はい、と言うわけでダンジョン内で“いかにも”な下り階段を発見。
そのまま第2階層へと降りたわけですが……。
(ま、変わらないよね。)
先程までと同じ、湿った土壁。そして何故か延々と燃え続ける松明を眺めながら、そんなことを考える。
この世界のダンジョンは、基本的に10階層ごとにデザインとボスが変化するというルールが存在している。1~10、11~20みたいな感じで植生とか雰囲気が変わって、出てくる魔物も変化していくわけね。んで10とか20の区切りの階層にはボスがいて、それを撃破することで先に進める、って感じ。
んで、ここ『キトゥッグ』のダンジョンの1~10階層は洞穴の階層で、ボスはオーガ。真っ赤な西洋風の鬼が出てきて、それまでの階層ではゴブリンみたいな雑魚魔物が出てくるそうな。
(確か下に行くほど強さと種類が増えていくんだっけ?)
事前に調べた情報によると、1&2階層のような始めの間は短剣だけを持ったノーマルゴブリンだけが出てくるようだが、より奥に進むほど様々なゴブリン。剣を持っていたり、弓を持っていたり、魔法を操ったりするゴブリンも出てくるらしい。
ま、その辺りは今日の私達にはほとんど関係ないことだ。
まだ低階層なせいか一度に出てくるのは単体のみだし、全てノーマルな短剣持ち。ライカのパワーとスピードには敵わないようで、全て一刀で切り殺されている。
(思ったよりパワフルで安心したし、彼女も体を動かせてウキウキしてる。まぁ若干『魔物をぶっ殺せること』に喜びを感じてそうな気がしているが……。それがこっちに向いていないのなら、とりあえずヨシということで。)
事実、さっき第2階層に降りた直後。
近くにいたゴブリンへと走って行き、一刀で切り殺してとても良い笑みを浮かべていた。こちらとしては個人の趣味嗜好に口を出す気は無いのだが、ちょっと怖いので本当に辞めて欲しい。お、お肉あげるからさっきまでの可愛らしい笑顔をしてくれないでしょうか? 私に向いていないとしても、そういう殺意マシマシなのは心臓に悪いのよ……!!!
とまぁ何でもないことを考えながら、今後の動きについて考えていく。
(この『キトゥッグ』のダンジョン。難易度が高いって話だけあって、まだ低階層に分類される1~10階層でも結構殺意が高い。でもこの分なら……、スキル込みで十分いけるかな。)
迷宮の奥に進むほど相手の強さが強化されていくのは常識だが、一度に会敵する“数”が増えるのも、またこの世界の常識になっている。
まぁ、ボスがいる10階層付近でも、多くて3体が上限の様だが……。どうやらこの区画は下に行くほど『魔物の出現頻度』も上昇するらしく、かなり会敵頻度が高くなるらしい。つまり戦闘中に他のゴブリングループから奇襲を受けたり、近くにいた奴らがわらわらと集まって来ることが多発しているという。
本当かどうかは解らないが、気が付けば数十体のゴブリンに囲まれて詰んでいた、なんて状況もあり得るそうな。
(ゴブリン単体では弱いけど、数が集まって来ると厄介。ってわけだね。)
けれど彼女、ライカの戦い方を視ていると……。かなりこの“区画”。1~10階層の戦いに合致していると言えるだろう。
彼女のスタイルは一撃必殺で、急接近からの攻撃。そして撃破を基本としている。これすなわち戦闘時間の短縮であり、敵が集まって来る時間を無くすことが出来ているのだ。ライカ本人がその辺りを意識しているのかは不明だが、戦闘中に敵が増えた時の精神的な負担。そして背後から奇襲を受けるかもしれないという危険性を減らせると考えれば、とても理にかなっていると言えるだろう。
(それでも、彼女は1人だけ。私という荷物持ちというか、“お荷物”もいるのでその負担は敵が増えるごとに上昇する。通常なら新たに仲間を募りこちらも数を増やす、などの対策を取るのだろうが……。)
彼女には『分身』というスキルがある。
未だ彼女自身その存在を知覚していないし、使い方も理解していない。けれど私の『鑑定』があれば、厄介な“試行錯誤”の時間を0にしすぐに使い方を伝えることが出来る。最初は1体だけの分身の様だが、熟練度を高めればどんどんとその数は増えていく。
オーガ相手にどこまで彼女が戦えるかは解らないが……、少なくともこの区画。スキルを使える様に成れば、1~10階層の雑魚戦で苦労することはないだろう。
(いずれ他の仲間を募る必要が出てくるだろうけど、今は彼女との信頼関係の構築に努めたい。良い感じでスキルのことを伝えて、より彼女を強化する。10階層まではこれでいけるかな?)
無論適宜修正はするが、これが今後の方針だ。
そんなことを考えていると、どうやらライカの戦闘が終わったようで。
彼女の方に視線を向ければ、既に魔石の摘出作業に移っていたようだ。邪魔なゴブリンの生首を壁の端へと蹴飛ばし、解体用のナイフでその胸部を切り割いているのが見て取れる。
(……私がするんだけどなぁ。)
本来私の腰に納まっていたはずの解体用ナイフ。
まぁはい、いつの間にか彼女の装備になっちゃってますね、はい。
一応私としてもそれぐらいはやるよ、と言葉を重ねたのですが、ライカからすれば……。
『前で戦うと血で汚れるだろ? んで解体しても汚れるだろ? だったら同じ奴がした方が効率いいじゃん。終わった後に血を拭ったり洗ったりするわけだし、水とかの節約にもなる。だからアタシがやるぞご主人!』
『あ、ありがとう。……確かにそっちの方が合理的かぁ。』
とまぁそんな感じで反論され、黙らせられてしまった。
まぁ持ち込んでる水も有限だし、綺麗な手ぬぐいの数も有限だ。血を放置すると武器が滑ったり、感染症の問題になるため適宜処理することを考えると、物資を消費する人間は少ない方がいい。とても合理的で、正しい意見なのだが……。
うん、私の役割が『荷物持ち』に固定されましたね! “未成年”だけ働かせるクソ大人の完成です。クソがよッ!!!
(一応、実家から持って来た槍とか。事前に用意しておいたアイテムとか持ち込んでるけどさぁ……。)
槍を構えるよりも先にライカが魔物を倒してるし、そもそも私は戦力に数えるには雑魚すぎて駄目だろう。
体力だけには少し自信があるが、筋力とか戦闘センスとかは家の者に『諦めた方が良い』と言われるほどに壊滅的だ。つまり戦闘に介入しようとすれば、確実に邪魔になるのだ。この問題点は彼女を迎え入れる前から理解していたので、サポートというか雑務を引き受けようと思い、魔物の解体に必要な装備や知識を仕入れて来たのだが……。
それすらライカに持っていかれてしまった。
しゅ、主人の意地とかプライドとかは欠片も無いんだけど。色々と惨め過ぎて涙が出ますよ……!
「うん? どったのご主人。変な顔。」
「あ、あぁすいません。ちょっと色々ありまして……。」
「そうなのか? まぁいいや、じゃあ次はあっちの方行こうぜ~!」
「はいはい、まだ消化不良な感じなのですね? お供しますよ。」
取り出した魔石と、血を拭うための手ぬぐい。それをライカと交換しながら言葉を交わし、よりダンジョンの奥へと歩いて行く。
当初はちょっと第2階層を見て帰る予定だったのだが、ライカとしてはまだまだ動き足りないらしく、もう少し奥へと進むことになったのだ。まぁこちらとしても若干の消化不良感はあったし、彼女の一撃必殺は気持ちのいいものがある。ゴブリンを一刀で切り伏せるそのパワーは無双感というか、見てて楽しいのだ。
流石に3階層まで行くと行きすぎな気がするので、適当なところで切り上げるつもりではあるのだが……。次回攻略時には変化しているので使い捨てだが、迷宮内部の簡易地図は適宜書き込むことで出来上がっている。
これさえあればすぐに帰れるだろうし、もう少し奥に進んでもいいだろう。
(『鑑定』で見える彼女のスタミナ値。これが6割を切るあたりが帰還ラインかな?)
ほんの少しだけスキルを確認し、彼女の体調を確認。特に問題なしと判断し、ある程度余裕を持って帰れるだろうラインを定め、先導するライカについて行くと……。
何故か急に、彼女の足が止まる。
「ライカ?」
「……なんか、ヤバい。ヤバい匂いがするッ!」
即座に剣を抜き、警戒を始める彼女。
よく理解できなかったが……。普段は快活な笑みを浮かべているはずの彼女が、明らかに取り乱し『恐怖』の表情を浮かべ始めている。何かしらの緊急事態が起きたに違いない。そして武器を引き抜いたということは、『敵』。
彼女でも叶わぬほどの“強敵”がこの近くにいるということ。
(……『徘徊者』か!? ダンジョンに稀に現れる“その階層の平均”よりも各段に強力なモンスター!)
もしそうならば、不完全なライカと戦力にならない私では如何することも出来ない。逃げる以外の選択肢は無いが、撤退するためにも未だ姿の見えない“敵”の居場所を把握する必要がある。故に即座に意識を集中。自身に宿る力である『鑑定』を全力で起動する。
その瞬間、視界一杯に表示されていく幾重にも重なった青い基盤たち。
(ッ! やはりまだ負荷が重い、か。)
そして同時に襲い掛かって来る、脳を蝕む鋭い痛み。
目に映るもの全て。その詳細なデータを視界に映すのが、この『鑑定』の力だ。
普段は強い負荷を避けるため軽くしか表示しないが、今回は逆に最大出力でそれを行う。
情報の奔流に押し潰されそうになり、まるで脳を握りつぶされるような痛みが襲い掛かるが……、気力で押しのけより周囲を探る。行うのは、既に理解できる情報の消去。延々と表示されていくライカの情報、そして迷宮自体の情報を無理矢理排除し、覗き込むのは“それ以外”の情報。
対象が吐き出す息、生命が生み出す微弱な磁場。
本来肉眼では判別できないソレを、無理矢理情報に落とし込み表示することで、理解できる何か。
……そこか。
「2秒後会敵! 撤退用意! 少しでいいから時間を稼いで!」
「え、ご主人!?」
背負っていた鞄を投げ捨て、完全に逃げ切るために必要な準備を整える。
ただ逃げるだけでは、確実に追いつかれる。それだけの戦力差、それだけの力量差。
少しだけ見えたライカの詳細なデータよりも各段に上の数値。
ソレが、3体。
「ッ! オーガ!?」
本来10階層に出現するはずの、この区画のボス。
視線の先に見える曲がり角から。
オーガの集団が、私達の前に姿を現した。
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