霧と魔縫のファムファタル   作:大根ハツカ

8 / 9
@08 試験と試練

 

 

 

「ウチの名前はアルルーナ=ローズ=テウルギア! アンタのクラスメイトでッ、アンタを入学させた理事長の孫じゃん!」

 

 キルティの頭に浮かぶのは、いつかの記憶。

 

『ヴァルキリア魔縫女学院の理事長──ペネロペ=ローズ=テウルギアが許可するわぁ。(わらわ)の女学院に来なさい、キルティ=パッチワーク』

 

 蜘蛛の巣のような繊細な刺繍が施された喪服。

 それを纏うのは少女のような容姿をした白髪の老婆。

 

(理事長の孫……なるほど、だからガキ大将と呼ばれるワケね)

 

 貴族溢れるヴァルキリア魔縫女学院の中でも、理事長ペネロペ=ローズ=テウルギアは別格とされている。

 そんな彼女の孫であるアルルーナの周りには、本人が意図せずとも勝手に『お友達(とりまき)』が集まってくるものだ。

 

「ウチはアンタなんか認めねーから。お祖母様が何を考えてアンタの転入を許可したのかしらねーけど、ただの平民が『至高の魔縫(オートクチュール)』に選ばれるワケないじゃん!」

 

 キルティを小馬鹿にするアルルーナの一言。

 けれど、聞き慣れない言葉にキルティは首を傾げた。

 

「『至高の魔縫(オートクチュール)』……?」

「…………ッ、ほんっと何もしらねーじゃん! こんな平民をお祖母様はどうして……ッ‼︎」

 

 アルルーナはキルティの疑問に答えない。

 代わりに、ニヤニヤと笑うナクアが口を挟む。

 

 

「『至高の魔縫(オートクチュール)』というのは、魔縫使い(ドレスメーカー)の最終回答──唯一無二の魔縫戦衣(ドレスコード)を指す言葉さ」

 

 

 唯一無二。

 他の何にも代えられない最終回答。

 それが『至高の魔縫(オートクチュール)』。最強の魔縫戦衣(ドレスコード)

 

「例えば、攻撃魔法や防御魔法、回復魔法は汎用魔法としてどの魔縫戦衣(ドレスコード)にも同じ魔法が編み込まれている。これはつまり──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 最終回答。あるいは最適解。

 言い換えれば、これ以上の発展の余地はないと見做された最強の魔法。

 

 攻撃魔法も、防御魔法も、回復魔法も。

 汎用魔法というのは、全てが全て、既に最終回答に到達した魔法。

 

 少なくとも術式の構造において、更なる最適化は不可能だと考えられる。

 攻撃や防御、回復を目的とした魔法において、汎用魔法に代えられないモノなど存在しない。

 

「攻撃魔法、防御魔法、回復魔法では唯一解が定まった。じゃあ、魔縫戦衣(ドレスコード)は? 最強で唯一無二の魔縫戦衣(ドレスコード)は?」

 

 答えは分かり切っている。

 『魔女の型録(クローゼット)』を見れば分かる。

 色とりどりの魔縫戦衣(ドレスコード)が溢れ、唯一無二の色なんて存在しない。

 魔縫戦衣(ドレスコード)の唯一解なんて、ヴァルキリア魔縫女学院にはありはしない。

 

「それが『至高の魔縫(オートクチュール)』。未だ誰も至らない、唯一無二で最強な魔縫戦衣(ドレスコード)のカタチ。────()()()、」

 

 そして。

 寒気が走るような笑みを浮かべ、ナクア=アラクネーは余計な一言を付け足す。

 

 

「僕は確信している。この女学院で最も『至高の魔縫(オートクチュール)』に相応しい人物がいるとするならば、それは僕ではなくてキルティちゃんだと、ね♡」

 

 

 ()()

 ()()()()()()()()()()()

 

 アルルーナ=ローズ=テウルギア、だけじゃない。

 食堂にいる女学生全員の視線がキルティに集中する。

 

 貴族のプライドを傷つけた。

 少女達の大切な領域に土足で踏み入った。

 『至高の魔縫(オートクチュール)』に相応しいという発言は、それだけ怒りを誘う言葉だった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(……私の逃げ道を、なくすために)

 

 中間試験に提出する魔縫戦衣(ドレスコード)は生半可なモノでは足りない。

 殺気立つ周囲を黙らせ、暴力という手段さえ取れないほど圧倒する他ない。

 

 そうでなければ、キルティは殺される。

 死を覚悟するほどの殺気。

 キルティを成長させるために、ナクア=アラクネーは少女を強制的に窮地に立たせた。

 

「覚えてなさいよ……‼︎」

「僕は心の底からの本音を述べただけさ♡」

 

 目の前に立つ金髪の少女アルルーナは、長い爪が手のひらを裂くほど強く拳を握る。

 視線だけで相手を殺せるような、強い殺気がキルティを射抜く。

 

 しかし、アルルーナが何かを告げる前に、彼女の取り巻きの一人──メガネをかけた茶髪の少女が近づき、アルルーナの耳元で囁く。

 

「アルルーナ様。これ以上は……」

「……そ、仕方ないじゃん。食堂で揉めたなんてくだらない話でお祖母様に迷惑をかける訳にはいかねーし」

 

 少女達は去る。

 しかし、これで終わりではない。

 少女達の目が、そして何より最後の言葉がそう告げている。

 

「──魔縫戦衣(ドレスコード)は簡単じゃねーってコト、ウチが教えてあげるし」

 

 

 

 

 

 そして。

 日々は瞬く間に過ぎ去る。

 

 魔縫戦衣(ドレスコード)漬けの毎日の終わり。

 気付けば、準備時間はとうに無くなっていた。

 

「これより中間試験──魔縫戦衣(ドレスコード)性能試験を始めます」

 

 パンパンッ、と。

 クラスの担任が手を叩き、女学生達の注意を集める。

 外観からは予想できないほど開けた体育館のような空間──『試着室』と呼ばれる部屋。

 その中心で、真っ白な調理服(コックコート)を纏った赤髪の担任は笑う。普段の気弱さは何処にも見られない。

 

「試験方法は例年通り、先生(わたし)との戦いで性能を発揮してもらいます」

 

 ズンッ! と圧力が重くのしかかる。

 担任が纏うのは純白の魔縫戦衣(ドレスコード)。白が示す属性(カラー)は光。

 物の働きを強める光属性では、汎用魔法を単純強化する固有魔法を多いと習った。つまり、それこそが、性能試験に最も相応しい装いという事なのだろう。

 

 ごくり、とキルティは喉を鳴らす。

 泣いても笑ってもやり直しは効かない。

 この試験で、格上の担任相手に全てを出し切らなければならない。

 

「戦闘に自信がない場合は、別の生徒を代理人として立てる事も可能です。その場合は事前に配布した申請書を記入して──」

「センセー。一つ良いっすか?」

「──なんでしょうか。ミッツ=ホーネットさん」

 

 しかし。

 意気込むキルティを前にして、試験の説明は中断される。

 

 一人の女学生が手を挙げた。

 ミッツ=ホーネット。

 メガネをかけた茶髪の少女。

 見覚えがある。……あれは確か、アルルーナ=ローズ=テウルギアの取り巻きの──

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()退()()()()()()()()()()()()()

「………………は?」

 

 

 その言葉に、息が止まる。

 動揺しているのは、キルティだけだった。

 他の女学生は知っていたのか顔色を変えず、反対にナクアはニヤニヤと笑っている。

 

「それは……中間試験の今、行うべき事ですか?」

「中間試験の最中だからこそっすよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「────ッ⁉︎」

「(仕掛けて来たね♡)」

 

 耳元でナクアが囁く。

 中間試験に参加しない癖に見学に来た時はどうかと思ったが、実際に側にいるとそれだけで安心感がある。

 

「(相手も考えたね。退学をかけた決闘っていうのは、多分通らない。理事長の人事は意見が出せないし。でも退学が無理でも、決闘自体が成立すれば嫌がらせになる。例えば……取り巻きのミッツ=ホーネットは相手に何もさせず一撃で倒す事に長けた生徒。君の魔縫戦衣(ドレスコード)を封殺して、中間試験を台無しにする事が目的かな?)」

 

 本当に楽しそうな声色。

 ナクア=アラクネーは面白い劇を特等席で見ているかのようなテンションだった。

 

「本気で言っているのですか? ……それならば、先生(わたし)は貴方への評価を数段下げなければなりません」

「本気も本気っすよ。自分はもう平民が同じ教室にいる事に耐えられない。なので退学をかけて決闘がしたいっす、センセー。いいや、チキン子爵と呼んだ方が良いっすか?」

「……ホーネット伯爵令嬢。先生(わたし)と貴方には身分差がありますが、それでも許可はできません。先生(わたし)は理事長から女学院の教育を任された身。伯爵令嬢の命令と公爵家の……それも()()()()()()()()()()()()()()()の命令を比べれば、後者を優先するのは当然の──」

「────()()()()()()()()? ()()()()()()()()()()()()

 

 取り巻きの言葉を拒む担任。

 しかし、再度、別の方向から口が挟まる。

 

 カツ、カツ、と。

 ゆっくりと『試着室』へ乱入する影。

 蜘蛛の巣のような刺繍がされた喪服。

 黒の魔縫戦衣(ドレスコード)を纏った幼い老婆。

 

「決闘? 私闘? いいじゃない。若いウチは暴れておく方が楽しいものよぉ。(わらわ)が商家の娘から公爵家に成り上がったのもこれくらいの歳じゃないかしらぁ?」

 

 空気が変わる。

 気が引き締まる。

 彼女が現れた瞬間、女学生達の背筋が伸びる。

 

 彼女こそ、ヴァルキリア魔縫女学院の最高権力者。

 数百年の時を生き、数十人の皇帝を看取り、貴族社会を深く支配する女郎蜘蛛。

 

 

「ヴァルキリア魔縫女学院の理事長──ペネロペ=ローズ=テウルギアが許可するわぁ。存分に殺し合いなさぁい」

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。