霧と魔縫のファムファタル   作:大根ハツカ

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@12 霧と君

 

 

 

「待たせたわね」

「……別に待ってないっつーの」

 

 マイン=グレネードは倒した。

 ミッツ=ホーネットはナクアが抑えた。

 残るは一人。取り巻きのいない孤独な女王。

 

 

「始めましょうか、アルルーナ=ローズ=テウルギア。これは最初から、私とアナタの決闘でしょう」

 

 

 白い霧に覆われた視界の中で、その少女だけは輝いて見えるようだった。

 

 属性(カラー)は緑。即ち、地属性。

 淡いミントグリーンに染まったワンピースドレス。

 森の妖精のような魔縫戦衣(ドレスコード)を纏う金髪の公爵令嬢、アルルーナ。

 

 対するは、漆黒。

 属性(カラー)は黒。即ち、闇属性。

 煤に汚れたような黒のセーラー服を纏うスラム生まれの平民、キルティ。

 

 真逆の少女は、とうとう相対する。

 互いに油断なく(ワンド)を構え、思考を巡らせる。

 

(マインが落とされた時点でウチらの負けはほとんど確定している。ウチとミッツの二人だけじゃあ虐殺令嬢ナクア=アラクネーには敵わない。だったら──)

(ナクアは多分、助けには来ない。一対一を好むあの女はきっとニヤニヤ笑いで戦いを傍観するでしょうね。ミッツ=ホーネットを倒した時点で、満足して降参しても不思議じゃあない。だから──)

 

 

「──せめて、アンタだけはここで潰す!」

「──ここで、アナタを叩き伏せる」

 

 

 踏み込みは同時。

 けれど、キルティは一歩遅れる。

 理由は単純。足が何かに(つまず)いたために。

 

 ガギンッ! と。

 体勢を崩したキルティに攻撃魔法の一撃が叩きつけられる。

 衝撃を受けたまま体を立て直す事ができない。キルティの平衡感覚は、完全に死んでいた。

 

「がっ⁉︎ こ、れは……霧に何か、神経毒のようなものが混ざって──」

「バーカ! この霧は毒ガスなんかじゃないっつーの。つーか、防御魔法がある限り、生半可な固有魔法じゃあダメージを与えられないのは当然でしょ?」

「…………っ!」

「だから、固有魔法ってのは大抵が汎用魔法の拡張か──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 真っ直ぐ立つことができない。

 まるで地面が傾いているかのよう。

 いいや、あるいは────

 

「私じゃ、ない。()()()()()()()()()()()⁉︎」

 

 後退するキルティの背に何かが触れる。

 それは決定的だった。間違いないと確信を得る。

 

 アルルーナの魔縫戦衣(ドレスコード)は地属性。

 有するのは何かを具現化する固有魔法。

 けれど、具現化されたのは霧だけじゃない。

 

 

()()()……()()ッ⁉︎」

「ウチの魔縫戦衣(ドレスコード)──『イタズラ好きの妖精(トリックスター)』の固有魔法はただ一つ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 白い霧は視界を覆い、根を張る植物は地面を傾け、無数の木々が方向感覚を狂わせる。

 地属性の極地。大いなる自然そのものを具現化する極大の固有魔法。

 

「白霧樹海メナイって知ってる? セカイ三大秘境の一角に数えられる……霧に包まれた巨大な森林。暑い夏はよくお祖母様とメナイにある別荘で遊んだんだけど」

「……だから、慣れてるって?」

「ウチはこの樹海での走り回り方を知っている。アンタはどうかな?」

 

 かつては不可侵を謳われた霧深い樹海。

 アルルーナの『イタズラ好きの妖精(トリックスター)』はそれを丸ごと再現する。

 

 しかし、それだけでは強くない。

 『凍てついた帷(オーロラヴェール)』が着用者にも寒さを与えるように、『イタズラ好きの妖精(トリックスター)』は敵味方関係なく行動を阻害する。

 アルルーナ=ローズ=テウルギアの本当の強さとは、どんな足場でも動き回れる強靭な体幹能力にあった。

 

(正面からじゃあ倒せない。そもそも平民の私には、汎用魔法の殴り合いでは分が悪い。だから複数の固有魔法を扱う戦闘法(スタイル)を確立したのだけど……)

 

 それでも、この場で使える固有魔法は多くない。

 『風斬刎(ファルコン)』の加速は、障害物の多い樹海の中では使い物にならない。

 『砂場の人形遊び(マッドマッド)』の泥人形(ゴーレム)は強力だが、敵に接近している最中に汎用魔法が弱体化する危険性(リスク)は余りにも大きい。

 

 ならば、残された固有魔法は一つだけ。

 キルティとアルルーナは、同時にその名を思い浮かべる。

 

「────換装:『凍てつい(オーロラヴ)、」

 

 

 ()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「なッ」

(来たっしょ!)

 

 換装失敗。

 『凍てついた帷(オーロラヴェール)』は形にならず解ける。

 

「時間ッ、制限……⁉︎」

「これでアンタの固有魔法は残り二つ! マインの置き土産は無駄にしないっての!」

 

 キルティの魔縫戦衣(ドレスコード)半人前の淑女(レディメイド)』は、異なる三着の魔縫戦衣(ドレスコード)を自在に換装する。

 けれど、強力な魔法の代償として、一着ごとに使用可能な時間制限が設けられていた。

 

 マイン=グレネードとの戦いで、キルティは何度も『凍てついた帷(オーロラヴェール)』の冷気に頼った。

 その結果、『凍てついた帷(オーロラヴェール)』の使用可能時間はあと一秒も残っていなかったのだ。

 

 (ワンド)が迫る。

 もはや小細工は必要ない。

 最大の火力を込めた攻撃魔法を叩きつける。

 

 

 

 ()()()()()()()

 

 

 

「勘違いを一つ訂正してあげる」

 

 ()()()()()()‼︎‼︎‼︎ ()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「────────は、」

 

 思考が止まる。

 物理的な衝撃を超えた精神の衝撃(ショック)

 だって、それはあり得ない。

 

「なん、で…………アンタっ⁉︎」

「私の魔縫戦衣(ドレスコード)は最大三着まで異なる魔縫戦衣(ドレスコード)と固有魔法を換装できる。そして、それぞれの魔縫戦衣(ドレスコード)ごとに使用できる時間は限られている。……それは嘘じゃないわ」

 

 再度、爆発。

 見えないのならまとめて吹き飛ばす。

 そんな豪快な荒技が森を破壊する。

 

 アルルーナは目撃した。

 今の衝撃は攻撃魔法によるもの。

 しかし、(ワンド)は彼女の腹部には触れてすらいない。

 

「それはッ、その固有魔法は……‼︎」

()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 攻撃魔法は(ワンド)から放たれた訳ではない。

 進路上──()()()()()()()()()()()()()()()

 そんな固有魔法を、アルルーナは一つしか知らない。

 

 

「────換装:『食わず機雷(ワールドイズマイン)』」

 

 

 爆風で霧が晴れる。

 キルティが纏っていたのは、ピンク色と紫色で構成された地雷系メイド服。

 即ち、マイン=グレネードの魔縫戦衣(ドレスコード)であった。

 

「私には唯一無二の魔縫戦衣(ドレスコード)を作る事ができなかった。私の人生に、何物にも代えがたい価値のあるモノなんて存在しなかった」

 

 かつて、ナクア=アラクネーは言った。

 魔法は好きなモノを扱う方が強くなると。

 他の何かには代えられない愛するモノを扱う事こそが強くなるための方法だと。

 

 けれど、作れなかった。

 なかったのだ、キルティには。

 貧民街(スラム)に生まれ、何もかも奪われてきた少女には、そんなもの。

 

「だから、私の固有魔法はこうなったのよ。他人の魔縫戦衣(ドレスコード)模倣(コピー)して、他人の唯一無二を貶める二番煎じの既製品(レディメイド)に」

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

イタズラ好きの妖精(トリックスター)

属性:地

メインカラー:ミントグリーン

アルルーナ=ローズ=テウルギアの魔縫戦衣(ドレスコード)。森の妖精じみた華やかなワンピースドレス。

霧に包まれた巨大な森を具現化する固有魔法を持つ。生み出された森を制御する事はできず、着用者に与えられた権利は森の創造と消去のみ。

 

 

半人前の淑女(レディメイド)

属性:闇

メインカラー:黒

キルティ=パッチワークの魔縫戦衣(ドレスコード)。漆黒のセーラー服。

他者の固有魔法をコピーする固有魔法を持つ。ストックできるのは最大三着まで。条件は事前に魔縫戦衣(ドレスコード)に触れておく事で、コピーが可能な時間は接触時間に比例する。

『無垢なる乙女』を参考にしており、固有魔法に合わせて魔縫戦衣(ドレスコード)も換装する。

 

 

 

 

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