アビドス砂漠のアビドス敵対校(停戦中) 作:夜酒見
デュアト学園敷地内に突如として現れた不穏な気配を感じ、少年はその方向へと歩みを進めた。夕焼けで赤く染まる中あまりにも異質な黒に白い光を漏らす黒スーツの存在を把捉する。
平らな砂漠でその存在を確認したのは教室を出てすぐのことであった。
「くっくっくっ、素晴らしい戦いでした。あなたは自身の特性を理解した上でそれを行使していた」
「……なんのようだ。体よこせの取引に応じるつもりはないぞモノクロ亀裂ハゲ」
その存在は前記の通り。さらに補足するならば、白いワイシャツの多くの部分を覆い隠す上下の黒スーツに黒のローファー。そして黒いネクタイに黒い手袋を身につけた存在。
そこまでならば特段おかしな存在には値しない。
その存在が異質なのは装飾に隠れていない素肌に存在する。
それを素肌と言っていいかは不明ではあるが、それは黒く人の肌ではない質感であり、ところどころひび割れその中からは白い光が漏れ出ている。偶然な必然か、口の位置には頬の上がった口にも見える割れ目が入り、右目の位置にはぽっかりと強く白い光が溢れ出す穴が空いていた。そんな穴からは影炎とも言えるような見た目のなにかが漏れている。
唯一の有彩色はスーツにつけられた黄金のバッジ。白みや黒みにほのかに感じる青みを含めなければそれ以外はモノクロと等しかった。
そして、髪の毛は一切ない。
「おや、残念です。しかし、今回は取引に来たのではございません。忠告を。それと、今後私のことは黒服と呼んで頂ければ」
「名もないお前がなぜ黒服と呼ばれたい」
「暁のホルスにそう呼ばれましたので。この名前を大変気に入りましてね」
「……小鳥遊ホシノと接触したのか。後の名付けを優先するとは、それほどにあの名は気に入らなかったか?」
「えぇ」
「モノクロ亀裂頭でもだめか」
「はい」
暁のホルスという呼び名に特に疑問を持つこともなく小鳥遊ホシノであるということを理解していた。
そんな黒服に対し、少年は警戒心を向けながら少し不服でいた。黒服よりも、よりこの存在の異質さを表現している名前であると言う自信は少年にはあった。
「それでは、忠告も手短に。あなたの神秘は無闇に使えば相手、そしてあなた自身も滅ぼしますよ。とくに」
「言われずとも、お前の言う神秘に関してはとっくの昔に把握している。周囲の存在がもつものも」
「くっくっくっ、無粋な忠告でしたか。把握した上で行うのならばこちらから止める必要もないでしょう。あなたの今後もよく見させてもらいます。では、私はこのあたりで帰りましょう、彼女がきた様ですので」
「……小鳥遊ホシノか」
黒服が少年からは見えない教室の影へと歩み、そして現れた時と同様に唐突にその気配を消す。
しかしそんなことを気にせずに教室の陰からこちらをうかがっていた小鳥遊ホシノへと視線を向けた。
「どこから聞いていた、とでも聞くべきか?デュアト学園の敷地、それならばまだよいとしてこの教室の周囲に入り込むことに許可を出してはいない。即刻立ち去れ」
「……許可は取りたくても連絡手段がなかったんですからしょうがないでしょう。最低限教室に入る前に許可を取るつもりでした。それより、あいつとあなたにはなんの関係があるんですか」
「敵意剥き出しだな。それ以上腰に手を伸ばすな」
「なら、あいつとの関係性を教えてください」
昼間の遭遇では少年から向けていた敵意は今現在逆転していた。小鳥遊ホシノから少年、今現在は戦争的としてでなく黒服と関係があるかもしれない存在として敵意が向けられていた。
まだその敵意を解放しておらず、その手はショットガンを掴むまでには至っていなかったが、その気になれば構えられるように腰付近に手は存在していた。
「お前は梔子ユメに比べれば理知的だとは思っていたのだがな。お前が自分に対して敵意を向けることが1番停戦状態を刺激することになると理解しているだろう。たとえ、それが戦争に関係のない理由であれな」
「答えてください」
「自分もあんな奴が理由で戦いたくはないので答えてやる、元名付け親」
「元名付け親?……元?」
「今現在はお前があいつの名付け親だ。この世界での名はお前の決めた黒服になったらしい。絶賛していたぞ」
「うげっ」
「まぁ、お前が求めてる答えはそれではないだろう。おそらくはお前と似たようなものだ。神秘だの言って体求められ、自分は煙たがっている。取引相手ではあるが」
襲撃の時に比べ、殺伐とした雰囲気はまだ少ない。
その理由としては、現在の少年に苛立ちがないこと。小鳥遊ホシノの敵意の理由が戦争関係ではなく黒服という存在に起因すること。そして、少年が今現在害されることがない状況であることに由来する。
彼女の腰に伸ばされた手がそれ以上伸びればその瞬間にも少年は牙を剥く気ではあるが、今現在の彼女の手の位置はショットガンに近くとも少年にとってはまだ驚異にならない位置であった。
一般生徒ならばそれは十分な脅威なり得る。小鳥遊ホシノの場合、ショットガンを腰のホルスターに刺していようが、小鳥遊ホシノならば手がどの位置にあろうが一瞬で構えられる。
しかし、現在の双方の立ち位置は少年が数歩歩みを進めたことにより5メートル弱。
この距離であれば、少年は彼女が今現在の手の位置から構える一瞬、その一瞬の間で小鳥遊ホシノを制圧をできるという確信が少年にはあった。
武具でない生身という即座に展開できるものをメインウェポンとしてもつ少年に対して、展開にもう一段階を挟む必要がある彼女。この近距離の中では少年が優位に立っていた。
そのことは小鳥遊ホシノも理解している。あくまでも、今現在の手の位置は威嚇的な意味といえる。
「……体の要求はあなたもされたのですか……それで、取引とはなんですか」
「敵対校生徒に言うと思うか」
「言わないでしょうね」
「そういうことだ。お前は自分に許可を取りたくても連絡手段はないと言っていたが、梔子ユメは連絡先を持っているはずだ。許可忘れの言い訳をするつもりか」
「え……ユメ先輩っ」
小鳥遊ホシノはそのことについて全く知らない様子で今現在アビドス高校にいる梔子ユメへと恨みをぶつけていた。小鳥遊ホシノは警戒を内心に潜めつつも、梔子ユメへの怒りを爆発させるなかで少年への敵意を離散させる。
そんな様子に少年は察したのか、軽い哀れみの表情を向けながらも、なぜ小鳥遊ホシノがここにきたのかと思考する。
「無断で入ったことは謝ります。事後承諾にはなりますが許可をください」
「……監視下で許可する。次回からは梔子ユメを通して自分から事前承諾を受けろ」
「はい……まぁ今回は私の意思ではなくユメ先輩からのお願いのもときました。この手紙を渡してくるよう言われて」
「お前はあいつの使いだったか。この時代、そのようにせずともメールをすればよかったろうに、わざわざお前に手紙を運ばせるなど嫌な予感しかしない」
「私もです。今回の件の謝罪も含まれているからと渋々頼みを受けましたが」
小鳥遊ホシノの手にのっていたのはバナナからにゅっと顔を出している鳥という謎のデザインが施された封筒だった。
それを無言で受け取り封筒から紙を取り出せば
『アメくんへ。今回は勝手に入っちゃったり戦いを止めたり、和平に強引に持って行こうとしちゃったりしてごめんね!!でも和平したいって気持ちは本当だから、もし困ったことがあったらなんでも言ってね!私にできることならなんだってするから!あと、多分ホシノちゃんとアメくんって2人とも少しツンツンしてるところがあって相性いいと思うからこの機会に仲良くなってもらえるとうれし』
「ちょっ、何破ってるんですか」
「謝罪文の書き方を先輩に教えてこい」
「え……ユメ先輩っ!!」
少年が破り捨てた紙切れを拾い上げて読む小鳥遊ホシノはユメ先輩の書いた謝罪文が全く謝罪の形をなしていないことに頭を抱える。
本人は真面目に悪いと思って謝っているのであろうと、その上でそんな内容を書いているのだろうとわかってしまうのがなお悪い。
更にはわざわざ小鳥遊ホシノに行かせた理由もここで初めて彼女は知った。
少なくとも、少年と小鳥遊ホシノの相性は良くないといえる。ツンツン同士の相性はよくはなく、本人たちもツンツンと言われて嬉しくはない。
「なめくさられているなこれは、停戦といてやろうか」
「やめてください。ユメ先輩にはキツく言っておきますから。真面目に、今戦いが始まれば共倒れします」
「わかっている。用も済んだのなら帰れ、長期滞在の許可は与えていない。停戦をしている建前上、多少の関わりを持つことすら禁じるつもりはないが、最低限事前承諾を得てからにしろ」
「言われなくても帰りますよ、ですが、最後にこれだけは教えてください」
「なんだ、敵に教えられる内容は少ないぞ」
「あなたは、アビドスを、そしてこのアビドス砂漠をどうしたいのですか」
「さぁな」
「……そうですか。では、失礼します」
小鳥遊ホシノはその足をアビドスの方向へと向ける。背後の存在に対して警戒を続けながらも、アビドスへと歩みを続ける。
少年はそれを見送り、ため息をつく。
朝っぱらからヘルメット集団が襲撃してきた上、アビドスの2人が乱入する。
ヘルメットの銃撃で壊れた教室を直していればダンボールが不足したことでアビドス外のコンビニにダンボールにまで走り知り合いにあったりしつつダンボールを回収。
教室の修繕が終わりパトロールも終えて仕事にも行き、自宅になっている教室に帰宅すれば黒服の遭遇する。そしてその後小鳥遊ホシノが襲来し。
単純に疲れる日だった、精神的に。
「寝よ」
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