霧と魔縫のファムファタル 作:8/13〜念能力杯があるらしいです
「これが僕の
それは一見、蜘蛛の巣のようだった。
白い肌の上に張り巡らされた糸。
毒々しい青紫色のメッシュドレス。
本来は上から重ね着をするような網目状の衣服を、ナクア=アラクネーは下着の上から着用していた。
そんなナクアの扇情的な姿を見て一言。
「……その格好、恥ずかしくないのかしら」
「全然? 僕の体に恥を覚えるべき所なんて一片もないからね」
ほぼ下着姿も同然の格好を晒しておきながら、ナクア=アラクネーの顔には羞恥の一つも見られない。
そして、キルティ=パッチワークもまた、他人の下着姿を見て恥ずかしがる箱入りのお嬢様などではない。目を逸らす事もなく、ナクアを見つめる。
(
瞬きの一つも許されない。
緊張で体が強張る。
いや、違う? 体が強張っていると言うよりもむしろ、外から締め付けられているみたいな──
「残念だけど、もう僕の術中さ♡」
瞬間、ナクア=アラクネーが迫る。
攻撃魔法を放つ
(
「まずは一発」
「か、は……っ!」
ドンッ! と衝撃が弾けた。
無防備なお腹に強烈な一撃が走る。
これまでの攻撃で最も強い威力。
しかし、キルティの身にはノックバックすら起こらない。体がその場所に縫い止められて動かない。
両手両足が動かない。
指は動く。しかし、関節はダメ。
服の上から、粘着質な何かがキルティに貼り付けていた。
「更にもう一発」
「ご、があッ⁉︎」
綺麗な顔には似合わない
防御魔法に守られていながら、それでも僅かに痛みを感じるほどの攻撃。
あるいは、単にキルティの防御魔法が限界を迎えつつあるのか。
何度も、何度も。
「ほらほら、早く気付かないとボコボコにされちゃうよ〜?」
(ま、気付いても無駄だけど♡)
言葉ではキルティを煽りつつ、心の中でナクア=アラクネーは嗤う。
(僕の
足掻いても無駄だ。
もはや、糸に気付いた所で意味はない。
糸自体はダメージを与えるモノではないため、防御魔法によって無効化はできない。
関節が縛られたせいで、
そして、腕の力だけで千切れるほど糸の強度は弱くはない。
キルティはとっくに終わっている。
詰んでいる、はず。なのに、
「案外、アナタも間抜けね」
──
ゾクゾクゾクゾク‼︎‼︎‼︎ と。
ナクア=アラクネーの神経に快感が走る。
イイ。とてもイイ。これが欲しかった。
このような少女と
会話と快感。
ほんの僅かだが、ナクアの意識が揺れる。
まさにその瞬間の事だった。
「なっ……固有魔法ッ⁉︎」
「別にッ、アナタだけの特権じゃあないでしょ!」
肉体を縛る糸が解ける。
魔法を無効化する魔法か、あるいは。
そこまで考えた時、あり得ない……とナクアの思考が回る。
(君は転入したてで、女学院指定の『
コンマ一秒。
迫る
(『
『
それによって、キルティ=パッチワークは雁字搦めの拘束から抜け出したのだ。
「吹き飛びなさい!」
ゼロ距離攻撃魔法。
顔面に突き刺さる
鼻血を飛ばしながら、ナクア=アラクネーは思う。
(ああ……
ぐわんっ! とキルティは糸に引っ張られる。
顔面と
まるで投身自殺でもするかのように、キルティ=パッチワークの頭がナクア=アラクネーが振るった
もしも、『
一撃でナクアを倒す固有魔法や触れる事なく攻撃を行う固有魔法があれば、今とは違う結末があったのもかしれない。
しかし、現実は無慈悲である。
キルティ=パッチワークは健闘した。
けれど、あと一手届かなかった。
ガンッ‼︎ と
攻撃魔法は必要なかった。防御魔法はとっくに削り切っていて、ただの鈍器の一撃だけで倒されるほどキルティ=パッチワークの疲労は蓄積していたのだ。
「く、そ……」
キルティは最後までナクアを睨みつけながら、気を失って地面に崩れ落ちる。
ナクア=アラクネーは勝利した。
キルティ=パッチワークは敗北した。
けれど、どうしてか勝利したはずのナクアは呆然と立っていた。
(終わ、り? こんな……これからって所でお預け……?)
キルティ=パッチワークはまだ折れていない。
倒れ伏す少女を眺めて、ナクアは想う。
腰まで届く長い黒髪、特徴的なゴーグル。
そして、今は目蓋に隠れて見えないが、何よりもその決意に満ちた鋭い瞳。
「ここで潰すには惜しくなっちゃった♡」
それは幸か不幸か。
キルティ=パッチワークは、
「んむ……」
つー、と何かが顔をなぞる感触で目が覚める。
熱を持った頭に対し、ひんやりとした感触。
心地いい……と同時に、もぞもぞと無遠慮に顔をまさぐる感触がキモチワルイ。
何となく。
嫌な予感を覚えながら、キルティは重い目蓋を開ける。
「あ、起きた?」
「…………な、ナクア、アラクネー?」
眼前には白髪赤眼の少女。
虐殺令嬢ナクア=アラクネーがいた。
「ここ……」
「学生寮さ。君の部屋だ、見覚えがあるだろう?」
頭を上げて、周囲を見渡す。
朝にキルティが置いた荷物はそのまま。
確かに、ここはキルティ=パッチワークがこれから暮らす部屋だった。
「
女学院の学生寮は二人一部屋。
キルティもまた、転入前にルームメイトに挨拶をしたばかり。
なのに、見当たらない。それどころか……
「ルームメイトは目の前にいるよ?」
「は……?」
「知っているかな。学生寮の部屋割りは女学院側が決めているものではあるけれど、理由があれば変更もできるものなのさ」
「ま、さか──」
ニタァ、と。
ナクア=アラクネーの笑みは歪み、唇は三日月のような弧を描く。
「今日から僕が君のルームメイトさ。『おはよう』から『おやすみ』まで、愉しい一日が続きそうだね♡」
◇◇◇◇◇
『
属性:水
メインカラー:青紫
ナクア=アラクネーの
神秘に糸の性質を与える固有魔法を持つ。蜘蛛の糸のように糸自体に粘着力を与える事も可能。敵の拘束、足場の構築、傷の縫合、
次回、水見式