アビドス砂漠のアビドス敵対校(停戦中) 作:夜酒見
先輩から教えられたことがある。
曰く、このデュアト学園は昔の生徒会に反旗を翻して生まれたものらしい。
曰く、当時の生徒会は甘さで砂嵐への対策を誤った。最善の手をとってアビドスが保ったかはともかく、もっと良い対策があったと。
曰く、その失敗に対する対処として自治区を売ると言い出したアビドス生徒会に反旗を翻したと。
企業に土地を渡し、アビドスがすり減らされることをアビドスが好きだからこそ許せなかったとか。
風紀委員長やその他幾人のメンバーでアビドス校舎の教室の一つをくり抜いて持ち出し、それをデュアト学園の校舎として手始めにアビドス自治区の砂漠部分を実行的に奪い取ったと。
そこからはアビドス砂漠内における内戦だったと。人数や物資でデュアト学園は圧倒的に劣っていたが、風紀委員長を筆頭に個人の実力はデュアトが高く、さらにはそんなメンバーが抜けてしまったアビドスは押されたとか。
そのどちらもが互いに限界まで争うことはなかったらしい。デュアトは学園として成立させるため、アビドスは砂漠化への対処を並行して行うため戦闘に没頭はできなかったと。
最終的に、デュアト学園はアビドス自治区の3割4割に匹敵する土地を武力、時として金銭による取引でアビドス高校から奪い、取ったとか。
曰く、アビドス高校は分校を除いてまともに取れる土地はなくなったとか。
曰く、アビドスそのものに愛着はあるため、そこまでは奪わなかったとか。
そして、デュアトはこれ以上奪うものはなく、奪いたいものは最低限奪えたと戦争状態は形骸化したとか。
曰く、戦争全盛期の者たちが卒業したのち、戦争をどうするかは後輩に託すと。
「……梔子ユメ」
「あれ、アメ、くん?」
ある日のアビドス砂漠。砂嵐が起きた後の頃、少年は教室から何か不穏な気配を感じ取り、ある種の予感、確信をもとにその方向へと歩み出した。
その結果、眼前に現れたのは意識が朦朧としている様子で砂に半分埋まりかけている梔子ユメがいた。
「……とにかく水を飲め」
「はは、やっぱり、アメくんは、優しい、なぁ」
少年は持ってきていた体温より10度ほど低い補水液を飲ませようとする。掠れた声でふざけたことをぬかす少女の手に蓋を開けた補水液を持たせる。
「黙って飲め」
「……ごめん、もう、限界、かな……わかるん、だ、自分の、体の、こと、は」
「そのように話せている時点で、お前はまだ死んでいない。生きている」
自力で飲むことは不可能と判断し、倒れ伏している少女の上半身に手を添え砂から起き上がらせる。
少年は梔子ユメの口を開かせ、補水液を口へと押し込み中身を流しこんでいく。補水液は少しずつ量が減っていく、こくこくと喉が少しずつ動くが、途中でその動きは止まり、口から補水液が溢れる。
「……んんんっ!ぷはぁ、んっ、ろろろろ、けほっ、けほっ、ごめんね、もう、飲み込め、ない、や」
「……」
次の瞬間には彼女は飲み込みきれずに喉の奥からそれを吐き出していく。少年は口から無理矢理摂取させることは悪化を招くと判断し、梔子ユメの首にまだ冷たい補水液をあて、自身の上着をかけることで日光から遮断し持ち上げる。
まともに動けない人間の重量はより大きく感じるものだが、少年はものともせずそれを持ち上げた。
砂漠の地平線の向こうへと太陽は沈みかけ、朱色に変わっている。
「アメ、くん。勝手な、お願いする、ね……和平、したいなってこと、と、ホシノちゃんに————」
「……気が向いたらやってやる」
「……そっか、あり、がと……」
少年は梔子ユメを抱き抱えると共に走り出す。あまり揺らさないようにと配慮がされており、しかしその走りは途中で止まる。
手遅れだと少年は明確に感じ取った。
元から手遅れだということはわかっていた。それでも試そうとはしたが、やはりそれでも手遅れという事実は変わりなく。
言葉を一つ二つかわした頃には太陽も沈み夜となり、月が砂漠を照らしている。
瞳孔、脈、呼吸、その全ては停止し、少年の神秘、知識、感覚の全てがその体にそれがないことを証明していた。
少年は彼女を抱え、そのままとある高校へと真っ直ぐに足を向ける。
溢れ落ちた髪の毛の一本一本を拾い上げ、道すがら襲いきた蛇を梔子ユメを損傷させないように撃退し、多少の負傷を負いはしても、何も欠かさずに少年は凌ぐ。
梔子夢の痕跡を拾ってから歩んだ結果か、蛇への対処に時間をくったからか、徒歩だったからか空は黒から青色へと変わり始めていた。そんなとき、ようやく少年はアビドス高校の前に辿り着く。
——————
『何回騙されてるんですか!?そんな体たらくで夢と希望に満ちたアビドスとかよく言えたものですっ。そもそも!その考えが問題なんですよ、デュアトとも和平結ぶのだってあいつのスタンスからして無理でしょう!なんであんな奴に時間を使うんですかっ。もしかしたらできるかも、なんて夢物語に縋ってどうにかなるわけないでしょう論理的に考えてください。そもそもなんでユメ先輩は無理に和平を結ぼうとしてるんですか!?』
『だ、だって、アビドスの未来はみんなでやらないと』
『あいつにそんな意向は全くないでしょう!見ればわかりますっ』
『そ、そんなことないよ。デュアト学園って、そもそもアビドスの行末の方向の違いで生まれたところらしいし、きっとアメくんだってアビドスのことを」
『何年まえの話をしてるんですか?そもそも、あいつが本当にアビドスのこと考えてるなら和平結んでるにきまってるじゃないぇすかっ。現実をみずに行動する先輩になんてもう付き合ってられません、1人でやっておいてください!』
勢い余ってこれまで溜まっていた鬱憤も吐き出してユメ先輩に酷いことを言ってしまった。
ユメ先輩のことだから私にあんな付けはなされることを言われてもいつものようにくっついてくるとは思うが、それでも謝らないといけない。
だが、後悔はしていない。そもそも、アビドスを夢と希望に溢れる世界にするには厳しい現実と直面しなければならないのだ。これを機にユメ先輩が少しでも変わってくれればいいと思う。
しかし、それは後悔へと変わった。
朝、ユメ先輩の置き手紙を見て、嫌な予感がして、校舎内をくまなく探し、そして外に探しに行こうとした時。
布で包まれた、ヘイローのないユメ先輩らしきものを抱える、戦闘の末か傷ついてるあいつがいて。布からでているユメ先輩の顔は、寝ているとか、ただ気を失っているとかそういうものではなく。
理解したくないのに理解してしまった。否定したいのに、知識、感覚、そして勘が全てそれを肯定した。
ユメ先輩は、すでに
「小鳥遊ホシノ。連絡先を持っていなかったが故無許可で校門をくぐったことを謝罪する。訃報だ。砂漠で瀕死の状態の梔子ユメを発見し、介抱はしたものの」
聞こえなかった。何も聞こえなかった。口先だけの謝罪も、どのような経緯で今のような状態になったのかも。それら全てを聞き流し理解できずにいた。
音として耳に入りはするが、意味あるものとして自身の中では成立していなかった。
「お前が」
「?」
ただ、心の中で湧き上がったのは、そいつへの不信、しかしどこかには最低ラインあった信用、それらが崩れ去り溶け合い憎悪へと転じたもの。そしてそこにユメ先輩への信用信頼に比例するほどに増加した激しい殺意。
「お前が、殺したのかっユメ先輩を!!」
「……殺していない」
少し言い淀んだ様子に、根拠も何もなくとも確信する。
あいつの体の傷、死んだユメ先輩、そこから考えられるものは必然的にユメ先輩とアイツが戦闘をした末のもの。ユメ先輩はあいつに反撃なんてできないことを利用して一方的に。
明らかな矛盾が存在することにもその精神では気づけず、小鳥遊ホシノはそれまでに見せてこなかった速度で接近。
ショットガンを向けられ、普段多対一の戦闘時によくする敵の体を盾にする要領で少年は梔子ユメの体を盾にしようとし、しかし流石の少年もそれはまずいと躊躇する。
「!!!待てっ、お前は一つ勘違いを」
小鳥遊ホシノがショットガンを展開するよりも短い瞬間的なもの。正気を失いながらも的確に、その隙をつき接敵しショットガンを少年へと付近から向ける。
その速度はこれまででは見られず、もしも少年が突然牙を剥いた時のためと鍛えていたものが実ったか、はたまた怒りによる覚醒か、復讐として神秘がより強化されたか。
少年は左腕でショットガンの先を押さえつけようとするが間に合わないと察すると左腕を犠牲にすることを前提とした防護にはいる。
ホシノのショットガンによる一撃は少年の左腕に受け止められるが、すでに生傷がつき傷ついた左手で受け止めきれなく、溢れたものは少年の頬や脇腹を抉っていく。その上で左腕はまともに使えるものではなくなっていた。
ホシノは少年の腹へとショットガンの先を向け、放つ。しかし、少年はそれのほんの少し前にそれを蹴り上げ、ショットガンを上部に向けさせる。間に合わずそれは少年の胸に当たるが、少年は無理やり体を捻り下げ、上に上がったショットガンのパイプを噛み砕き使用できなくさせる。
小鳥遊ホシノは一旦距離をとり、ショットガンが潰れようが構わず噛み砕かれ変形した場所をへし折り、そして無理やり指の力で穴を開ける。
暴発が必須なものではあるが気にしない様子で小鳥遊ホシノはまた接敵しようと、折って不要になった部分を投げ、相手がそれに対処している間にまた接近しようとするが、その前に少年から梔子ユメを投げ込まれる。
少年は互いに無駄な損傷を負うことを嫌い、梔子ユメの肉体を小鳥遊ホシノがキャッチしなくてはならない形で放り投げた。
更にはポケットから手榴弾を取り出し、地面で爆発させ砂煙を上げさせることで視界も塞ぎ、肉体にガタが来ていることに気づきながらも即座にその場から逃走する。
小鳥遊ホシノは追いかけるか梔子ユメの亡骸を放置していくか思考し、ようやく少し正気に戻り、梔子ユメを抱え、その顔を見る。
「ユメ、せんぱい……」
『あれ?ホシノちゃん?ごめんねぇ寝落ちしちゃってたみたいで』
「返事、してくださいよ、いつもみたいに」
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先輩曰く、梔子ユメは死ぬ運命なのだと。
先輩曰く、先輩曰く、梔子ユメはこの世界の物語に到達する前に死ぬと。
先輩曰く、それは前提なのだと。
先輩曰く、ギヴォトスは、アビドスのみにならず滅びを前提とした物語の上で存在していると。
「くっくっくっ、お待ちしていましたよ、打它萌アメさん」
「待ってた、ね。わざわざ待ってたなら内容もわかるだろ、取引だ、モノク……黒服」
先輩曰く、この世界はブルーアーカイブという、いまだ始まってすらいないすみ切って濁った青春物語だと。
実は、書き溜めは尽きているのでしばらく投稿はない可能性がある。