。

現在一人でダンジョンのある都市に叩き込まれ、仕方なく色々準備中。

本人の気質から皇帝や貴族などの面倒ごとは苦手で、いつ崩壊するかもわからないので可能な限り逃げたい感じ。しかし生活の大半を親に握られている手前逃げ出すことも出来ず。仕方なく従っている。両親も何となくその辺りは理解しているので、良い感じに縛って趣味の歴史書集めなどの資金を手渡してる感じになる。趣味で釣って勉強やらせる、みたいな。

なのでエド本人からすれば、両親をギリギリ満足させながら、皇位継承戦に挑み、良い感じに善戦して敗退。次の皇帝に暗殺されないように皇位に興味がないことを示しながら田舎に隠居することが目標。

両親への説得は『こ、今回は無理だったけど次の皇帝は自分か自分の息子が狙いに行くから……』で誤魔化す予定。あとは死ぬまで歴史研究だ! え、子供? 自分みたいな思いしてほしくないし、それまでにこの国残ってるか怪しいし、そもそも結婚するぐらいならその時間全部研究に費やしたいし……。やだ! 独身貴族で隠居するの! というスタンスな模様。

皇族だけが持つ『鑑定』の力を持ち、対象の能力を判別することが可能。詳細は追々。





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