アビドス砂漠のアビドス敵対校(停戦中) 作:夜酒見
幾年か前のこと。
少年はパトロールとして、デュアト学園が勝ち取った元アビドス高校保有地を回っていた。すでに放棄された建築物たち、その路地裏へと足を踏み入れる。
「これはこれは、幾多の存在、それらが混じりあった神秘をしている。それ故かその神秘は果てしない。いえ、こうして身近で観測するとその実態は神秘のみではなく」
「……一方的に感想を述べられるのは好きではない。貴様は何者だ」
黒く、白い亀裂が入った黒スーツを着た存在。その存在は人型である。機械、獣、人間、亜人、さまざまの人型がいるこの世界でもあまりにも異質。まさしく異形という姿をした怪しい雰囲気をする。
おそらく大人。一見して感じる雰囲気は男。
「ここは現在デュアト学園自治区。部外者の侵入の禁止をしてはいないが、不審な人物とあれば排除することも厭わずその権利は保有している。少なくとも、今現在は貴様のことは監視対象と定めた。ポケットから手を出し手を上に上げ名を名乗れ」
即座に銃火器を展開し、構え対象の首筋に突きつける。
顎や爪などをメインウェポンとして行使できる彼ではあるが、わかりやすい脅しとしてはやはり銃火器には劣るが故に銃火器を扱いもする。
「おや、これは失礼しました。私は⬜︎■」
文脈的に本来名前が入るような部分、そこにはバグった電子音のようなものとなり虚空へと溶けていった。無論、聞き取れはしない。発音を再現することも、文字として表現することも到底不可能。
強いて表現するならば⬜︎■と理解できないものとして割り切るのみ。
「聞き取れん。滑舌が悪いの次元ではないぞ」
「ギヴォトスでの名はありませんので、理解できなかったのでしょう」
「まともに名乗る気がないならモノクロ亀裂頭と呼ばせてもらう」
「くっくっくっ。私の頭部の特徴を単純に羅列した名ですね」
「頭部の特徴に絞るならモノクロ亀裂ハゲになる」
「……くっくっくっ、今のあなたが持つ私への印象がより濃く現れていますね。警戒されていて、私のことを測ろうとしている。未知である私を怒らせ、本性を見ようとしている。実に結構」
モノクロ亀裂ハゲと呼ばれ、少し間は空いたが平穏に怪しく笑う黒の不審者。顔の形は変化していないが、元々まるで笑顔の口のような形の日々があるせいでずっと笑っているようにすら見える。
「私の名はできないようですが、立場や目的などは話せます。私はゲマトリア所属、そして目的は神秘の探究、解明です。あなたが持つ複雑な神秘それら、それを解明したい。そういう目的がありあなたに接触しました」
「気持ち悪い」
「理解は得られませんか。では取引といきましょう。私はあなたの身柄が欲しい」
「やるわけないだろ」
少年は不審者を見る目から変質者を見る目へと変化させる。同じ意味に聞こえるかもしれないが、変質者は性的な不審者であり、少年のなかで今現在相対している人物は自身の肉体を調べたい変態と認定されていた。
「できれば全身を探りたいところではありますが、あなたには全身を差し出すほどに求めることはあまりなさそうです。まぁ、あなたの場合は全身とは言わずとも一部で十分な成果は得られそうだ。私が差し出せるものは今後のデュアト学園の支援、アビドス高校との戦争に対する支援などでいかがでしょうか」
「いらん」
「くっくっくっ、それは残念です。ではこうしませんか?私にあなたの生活、そのすべてを観測する許可を与えてください。そしてそれに対する協力も。その代わりにあなたにはその際に観測したさまざまな物事を伝えましょう」
「断る」
意図的か偶然か。最初の提案に比べれば幾分もマシである。最初に大きいものを提示し、次に小さいものを提示すればそれを了承しやすくなる。それでもプライベートの侵害を嫌い少年はNOを突き出した。
「そうですか……では、あなたが戦闘をしている間、それをデータとして収集させてくれませんか?」
「……なぜわざわざ聞く。勘だが、お前は自分のことを了承なく観測することが可能だろう。戦闘となると基本外で行われる都合上ドローンでも容易く観測できる。わざわざ取引するほどの価値はない」
プライベートならばまだ室内であったりと観測は容易ではなくなる。盗聴器を仕掛けるなど方法はあり、この不可解な存在相手ならば未知の方法でも観測することは可能かもしれない。
しかし、戦闘とならば話は別である。基本的にそれは外で行われる。敷居もなにもなくどこからでも見られる。極論、超精密人工衛星でも出しておけば大概の戦闘は観測できるだろう。そこまで大きくなくとも手段はいかようにもある。
「繋がりというのは大事ですよ。無論、契約がなくとも可能な限りは戦闘データを収集するつもりではありますが。それで、どうでしょう。私の提案は」
「……対価はなんだ。お前が見出した自分のデータとかじゃ頷く気はない」
「そうですね、先ほど私が述べたものではあなたはなびかないでしょう。でしたら、私が得た知見、それにカイザーPMCから何かを隠すことに対する協力、それでいかがでしょうか」
「 自分が何か隠したいものがあるとでも?しかも、アビドスの借金先のカイザーに対して」
「くっくっくっ、さて、どうでしょう」
「気持ち悪いなお前」
少年はモノクロ亀裂ハゲに対する警戒心を一段階上げた。
この存在が何を把握しているのかは元々わかってはいないが、先ほど対価として提示されたもの。
それは事実であれば少年にとって明確な価値として存在していた。なぜ、それを対価として出したか、偶然か。否、偶然で終えられるほどに少年はお気楽ではない。
「一つ聞くが、カイザーに隠すということはすなわちそれ以外の多くに隠すことになるだろう。カイザー限定に隠すではなくて全体的に隠すことになるだろう」
「えぇ。そうなるでしょう」
「ならなぜわざわざカイザーに隠すと述べた。普通に隠すと述べればよかっただろう」
「もし、私がカイザーに限定せず何かを隠すと述べるよりかはあなたの興味を惹けるでしょう。あぁ、ご安心を。カイザー以外には隠さないわけでも、あなたに隠すよう言われた情報を悪用するわけでもありません。その旨も契約事項に書きましょうか」
「……仮に破った場合らこちらはお前を喰らうぞ」
「えぇ。お好きになさってください。大人として、正式な契約は守りましょう」
「……わかった、ならそれでいい。だが契約書を見てからだ。見逃す気はないが、他の文字に対して小さかったり色が薄い文字などは契約対象外と明記もしてもらおう」
「了解しました。書類はすでに用意しております、自由にお読みください。明日同じ時間にここにいますので。そのときサインされたものを受け取りましょう。私のものは今済ませておきしょう」
「……本当に気持ち悪いな」
警戒心がさらに増す。既に用意していた、会話の中裏で作成していたのか、それとも事前からこうなることを予測していた、もしくはそうなるように話の流れを作っていたか。
モノクロ亀裂ハゲはどこから取り出したか、いつの間に持っていた書類とペンでサインをし、書類を少年に渡す。
そして、今回の話も終わったとその存在は陰に入ると消えていった。
「……」
特に書類に特殊な仕組みが組み込まれていることもないことは確認した。本当にただの契約書類として存在していた。
あの存在はその気になれば契約せずとも戦闘データなんてものは許可を取らずに取ることができる。それを前提とした場合、わざわざ契約をすることは向こうにとってはデメリットしかない。あの存在が言うように繋がりというものを意識していたか、何か裏があるか。
どちらにせよ、この契約自体は受けるかどうかは少年の中では決まっている。
「……」
「あ、アメくん起きた?もう10時、朝だよ」
「寝込みを襲いにきたか、梔子ユメ」
梔子ユメは夢から覚ます(激寒
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