「ん~、となると“対長男陣営”としては、やっぱりそういう感じで行くのね?」
「えぇ、それが一番安全な筈です。流石の長兄も同じ母の元で産まれた弟を殺すとは思えない、いや思いたくありませんし……。私兵集団への被害が、気になりますがね。」
「あ、やっぱり? 正直そこは切り捨てて欲しかったんだけど。……優し過ぎるのも考え物ねぇ?」
「申し訳ありませんが、性分なもので。」
書類とにらめっこしているライカを眺めながら、リシエラさんと秘密の会談を進める。
最悪の夕食会の翌日、運よく負傷者0で終ったあの“戦い”の後。自身は2人の待つ城の自室に帰還することが出来た。本来であれば母の部屋に行き情報共有を行ったり、知識奴隷であるリシエラさんと話し合うことで今後の戦略を練らなければいけなかったのだろうが……。
(う、うん。まぁ疲労がヤバくて、ですね? 部屋に付いた瞬間ぶっ倒れちゃったんですよ。)
まぁ家に帰ったら父上の狂気的な笑みに迎えられて、今から『伯爵位を掛けてデスゲームをしてもらいます』って言われて、その後の晩餐会でウチの母とあちらの母が殺し合い、もとい喧嘩し始めてしまったのだ。精神がぶっ壊れても致し方ないだろう。
あ、ちなみにその夕食会での内容は母お付きの護衛からリシエラさんに伝わっていたそうで、彼女もある程度把握済みのご様子。何が琴線に触れたのか解らないが、我が母の“活躍”に目をキラキラさせていたという。……死ぬほど悪寒がするのは、気のせいですよね?
と、というかリシエラさん。どさくさに紛れて私の膝撫でるの止めてくれます? 触り方が酷く卑猥ですし。
「んふふ、そう? 別に私としてはこのまま“しっぽり”行っちゃっても構わないのだけど?」
「やめて頂けません?」
「じゃあこの腰に回った逞しい手は何かしら?」
「貴女がやれって言ったんでしょうがッ!」
そう小声で叫ぶとクスクスと笑うリシエラさん。
え~、はい。現在自身の身体に彼女がしなだれかかる状態となっておりまして、そんな彼女の腰に私が手を回している状況になっています。正直雇用者としましては明らかなセクハラになってしまうので、即座にやめたい所なのですが……。か、彼女からのオーダーでして。
(昨日より“監視の目”が増えているのよ? 一応魔法で隠すことはできるけど、『スキル』とかで透視して来る可能性は0じゃない。それに隠せば隠すほど、人は覗き込もうとするモノ。だったらこうやって接近して、小言でお話した方が作戦会議も捗るでしょう? 傍から見たら乳繰り合ってるようにしか見えないわけだし♡ 見せつけちゃって勘違いしてもらうの♡)
(それが困るんですよッ!!!)
(私は別に問題ないわよ? むしろ本当に乳繰り合っちゃいましょう? ほらこうやって手と手を絡ませ合って……、うふふふふふ!)
タシュケテ、タシュケテ……!
まぁ彼女からすれば、自身が手を出さないことは把握済みなのだろう。エルフという『人間族に故郷の森を焼かれた存在』が人間族である自身に対してそう言った欲望を抱くとは考えられない。故に私のことを揶揄って楽しんでいるのだということは十分推測できる。
まぁこちらとしても、彼女の知識や経験を大いに頼りにしているのだ。その対価としてコレ位は呑み込むべきなのだろうが……。
キツイものはキツイ。
ら、ライカ! ヘルプ!
「うん? あ、先輩!!!!!」
「抜け駆けじゃないわよ? それにご主人様の“お膝”、空いてるじゃない?」
「り、リシエラさん!?」
「彼女もこの戦いに巻き込まれるのよ? ちゃ~んと共有しておきませんと。あ、こそこそ話だから、勿論“向かい合う形”でね♡」
「……ぉ、おぅ!」
ちょっと言いよどみながら、さっきまで読んでいた資料を投げ捨て、こちらの膝に飛び乗って来る彼女。
確かに秘密の会談を行うのならば、顔を寄せ合って話すのが一番効率的であるのは理解できるのだが……。あ、あの。向かい合う形で膝に乗られると、か、顔が近いというか。近すぎるというか。真っ赤に染まりつつある彼女の熱がこっちにも伝わってくるというかッ!
こ、困るんですけどッ!
「……もうこのままおっぱじめる?」
「……ぉぅ」
「やめてッ!?!?!?」
ほら、真面目な話! 真面目な話しましょう!
さっきリシエラさんが言っていたように、これで対スキル。敵陣営の暗部たちが持っているかもしれない『透視系』のスキル対策が出来たんです! 魔法という理念に基づいた学問的なものと違い、何でもありなのがスキル! これで万全とは言いませんが、とにかく十分な対策は出来たはず! 兄たちの陣営に届くであろう私の情報が『朝から奴隷を膝に乗せて乳繰り合っていた』ってものになりそうで胃に穴が開きそうですけど! 今後の作戦を考えるのには最適な状況なハズ!
ほら、ハリー! 早く始めましょう!
「むぅ~」
「うふふ、初心ねぇ? ほらライカちゃんも拗ねないの。……でもご主人様? 私達奴隷にとって据え膳されるのは結構辛いものがあるのよ? ちゃぁ~んと、手を出してくださいね♡」
「勘弁してください……。」
そんなことしなくても一生面倒見ると言いますか、お二人の生活には出来る限り責任を持つと決めましたから安心してくださいよ……。あぁもちろん、奴隷反乱で他の人たちが解放され始めたら真っ先にお二人も自由にしますからね? だからその時には殺さないで頂けると、ハイ。大変助かります、ハイ。
え? 善処だけはしてあげる? そ、それはどうも……。
「さて! じゃあ真面目な話をしていきましょうか! と言っても、さっきまでのお話で大筋はだいたい決まったんだけど。」
「そうなのか?」
「えぇ、ご主人様が“視てきてくれた”おかげでその詳細を詰めることが出来た、って感じね! まぁそのご本人は乗り気じゃないんだけど。」
「……アマアマか?」
「アマアマね。そういうのはベッドの上だけにして欲しいわ全く。ということで2発ぐらいキメない? ほらライカちゃんの分も♡ ……あ、ごめんなさい2発じゃ足りないわ。200発ぐらい覚悟して頂戴。」
「殺す気ですか?」
リシエラさんの真面目部分が言ったように、長兄たちの陣営への対応は既に決まっていた。
三男であるザーンをその陣営から離反させ、ぶつけ合うということで“削る”作戦だ。何せあちらの陣営には、自由に動かせる私兵が500もいる。なりふり構わず突撃するだけでこの伯爵位にまつわる戦いを終わらせてしまえるだけの戦力だ。出来る限り削っておきたいと考えるのは、おかしな話ではないだろう。
「ですが彼もバカではありません。三男という弱い立場であるからこそ、その辺りの感覚には優れています。彼が離反することで長男陣営を完全に無力化することが出来る“勝算”が無ければ、動くことは無いでしょう。そして『鑑定』の結果……」
「もし三男が離反した時、私兵集団から付いていきそうなのは100未満。最悪50くらいになりそう、ってわけね。決して悪くは無いんだけど……」
「少ないな。」
ライカの言う通り、彼が引っ張れる数はそこまで多くない。彼単独で離反した場合即座に抑え込まれてしまうだけの数なのだ。
まぁつまり。少なくとも同数レベルになる兵400に値するものを三男に見せつけない限り、彼が動くようなことは無いだろう。
しかし逆に言えば……、それさえあれば簡単に彼は“裏切って”くれる。
確かに彼は私に対する恨みを持っているが、それも長男よりはマシ。『鑑定』でその奥底まで覗いたからこそ理解できた『彼は長男を排除できる可能性があれば、即座に実行する』というドス黒い感情。おそらく幼少期から自身よりも評価される兄、そして長兄ばかり気に掛ける母という状況がそれを生み出してしまったのだろうが……。
(能力的に見れば、確かに長男の方が高く人を率いるだけのカリスマがある。三男にも無いことは無いが、大いに劣る以上、アチラの母が長兄に大きく期待するのも致し方ないことなのだろう。)
まぁとにかく、彼は戦略的に見れば使えるのだ。長兄同様あまり物事を深く考えず、直感的な行動をとることも理解している。いざ彼が離反した時の“その後の対処”で少々頭を悩ませることになるだろうが、道を示すことが出来た。自身が生き残るためにも、そして自身の傍にいる彼女たちを守るためにも、大いに活用しなければならないのだろう。
けれどそれも、『彼が頷くだけの戦力』を用意できた時の話。
むしろ現状の何もない状態で話しかけてしまえば、彼は嬉々として長兄へと『告げ口』しに行くに違いない。
「んま。別にそれでもいいのだけれどね、ね? さてここでライカちゃんに問題よ? もし三男の彼がお兄さんやお母さんに告げ口する時、それよりも先に『三男が離反する』という確実な情報を相手が掴んでいれば、どうなるかしら♡」
「……告げ口しに来た瞬間に殺す?」
「こ、殺しは流石に。ただ拘束は確実にするでしょうね。」
まぁ、そう言うことだ。
最善はこちらも戦力か何かを用意して三男と協力し、長男が持つ私兵集団を完全に無力化してしまうこと。けれど次善の策として三男を嵌めてしまい、三男派閥の私兵たち諸共無力化してしまうという方法がある。どちらにしても、彼らが抱える私兵集団。この伯爵位にまつわる戦いにおいて無関係とも呼べる彼らに被害が出てしまうので、色々と気乗りしないのだが……。
「飲み込むしか、無いんですかねぇ。」
「そうよ? ……というか明確な敵だと思うんだけど、何でそこまで躊躇するのかしら?」
「普通に知人がいるんですよ。顔見知りが死ぬかもしれないとなると、流石に……。」
自身が貴族として相応しく無いことは重々理解しているが、これでも何とかこの世界に適応しようとして努力したことがある。
それが所謂、『雇用者との会話』だ。
まぁその内実は『帝国が崩壊してこの伯爵領もぶっ壊れた時、使用人とかに恨まれてたら殺される可能性もあるのか』と思い至ってしまい、何とか好感度を稼ごうとしただけなのだが……。結構な人たちと仲を深めることが出来たのだ。その中には今回敵派閥に所属するであろう人たちも結構いたりする。長男の私兵集団にいる彼らも、それに分類されるわけだね。
「こう、話し合いで全部終われば良かったんですけどねぇ。皇帝位どころか伯爵位すらいりませんし、全然譲ったのに……。」
「……なるほど、私達と話したりよく世話焼いたりするのは、その成功体験からってことね。」
「うん? 何か言いましたかリシエラさん。」
「い~え、何でもないわ♡ でもそんなに仲良くなったのなら、引き抜けちゃったりはしないのかしら?」
彼女に問いかけられ少し思考を巡らせるが……。色々と難しい所があるだろう。
兵も使用人もそうだが、基本的に彼らは雇用者である我ら貴族に“家族の情報”を握られている。賃金を払い雇っているのは事実だが、その“雇用”が起こる前に入念な調査を行い、問題ない人物か検査するわけだ。そしてその時に得た家族構成などの情報は……。彼らが問題を起こそうとしたり。もしくはどこかに引き抜かれそう担ったときに、大いに活用できる。
我が家が雇ってあげてたのに、不義理しちゃうの? だったらご家族の安全は保障できないねぇ? って奴だね。
「それに、私では彼彼女らに提示できる“何か”がありませんからね。真に皇帝になるつもりであればその保証になったかもしれないですが、私にやる気が無いのは周知の事実ですし……。」
「ふ~ん。……まぁでも、使えるかもだし。一応リストアップしてくださる? エド様の事だから、名前とか所属とかちゃんと覚えてるでしょうし。」
「構いませんが、悪用しないでくださいね?」
「“もっちろん♡”」
さて、大方話し終わりましたかね?
というわけでライカ、途中から黙ってましたけどついていけて……。あぁ今かみ砕いてる。色々と不本意な状況ではありますが、この密着状態であれば内緒話も出来るのです。気になったことがあればすぐに聞いてくださいね? ……あ、大丈夫そう。なら良かった。
(さて、そろそろ移動し始めた方が良いかな?)
昨日の夕食前に話していたことに、この城にいるであろう父直轄の高官。軍と政治を司る2人と会談を取り計らいたいというモノがあった。
彼らが何を考えているのかを把握し、最悪『鑑定』を用いて彼らのプライバシーを踏みにじることでその真意を探る。正直に言えば『自身に味方してくれる』のが好ましいが、最低でも『この伯爵位争奪戦に関与しない』ことは確約させねばならない。一応既に無関係の立場を表明し、その部下たちを抑えてはくれているだろうが……。土壇場で裏切られる可能性もあるのだ。
実際に顔を合わせての確認が大事、ってわけだね。
(今日予定を取れてのは、軍部長官のランツァルさん。ちょっと只者じゃないおじさんだからちょっと苦手だけど……)
気合入れていきませんと、ね?
〇奴隷秘密会議
「ところで先輩。その……、そういう欲、我慢できてるのか?」
「無理、えっちで魅力的なお相手がいっぱい出てきてお腹がキュンキュンしてる。あれね、空腹過ぎてお腹と背中が引っ付きそうなやつの性欲版ね。我慢は出来るけど暴発しそうで自分でも怖いわ。特にご主人様と、そのお母様。今なら親子丼を死ぬほど美味しく頂けるわ……!」
「しないでよ?」
「勿論。あぁでも、ご主人様のご家族全員食べちゃって“みんな兄弟姉妹”にするのもアリね。お父様は落とせそうにないけど、それ以外はいけそうだし。みんなナカヨシでとってもHAPPYでしょう? ……はッ! もしかしてそっちの方が手っ取り早いのではッ!」
「マジでやめろ?????」
「あはは、冗談。冗談よ! 1割くらい。」
「……これもしかして、アタシが止めないといけない奴? く、クソボケご主人! 今忙しいの解るけど終わったらマジでアタシに手を出せよ! んで先輩も早く抱け! ど、どうなっても知らないぞッ!!!」
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