霧と魔縫のファムファタル   作:8/13〜念能力杯があるらしいです

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@03 変態と大変

 

 

 

「これが僕の魔縫戦衣(ドレスコード)──『束縛的な恋(ファムファタル)』♡」

 

 

 それは一見、蜘蛛の巣のようだった。

 白い肌の上に張り巡らされた糸。

 毒々しい青紫色のメッシュドレス。

 本来は上から重ね着をするような網目状の衣服を、ナクア=アラクネーは下着の上から着用していた。

 

 そんなナクアの扇情的な姿を見て一言。

 

「……その格好、恥ずかしくないのかしら」

「全然? 僕の体に恥を覚えるべき所なんて一片もないからね」

 

 ほぼ下着姿も同然の格好を晒しておきながら、ナクア=アラクネーの顔には羞恥の一つも見られない。

 そして、キルティ=パッチワークもまた、他人の下着姿を見て恥ずかしがる箱入りのお嬢様などではない。目を逸らす事もなく、ナクアを見つめる。

 

魔縫戦衣(ドレスコード)を着替えた。つまり、固有魔法が変わったというコト。一体何を仕掛けるつもり……?)

 

 瞬きの一つも許されない。

 緊張で体が強張る。

 いや、違う? 体が強張っていると言うよりもむしろ、外から締め付けられているみたいな──

 

 

「残念だけど、もう僕の術中さ♡」

 

 

 瞬間、ナクア=アラクネーが迫る。

 攻撃魔法を放つ(ワンド)を迎撃しようと、キルティもまた自身の(ワンド)を振るおうとする──()

 

()()()()()()()……⁉︎)

「まずは一発」

「か、は……っ!」

 

 ドンッ! と衝撃が弾けた。

 無防備なお腹に強烈な一撃が走る。

 これまでの攻撃で最も強い威力。

 しかし、キルティの身にはノックバックすら起こらない。体がその場所に縫い止められて動かない。

 

 両手両足が動かない。

 指は動く。しかし、関節はダメ。

 服の上から、粘着質な何かがキルティに貼り付けていた。

 

「更にもう一発」

「ご、があッ⁉︎」

 

 綺麗な顔には似合わない(うめ)き声が腹の底から溢れる。

 防御魔法に守られていながら、それでも僅かに痛みを感じるほどの攻撃。

 あるいは、単にキルティの防御魔法が限界を迎えつつあるのか。

 

 何度も、何度も。

 (ワンド)かキルティに叩きつけられる。

 

「ほらほら、早く気付かないとボコボコにされちゃうよ〜?」

(ま、気付いても無駄だけど♡)

 

 言葉ではキルティを煽りつつ、心の中でナクア=アラクネーは嗤う。

 

(僕の魔縫戦衣(ドレスコード)束縛的な恋(ファムファタル)』に縫い付けられた固有魔法は()。目にも見えないほど細く粘着質な糸が君に張り付いている! 蜘蛛の糸が鋼鉄をも超える強度を有するように、僕の糸もまた生半可な抵抗じゃあ千切れない♡)

 

 足掻いても無駄だ。

 もはや、糸に気付いた所で意味はない。

 

 糸自体はダメージを与えるモノではないため、防御魔法によって無効化はできない。

 関節が縛られたせいで、(ワンド)を振るって攻撃魔法を糸にぶつける事はできない。

 そして、腕の力だけで千切れるほど糸の強度は弱くはない。

 

 キルティはとっくに終わっている。

 詰んでいる、はず。なのに、

 

 

「案外、アナタも間抜けね」

 

 

 ──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ゾクゾクゾクゾク‼︎‼︎‼︎ と。

 ナクア=アラクネーの神経に快感が走る。

 イイ。とてもイイ。これが欲しかった。

 このような少女と(あい)し合いたかった!

 

 会話と快感。

 ほんの僅かだが、ナクアの意識が揺れる。

 まさにその瞬間の事だった。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「なっ……固有魔法ッ⁉︎」

「別にッ、アナタだけの特権じゃあないでしょ!」

 

 肉体を縛る糸が解ける。

 魔法を無効化する魔法か、あるいは。

 そこまで考えた時、あり得ない……とナクアの思考が回る。

 

(君は転入したてで、女学院指定の『無垢なる乙女(スワンメイデン)』以外の魔縫戦衣(ドレスコード)は持っていないはずっ! ────いや、違う。そうか。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 コンマ一秒。

 迫る(ワンド)を眺めながら、ナクア=アラクネーの優秀な頭脳は答えを導き出す。

 

(『無垢なる乙女(スワンメイデン)』。その固有魔法は別の魔縫戦衣(ドレスコード)への換装。他の魔縫戦衣(ドレスコード)を持たない君には意味のない固有魔法だが──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!)

 

 『無垢なる乙女(スワンメイデン)』から『無垢なる乙女(スワンメイデン)』への換装。

 それによって、キルティ=パッチワークは雁字搦めの拘束から抜け出したのだ。

 

「吹き飛びなさい!」

 

 ゼロ距離攻撃魔法。

 顔面に突き刺さる(ワンド)の一撃。

 鼻血を飛ばしながら、ナクア=アラクネーは思う。

 

 

(ああ……()()()っ!)

 

 

 ぐわんっ! とキルティは糸に引っ張られる。

 顔面と(ワンド)が接触したタイミングに、糸はもう一度取り付けられた。

 まるで投身自殺でもするかのように、キルティ=パッチワークの頭がナクア=アラクネーが振るった(ワンド)に吸い込まれる。

 

 もしも、『無垢なる乙女(スワンメイデン)』以外の魔縫戦衣(ドレスコード)があれば違ったかもしれない。

 一撃でナクアを倒す固有魔法や触れる事なく攻撃を行う固有魔法があれば、今とは違う結末があったのもかしれない。

 

 しかし、現実は無慈悲である。

 キルティ=パッチワークは健闘した。

 けれど、あと一手届かなかった。

 

 ガンッ‼︎ と(ワンド)の一撃が脳を揺らす。

 攻撃魔法は必要なかった。防御魔法はとっくに削り切っていて、ただの鈍器の一撃だけで倒されるほどキルティ=パッチワークの疲労は蓄積していたのだ。

 

「く、そ……」

 

 キルティは最後までナクアを睨みつけながら、気を失って地面に崩れ落ちる。

 

 ナクア=アラクネーは勝利した。

 キルティ=パッチワークは敗北した。

 けれど、どうしてか勝利したはずのナクアは呆然と立っていた。

 

(終わ、り? こんな……これからって所でお預け……?)

 

 キルティ=パッチワークはまだ折れていない。

 魔縫戦衣(ドレスコード)のハンデさえなければ、ナクア=アラクネーがこんなタイミングで戦いを挑みさえしなければ、もっともっと愉しい殺し合いができたというのに。

 

 倒れ伏す少女を眺めて、ナクアは想う。

 腰まで届く長い黒髪、特徴的なゴーグル。

 そして、今は目蓋に隠れて見えないが、何よりもその決意に満ちた鋭い瞳。

 

 ()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「ここで潰すには惜しくなっちゃった♡」

 

 

 それは幸か不幸か。

 キルティ=パッチワークは、戦闘狂(ヘンタイ)に目をつけられた。

 

 

 

 

 

「んむ……」

 

 つー、と何かが顔をなぞる感触で目が覚める。

 熱を持った頭に対し、ひんやりとした感触。

 心地いい……と同時に、もぞもぞと無遠慮に顔をまさぐる感触がキモチワルイ。

 

 何となく。

 嫌な予感を覚えながら、キルティは重い目蓋を開ける。

 

 

「あ、起きた?」

「…………な、ナクア、アラクネー?」

 

 

 眼前には白髪赤眼の少女。

 虐殺令嬢ナクア=アラクネーがいた。

 

「ここ……」

「学生寮さ。君の部屋だ、見覚えがあるだろう?」

 

 頭を上げて、周囲を見渡す。

 朝にキルティが置いた荷物はそのまま。

 確かに、ここはキルティ=パッチワークがこれから暮らす部屋だった。

 

 ()()

 

 

()()()()()()()……?」

 

 

 女学院の学生寮は二人一部屋。

 キルティもまた、転入前にルームメイトに挨拶をしたばかり。

 なのに、見当たらない。それどころか……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ルームメイトは目の前にいるよ?」

「は……?」

「知っているかな。学生寮の部屋割りは女学院側が決めているものではあるけれど、理由があれば変更もできるものなのさ」

「ま、さか──」

 

 ニタァ、と。

 ナクア=アラクネーの笑みは歪み、唇は三日月のような弧を描く。

 

 

「今日から僕が君のルームメイトさ。『おはよう』から『おやすみ』まで、愉しい一日が続きそうだね♡」

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

束縛的な恋(ファムファタル)

属性:水

メインカラー:青紫

ナクア=アラクネーの魔縫戦衣(ドレスコード)。毒々しい色をした、蜘蛛の網のようなメッシュドレス。

神秘に糸の性質を与える固有魔法を持つ。蜘蛛の糸のように糸自体に粘着力を与える事も可能。敵の拘束、足場の構築、傷の縫合、魔縫戦衣(ドレスコード)の修繕など幅広い応用力がある。

 

 

 






次回、水見式

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