皇帝に成りたくない男の不本意奴隷ハーレム 作:あなたちゃん
というわけで、次の日。
寝ぼけ眼をこすりながら自室から出てみれば、家の奥の方からドタドタという音が。おそらく此方が起きた音に反応し部屋から出たのだろうと考え、食卓の方へと向かってみれば……。
案の定、彼女の姿が。
「あ~。おはよう、ライカ。」
「おう、ご主人! ……昨日寝れなかったのか?」
顔に出ているかと聞けば、目元が変と返してくる彼女。まぁうん、口にはしないけど君のせいですね、はい。
昨日の歓迎会が終わった後、私達は明日に備えそのまま休むことにした。
非常に不本意ではあるが、奴隷を買ったのならばダンジョン攻略を進めなければならない。本音を言えばこの家の中でずっと本でも読むなどして、ずっと娯楽に溢れた爛れた生活を送っていたいものだが……。
そんなことをすればウチの親に何を言われるか解らないし、新しく入った彼女の性格を考えれば、確実に暴発することだろう。ダンジョン攻略を話した時の彼女の顔はとても良いものだったし、本当にやる気十分だった。私みたいなインドアタイプでない彼女からすれば、ずっと家の中など退屈で仕方ないんだろうね。
(まぁ前世みたいに娯楽の絶対数が少ない、ってのも理由かもだけど。)
とまぁそんなわけで。
彼女には使用人用の部屋へと案内し、そのまま休んでもらうことに。私は私で無駄に広い自室に戻り、細々とした雑務を済ませた後は寝るまでの暇つぶしを熟そうとしていた。未だに広い部屋は落ち着かないけど、実家から持ってきた歴史書とか資料とか。そういうの広げるにはちょうどいいんですよね。
まぁすぐに中断させられたんですけど。
(急にドアが蹴破られたと思えば、何故か全裸のライカがそこに。……うん、夜這いに来ちゃったんですよね、彼女。)
若干頬を赤らめながら、急接近。
此方の手を取りながら自身の胸に這わせ、半ば抱き着かれるなどもあったのだが……。いや流石に受け取れませんよね、って話で。
(“未成年”には手を出せんのよ。)
おそらく奴隷商館で余計な知識を植え付けられたが故の行動だったのだろうが、私としては普通にライン越えである。
いや、彼女の頑張り自体は評価しないと駄目なんだろうけど、方向性が違うというか、そう言う意図で買ったんじゃないと言いますか、そもそも奴隷に手を出すどころか、当分誰とも肉体関係を持つつもりは無いと言いますか……。
(魅力的じゃない、とかではないのよ? ほんとに。何もしなければ凛々しい感じだけど、話し始めたら元気っ子になるギャップとか、素敵だなとは思うんですよ?)
というわけで。彼女に何か問題があるわけじゃないと言いながら、何とか押し返して自室にお戻り頂いたんですが……。
確かにこの世界じゃ彼女も私も成人済みで、そういった諸々の権利も私が買い取ったってことには成っている。だからと言って私から関係を望むのは論外だし、彼女が自発的にそう動くよう仕向けるのもNGだ。彼女の気持ちは? って話だしね。
色々とややこしいので、前世の倫理観と今世の価値観。そのどちらが優れてるとかは言う気はないんですが……。
(前世の私と今世の私は地続き。前の常識をそう簡単に捨てられるもんじゃない。)
彼女的には奴隷商館の店長あたりに言われたからこそ、あんな格好で寝室にやって来た。
そしてたどたどしくとも此方に気がある様な動きをしたのだろうが……。おそらく“自身の身を護るため”の戦略的な意味合いもあったと考えられる。
完全に割り切れる者もいるだろうが、多くの男と言うのは一度関係を持った相手を否応にも意識してしまうものだ。主人の気を損ねれば死を意味するであろう奴隷としては、機会があれば何としてでも生き残る手を取ろうとしてもおかしくない。
そう言うことはしなくても貴女のことを大事にしますよ、という意味合いも兼ねて昨日の歓迎会は色々と奮発したんだけど……。
(マジで“そっち”で動かれるのは困るのよ。)
こういう男女の肉体関係周りの話は、本当にこじれやすい。
彼女がどのタイミングで此方に恨みを持つか解らない以上、本当に困る。とても困る。
そもそもの話、私は死にたくないのだ。彼女の好感度を稼ぎたいのは確かだが、恋愛度を稼ぎたいわけではないないのだ。反乱を起こされて殺されるのもご勘弁だが、色々とこじれて背後から刺されるのもマジでご勘弁である。
確かに私も男としての欲はあるが、前世の死因が女性関係のアレコレというか。謎の逆恨みだったので、ちょっとそういうのは本当に……。
(自分で色々稼げるように成れば話は別だけど、現状私は両親に衣食住の大半を握られている。まぁつまり、貴族なので一応許嫁とかもいるわけで。)
途中で脱出できればその関係も消えるが、失敗すれば彼女と結婚せねばならない。
決して悪い人ではないのだが、その基準も『この世界の価値観』によるもの。表面上合わせることはできるが、真に気が合うわけではない。あと経済的に困窮し始めた公爵家をウチのパピーが支援し始めて成立した婚約関係なせいか。なんかこう、変に思われているというか、こじれてる気がして非常に怖い。
まぁそんなわけで、本当にそういった肉体関係を持つ気は欠片も無いのだ。ましてや今世のパピーのように複数人の妻。ハーレムなんてマジで無理である。あんなの絶対に話がこじれてメッタ刺しにされる。
なのでライカさん、ご勘弁ください……!
(まぁ元々農園奴隷で、そこから売られてこっちに来たって話だ。もう一度捨てられないように“何かしよう”ってなっちゃったのかね?)
とまぁそんなわけで、彼女を自室に戻すことに成功したはしたんですが……。
ちょ、ちょっと色々刺激的過ぎましたね? 褐色肌で豊満で自分から誘って来るっていう、ある意味男の夢みたいな出来事があったわけですから……。うん、まぁこの今の若い体には色々と酷でした。なんでちょっと収まるまで趣味の資料整理をしながら般若心境を諳んじることで煩悩を消し飛ばしてたんですけど、そのせいで寝るのが遅くなっちゃいまして。
はい、寝不足です。
「まぁ今日の活動には問題ないだろうし、大丈夫かな。……あ、そうだライカ。朝は昨日の残りでいいかな?」
「え!? 朝から肉!? うん!!!!!」
そう聞けば、とてもいい笑顔で返事してくれる彼女。
迫ったのに求められなかった、ってことで彼女のプライドを傷つけたり。今後を不安にさせたりするのは不本意。なので何か変調があれば即座に言い訳というか、何かしらの対策を取るつもりだったんだけど……。この屈託のない笑みを見てる感じ、特に問題はなさそうだ。
一応今後も気に掛けるつもりではあるけれど、とりあえずは一安心である。マジでよかった……。
(でもそれはそれとして、お前はそれでいいの? 肉にしか反応してなくない?)
あふれ出そうになる溜め息を押しとどめながら、食糧庫へ。冷室に保管してあった肉を取り出しながら、そんなことを考える。
朝食のメニューとしては、まぁ簡単なものでいいだろう。
昨日余った肉を再加熱して、パンとサラダを用意。そのすべてを重ね合わせることで簡易なサンドイッチの完成だ。これからダンジョン攻略という重労働なわけだから量は欲しいけど、色々と寄るところもあるから早めに出発するため手軽に行きたいところ。そう考えれば上出来だろうし、飲み物としてミルクでも追加しておけばカンペキだろう。
……いちおう、奴隷商館で教わった『ライカが食べられないもの』を諳んじ再確認しておく。ネギ系とか種族的に駄目みたいだからね。気を付けませんと。
「さ、できたよ。」
「やたー! ……ご主人、野菜入ってる。」
「流石に食べて?」
結局何も手伝わずに、椅子に座ってニコニコしてるだけだったな。なんて考えながら彼女の前に並べてやると、すぐに文句を言って来るライカ。
よくある奴隷らしい反応ではなく、自分の意見をしっかり伝えてくれる彼女には大変好感が持てるのだが……。流石の獣人でも肉だけでは生きていけないので、野菜も食べてください。体壊すよ? 昨日は見逃したけど今日からはちゃんとしてもらいませんと。
ほら、全部一緒に食べたらそこまで気にならないはずだから、ね?
「むー! ……わかった。」
「はいよろしい。さ、召し上がれ。」
そう言うと、しぶしぶ食べ始める彼女。
野菜嫌いなのは解っていたので、彼女の分だけ少々ソースというか。ソース代わりのドレッシングを多めにしておいたのが功を奏したのだろう。最初は顔を顰めていたが、徐々にその表情が緩んでいく。追加で何かする必要はなさそうだ。
……さて、じゃあ本題に入ろうか。
「ライカ、今日何するか覚えてる?」
「勿論! ダンジョンだろ! やるぞやるぞやるぞ!」
「う、うん。元気があってよろしい。……でも君の分の装備がまだだろう? 今日はそれを買いに行ってから、潜ることにしようか。」
「……確かに!」
あ、忘れてたのね。い、いやまぁ特に問題はないから良いんだけど……。
現在、私の装備は実家から持ってきたものがあるので大丈夫なのだが、彼女に装備させるものが無い状態になっている。一応簡単な装備と槍のスペアはあるんだけど、彼女の立派な胸部装甲とかを見てると、合いそうになくてね? 店売りを探しに行った方が良いかなぁってわけだ。
ちなみに昨日の帰りに買っても良かったのだが、装備品を買いに行く前に肉屋に寄っちゃって、そこで色々買った時からライカの目が凄くてね? あまりにも期待に満ちた顔をしていたものだから、待たせたら可哀想だと思ってそのまま直帰したんですよ。
とまぁそう言うわけで、朝から防具屋と武器屋。それを覗いて装備を確保した後、初めてのダンジョン攻略に乗り出す感じだ。
(最初に彼女のスキル周りの確認をしても良かったんだけど、まずは実力を見たいからね。)
既に何となくの運用方法は考えているんだけど、やはりこれもそのまま押し付けるのは避けるべきだ。
彼女本来の戦い方をよく見させてもらって、それを分析しより良い『分身』の使い方を模索する。私は提案者でしかなく、決定権は彼女にある。流石に明らかに非効率な方に進み始めれば止めるが、基本的に彼女の自意識に任せるべきだ。
公的な立場は奴隷になっちゃうんだけど、気持ち的な立場は『雇用者と被雇用者』。
相手を尊重して本人が望むライフスタイルに沿った戦い方じゃないとね。まぁ奴隷として買っちゃった以上、文字通りの終身雇用なんだけど……。か、買った奴隷を所有者の寿命以外で売っちゃうと、その子の経歴に傷が入っちゃうからね。仕方ないんです! だから殺さないで……!
(まぁそれだと、単に庭で剣を振るってもらうだけで大体ことが済むんだけど。やる気マシマシの彼女を見ると、ね?)
彼女の尻尾は短く切り揃えられているため解らないが、ダンジョンと聞いてから明らかに振り回しているのが幻視できるレベルでニコニコしている。相当に楽しみにしていることを考えると、今から『やっぱ変更』と言うのは言いずらい。
装備を整え、軽くダンジョンをお試しし、今後のスキル運用に備え彼女の戦闘スタイルを見極める。
今日の予定としては、そんなところだろう。
「食べた! ご主人! いこういこう!!!」
「も、もう? 早いね……。まだ私食べてるからちょっと待」
「やだ! ダンジョン行くんだろ! 剣見に行くんだろ! 行きたい行きたい!!!」
「あぁもう、はいはい。じゃあすぐ出ましょうね。」
楽しそうに笑いながら、駄々をこねる様に要求する彼女。
眼が少しこちらを笑っているというか。ふざけているような雰囲気から、あえて子供っぽく振舞うことで此方の動きを見ているのだろう。試し行動みたいなものだろうが、これから戦う事、そして新しく剣を新調することが楽しみなのは間違いないようで。
……とりあえず、明確に嫌がられてないし。ちょっとは仲良くなれてるってことでいいんですかね?
〇奴隷を購入後すぐ売り払うのは?
現地の人間族の価値観からすれば、特に問題なし。
奴隷を売り買いするのは主人に認められた権利であり、クーリングオフ的な感じの制度もあるので特に問題視されない行為。買ったはいいがなんか気に入らなかったので再度売り払う、返品するなどはそこまで珍しくないようだ。(流石に傷がつけられたりしていると、返品は出来ない。)
ただ奴隷側からするとしっかりと履歴が残るため、『何か問題があって返品されたのでは?』と思われてしまう。新車と中古車のような感じで販売時の値段が変わったり、個人向けの奴隷ではなく農園奴隷や鉱山奴隷行きになってしまうことも。
奴隷からすれば死ぬまで扱き使われる農園&鉱山奴隷はたまったものでは無く、絶対に行きたくない。購入価格が下がるのも、『安いし適当に使い捨てててもいいか』のように主人に取られる可能性があるので好ましくない。
そのため奴隷を身を思うのなら安易に売り買いするのは控えるべきだろう。
〇なら奴隷を解放するのは?
特に問題は無いが、『別にいいけど何で買ったの?』と思われる感じ。
しかし奴隷からすれば、論外。人間族の奴隷であれば何とか社会復帰し一般市民としての生活を送れるようになるので大丈夫ではあるのだが、別種族の場合は地獄になる。
まず帝国に所属する人間族のほぼすべてが他種族に対する強い差別意識を持っているため、その辺に奴隷ではない別種族を見つけると『うわ狂暴な野良犬いるじゃん! 通報しよ!』みたいな思考になる。そして現地治安維持組織が即座に処分しに来るので、非常に危険。というか腕に覚えがある一般市民が勝手に解決(処分)しにくることもあるので本当に危険。
もし運よく逃げ延びる、もしくは町の外で解放されたとしても、この世界には魔物という『人類種』全ての敵が存在するため、とても危険。ダンジョン以外のそこら辺の草原にも出てくるので、常に死と隣り合わせの状況になる。
そして更に運よく魔物たちから逃げ延び、故郷に戻れたとしても……。基本的に『帝国』は征服した地域を勝手に開拓し、農園や人間族の都市を建築しているため、生まれ育った故郷が消滅している可能性が高い。そしてその地でも人間に見つかると前と同じようなことになるので、更に危険。
以上から、人間族以外の奴隷を解放するのは、奴隷の身を思うならやめておくべきだろう。
感想、評価、お気に入り登録。
どうかよろしくお願いいたします。