今回も画像は生成AI使用です
今回、名前の記載が画像にありませんが、画像はウンベルト・ボッチョーニです
今日の分の作品のクリティークが終わり、私は自分の執務室に戻った。
最近の作品はドーセントのものもスチューデントのものも皆一様に凡庸だ。全体的に疾走感に欠けるし、既存の枠を破壊しようという意欲も感じられない。こんな体たらくでは、他の派閥のマエストロたちにとてもではないが顔向けできない。
何より、最近になって痛感しているが、私は自分の流儀を他人に教え受け継がせるのがいまいち得意ではない。あるいは、彼らには決定的に欠けているものがあるのか?
だとすれば何が?
……愚問だ。彼らは本物の戦争を経験していない。
私は戦争を賛美すべきものとして肯定している。それが世界で唯一の衛生だからだ。
戦争はいつだって旧来の腐れきったゴミどもを一掃し、新しい世界――未来を我々に与えてくれる。特に翼戦争など、その最たるものだ。
特に機械による大量虐殺など、素晴らしいとは思わないか?歯車、チェーン、タイヤ、そしてエンジン――すべてが噛み合い、調和し、一定の加速度で殺していく。それはまさに英雄的ともいえる、人智のなし得る所業だ。
私がまだドーセントだった頃、煙戦争に参加した記憶が蘇る。あれは良かった。全てはあの戦争から始まったと言っても過言ではない。
では、それなのに何故……何故、具体的に何があったのか、未だにそれを思い出せない?
翻って、執務室の机の上に置かれた卓上カレンダーを見る。その中の一つに、赤文字で例の計画の当日に印が付けてある。
もう、1週間を切った。この日のために、ドーセント達に声を掛け、スチューデントから選抜班を選り抜き、有望な組織から幾らかの人員を指名した。
私の未熟極まりない弟子どもも、少しは戦争の何たるかを学べるといいが。
ふと、あの軽薄な顔が脳裏に浮かぶ。
あの男、ああも私をおちょくってくれたが、その間中ずっと隙を見せなかった。今でもあの気色の悪い猫撫で声を思い出すと血管に負担がかかるが、まあいい。そうやって調子に乗っていられるのも今のうちだ。奴はいずれ、自分の息子と対峙するだろう。その色にあの黒を加えてやれば、どちらか、あるいは両方とも……
それに、連中が口にしていた「煙戦争期に撮影された貴重な各社の戦闘風景」というのも気になる。もはや煙戦争は過去のことだが、それでも私の不安定な記憶を手繰り寄せるためには、見て確かめねばならない。
さて、と。薙刀の手入れをせねばな。
***
そしてやってきた、Xデー。オレはオスカーの職場……もとい、東部セブン協会3課のビルの前に到着した。
なかなかイカした建物じゃん。オレの年収じゃあ一生かかっても買えそうにない大きさだね。
さてと。カチコミますか。
建物の塀を飛び越えて静かに着地し、ビルの裏手に回って一気に跳躍する。上から攻めたほうが地の利があるからね。
あえて屋上にそのまま着地せず、屋上近くの壁にぶら下がり、頭だけ出して様子をうかがう。……タバコを吸いに来てるフィクサーが三人、っと。壁伝いにフィクサー達の死角に回り込み、屋上に滑り込む。
そして、話し込んでいたフィクサーの一人の頭を背後から両手で掴み、一気に捻った。
ゴキッという鈍い音を立て、首が半回転して一瞬目が合ったフィクサーが崩れ落ちる。
「うわっ!何だコイツ!?」
「はろはろ〜、カイです!」
残りの2人のフィクサーが同時にケインソードを抜き、襲いかかってくる。
「ちょっと本気パンチ!」
右手側に避けて剣を躱した後、刺青と強化筋繊維を同時に駆動し、片方の顔面にストレートを打ち込むと、パキャッという小気味よい音を立て、首が千切れて飛んでいく。ホームラン!
その隙に最後の一人がケインソードで斬ってこようとするので、今や頭のないフィクサーの体を盾にして防ぐ。そして前方に蹴りを放ち、首無しの死体ごと、最後のフィクサーを吹き飛ばす。
「ちょっと本気キック!」
ボキリと背骨が折れた音だけを残して、腹に穴が空いた二つの死体は、屋上のフェンスを突き破って落ちていった。
まずは屋上、制圧。薬指のみんなはいつ来るかな〜。
そんな事を考えながら最上階に続く扉を開くと、どうやらその階はコピー機やデスクが立ち並ぶオフィスのようだということが分かる。やっぱり全員スーツに身を包んでいる建物の中だとアロハシャツは目立つのか、一気に周りの視線がオレに集まる。いや〜、オレってば、人気者。
手近にいたフィクサーの胸を手刀で貫き、心臓を握り潰す。その音を合図に、乱闘が始まった。
***
「フム、こんな所に隠していたか」
随分、探すのに手間取ってしまったが、ようやく見つけた。これが私の探していた資料……どうやら、映写機用のテープのようだ。ここに来るまでにかなり多くの駄作を作ってしまったし、さっさと内容を改めて帰るとしよう。
資料室の隣の映写室に移動し、テープをセットして映写機のスイッチを入れる。「煙戦争時の各社戦闘資料」とタイトルが大きく映される。3秒のカウントダウンの間に、私は据え付けてあるソファに腰を下ろした。
……
……
ほう、私の配属されていなかった地域ではこんな兵力が……
……
……
なるほど、やはり食欲を失うような技術ばかりだ……
……
……
それにしても、速度とは無縁の泥臭い塹壕戦ばかりだな……
……
……
待て、そうなると、結局、私が戦ったのは……
……
……
やがて、カチリという音と共に映写機のスイッチが切れ、映像は終了した。
各社の決戦兵器が無差別に殺戮を繰り返す様は確かに圧巻だったが、それでも効率化された、機械によるそれのような虐殺のシーンは全くと言っていいほど無かった。
塹壕、溜息、停滞した緊張、がなり立てる指揮官に、怖気づきながら前へ進む兵卒……私が見たのは、おおよそ速度や英雄的衝突とは無縁の世界だった。
……いや、違う。煙戦争は確かに破壊をもたらし、『衛生』としての役割を果たしたはずだ。
……なのに、なぜ今、私の胸はこんなにも高鳴らず、脳裏に「裏切られた」と浮かんでいるのだ?
フム……
……
……
……?
何……だ?
……
……?
『残念ながら、あなたが望んだ戦争は、煙戦争では達成されなかったようね。』
「待て……なぜだ?なぜ、貴様が話しかけてきている?」
『もっと、考えるべきことがあるんじゃないかしら?』
「……そうか、モノリス!」
すぐに上階のモニタリングルームに駆け込み、モノリスを設置した階の様子を見る。
そこでは、T社の職員たちがモノリスを起動している。どこから入ってきた……?
『ふふ、やっぱり、人間って見てて飽きないわね。』
「くっ……!」
『でもね、ボッチョーニさん。無いものは無いけれど、それなら作ればいいんじゃないかしら?』
……一理あるな。
『なら、今度こそ達成しましょう?あなたの望む、世界で唯一の衛生、本当の煙戦争を』
……ああ、確かにそうだ。世界で唯一の衛生、最高の戦争。それは、作るべきだ。
だが。
「未来とは、本質的に到達することのできないものだ。どれだけ加速しようと、どれだけ生を燃やそうと、未来は遠ざかる一方である」
『あら?』
「だからこそ、現在に生きる我々は懸命に足掻き、到達しようとするのだ」
『……そう』
「元より、芸術家などという者は、到達可能な理想などを追うようでは二流だ。まあつまり、何が言いたいかと言えば……」
『ええ、もういいわ。あなたは、あなたの戦争じゃないと納得できないのね。それなら、それに相応しい力をあげる』
「……フン」