「だからウチはテメーみたいな雑魚に売るモノなんかねぇ……、って金蔓ご主人くんじゃないかにゃ! いらっしゃい、いらっしゃい、いらっしゃい~! ほらさっさと中入って金落としてけお得意様! 今なら全品300%値上げセール中だにゃ! というかもう財布よこせにゃ! それに合わせた防具用意してやるからよこせにゃ! あと早く入れクソ雑魚ゴミムシご主人くん!」
「あ、相変わらず煩いて酷い……」
店の扉を開けてみれば、謎の罵倒。それに少し驚いていると、やはり飛んでくる言葉の羅列。
かなりの声量でマシンガンの如く言葉を投げかけて来る彼女は、チャナタアさん。この『ドロン=チャナタア防具店』の店主さんだ。
まぁ正確には、もう一人のドロンという方と一緒に経営しているらしいが、そちらの方にはまだ会ったことがない。まぁこの店主さんだけで正直お腹いっぱいだし、基本的に奥で作業しているらしい。その方の技術力は並んでる装備品の質から見て取れるし、もしかするとあまり他者と関りを持ちたくないタイプかもしれない。機会があればご挨拶する程度で問題ないだろう。
とまぁそんなわけで。今日は実家で起きるかもしれないアレコレに対応するため、防具の更新に来たのだが……。
「お? お? その後ろにいるのは、いぬっころ! オーガ如きに剣曲げられて泣きべそ掻いたいぬっころじゃにゃいか! もうおむつは卒業できたのかにゃ? それとも悪いのはおつむ? ほらお姉ちゃんが飴ちゃんくれてやろ! にゃーはっは!!!」
「な、泣いてないし馬鹿じゃないもん! ……飴はもらう。」
顔を真っ赤にしながらも、普通に店主から飴を貰うライカ。
その後の泣きべそ事件のせいで忘れがちだが、店主の言う通り彼女はあのオーガ戦で武器をかなり痛めつけてしまっている。刃は欠けてしまったし、刀身は幾分か歪んでしまった感じだ。
店主が言うには単の鉄製で数打ちだったが、その等級はかなりのもの。
ライカ自身ももっと自分が良い剣の使い手であれば。それこそリシエラさんレベルの剣を扱えていれば、武器を壊すことは無かったことを自覚しているのだろう。
そのせいかどうやら強く出れないようで……。
(……まぁぷんすか顔を真っ赤にしながら怒っても、抑えるしか出来ないライカには可愛いものがあるよね。)
「わかるにゃ」
「わかるわね」
「ナチュラルに心読まないでください。」
急に後ろから声をかけて来る2人。
リシエラさんに読まれるのは何となく理解できますけど、店主さんは何故に? あ、顔に書いてた。
書いてたか……。
「そして出たな変態エロフ! 【自主規制】!」
「お久しぶりね店主さん! 【自主規制】【自主規制】【自主規制】!」
「……ご主人、なんでアタシの耳塞ぐんだ?」
「聞くに堪えない言葉だからです。」
そして急にハイタッチしながら、エグイ言語の応酬を挨拶として行う彼女達。
変人と奇人は惹かれ合うというか、変態と狂人は波長が合うというか。
実はこの2人。初対面時から結構仲が良かったりする。
こうやって3人一緒にこの店を訪れたのは今回が初めてなのだが、実はリシエラさんがダンジョン攻略に参加する前、2人で店に顔を出したことがあるのだ。現在もリシエラさんが使用しているショートボウや簡単な装備の購入に来た感じね?
あの時はライカが『行きたくないぞ!』と明確に拒否したので、私が付いて行くことになったのだが……。
「あの時から色々ヤバかったもんなぁ。……いつの間にか凄い事話してるし。」
「だ~か~ら! ネコミミは人間族が付けるのが一番いいにゃ! ついでに尻尾は【自主規制】にして【自主規制】を【自主規制】するのが最適だニャ! 羞恥! 羞恥が至高にゃ! 単なる猫耳獣人族なんて外道にゃ! 面白みがないにゃ!」
「違うでしょうがッ! 世界はあるがままが良いのよ! そういうのは味変で、最初は【自主規制】【自主規制】【自主規制】【自主規制】なのよッ! しょっぱなから道具に頼るなんて愛がないわ! 技術を磨きなさい!」
「にゃにおうッ!!!」
「こんのわからずや!!!」
「……ご主人。」
「お願いだからライカはあぁ成らないでくださいね。」
「おう。ご主人も染まるなよ?」
「神に誓って。」
は~い、そこの変態狂人コンビ。
性癖談義はいいですが、そのぐらいにしてくださいね?
「ちッ! 今日はここまでにしておいてやるにゃ!」
「それはこっちのセリフってもんよ! ……それで店主さん? 装備の更新をお願いしたいのだけれど。」
「あ、やっぱにゃ? んじゃ見繕ってやるにゃ~。」
此方から静止の言葉をかければ、すぐに収め先ほどの争いなど無かったように言葉を交わし始めるお二人。
一応取っ組み合いの大喧嘩レベルまで言い合っていた気がするんですけど……。何なんでしょうねあの人たち。色々とバケモノじみているリシエラさんについて行っちゃう店主さんに驚けばいいのか、明らかに頭がアレな店主さんに乗っかってるリシエラさんに恐怖すればいいのか。なんかもうよく解らないんですよね。
……とりあえず、真面目に商談しましょうか。正気を保つにはそれが良さそう。
「では店主。最初は、前衛職のライカからお願いできますか?」
「おけにゃ。んじゃライカちゃん。またちょっとお手するにゃ!」
「だから犬じゃないぞ。」
そう言いながらも、ちゃんと手を差し出す彼女。
店主さんはそれを軽く触り、ほんの少し覗き込んだ後。すぐに店の奥に引っ込んでしまわれた。おそらく今の彼女に見合った防具を取りに行ってくれたと思うのだが……。
「ほいにゃ! 前より若干筋肉のズレが減ったっぽいから、今日から部分金属鎧を解禁にゃね! 胸とか太腿とかそういうの! 大事なとこだけいい感じの軽銀を張り付けた奴にゃよ! ほんとはもうちょい固い金属の方が良いにゃけど、ちょっとまだ筋力足りないにゃ! もうちょっと鍛えろワンワン! あ、前より防御力は上がってるからそこは安心するにゃ。」
「……拝見しても?」
「勿論にゃ!」
店主に許可を取り『鑑定』してみれば、案の定“上級”の等級。
装備品のランクのようなもので、資金力のある貴族が名工にたらふく素材と資金を投入してようやく手に入る様なレベル。宝物庫に納めておくレベルではないが、上位貴族が戦時に身を護るのにふさわしい高級品と言えば、このようにポンと出てくるような品でないことはご理解いただけるだろう。
相変わらず、腕だけはいいようで。
「ん~、今着てる服の上からいけるにゃね! んじゃぱぱ~と……。出来たにゃ! ほいほいどうだわんころ! なんか動きに支障あるかにゃ? 裏でちょいっと手直ししたから万全な筈にゃ! ほらちょっとそこでジャンプしてみ! 動けにゃ!」
「お、おう。……お~。」
どうやら以前の皮鎧とほとんど違いが無かったようで、静かに感嘆の声をあげているライカ。
彼女が今装着しているのは、以前の皮鎧に金属を張り付けたようなタイプ。余り厚さが変わっていないように見えるため、おそらく張り付けた金属は薄め。しかも軽銀と言っていため、アルミニウムのようなもの。防御力はあまり期待できなさそうに見えるが……。
『鑑定』で見る限り、前の皮鎧に比べてかなり防御力が向上している。おそらく私の知らないこの世界独自の製法で生み出されたものなのだろう。少々その辺りが気になるが、今はライカだ。
……うん、問題なさそうだし、ちょっと嬉しそうな顔をしている。
(個人的にはもうちょっと重装甲。全身鎧みたいなのを着てくれた方が安心だけど、彼女はスピードタイプ。装備の重さを気にするだろうし、あまり口出しするべきじゃないんだろうね。)
ちょっと視線をずらしてリシエラさんを見てみれば、彼女も頷いている。ライカの指南役でもある彼女に問題ないのならば、自身から言うことは無い。
ライカの分はこれで決定だろう。
さて、あとはリシエラさんの分だが……。
「うんうん、気に入って貰えて何よりにゃ! んでそこのエロフは……。適当に皮ローブでいいかにゃ? マジで何でもできるオールラウンダータイプにゃけど、さっき手触った感じ、今は弓と魔法の複合にゃ。そこの雑魚ご主人抱えて逃げるの考えたら軽装が良さそうだし、色々搦手仕込むためにも長めのローブな感じにゃ? やろうと思えば全身金属鎧も行けそうにゃけど、嫌いそうだし。」
「……やっぱ貴女いい職人ね。」
「にゃぁーはっは! 当り前にゃ! んじゃこれね?」
「……思い描いてたのがすぐ出てくるの。怖いくらいね。」
そう言いながらリシエラさんが見せてくれるローブに『鑑定』を掛けてみれば、案の定『上級』。
流石に金属が使われているライカの部分鎧に比べれば防御力が落ちるようだが、下手な職人が売った金属鎧よりは防御力が高そうに思える。それに、リシエラさんに合わせたのか弓や魔法が使いやすい様に少々手が加えられているようだ。内ポケットの数も多いみたいだし……。
マジでこの店主。口を溶接しておけば完璧じゃない?
「んで、最後はそこのクソ雑魚ご主人にゃケド……。相変わらずゲロみたいな体してるにゃね?」
「げ、ゲロって……。」
「あ~。まぁちょっと歪というか。センスはないわよね。」
「ご主人の走り方、変だったもんなぁ。」
「だからお前に売るもんはねーにゃ。ウチの店はゴミムシに売る品なんて作ってにゃいし、売る気もねーにゃ。というか使ったらにゃーがぶっ殺しに行くにゃ。あと単に飾るために買うような奴は族滅しに行くにゃ。というわけでそこのエルフとワンワンに大人しく守られとけ。」
「あ、うん。はい。」
あ、あんまりこういうのは言いたくないんですけど、私一応伯爵家の四男ですよ? すごくいらないけど皇位継承権も持ってますし。
だからってわけじゃないですけど、暴言とかそういうのはご勘弁頂けないでしょうか? あと殺すとか族滅とか、危険すぎる言葉は勘弁してもろて……。
「嫌にゃ!」
「あ~。エド様? こういう店主さんのタイプって、相手が皇帝だろうと何だろうと話し方変えないやべー狂人だから、そういうものとして付き合った方がいいわよ? 判断基準が武器を振るえる戦士か否か、って所に集約してるみたいだし。……諦めが肝心って奴ね。」
「な、なるほどなぁ。」
や、やっぱりどうにもならない奴なんですね。
……けどこの人、持ってる技術的に絶対仲良くしておいた方がお得な人だからなぁ。たぶんやろうと思えば『上級以上』、高品質の素材さえあれば王家の人間が使うような『特級』レベルの装備とか作れそうだし。
と、とりあえず外で様子を伺ってるであろう護衛さんたちが暴走しないようにサインだけ送っておこう、うん。
「あ、でも! ドレスは作ってもいいにゃよ? 古来から言われてる通り、“女装”は男しか出来ないこの世で最も男らしい行いってのは周知の事実にゃ! おめかししたら結構いい感じに成りそうにゃし、ここはウィッグやアクセサリーも合わせて……!」
「店主、ちょっとその話詳しく。絶対クソ可愛くなるわ! そして完璧で完全な恥じらいッ!」
「辞めてね?」
「……ちょっと気になるかも。」
「ライカ!?」
み、味方がッ! 味方がいないッ!!!
と、とりあえず装備は選び終わったし、これで準備は完了! 本当は武器とかも更新したかったけど、新しい武器に慣れるまでの時間が取れなさそうだったから、ライカの前のと同じ剣と、リシエラさんの矢! あとは消耗品も一括で購入して終わり! 閉廷! さよなら!
後は食料とかの消耗品の買い込みと、実家に帰るまでの馬車の手配! でもその辺は単調で面白くないから色々カット!
というわけで2人とも! そんな悪魔のような事してないで、帰りますよ!
「「「え~~!」」」
え~、じゃない! あと店主さんも乗らないでッ!
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どうかよろしくお願いいたします。
……女装、いる?
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いる
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いらない