「ウチの名前はアルルーナ=ローズ=テウルギア! アンタのクラスメイトでッ、アンタを入学させた理事長の孫じゃん!」
キルティの頭に浮かぶのは、いつかの記憶。
『ヴァルキリア魔縫女学院の理事長──ペネロペ=ローズ=テウルギアが許可するわぁ。
蜘蛛の巣のような繊細な刺繍が施された喪服。
それを纏うのは少女のような容姿をした白髪の老婆。
(理事長の孫……なるほど、だからガキ大将と呼ばれるワケね)
貴族溢れるヴァルキリア魔縫女学院の中でも、理事長ペネロペ=ローズ=テウルギアは別格とされている。
そんな彼女の孫であるアルルーナの周りには、本人が意図せずとも勝手に『
「ウチはアンタなんか認めねーから。お祖母様が何を考えてアンタの転入を許可したのかしらねーけど、ただの平民が『
キルティを小馬鹿にするアルルーナの一言。
けれど、聞き慣れない言葉にキルティは首を傾げた。
「『
「…………ッ、ほんっと何もしらねーじゃん! こんな平民をお祖母様はどうして……ッ‼︎」
アルルーナはキルティの疑問に答えない。
代わりに、ニヤニヤと笑うナクアが口を挟む。
「『
唯一無二。
他の何にも代えられない最終回答。
それが『
「例えば、攻撃魔法や防御魔法、回復魔法は汎用魔法としてどの
最終回答。あるいは最適解。
言い換えれば、これ以上の発展の余地はないと見做された最強の魔法。
攻撃魔法も、防御魔法も、回復魔法も。
汎用魔法というのは、全てが全て、既に最終回答に到達した魔法。
少なくとも術式の構造において、更なる最適化は不可能だと考えられる。
攻撃や防御、回復を目的とした魔法において、汎用魔法に代えられないモノなど存在しない。
「攻撃魔法、防御魔法、回復魔法では唯一解が定まった。じゃあ、
答えは分かり切っている。
『
色とりどりの
「それが『
そして。
寒気が走るような笑みを浮かべ、ナクア=アラクネーは余計な一言を付け足す。
「僕は確信している。この女学院で最も『
アルルーナ=ローズ=テウルギア、だけじゃない。
食堂にいる女学生全員の視線がキルティに集中する。
貴族のプライドを傷つけた。
少女達の大切な領域に土足で踏み入った。
『
(……私の逃げ道を、なくすために)
中間試験に提出する
殺気立つ周囲を黙らせ、暴力という手段さえ取れないほど圧倒する他ない。
そうでなければ、キルティは殺される。
死を覚悟するほどの殺気。
キルティを成長させるために、ナクア=アラクネーは少女を強制的に窮地に立たせた。
「覚えてなさいよ……‼︎」
「僕は心の底からの本音を述べただけさ♡」
目の前に立つ金髪の少女アルルーナは、長い爪が手のひらを裂くほど強く拳を握る。
視線だけで相手を殺せるような、強い殺気がキルティを射抜く。
しかし、アルルーナが何かを告げる前に、彼女の取り巻きの一人──メガネをかけた茶髪の少女が近づき、アルルーナの耳元で囁く。
「アルルーナ様。これ以上は……」
「……そ、仕方ないじゃん。食堂で揉めたなんてくだらない話でお祖母様に迷惑をかける訳にはいかねーし」
少女達は去る。
しかし、これで終わりではない。
少女達の目が、そして何より最後の言葉がそう告げている。
「──
そして。
日々は瞬く間に過ぎ去る。
気付けば、準備時間はとうに無くなっていた。
「これより中間試験──
パンパンッ、と。
クラスの担任が手を叩き、女学生達の注意を集める。
外観からは予想できないほど開けた体育館のような空間──『試着室』と呼ばれる部屋。
その中心で、真っ白な
「試験方法は例年通り、
ズンッ! と圧力が重くのしかかる。
担任が纏うのは純白の
物の働きを強める光属性では、汎用魔法を単純強化する固有魔法を多いと習った。つまり、それこそが、性能試験に最も相応しい装いという事なのだろう。
ごくり、とキルティは喉を鳴らす。
泣いても笑ってもやり直しは効かない。
この試験で、格上の担任相手に全てを出し切らなければならない。
「戦闘に自信がない場合は、別の生徒を代理人として立てる事も可能です。その場合は事前に配布した申請書を記入して──」
「センセー。一つ良いっすか?」
「──なんでしょうか。ミッツ=ホーネットさん」
しかし。
意気込むキルティを前にして、試験の説明は中断される。
一人の女学生が手を挙げた。
ミッツ=ホーネット。
メガネをかけた茶髪の少女。
見覚えがある。……あれは確か、アルルーナ=ローズ=テウルギアの取り巻きの──
「
「………………は?」
その言葉に、息が止まる。
動揺しているのは、キルティだけだった。
他の女学生は知っていたのか顔色を変えず、反対にナクアはニヤニヤと笑っている。
「それは……中間試験の今、行うべき事ですか?」
「中間試験の最中だからこそっすよ。
「────ッ⁉︎」
「(仕掛けて来たね♡)」
耳元でナクアが囁く。
中間試験に参加しない癖に見学に来た時はどうかと思ったが、実際に側にいるとそれだけで安心感がある。
「(相手も考えたね。退学をかけた決闘っていうのは、多分通らない。理事長の人事は意見が出せないし。でも退学が無理でも、決闘自体が成立すれば嫌がらせになる。例えば……取り巻きのミッツ=ホーネットは相手に何もさせず一撃で倒す事に長けた生徒。君の
本当に楽しそうな声色。
ナクア=アラクネーは面白い劇を特等席で見ているかのようなテンションだった。
「本気で言っているのですか? ……それならば、
「本気も本気っすよ。自分はもう平民が同じ教室にいる事に耐えられない。なので退学をかけて決闘がしたいっす、センセー。いいや、チキン子爵と呼んだ方が良いっすか?」
「……ホーネット伯爵令嬢。
「────
取り巻きの言葉を拒む担任。
しかし、再度、別の方向から口が挟まる。
カツ、カツ、と。
ゆっくりと『試着室』へ乱入する影。
蜘蛛の巣のような刺繍がされた喪服。
黒の
「決闘? 私闘? いいじゃない。若いウチは暴れておく方が楽しいものよぉ。
空気が変わる。
気が引き締まる。
彼女が現れた瞬間、女学生達の背筋が伸びる。
彼女こそ、ヴァルキリア魔縫女学院の最高権力者。
数百年の時を生き、数十人の皇帝を看取り、貴族社会を深く支配する女郎蜘蛛。
「ヴァルキリア魔縫女学院の理事長──ペネロペ=ローズ=テウルギアが許可するわぁ。存分に殺し合いなさぁい」