画像は成功AIです!
薬指と「謎のアロハシャツの男」による襲撃の被害は、あっという間に事務所全域に広がった。僕も僕で、スチューデントを4人ほど処理し、上の階へ上がる。そこでは、画像を引き伸ばしたかのように不自然に変形した人体達が一面に広がっている。この作風に、さっき倒したスチューデントの持っていた武器の形状からして……おそらく未来派の仕業だな。
未来派。薬指の派閥の中でも最新の派閥。過去の薬指の派閥の作品を全て「死体」呼ばわりして一騒動引き起こした、急進的な派閥。特徴はマエストロのウンベルト・ボッチョーニが発明した、G社の重力技術にT社の時間加速技術を組み合わせ、時空間に歪みを作り出し、それに陥った対象の存在を多層化させて引き伸ばす、「空間における連続性の唯一の形態」技術を使用した作品制作。ウンベルト・ボッチョーニは弱冠24歳でマエストロに上り詰め、その独創性や革新性から一部のマエストロ達からは一目置かれているが、同じくらい敵も多い……。
その未来派がなぜここを襲うのか。
――自明だ。おそらく、先週ここに送られてきた1課の重要機密資料……それを狙ってのことだろう。
僕に残された選択肢は二つ。このまま上階に上がってアロハシャツの男、もとい父と相対するか、それとも地下の資料保管庫に降りて資料を守るか。
僕の足は依然、上を目指している。
……ああ、分かっている。本来なら、今こうしているように上へ行くのではなく、地下に行って資料を確保すべきだ。
しかし……しかし、真上に伸びた例の灰色の糸が、僕の手首を千切れんばかりに締めつけている。それに、心なしか糸が僕を引っ張っているように感じる。
……
……何だ?なぜか、頭が重い……。
……
……分かっている、でも……、
……僕は……どうすべきなんだ……?
……
……
……僕は……どうすべきだったんだ……?
……
ふと、視点が変わる。
僕は宿題を終わらせて、父にチェックしてもらっている。
全て見終わると、父は笑って僕の頭を撫でる。しかし、その目は……
ああ、鮮明に思い出せる。その目は……
「すごいな、オスカー!全問正解だよ!」
……
……
『……あなただって分かっているでしょう?』
どこからか、高く澄んだ声がそよ風のように流れてくる。
『あなたは、彼に愛してほしかったの。父として。家族として』
ああ。そうかもしれないな。
『今からでも間に合うわ。彼にそう伝えましょう?あの頃のような、暖かな日々を取り戻しましょう?』
ああ……、その通りだ。
全くもって、その通りだ……。
***
よし、この階も粗方片付いたかな〜。少し遠くで剣に付いた血を拭いているドーセントに歩み寄る。どうやら、戦闘後の一服、といった感じだ。
「ごめ〜ん、火ぃ貸してくんない?」
「ん?ああ、あなたがマエストロの言っていた……まあいいでしょう、どうぞ」
「さんきゅ♡」
ドーセントから火を借り、自分のタバコに付ける。すぐには吸わずに、少し待ってから吸うのがオレ流だ。
……ふぅ。最近、ガラにもなく働きすぎてる気がするなぁ。オレの理想の働き方は、なんかこう、もっと自由で、好き勝手騒いで……みたいな感じなんだけどなぁ。
うーん、自由、かぁ。そう言えば、あの裏路地に来た時に最初に提出した作品の書は「自由」って書いたなぁ。
そう考えると、今のオレ、雁字搦め過ぎるね。仕事も、土地も、金も、そしてオスカー……アイツも。まぁ、白夜・黒昼で嫁を失う前よりはマシだけどもね。
……ふぅ。なおさら、アイツについては、ケリをつけなきゃなぁ。ダルいなぁ〜。
「……何か、音がしません?」
「音ぉ?」
耳を澄ますと、確かに変な音が聴こえる。縄を擦り合わせると出る音のような、ギチギチという音が。
次の瞬間。ドアが勢いよく吹っ飛ぶ。
そして、何本もの灰色の縄が壊れた扉の中から矢のように飛んでくる。隣にいたドーセントは、心臓とみぞおちを貫かれた。
「ガハァッ!」
「うわっ!なになに!?っていうかドーセントちゃん、何コイツ!?」
「……ひゅー、……ひゅー、ケホッ、……」
「ちょっと、ドーセントちゃん!出落ちが過ぎるって!」
「マエ……ストロ……モノリスを……な……ぜ……」
それきり、倒れたドーセントは気絶した。モノリス……モノリス?何だそれ?
それより、と扉の方に目を向ける。
おそらく、こんな馬鹿げた方法で人を殺せるとしたら、ねじれだ。そして、これは直感だが、オレはこのねじれを知っている。
さっきまで扉があった穴の縁に数え切れないほどの縄がのしかかり、ギチギチという音を立てて壁を圧壊させる。壁一面が壊れたおかげで、そのねじれの姿が露わになる。
大量の、蠢く灰色の縄に覆われた、大きな犬や狼……いや、あれは狐か?そんな姿のねじれだ。
「あれっ、オスカーじゃ〜ん!どうしたの?」
その声に反応するように、ねじれたオスカーが顔を上げてこちらを見据える。
……その視線に、思わず虫酸が走った。
「父さん……」
妙に高く変質した声が辺りに響く。それは赤ん坊の笑い声のようであり、また少年の泣き声ようでもあった。
「ごめんなさい、父さん……。僕、ケガしちゃった……」
背筋の上を、何かゾワゾワするものが駆け巡る。オレは、コイツに何を求められているか知っている。
「父さん……宿題……見て……」
同時に、十分に背筋を駆け巡ったそれは、オレの首筋に登ってきた。
「父さん……」
「黙れ……!」
「……父さん……?」
「黙れっつってんだろが!」
ねじれたオスカーは、涙を溜めた目で見つめてくる。
オレの中で、何かがプツンと切れた。
「……ああクソ、その目……!その目だ!昔から、オレが少し優しくしてやったら子犬みたいに尻尾振ってその目で見つめて来やがる!やめろ、やめろっつてんだよ、このクソガキが!オレを『父さん』だなんて呼ぶんじゃねえ!」
オレが言い終わらないうちにオスカーは哀しみを込めた咆哮を上げ、それに呼応するように体を覆っていた縄が高速で辺りを斬り刻む。
アレに捕まったら、一巻の終わりだ。オレは縄を避けながら、1つずつ階の柱を蹴り砕く。やがて中央の柱があと一本、もうすぐ階が崩落するというタイミングでオレは下の階への階段に滑り込む。
やがてドシンという音とともにビルの上階が崩落する。これで動きは止められるだろう。オレは近くの窓を割り、壁を登って崩落した階に戻る。
「父……さん……」
「……まだ生きてたか」
流石はオレの息子だね。
さっきのドーセントから借りっぱなしのライターでタバコに火を付ける。
それじゃあ、予定通り……
刺青を最大出力で起動し、オスカーの頭に触れる。みるみるオスカーの体温は下がっていき、対照的にオレの傷はどんどん塞がっていく。やがて、オスカーは静かに目を閉じた。
そろそろ、日が傾き始める時間だ。
***
「やぁ、お疲れ様、ボッチさん?」
「ほう、生きていたか」
「いやぁ、今日は色々とありすぎて、おじさんボロボロだよ〜」
「フム、ならば報酬は弾んでやろう」
「……ありがとさん」
「何だ、いつもの威勢はどうした?」
「言ったでしょ。おじさん、ボロボロなんだって」
「息子を殺したのがそんなにこたえるか?」
「知っててやったの?悪趣味〜」
「うむ、本来、私がやるような芸術ではないが、貴様の息子は中々良い作品になってくれたな」
「……ホントに悪趣味」
FIN.