アビドス砂漠のアビドス敵対校(停戦中) 作:夜酒見
夢から覚め、瞳を開けると薄暗い教室が目に入った。
「……」
「あ、アメくん起きた?もう10時、朝だよ」
「寝込みを襲いにきたか、梔子ユメ」
「そんなことしないよ?停戦してるし。仮に停戦してなくても私にはやれる度胸もないし」
少年は光を灯していない寝ぼけ目で寝ている間に接近していた存在を認識する。普段以上に段ボールで強く補強したことで日光があまり教室に入り込んでいなかったことが起因してか、少年は普段より長く深く眠っていたらしい。
ラジオ体操の時間はとっくに過ぎている。
「だろうな、敵意や害があれば睡眠中だろうが起きていた。それで、事前連絡はどうした」
「したよ?30分前に」
「自分からの返事は聞いたか?」
「???アメくん返事してないでしょ」
「あぁしていない」
「つまり?」
「返事は聞いてない」
「正解!「じゃねぇよ」ひぃんっ、返事ないから来ちゃった」
少年は額に手を当てため息をつく。色々生徒会長として、人としてどうなのかと言う点が見つかっていく。停戦をする前ではまだもう少しまともに見えたが、停戦した途端これかと悩んだ。
「30分程度返事がなかったからと無許可でくるな。あとなんだそのスクール水着は。ギルティ、没収、死刑」
「ひぃんっ、アメくんごめん!その、許可はもらおうとは思ってたんだけど返事がなくて、あと早急に聞きたいことがあったからっ」
「……なんだ」
「昨日宝の地図見つけたって言ってたでしょ?地図っていうか大オアシスに希少鉱石があるって情報なんだけど……よくよく考えたら大オアシスが今はデュアト学園の自治区ってわかって。それで掘る許可が欲しいなぁ。あ、水着は地下水がどバーって出てきた時のための対策ね」
「よくわからんもんがでてきたら報告。金銀財宝ならいらんから好きにしろ」
「一緒に掘りに行かない?ほら、和平のための一歩にさ」
「行かん」
———デュアト自治区 大オアシス———
「ユメ先輩!なんでこいつがいるんですか!」
「私が誘ったんだぁ」
「勘違いするな。監視だ。手は出さん」
結局、あのあと少年は梔子ユメに誘われ続け、そして何も悪さをしないか万が一見張るという程で連れ出されていた。
「そう睨むな。ここがデュアトの地とはいえ、危険物正体不明物除き、金銀財宝ならくれてやる。分け前もいらん。そもそも、この地をアビドスから奪取したのはそんなものを得るためではないからな」
「……ならいいです」
小鳥遊ホシノは梔子ユメ主導のもと、デュアトと仲良くしようとしてきてはいた。
しかし、歴史としてデュアトがアビドスの全盛期の土地3割に匹敵する土地を奪取していたという代わり用のない事実があることを少年の言葉で思い出す。
「そんなこと言って、アメくんも私たちと一緒に遊びたかったんでしょ?」
「ユメ先輩、遊びではなく採掘です」
「ヴァカめ。まだ停戦をお近づきだと思っているのか。あくまでも、停戦している理由は争う理由が乏しいからに過ぎん。それに対して失うものは多くある。今のアビドスを襲っても得られるものはあまりにも少ない」
今となっては、このように砂漠になったアビドスの地はデュアトにとって何の意味もなく、必要もないのだろうということも。
だからこそ梔子ユメの停戦の提案が受け入れられたのだろうと小鳥遊ホシノは思考した。
「……どちらにせよ、あなたがいなくなればデュアトも終わりますし、もう諦めてるんじゃないんですか」
「なぜそんな挑発をするのか、理解できないな小鳥遊ホシノ。もしや、お前自身は俺との一対一を望むか?初遭遇につかなかった決着をつけるつもりなら受けてたとう。同時に停戦の終了を意味するが」
「……」
「ちょ、ちょっと2人とも!喧嘩はダメだよ」
「すみませんユメ先輩」
高校などから生徒がいなくなれば事実上の消滅が意味される。デュアト学園はアビドス高校とは異なり借金はないが、少年に後輩がいないという問題は根強く残っていた。
「挑発が成功したと鼻を高くされても面白くない故、一応挑発には返しておぬ、小鳥遊ホシノ。場合にもよるが、俺がデュアトに所属し続けることは可能だ。例を言えば、退学にしてくる存在がいないことを利用して留年し続けるとか、一度退学して即座に一年として入学し直すとかな」
「正気ですか?」
「場合にもよると言っただろう。場合によっては俺に正気はないのかもしれない。そもそも、すでに留年は使っている」
「ストーップ!今は小難しい話じゃなくて宝探し!それじゃみんな、スコップもって!」
暗雲立ち込めてきた2人の空気に梔子ユメは3本のスコップと共に割り込む。一つの持ち手は桃色、一つの持ち手はライトグリーン、一つの持ち手は白色。
2人で作業するのには本来いらない3本目のスコップにその場の2人は困惑し、その意味を即座に察した少年は顔を梔子ユメに向けた。
「……俺は監視に来ただけだが?」
「?監視してるだけじゃつまらないでしょ?もちろん、見つかった時の成果は山分けだよ!」
「ちょっ、ユメ先輩!そんなことしたら取り分が」
「でもでも、こんなに広いのに2人で見つけられると思う?」
小鳥遊ホシノはハッとした様子で周囲を見る。あまりにも広いこの大オアシス。この中を探すとなると、あまりにも難易度が高い。砂中探査機もないのだ、これで見つけ出すとなれば不可能としか言えないだろう。
砂漠で砂金を探す作業に匹敵する。さらに、表面の二次元上にあるならともかく、砂中の上下もそこに追加され三次元的に存在しているのだ。
2人で見つかる可能性はほぼゼロと言えるだろう。
「……1人増えてもあまり変わらないと思うんですが」
「ふふん!アメくんは鼻がいいんだよ?」
「砂中の鉱石のにおいは嗅ぎ分けられんぞ。犬じゃない」
「犬でもそれは無理だと思うのですが……」
「とにかく!3人で掘ろうよ!」
梔子ユメは少年の嗅覚について説明する時に片目を瞑りながら自信げに鼻に手を当てる。
そんな様子をしらけた様子で見る2人からの視線を意に介さず梔子ユメは2人にスコップを押し付けた。
「なるほど、お前はこの機会をデュアトとアビドスのレクリエーションにしようとしているわけか。相変わらず和平に向かおうと躍起になっている」
「バレちゃった?」
「帰る、監視する気も失せた」
「まってぇ。行かないでよぉ」
梔子ユメは涙目で去ろうとする少年に縋り付く。ズボンを掴むことでズボンがズリ下げられそうになり、ズボンのベルトが少年の腰にひっかかる。ぎちぎちと梔子ユメの体重にベルトが下へと引っ張られ悲鳴をあげていた。
「離せ、お前は停戦をどこまでも仲良くできる関係と勘違いしているようだな。おい、掴むな、脱がそうとするな。お前と違って自分の下は水着ではない」
「ふふん、知ってるよ、アメくんが実は水着着てること。少しズボンから漏れ出てる水着の紐が見えてるもんね
「……」
「……」
沈黙が互いに続いた。片方は何を言っているんだという呆れや思考停止。もう片方は自信げな顔、しかしだんだんとその自信が薄まって不安な表情へと変わっていった。
「……そもそも履いてないのだから漏れ出ているわけないだろう」
「あ、あれ?こういう時って動揺して実は履いてましたって流れじゃ」
「……馬鹿か?」
「ひぃんっ」
敵対校としての悪意も何もない、怒りでもなくただただ純粋な感想である侮辱に梔子ユメは反論の余地がなく、鳴くことしかできずにいた。
そして、無残にも梔子ユメはつけ離され、少年は去っていった。
そんな様をしらけた目で見ている小鳥遊ホシノは今更ではあるがとある疑問が浮かぶ。
「そういえば、さっき留年したって言ってましたが、ユメ先輩よりも年上ってことですよね……年上をくん付けで呼んでるんですか先輩」
「ん?親しみをこめるためにって思って」
「停戦前にもそう呼んでませんでした?」
「敵対してても仲良くしたいでしょ?」
「なんて呑気な。私はあいつのことを信用も何もできません」
ざ、ざ、ざ、となる砂を踏み締める足音。
それは一直線に前進を進めた。
「……」
「あれ、アメ、くん?」
ある種の第六感か、死の匂いというべきものか。
「……梔子ユメ……とにかく水を飲め」
「はは、やっぱり、アメくんは、優しい、なぁ」
死の確定した女生徒を前に、少年は立っていた。
プロローグラストは明日〜。