皇帝に成りたくない男の不本意奴隷ハーレム   作:サイリウム

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21:ライカのオーガ戦

 

ご主人たちと一緒に既に見慣れてしまった石の階段を下りて行けば、やはり見慣れた土壁と松明。この迷宮の1~10階層に見られる“洞穴”に近しい光景が目に入るが……。

 

 

(でかい。)

 

 

そんな質素な壁とは不釣り合いなほどに大きな、鉄の扉。『この先に何かある』と思わせるのには十分な扉が、アタシたちを迎え入れてくれる。

 

この先に、オーガが。前回はみすみす逃げる事しか出来なかった相手がいる。

 

あの敗戦から、アタシはずっとオーガに勝つために剣を振っていた。けど、時間にしたら一月も経っていない。ご主人のおかげで途轍もなく濃厚な時間を過ごさせてもらってるから色々と勘違いしてしまいそうになるが……。積み重ねられた時間は短いのだ。

 

ご主人のおかげで、分身というスキルが使えるようになった。リシエラの指導のおかげで、より器用に戦えるだけの技量を見ることが出来た。……けれど、そのすべてを手に入れたわけでは無い。先輩のおかげで自分が進む道を理解できたが、まだ歩き始めたばかり。技量的な向上はそこまでだし、あれから毎日鍛えていたが身体能力の向上もそこまで。強くなったと言っても、おそらく誤差。

 

 

(オーガとの差は、あんまり詰められてない。)

 

 

ご主人によると、奴らは人喰い大鬼とも呼ばれる強大な存在だそうだ。

 

訓練を積んだ屈強な戦士でも、普通に食い殺される可能性がある強敵。人類種よりも大きな肉体と、高い身体能力。魔法への耐性もそこそこあり、その図体に見合った体力も持っている。

 

迷宮の魔物は“生まれたて”ゆえに考えなくても良いらしいが、外に出現し人から武器や技術を学んでしまったオーガとなると。国がわざわざ軍を動かすレベルまで発展する様な存在。

 

それが、オーガだ。

 

一度みっともなく逃げてしまったという負い目もある。ある意味師匠とも呼べる先輩に『イケる』と言われても、不安がぬぐい切れない相手だったが……。

 

 

「ライカ?」

 

「ッ! な、何でもないぞ!」

 

 

思わずそう返してしまうが、咄嗟の事だったので少し声が変になってしまった。

 

少し不安になってしまい、思わずご主人の方を見てしまうが……。そこにあったのは、アタシのことを優しく包み込んでくれるような笑み。

 

 

「大丈夫ですよ。今はリシエラさんもいますし。それに、また何かあれば一緒に逃げればいいだけのことです。それ用のアイテムも、用意してるわけですしね。」

 

「……だな!」

 

 

そうだ、不安になっているような場合ではない。

 

アタシよりも何倍も強い先輩がいるし、何よりこのご主人はアタシを置いて逃げるなど、絶対にしない人だ。そうじゃなきゃあの時一緒に戦おうとしてくれなかっただろうし、度胸を示すことも無かった。他の人間族は糞野郎だが、この雄だけは信頼できる。

 

何を持ち込んだのかは知らないが、コイツが大丈夫と言うなら、大丈夫なのだろう。

 

 

「しッ! 開けるぞご主人!」

 

「えぇ、頼みます。」

 

 

先輩から何か嫌な視線が飛んで来ている気がするが、そちらには向かず無視し、突入することを宣言する。

 

この鉄扉を開ければ、ボスに挑めるのだろう。ちょっとだけ力を込めて、その扉を押し込もうとするが……。軽く押し込んだだけで、ゆっくりと、しかし自動的に扉が開き始める。そしてその隙間から徐々に表れてくるのが、此方に背を向けた大鬼。

 

扉が開く轟音に寄って、侵入者の存在に気が付いたのだろう。

 

オーガの視線が、アタシの目と合った。

 

 

「“突撃”」

 

「ッ!」

 

 

一瞬怯みそうになった体が、ご主人の声によって弾かれたように動き出す。

 

あの人の声は、よく響く。そしてソレに従っておけば、勝てる。そう信じさせるだけの何かがあるのだ。それをアタシの頭も、体も、よく理解していたのだろう。だからこそ、動いてくれた。そして一度動き出してしまえば……。

 

アタシは“戦士”として剣を振るえる。

 

相手の得物は、大きな棍棒。体力はあちらの方が高く、打ち合いに持ち込まれれば敗北しかない。つまり選ぶべきは、攻撃して離れるを繰り返すヒット&アウェイ。そしてその流れを作るには……、最初の一撃は、アタシがぶち込んだ方が良い。

 

 

(潜り込んで切りつけるッ!)

 

 

こちらの動きに合わせオーガも迎撃に動こうとするが、それよりもアタシの方が早い。

 

大きく横薙ぎされる棍棒よりも早く、その懐に入り込む。そして強く踏み込み、狙うのは棍棒を持っている利き腕であろう筋。それまでの突撃の勢いを乗せた、全力の振り上げを叩き込む。

 

 

「だらぁッ!!!」

 

「グギッ!?」

 

 

敵の悲鳴と共に、一瞬だけ肉に組み込む剣。

 

けれど相手も全力で力を入れたのだろう。完全に筋を断ち切るよりも早く、剣の動きが止まってしまう。

 

可能ならばこの一撃で相手の利き手を無力化し、その脅威度を大幅に落としておきたかったのだが……。出来なかったのであれば、それを受け入れ次の動きに移るべき。何せ相手は、この攻撃で小さな悲鳴を上げる程度には痛みを覚えたのだ。

 

アタシが今いる時点に、全力の反撃がやってくるのは時間の問題。

 

 

「ッ!」

 

 

剣を握っていた手から力を抜き、さらに踏み込み前へと突撃する。

 

自身の視線の先にはオーガしかなく、完全な行き止まりでしかないが……。それでいい。

 

勢いそのままにオーガの足を踏み台にし、両足を相手の腹へ。そこから全力で蹴り込むことで、全力の退避を強行する。あまり良い足場では無かったので綺麗に飛ぶことは出来なかったが、距離を取れればそれでいい。

 

若干相手の体がブレ、直後アタシが先ほどまでいた場所に、オーガのもう片方の手が突き刺さる。

 

 

(……思ったより、削れない。)

 

 

さっきの“踏み台”。

 

回避と同時に相手の体幹を揺らし、体勢を崩させることも目的だったのだが……。想像以上に揺れてない。流石に転ばすことは出来ないと思っていたが、軽く重心がズレたぐらいで、敵の攻撃はアタシがいた場所。それと全く同じ場所に叩き込まれていた。

 

確かに威力は弱くなっていたが、敵の狙いは正確。“照準”を狂わせるほどの攻撃は、出来なかった。

 

そのせいか相手との力量差を改めて理解してしまうが……。

 

それでも。ダメージを与えられたのは、確かだ。

 

 

(棍棒の方の腕、利き腕に傷を入れた。まだ振るえるけど、全力は無理なはず。)

 

 

なら、十分。

 

そう考え次の行動に移そうとした時、アタシの耳が声を捉える。

 

ご主人だ。

 

 

「“次、右から直線。走り抜けて回り込み”」

 

「おうッ!」

 

 

その声と共に、体が動き出す。

 

おそらく鑑定の力か何かで、相手の状況を確認してくれたのだろう。深く考えることはせずに、その指示の通り相手の懐に向かって走り始める。

 

狙うのは、アタシから見て右。つまりオーガの左腕で、棍棒を持っていない無傷な方。一瞬ダメージを与えた利き腕の方に突っ込んだ方が良いのではと思うが、ご主人の言うことに間違いはないはず。ただ相手の存在を視界に入れながら、突っ走る。

 

 

(……そこッ!)

 

 

迎撃の為に振るわれるオーガの腕。

 

それをすり抜ける様に動きながら、剣の刃を這わせる。深く切り込むことも、押し込むこともせず、刃だけを当てる。普通の刀剣であれば刃どころか剣すら壊れそうな扱いだが、コイツの頑丈さは使ってるアタシが一番よく解っている。薄傷だが確実にダメージを与え、ご主人の指示通りその後ろに回り込む。

 

つまり目の前にあるのは、さっきの攻撃によって無防備に晒された、オーガの背中。

 

 

「でりゃァッ!!!」

 

 

足でブレーキを掛けながら、全力で地面を蹴る。そして体重を乗せながら、狙うのは背骨の横。

 

骨に当たると、剣を止められてしまう。先輩に教えてもらった通りに、皮と肉を傷を与える攻撃。多少骨に当たってしまい、剣から変な音が鳴るが……。今は気にしない。ただ、全力で切り抜けようとする。

 

 

「“後退”」

 

 

攻撃の途中に鋭く響く、その声。

 

体が弾かれたように動き出し、その場から全力で後退を始める。叩き込んでいた剣を斜めにずらし、骨に当てることで支えに。そこを起点に後ろに飛んだ瞬間。オーガの背中が脈動を始める。

 

 

(ッ! 振り回しッ!)

 

 

相手の振るう棍棒が、逃れようとするアタシの剣。その切っ先に当たる。

 

そして響くのは、耳を塞ぎたくなるような金属音。

 

同時に腕が吹き飛ばされ、途轍もない振動が、全身に襲い掛かる。

 

 

「ライカッ!」

 

「……いけるッ!」

 

 

空中で受けた衝撃を殺し切れずに、地面を転がりながら吹き飛ばされてしまう。

 

剣を持っていなかった方の手で何とかブレーキをかけ、思わず声をあげたご主人に返答するが……。腕の痺れが、マズイ。

 

自身の腕。そして得物に視線を向ければ、半ば程から変な方向にひん曲がったアタシの剣が。

 

そこら辺の数打ちであれば曲がるどころか根元から吹き飛ばされていただろうが、やはり作り手の腕がいいのだろう。変な方向に曲がってしまっただけで、まだ“刃”としては使えるだけの性能を維持している。剣としての使用は難しいかもしれないが、戦闘続行は可能だ。

 

だが……。

 

 

(ッ!)

 

 

腕の痺れが、取れそうにない。

 

おそらく骨などには達しておらず、休めば十分に回復可能なレベルだろうが……。この戦闘中は、無理だ。

 

一瞬だけ『分身に受けさせていれば?』という思考が過ったが、アレは感覚。痛みなどの情報も共有してしまう。実際に痺れて動かせなくなることは無いが、その感覚はアタシの体を蝕み、真面に動かすことは難しくなっていたことだろう。

 

それに、このオーガ。このリベンジには『切り札』を最後の瞬間まで取っておくつもりだった。どちらにせよ、考えても仕方のないことだ。

 

 

(けど……、どうする?)

 

 

腕がしびれている以上、しっかり握って振るうことは難しい。

 

オーガの表皮、そして筋肉の固さは身に染みている。利き腕ではない左で振るったとしても、威力はお察しだろう。しびれている方ならなおさらだ。戦う意思は有れど、体が付いてこない。ほんの少しだけ、アタシ一人だけで戦うことを諦め、先輩のサポートを受けることを考えてしまうが……。

 

それは、『戦士』じゃない。

 

強者におんぶにだっこで、何も挑戦しない様な奴。強敵に立ち向かおうとする度胸を見せない奴。勝てるか勝てないかじゃなくて、立ち向かうか否か。肉体的な強さも大事だが、心の強さも大事なのだ。アタシよりも強い人がいて、何かあれば介入して身を守ってくれるという“恵まれた環境”で、そんな恥ずかしい事出来るわけがない。

 

 

(……それに、ご主人が見てる。)

 

 

なら、多少の無茶ぐらい。しないと。

 

 

「ッ!」

 

「……“左から右へ。斜め下から、上へ”」

 

 

しびれた腕で剣を持ちながら、行うのは再度の突撃。

 

ご主人としては、本意では無いのだろう。お優しいあの人らしく、アタシがこれ以上傷つくことを望んでいないように、若干指示に遅れがあった。逃げてもいいと、先輩を頼ってもいいと、逃げ道を指し示してくれる様な優しい間。でもこの身が走り出すのを見れば、しっかりと受け止め言葉を送ってくれる。

 

アタシが望むならば、答えてくれる。信じてくれる。なら、それだけでいい。あの人の剣であるアタシは、その指示通りに動けばいい。

 

 

(こう、だよなッ!)

 

 

一瞬だけ体を左に向け、オーガの攻撃を誘発させる。

 

こちらの動きに相手が反応しようとした瞬間、全力で地面を蹴り反対方向へ。そのまま通り抜ける様に、その腕の下を通ろうとする。

 

 

(でも対応は、してくる!)

 

 

下からの滑り込みは、さっきも見せた動きだ。

 

オーガもバカでは無いのだろう。ソレに合わせ崩れかけた体勢を立て直し、その腕と棍棒で迎撃しようとして来るが……。その腕を足場に、上へと逃げる。全部、ご主人の指示通りだ。

 

そして、上に飛び上がり。相手との目線が“合った”この瞬間。

 

 

(ここが、決め時ッ!)

 

 

瞬間意識するのは、アタシの重心。ご主人が教えてくれた“丹田”。

 

そこに力を籠め、大きく広げることで、意識できるようになるもう一つの何か。

 

後は、唱えるだけでいい。

 

 

「『分身』ッ!」

 

 

瞬間、オーガの背後に出現するアタシ。

 

突然のことでオーガが急いで後ろを確認しようとするが……、それでいい。

 

もう一人のアタシと視線が合い、両者同時に動き出す。

 

互いに互いを共有しているのだ。言葉など使わずとも、すべきこと。やるべきことは解っている。

 

 

「ッ!」

 

 

今のアタシを分身元にしているせいか、あっちも利き腕は使えない。そしてもう片方の腕だと、威力的に殺し切れるかの問題が出てくる。

 

なら……、もう一つ。手よりも強くモノを掴めて、振り抜けるものがいる。

 

オーガの身体を足場にしながら。未だ震えの収まらない腕を振るい、軽く剣を宙に浮かせる。そしてその持ち手に向かって思いっきり歯を突き立て……、“握りこむ”。幾ら布を巻くことで簡易の防護をしていると言えど、金属製だ。全力で噛み締めることでかなり痛みが走るが……、今はどうでもいい。

 

オーガの首が目の前にあって、その注意が削がれているのなら。

 

その首を落すのには、ここしかない。

 

 

 

「ガぁぁッ!!!!!」

 

 

 

分身のアタシと一緒に、剣をオーガの首に叩き込む。

 

体勢も悪く、口で振るうなんてことも初めて。でもただがむしゃらに、叩きつける。左側からアタシが、右側からアタシが。緩み切ったそこに、全力で。

 

歯を通して嫌な振動が頭に響くが、関係無い。肉を断ち切り、筋を断ち切り、骨へ。

 

そこまで行けば、後は意地。

 

 

 

 

「あぁぁぁああああ!!!!!!」

 

 

 

 

その衝撃で『分身』の肉体が崩れ始め、もう一人のアタシが此方に戻って来るが……。

 

視線の先に見えるのは。空に浮かぶ切り離された……、オーガの首。

 

なんとか、勝った。

 

一人で、勝てた。

 

途轍もなく、嬉しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

け、ケド……。

 

 

 

「は、歯がッ!?」

 

 

 

し、死ぬほど痛いッ!!!!!

 

 

 





〇オーガ

この世界における『強敵』に分類される魔物。常人どころか十分に訓練された兵士でも単身での撃破が難しく、油断したりや統制に問題があれば100人規模の軍隊でも容易く食い散らかしてしまうような存在。雑食であるため何でも口にするが、人は良い感じのサイズなのか好んで食べる個体が多く、『人喰い大鬼』と呼称する地域もある。

ダンジョンに出現する存在は『POPした魔物』であるため基本的に生後数秒~数日。経験を積むことが出来ていないナチュラルで若干弱い存在であるが、ダンジョン外の地上などで出現した個体は経験を積むことで異様に強化されている可能性が高い。特に人の武器や技術を手に入れてしまった存在は手が付かず、一部の強力な貴族、及び貴族軍。もしくは国軍が出動しなければ対処できない場合がある。

高い防御力を誇るその皮は防具に加工することが出来るが、柔軟性を維持することが難しいこと。そして人型であることから皮を剥ぐのを躊躇してしまうことが多く、一般には流通していない。一部の物好きが奴隷用の装備として使うぐらいの様子。ただその角は非常に高い薬効があるらしく、一部の冒険者が『奴隷1体ぐらいの犠牲なら十分利益が出る』ぐらいの売値が付くようだ。

今回のオーガはライカの歯、顎、首などを犠牲に首ちょんぱされた。(ちゃんと回復するのでご安心ください。ただし『分身』の効果で痛みは2倍。)





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