皇帝に成りたくない男の不本意奴隷ハーレム 作:あなたちゃん
え~、はい。
というわけで諸々の手続きを済ませまして、ライカちゃんの雇用手続きを完了。奴隷契約を『主人への攻撃不可』を始めとした最低限の制約にとどめ、颯爽と奴隷商館からオサラバ。その後は彼女用の雑貨などを購入し、彼女と共に自宅に帰って来たわけなのですが……。
「……もっと食べるかい?」
「うん!!!!!」
非常に良い笑みを浮かべながら、肉を口に入れたまま返事をしてくれる彼女。
奴隷商館にいた先ほどまでは勇ましい感じの『おう!』だったのだが、歓迎会用として彼女用の肉を買い込み始めた所から徐々に表情が変化していき、今はなんかもう親に対して甘えるかのような幸せそうな笑みを浮かべている。
おそらく大量の好物を前にし、初対面の頃にあったはずの薄っすらと存在していた壁が取り払われ、主人。いや雇い主として受け入れてくれたからこその変化なのだろうが……。なんかこう、凄く不安になって来た。
お前、肉だけで懐柔されてるけど。それでいいんか? いや最初からフレンドリーな感じで色々と助かりはするんですけどね?
「じゃあもっと焼きましょうね。それと、こっちは焼けたので全部食べて良いですよ。」
「ありがとうご主人!!!」
「歓迎会みたいなものだからね。好きなだけ食べちゃってくださいな。」
そう言いながら空いたフライパンを一度紙で拭き、油を敷き直しながら肉を投入していく。
今後どうなるかは解らないが、折角ウチに来てもらうことになったのだ。最初の思い出くらいは楽しく、そして盛大にすべきだろうと思い歓迎会を開催したわけなんですけど……。ほんとこの子お肉しか食べないね。うん。
一応付け合わせのサラダとか、この国の主食であるパンとか。犬系獣人である彼女でも食べられそうなものを色々用意したんだけど……。
い、いや。楽しく食べてもらえるだけでコッチとしては嬉しいんですけどね? 今のうちに好感度稼いでおいて、今後殺されにくくするのは私の至上命題みたいな所ありますし……。
(まぁあの商館での食事も、あまり良いものでは無かっただろうし。喜んでもらえたのならそれでいいかな?)
そんな私達が現在いる場所は、この町における拠点。ウチの両親が用意してくれた屋敷となっている。
まぁ屋敷と言うよりは少々小さく、一軒家と言うには少し大きいレベルのちょっと中途半端なお家。しかし貴族用に誂えられたせいか、結構な設備が整っている。今使ってる厨房周りもかなり使い勝手が良く、問題なく調理が可能。そのほかの細々とした設備も整っていて、拠点とするには十分以上な場所だ。
……私用の部屋は無駄に大きくて落ち着かないし、使用人用の部屋も複数完備。ほんと色々価値観違うな、って問題点もあるんだけどね?
(正直。もっと小さい家どころか、適当なアパートとかの方が良かったんだけど……。)
両親からすれば、私が未来の皇帝様である。
そんな子供に平民用の家をあてがうとか、というかそもそも自分で新居の用意をさせるとか。そういった細々とした作業は一切させる気が無かったみたいでしてね?
私がダンジョン攻略の話を聞かされた頃には、この家出来上がってたみたいなんですよ。
(貴族って本当に規模感が凄いよねぇ。……いやまぁウチの家が鉱山とか色々持ってて他より豊か、ってのはあるだろうけどさ。)
此方としては不本意なダンジョン攻略。
もとい今後の皇位継承戦に向けた功績稼ぎには、欠片もやる気は無かった。
けれど親元を離れ一人で何かをするという行為自体には、少し希望を持っていたのだ。
何せ我が家は伯爵家であり、その中でもかなり影響力を持つ家。庶民の血が流れているとしても、皇帝の娘を妻に娶れるレベルの力を持つのがウチのパピーだ。そのせいか家の中の雰囲気は貴族貴族していて、未だに前世市民の精神を持つ私からすればかなり息の詰まるモノ。
可能ならばさっさとそこから離れ、他人の目を気にしなくてもいい生活。前世の気ままな一人暮らしに戻りたいという欲望があったのだ。
(だからこのダンジョン攻略。前世で言う所の大学進学みたいな感じで、ちょっと楽しみだったんですよ。ほら新生活始めます、みたいな感じで。)
けれどそんなところに、父親から『お前が向かう町に屋敷建てといたぞ!』という発言である。
なんかもう、どう反応していいのか本当に解らなかった。出発前日に言われたし……。
一応『平民用のアパートとか借りるのは?』と聞いてみたのだが、その場にいた母に微笑まれながら『貴方の冗談は分かりにくいから、もう少しジョークを学ぶ必要があると思うわ。先生を見繕いましょう』なんて言われて即却下。マジでもう決定事項だった。
最後の抵抗と言うべきか、一緒に使用人とかもぞろぞろ連れて行こうとしていたので『やっぱここは一人で何でもできる様にならないと!』と主張。マミーは最後まで反対していたが、パピーが何故か『やはり男児たるもの……!』と語り出して賛成してくれたおかげで、何とか一人暮らしを確保出来た形となる。
まぁそんなわけで。目の前にいる犬耳の彼女が来るまで、この無駄に広い家に一人悲しく住んでたわけだ。
(いやね? 使用人の方々は悪くないんですよ? 実家にいた時はほんと助かってましたし。ただ、未だに誰かに仕えられるってのが落ち着かなくて……。)
色々と解放されたかったのは、ご理解して頂けるだろう。
とまぁそんなわけで、彼女が食べているお肉も私が焼いているわけだ。
実家では色々と触らせてもらえなかったので本当に十数年ぶりの自炊だが、彼女の顔を見る限り流石に焼き肉すら出来なくなっているほどには劣化していなかったようで。とりあえずは一安心かな。
「さて、じゃあライカ。……あ、いや。そもそも呼び方ってこれで大丈夫?」
「うん? 呼び捨てでいいぞご主人。ご主人だし。」
「あ~、うん。いやそうだよね。」
流石にちゃん付けはちょっと不味そうなのでしないが、もしかしたらさん付けした方が良いかもしれない。そう思い聞いてみたのだが……。
こちらが何を言っているのか解らないと言った風に、視線を送ってくる彼女。
一応、こちらの呼び方もわざわざ『ご主人』にしてくれなくても良いと言ってみたのだが、彼女の中では名前呼び捨てと主人呼びで固まっている様で、特に変更する必要はないようだ。まぁ確かに奴隷の身分が低いこの国じゃ『自分の主人を呼び捨てってどういうこと!?』という話になって来るので、間違いでは無いのだが……。やっぱ犯罪感が出てきますね。
前世基準にはなるけど、この子未成年ぞ!? アウトです!!!
「……じゃあ改めてライカ。色々と私について説明したいのだけれど、良いかな?」
食べながらでいいよと伝えれば、少しためらいながらも肉を口に放り込み、小さく頷く彼女。
そこから説明していくのは、勿論こちらの厄介ごとだ。
貴族で、皇位継承権もってて、ダンジョン攻略を命じられてる。でも自身にやる気は無くて、フェードアウトしたい感じ。少しややこしい所もあるので幾つか説明を省略させてもらったが、彼女の皿の上に置かれていた肉が無くなる頃には、大体の説明を終えることが出来た。
……おかわりいる? あぁいるのね、んじゃ焼くからそれまでサラダかパン食べて待っててね、うん。
「つまり……、ご主人は人間の国のコウテイ? になりたくないのか?」
「うん、まぁそうだね。あとこの国の王様、トップを皇帝って呼ぶ感じ。」
「なるほど、族長か! ……族長になりたくないの!?!?」
信じられないモノを見る様な眼で、こちらを見てくる彼女。
あ~、まぁそう言う考えの人もいるよね。うん。権力の塊みたいなものだし、欲しい人がいるのは凄く理解できる。ただそれに付随する責任を考えると、同意できないだけで。
……自分たちのトップ。その身近な例として“族長”が出てくる当たり、彼女が奴隷となる前に所属していた社会は部族社会を構築していたのだろう。本人から聞くことは出来ていないが、2年前に起きた外征で獣人が住んでいた地域と言えば、北の平原地帯だ。おそらくそこの戦士階級当たりの出身だろうか? 戦闘への忌避感があまり無いみたいだし。
とまぁそんなことを考えていると、勧めたサラダを口にした瞬間。一気に顔を顰めて吐き出す彼女。水を差しだしてあげると一気に飲み干し、口直しのためか此方に言葉を投げかけてくる。
「ほら、こう。族長って凄いよな? 毎日肉は食べ放題だし、好きに戦士を動かせるし、女も選び放題。男なら普通目指すもんじゃないのか? ちょっとご主人のことよく解んない……?」
「あ、あはは。まぁ色々と、ね。それに、もし戦になって負けちゃったりしたら、大体トップのせいになるでしょう? それが嫌な感じかな。」
「うん? 勝てばいいだけだろ?」
心底不思議そうに首をかしげる彼女。
あ~~~、うん。まぁそれはそう。
でも常に勝ち続けるのとか不可能なんですよね、常識的に考えて。
周辺諸国じゃ一番強いこの国も、いつ負けるのか解ったものじゃない。というか歴史を紐解けば、結構な数の敗戦を繰り返してたりもする。
けれど未だに崩壊していないのは、最終的に何とか勝てているから。戦で切り取った広大な領土を、奴隷という他種族に耕させ経済を回す。常に敵を外に作ることで国と自種族を結束させ、奴隷契約という労働力によって国を保つ。かなりの綱渡りをギリギリ成功し続けていたのが、この国家だ。
(つまりいつ崩壊するか、解らない時限爆弾。)
敗戦が重なり外から奴隷が取れなくなって、経済が腐り全て崩れ落ちる。
これがいつ起こるかは、誰も解らない。
しかし奴隷の数が少々、いやこの国が許容できるであろうキャパシティを超えつつある現状。崩壊の時は近い気がしている。
前世の記憶でも、こういう『勝利を前提にした』国家って総じて崩壊してるからねぇ。近代で言うとナチスドイツとか? ほらメフォ手形とかじゃないですか。アレも勝って相手の経済基盤とかを奪う前提で何とかしてた奴ですし。最終的に経済が終わりかけて、国も崩壊したことを知ってると……。ねぇ?
そんな国の皇帝になるとかご勘弁だし、もし私が成れたとしてもその代で崩壊して滅亡しちゃったら歴史書に『コイツのせいで滅びました』とか書かれるかもしれない。
普通に仕事が面倒そうなのもあるけど、こんなの成りたい訳が無いんですよね……。
「ん~~~? とりあえずよく解んないことが解った! ご主人はその、コウテイってのになりたくないんだな! でも親がなって欲しいから、とりあえず頑張る!」
「だね。大体そんな感じ。」
「それで、この町にあるダンジョンを攻略するってわけだな! ……アタシとしては戦えるから良いんだけど、それでいいのか?」
皇帝がどういったものなのかまだ掴み切れていないようだが……。
とりあえずは納得してくれた彼女。しかしそれによって新たな疑問が湧いてきたようで、『皇位継承戦に置いてダンジョン攻略』は真に功績になりうるのか? 的な質問を投げかけて来てくれる。まぁ確かに解り易い功績を手に入れるならば、適当に戦場に出るのが手っ取り早いからね。気持ちは分かる。
「実は上に血縁上の半兄が3人いるんだけど、その全員が戦場に出ていてね? 今抱えている戦線の関係から、必ず誰かと被ってしまうんだ。あまり兄たちとの仲が良くない私としては……、まぁ背後からね? 狙われそうでね?」
「家族殺しか! 悪い奴ら!」
「あと母が戦嫌いというか、危ない所にはいってほしくないみたいで。ダンジョンならばある程度安全に功績を稼げるだろうってことで、ここに決まったみたい。」
「……ダンジョンも危なくないか?」
それは本当にそう。魔物の巣窟みたいなものですし。
まぁウチの母親って生まれながらの皇族と言いますか。平民の血が入ってるけど、物心つく前から皇帝に娘として認められそれ相応の扱いを受けて育ってきた箱入り娘的なところがありますからね。社交界とかの知識は凄いけど、若干世間知らずなところがある感じです。
どっちかと言うと、ウチの兄たちが誤射に見せかけて私を殺しに来るのを防ぐために、父親がダンジョンにしたってのが正しいかな。
「継承戦が本格化するのは今の皇帝が亡くなってからになるんだけど……。それまでに戦況が悪化したり、戦線が増えたりしたら、戦場にも送られるかもって感じかな。うん。ライカはとりあえずダンジョンの事だけ考えてくれてたらいいと思うよ。」
「おう! 解った!」
「……それで、おかわりいる?」
「いる!!!!!」
はいはい、じゃぁお肉焼きましょうね。
……強力なスキルに惹かれ迎え入れた彼女だが、想像以上の掘り出し物だったかもしれない。
あまりややこしいことを考えるのは苦手なようだが、頭の回転が速く割り切ることも可能。こちらを立ててくれているが、比較的対等に近い。誰かに仕えられるのが苦手な自身からすれば、本当にありがたい距離感の子だ。それに甘え過ぎないよう、彼女の雇い主として気を付けていかなければならない。
(可能な限り好感度を稼いで、反乱がおきたとしても殺されないようにする。そこが大前提。)
どうやら体を動かすことが好きなようで、戦闘にも随分と好意的。その辺の感覚はあまり共感できないが、理解はできる。彼女が望む環境を維持し、こちらが『この世界における一般的な奴隷オーナー』では無いことを理解して貰う。
信頼関係を築くためにも、明日は少しダンジョンに顔を出してみることにしよう。色々と確認したいこともあるし、ね?
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