霧と魔縫のファムファタル   作:大根ハツカ

10 / 13
@10 速攻と側近

 

 

「三、二、一……決闘開始!」

 

 

 直後、キルティ=パッチワークは動く。

 煤で汚れたような黒のセーラー服は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 属性(カラー)は黄。

 極限まで布を薄く仕上げたそれは、ドレスと呼ぶよりもむしろスポーツウェアのような魔縫戦衣(ドレスコード)

 アルルーナ=ローズ=テウルギアは目を見開く。未知に対する恐怖ではない。()()()()()()()()()()()()

 

(────『風斬刎(ファルコン)』……?)

 

 頭に浮かぶのは、『魔女の型録(クローゼット)』に死蔵された失敗作の名前。

 同時に、本能が警戒を告げる。『風斬刎(ファルコン)』の固有魔法とは加速。つまり。

 

 

「まずは一人」

「──────え?」

 

 

 敵との距離なんて、あってないようなもの。

 瞬きの刹那、キルティ=パッチワークはアルルーナの懐に潜り込む。

 

 速い。早い。

 思考は追いつかない。

 気付けば、キルティの振るった(ワンド)がアルルーナの顔面にめり込んでいた。

 

「ぶァ、がばっ⁉︎」

「アルルーナ様っ⁉︎」

 

 殴り飛ばされたアルルーナは無意識に数歩下がる。

 ぼやけた視界に追撃の手が映る。キルティはもう一度、(ワンド)を高く振りかぶっていた。

 

「僕を忘れちゃ困るなあ♡」

「くッ、邪魔っす!」

 

 取り巻きの動きはナクア=アラクネーに妨害され、二人の戦いに割り込む事もできない。

 三対二でありながら、この瞬間においては一対一。

 

(ウチが負け……いや、あり得ないっしょ。こんなッ、こんな平民なんかに……っ!)

 

 打たれ弱い精神を、貴族令嬢としての誇りで立て直す。

 顔面へ刺さる一撃は通常の戦闘では強力なのだろうが、魔縫戦衣(ドレスコード)同士の戦いでは大した意味を持たない。

 勝敗に直結するのは防御魔法の残量であり、どの部位に攻撃を受けても削れる防御魔法の量は一定なのだから。

 

 アルルーナが怯んだのは、彼女の心の弱さに起因するもの。

 まだ戦いは始まったばかりである。

 

「ウチを舐めんなァ!」

「…………ッ⁉︎」

 

 キルティの(ワンド)を、アルルーナは顔面で受け止める。

 いつの間にか、キルティ=パッチワークが纏う魔縫戦衣(ドレスコード)は元の黒色に戻っていた。加速力を失った(ワンド)の一撃は、アルルーナの体勢を僅かに崩すだけで終わる。

 

 この一撃は避けようがないコテラルダメージ。アルルーナはそう考えた。

 ならば……と、アルルーナは逃げる事より、相手の攻撃の時間を使って()()()()()()()()()()()

 

 インパクトの瞬間だった。

 ぶわっっっ‼︎‼︎‼︎ と、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

煤煙(スモッグ)……いえ、違う!)

 

 キルティも見慣れた汚い煙ではない。

 蒸気機関の吐き出す黒い息よりもずっと綺麗な、視界を白に染める自然の霧。

 

 白い霧の中にアルルーナの姿は消える。

 否。それだけではない。

 『試着室』一帯に霧は充満し、何もかもが見えなくなる。

 

「しまった。ゴーグルだけじゃなくてマスクも持って来るべきだったわね」

 

 ゴーグルで目を守りながら、キルティはぼやく。

 煤煙(スモッグ)で包まれた街の必需品は、このヴァルキリア魔縫女学院では必要なかったため油断していた。

 もしもこの霧が毒ガスのようなものだったならば、既にキルティは倒れていたのかもしれない。

 

 そして、戦況は動く。

 霧の噴出はただ逃げるためのモノではない。

 即ち────

 

「……敵の分断、ね」

「あーしはマイン=グレネード。よろしくですぅ」

 

 

 

 

 

「なーるほど。まずはキルティちゃんを叩こうってワケだねえ」

 

 ナクア=アラクネーもまた同様に。

 霧に包まれた視界の中で、立ちはだかる少女を目にする。

 

「ツマンナイなぁ。僕と戦う気ある?」

「仕方ないっすよ。自分じゃあ勝てないっすからね。勝ち目のない戦いはしない主義っす」

「ミッツ=ホーネット。取り巻きなんかで満足しなきゃ僕にだって迫る逸材だったのに。勿体ない。それとも……()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「………………そのクチ塞いでメチャクチャにしてやろうかクソ女」

 

 ブブブブ‼︎‼︎‼︎ と。

 不快な音を奏でて空気が震える。

 霧に隠された先で、何かが息を潜めている。

 

 否。何かなんて言うまでもない。

 黄色と茶色で構成されたメイド服。

 つまり、その魔縫戦衣(ドレスコード)が示しているのは最初から一つだけ。

 

 瞬間。

 ナクアは反射的に(ワンド)を振るう。

 振るった後で、自分に近づいていた何かに気が付いた。

 

(コレは……毒蜂(ハチ)、か)

「この霧の中で気付くとか、どういう神経してんすか。流石にショックっすよ」

「謙遜する事はないさ。わざと怒ったフリをして意識を集め、死角から毒蜂(ハチ)を飛ばす。……手慣れているねえ」

 

 しかも、ナクア=アラクネーは知っている。

 ミッツ=ホーネットが扱う固有魔法の真髄とは、ただ毒蜂(ハチ)を飛ばす事ではない。

 

(メインカラーは黄色。つまり風属性の魔縫戦衣(ドレスコード)。その本質は毒蜂(ハチ)を操る事ではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 『蜂の女王(ミストレス)』。

 それがミッツ=ホーネットの魔縫戦衣(ドレスコード)

 一撃必殺の固有魔法を有する、学年最強の風属性魔縫使い(ドレスメーカー)

 

 ミッツ=ホーネットが恐れられる理由とは、彼女の強さ以上にその勝ち方。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ぞくぞくぞく‼︎‼︎‼︎ と。

 ナクアの背筋に快感が走る。

 本気の敵との一対一。しかも相手が有利な、毒蜂(ハチ)を隠せる深い霧の中。

 こういった場面こそ、ナクア=アラクネーが求めていたものであった。

 

(ああ♡ 集団プレイは趣味じゃあないけれど……キルティちゃんに味方して良かった♡)

 

 

 

 

 

 ゴバッッッ‼︎‼︎‼︎ と。

 通算三度目の衝撃でキルティは吹き飛ぶ。

 敵はマイン=グレネード。ピンク色と紫色で構成されたメイド服を纏った少女。

 

 しかし、キルティは彼女との対面から一歩も進めていなかった。

 

「地雷……ね」

 

 何となく、固有魔法に当たりをつける。

 実際に地中に何かが埋まっている訳ではない。

 ただ、進路上の──空間に、あらかじめ攻撃魔法が設置されている。

 

 どの道を進もうと吹き飛ばされる。

 必要なのは攻撃魔法に耐える防御力か、地雷が仕掛けられていないルート探す力。

 けれど────

 

「地雷の場所を探しているのです? 無駄なのですよー」

「チッ」

「あーしは食わず嫌いのヒトって勿体ないと思うのです。食べてみるまで好きか嫌いか分からないのなら、いっそ試して見ればいいのにって」

「……なんの話?」

「だから、あーしの魔法も同じなのでーす。あーしの地雷……設置式攻撃魔法は未完成なのですぅ。他人の神秘に触れた時、それが引き金となって魔法が完成する。つまり──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()食わず機雷(ワールドイズマイン)()()()()()

 

 攻撃の瞬間まで何処にも存在しない魔法。

 故に、無敵。故に、不可避。

 『食わず機雷(ワールドイズマイン)』の攻撃魔法は絶対に察知できない。

 

 あるいは、マイン=グレネードの顔を見る事ができれば、また違ったのかもしれない。

 魔法自体には場所を示す痕跡はなくとも、相手の態度や視線から分かることもある。

 しかし、この深い霧では相手の顔色ひとつも伺えやしない。間違いなく、このコンボを前提とした固有魔法。

 

「勝ち目はないのですぅ。最初の強襲を見た限り、そっちの固有魔法は加速。でも、どれだけ速く動いたって、地雷原の中を走り抜ける事はできない──」

「────なんだ、楽勝じゃない」

 

 逆境。

 そういう時こそ、キルティ=パッチワークは笑う。

 

 深い霧に囲まれている。

 それは敵だけの利点じゃない。

 キルティがマインの様子を見れないように、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「アナタの魔法は未完成だからこそ脅威。だったら──()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 それは暴論だった。

 何処に地雷が埋まっているか分からないのなら、先に別の人間に前を走らせたら良い。

 そう言っているのと同じレベルの理屈。けれど、それができる力がキルティにはある。

 

「────換装」

 

 いつの間にか、キルティの服装は漆黒のセーラー服から変わっていた。

 苔むしたような深緑の色合い。異国情緒(オリエンタル)溢れる見慣れない魔縫戦衣(ドレスコード)

 否。ヴァルキリア魔縫女学院の生徒は、その魔縫戦衣(ドレスコード)を見慣れている。それは『魔女の型録(クローゼット)』に並ぶ失敗作の一つ。

 

 マインはその魔縫戦衣(ドレスコード)の名を知っている。

 そして、それが有する固有魔法は────

 

 

「『砂場の人形遊び(マッドマッド)』……⁉︎」

「行きなさい、泥人形(ゴーレム)! 前方の地雷を踏み潰せ‼︎」

 

 

 ──()()()()()()()()()()()

 

「………………は、」

 

 マイン=グレネードの思考が止まる。

 だって、それはあり得ない。

 キルティ=パッチワークが用意した固有魔法は『加速』。それは間違いない。

 ならば、目の前のモノはなんだ? 泥人形? 加速と泥人形はどうやって一つの固有魔法で両立している?

 

(……いえ、まさか。()()()()()()()()()⁉︎ あ、あり得ないの思うのですが……)

 

 しかし、思い出す。

 目の前のキルティは平民。

 ヴァルキリア魔縫女学院の常識が通用しない異物。

 

 故に、あり得る。

 ()()()()()()()()()()()()()()()‼︎

 

 

 

「魔法が一人一種類って決まりはないわよねぇ?」

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

蜂の女王(ミストレス)

属性:風

メインカラー:黄・茶

ミッツ=ホーネットの魔縫戦衣(ドレスコード)。黄色と茶色のミツバチ風メイド服。

蜂型の魔物を生み出し、使役する固有魔法を持つ。毒蜂(ハチ)に刺された生き物は問答無用で意識を失う。

 

 

食わず機雷(ワールドイズマイン)

属性:火

メインカラー:ピンク・紫

マイン=グレネードの魔縫戦衣(ドレスコード)。ピンク色と紫色の地雷系メイド服。

空間に攻撃魔法を設置する固有魔法を持つ。攻撃魔法は神秘に触れた瞬間に完成し、爆破を引き起こす。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。