霧と魔縫のファムファタル   作:大根ハツカ

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@06 試行と嗜好

 

 

 他の魔縫戦衣(ドレスコード)も試してみよう!

 ……という事で、キルティ=パッチワークのファッションショーが開催される。

 

「次はこれかなー? 『風斬刎(ファルコン)』っていう風属性の典型的な失敗作」

 

 彩りは黄色。ドレスと呼ぶよりは、極限まで布を薄く仕上げたスポーツウェアのような魔縫戦衣(ドレスコード)

 実際に着用して実感する。軽い。動きやすい。人体の可動域まで計算に入れた素晴らしい運動着。

 

「風属性……物体を動かす事に長けた魔法だったかしら」

「そーそー。『風斬刎(ファルコン)』はその中でも、自分を対象にして高速で飛翔させる浮遊の固有魔法が縫い付けられてあるよ」

 

 強そうに見える、が。

 『凍てついた帷(オーロラヴェール)』が一見強力でも、実際の運用には耐えられなかった。

 同じように、この『風斬刎(ファルコン)』にもまた落とし穴がある。

 

「風属性って光属性とは離れているよね?」

「え、ええ……そうね?」

 

 六属性の相性表を思い返す。

 

       光

 

 火           水

 

 

 

 風           地

 

       闇

 

 真逆とは言わずとも、物体操作の風属性は単純強化の光属性には程遠い。

 

「自己加速って言うのは、まあ瞬間的には強いかもしれないけどさ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……そう、ね」

「火属性や水属性なら兎も角、風属性がその方向性を目指すのは……致命的だよ」

 

 『凍てついた帷(オーロラヴェール)』とはまた別の失敗作。

 魔縫戦衣(ドレスコード)風斬刎(ファルコン)』は風属性として進む先を誤った。

 風属性の魔縫使い(ドレスメーカー)が選ぶ固有魔法として、自己加速というのは落第である。

 

「はいはい。じゃあ続きまして……エントリーナンバー三番、『砂場の人形遊び(マッドマッド)』」

 

 続いての衣装は重々しい十二単(じゅうにひとえ)

 苔むしたような深緑の色合いに、異国情緒(オリエンタル)溢れる見慣れない魔縫戦衣(ドレスコード)

 

「固有魔法は泥人形(ゴーレム)の創造。物質や生命を創造する地属性としては鉄板(スタンダード)な……自動戦闘人形を作成する魔法だね」

 

 ずずずず、と地面が盛り上がって生まれる。

 自動で戦闘する泥人形(ゴーレム)

 同時に創造できる数に制限こそあるが、一体一体が強力で、着用者の指示がなくても動くという利点が大きい。

 

「これは地属性の方向性としても正しく、今まで紹介した失敗作の中でも一番惜しい所まで行った魔縫戦衣(ドレスコード)だよ。……でも、最後の最後で失敗したのは、()()()()()()()()()()()()()()

「……どういう事かしら」

「一度言ったよね。魔縫戦衣(ドレスコード)の生地には限りがあって、縫い付けられる魔法も制限があるって。強力な固有魔法には、必ず代償がある」

「…………」

「『砂場の人形遊び(マッドマッド)』の場合、固有魔法に生地を割いた結果として()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 一撃受けるだけで砕ける貧弱な防御魔法。

 そもそも使えない攻撃魔法と回復魔法。

 泥人形(ゴーレム)は強力だが攻撃魔法がないため決め手に欠け、その上で防御魔法の貧弱さが足を引っ張る。

 他者との協力という前提があるならばまだ使えるが、単体の性能として落第。それが『砂場の人形遊び(マッドマッド)』の評価だった。

 

「あとあと、『燦々散弾(サンシャイン)』なんかは失敗作ってほどじゃないけど……評価は結構分かれる方かなあ」

 

 本日四着目の魔縫戦衣(ドレスコード)

 『燦々散弾(サンシャイン)』。カーニバルにでも参加していそうな、孔雀のように赤い羽を纏った衣装。

 どう考えても火属性。真っ赤に彩られた無数の羽は炎を表現しているようだった。

 

「火属性の強みは遠距離攻撃。通常はゼロ距離でしか通用しない攻撃魔法が、火属性の場合は砲撃に様変わりする。……だから、うん、まあ『燦々散弾(サンシャイン)』も間違いではないんだけどねえ」

 

 キルティは一着前の魔縫戦衣(ドレスコード)で創造した泥人形(ゴーレム)に向かって固有魔法を放つ。

 攻撃魔法を光線として放つ最も単純で火属性らしい固有魔法。

 

 カッッッ‼︎‼︎‼︎ と閃光が弾ける。

 着弾の瞬間、光線は無数に枝分かれして周囲一帯を焼き尽くした。

 汎用魔法を削るほど強力な泥人形(ゴーレム)が、一撃にて粉砕される。

 

 高射程、高火力。

 更にその気になれば連射さえ可能。

 単純にして最強。それが火属性の真髄。

 

 ……()()()()

 

 

「なに、これ……スゴイ、体がダルい……」

「神秘枯渇だね。『燦々散弾(サンシャイン)』は強力なんだけど……()()()()()()()()

 

 

 神秘(MP)を喰らい尽くす炎の一撃。

 瞬間的には最強格の『燦々散弾(サンシャイン)』だが、持続性はすこぶる悪い。

 

「『燦々散弾(サンシャイン)』は攻城戦なんかじゃ大活躍なんだろうけどね。一対一じゃあ、どう頑張っても相打ちがせいぜい。役立つ状況が限られていて汎用性に欠ける……っていうのが大体の評価かなあ。好きなヒトは好きなんだけどね、このタイプの特定条件下に特化した魔縫戦衣(ドレスコード)

 

 ナクアの話を聞きながら、『燦々散弾(サンシャイン)』を元の場所へ戻す。

 製作者には悪いが二度と着たくない。それだけ疲労感の強い魔縫戦衣(ドレスコード)だった。

 

「あとは……これとかも着てみたらどうだい?」

「アナタが神秘枯渇だって説明したんでしょう。もう魔法は使えないわよ」

「あー、そうだったね。残念。じゃあ歩いてみて回ろうか」

 

 その後も、ナクアの説明を受けながら『魔女の型録(クローゼット)』に並ぶ失敗作の魔縫戦衣(ドレスコード)を見て回る。

 

 失敗の理由というのは多くあるが、基本的には初めに見た四つと同じ。

 着用者にデメリットがあるか、向いていない分野に特化しているか、固有魔法の代償が大きいか、使用できる条件が限られている。

 

 何となく魔縫戦衣(ドレスコード)の輪郭を掴んでくる。

 ……と言っても、まだまだ固有魔法の構想は思いつかないのだが。

 

「以上、主な失敗作はおーしまいっ」

「もう? まだまだいっぱいあるけれど」

 

 摩天楼のような室内を見上げる。

 『魔女の型録(クローゼット)』に飾られている魔縫戦衣(ドレスコード)は見渡す限り無数にある。

 とても一日で見て回れる量ではない。

 

「大体の失敗理由は分かっただろう? これ以上の知識を詰め込んでも、既存の魔縫戦衣(ドレスコード)に発想が引っ張られるだけだからねえ」

「……それもそうね」

「じゃあ、最後に僕からアドバイス。……これは評価の高い魔縫戦衣(ドレスコード)を作る方法というより、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 静かに、ナクア=アラクネーは語る。

 

「魔法というのはね、想いの発露とされている。ここにある魔縫戦衣(ドレスコード)の全てが外観まで拘っているのは、着用時の気分が良いほど魔法の効果が高まるとされているから」

「……それって、固有魔法もかしら」

「そうだね。色々見て回ったけど、結局は思い入れが深くて自分好みの魔縫戦衣(ドレスコード)を着るのが最も強い」

 

 例えば、と。

 ナクアは自らが纏う『束縛的な恋(ファムファタル)』を指差す。

 

「僕の実家──アラクネー伯爵家は糸を特産品としている領地でね。僕は昔から様々な糸に触れてきて、僕自身も糸を愛している。だから、僕の『束縛的な恋(ファムファタル)』は強い。糸を愛する僕が、糸の固有魔法を使うから強いのさ」

「………………、」

「君はどうかな、キルティ=パッチワーク。君には何か好きなモノがあるかな? 君の人生の中で、他の何かには代えがたい……愛するモノが」

「……………………………………………………」

 

 キルティの、好きなモノ。

 他の何かには代えられない愛するモノ。

 

 ……そんなの、あるだろうか。

 ゴミ山に生まれ、貧民街(スラム)で育ち、自分だけのモノなんて何一つとして手に入れられなかったキルティに。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

風斬刎(ファルコン)

属性:風

メインカラー:黄

魔女の型録(クローゼット)』に存在する失敗作の一つ。極限まで布を減らした軽やかなスポーツウェア。

自身の肉体を操作して、高速で動き回る固有魔法を持つ。速度だけで言えば非常に強力だが、近接格闘性能は光属性に劣る。

 

 

砂場の人形遊び(マッドマッド)

属性:地

メインカラー:深緑

魔女の型録(クローゼット)』に存在する失敗作の一つ。苔むした岩のような重々しい十二単(じゅうにひとえ)

泥人形を生み出す固有魔法を持つ。同時に創造できる数には制限があるが、一度創造すれば指示がなくても自動で戦う。ただし、固有魔法が強力な代償に汎用魔法が削られている。

 

 

燦々散弾(サンシャイン)

属性:火

メインカラー:紅

魔女の型録(クローゼット)』に存在する失敗作の一つ。孔雀みたいに赤い羽を纏ったカーニバルの衣装。

攻撃魔法を光線として放つ固有魔法を持ち、光線は着弾の瞬間に弾けて爆発する。高火力かつ高射程、連射能力も高い強力な魔法だが、燃費が悪いため一瞬だけしか使えない。

 

 

 

 

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