「ヴァルキリア魔縫女学院の理事長──ペネロペ=ローズ=テウルギアが許可するわぁ。存分に殺し合いなさぁい」
ヴァルキリア魔縫女学院の最高権力者、ペネロペ=ローズ=テウルギアは堂々と告げる。
その言葉に焦ったのは、むしろ担任の先生の方だった。
「おっ、お待ちください理事長!」
「待ちませぇーん」
「学生同士の決闘を許すなど正気ですかっ⁉︎」
「失礼しちゃうわねぇ。決闘権は帝国法で規定された権利よぉ?」
「お言葉ですが理事長、それでは説明が足りません。決闘法の規定文において、決闘は貴族同士の争いを円滑に進めるための手法とされています。今回の場合は、貴族と平民の間の争いですので──」
「──はいはい。分かりましたぁ。じゃあ、こうしましょう」
ペネロペは教師の言葉を遮り、話を無理やり終わらせる。
「ミッツ=ホーネット。
「……はい。間違いないっす」
「ってことは、これはキルティ=パッチワークの転入を決めた妾との係争。妾とミッツ=ホーネットの間に決闘は成り立つ。そして妾は、
「…………っ⁉︎」
「あらぁ、これで構図は簡単になったわねぇ? キルティ=パッチワークとミッツ=ホーネット、二人の決闘で少女の退学が決まるわぁ」
ペネロペは力技で決闘を成立させた。
赤髪の担任は、心配そうにキルティを眺める。
「……あなたは構わないのですか、キルティ=パッチワーク」
「構いますけど、仕方ないでしょう。……それに、
「………………はい?」
ふぅ……と、キルティは息を吐く。
顔に浮かぶのは絶望でも悲観でもない。
(試験の妨害については、いくつか想定していたわ。その中でも、決闘というのは最も穏当なパターン。少なくとも評価者である教師が買収されていないと分かったのは、大きな収穫でしょうね)
キルティ=パッチワークにとって、最も大きな弱点とは財力や権力の欠如である。
つまり、莫大な財産や高い身分を用いた政争を仕掛けられたら、キルティには対処のしようがなかった。
けれど、相手が選んだのは決闘。
裁縫と暴力という、キルティ=パッチワークでも対抗できる土俵を選んできた。
貴族のプライドとやらで実行しないのか、それとも実行できるだけの力がないのかは分からない。それでも、十分な勝機は見出せる。
ミッツ=ホーネット。
メガネをかけた茶髪の少女を見据え、キルティは獰猛に笑う。
「戦って勝つだけなら簡単だもの。受けて立つ────」
「
キルティの言葉が途中で遮られる。
傍観者に徹していた女──ナクア=アラクネーが、上手くいきそうな成り行きに待ったをかける。
「ミッツ=ホーネットとの決闘? イヤイヤ。取り巻きを一人二人倒した所で何も変わらない。首謀者が誰かなんてみーんな分かってるでしょ? そうだよねぇ、アルルーナ=ローズ=テウルギア」
「…………アンタ、何が言いたいワケ?」
金髪の少女に視線が集まる。
アルルーナ=ローズ=テウルギア。
取り巻きを使って妨害していた公爵令嬢が、無理やり舞台の上に引き摺り出された。
「土俵に上がりなよ。退学を掛けた決闘と言うのなら、元凶の君も戦うべきだろう? そーれーとーもー、平民は侮辱できてもお婆様には歯向かえないかにゃ?」
「……それには及ばないっすよ。アルルーナ様の
「──じゃあ、こうしよう。
ニヤリ、と。
ナクアは悪どい笑みを浮かべ、相手の反論を許さない。
「ミッツ=ホーネットとアルルーナ=ローズ=テウルギア、僕とキルティちゃん。二対二で
やるのなら徹底的に。
ナクア=アラクネーは一切の言い訳の余地を潰して相手を負かそうとしている。
しかし、アルルーナは逃げられない。貴族としてのメンツが、公爵令嬢という誇るべき血統が、この場における退却を許さない。
「……いーよ。乗ったげる。でも、二対二は流石に勘弁。二人がかりでもアンタは倒せないでしょ」
「分かった分かった。じゃあ、もう一人の取り巻きを引き連れたらいいさ。三対二、それなら文句はないだろう?」
「…………まあ、それなら」
譲歩に譲歩を重ね、人数的不利を負いながらもアルルーナ=ローズ=テウルギアを引き摺り出す。
一見、自分から不利を背負った愚行。けれど、キルティにはナクアの考えている事が読めた。
(コイツ、絶対に自分も戦いたいだけだ……)
徹頭徹尾、
ナクア=アラクネーは戦いの事以外は考えていない。
「アルルーナ様。人数的に有利でも油断できないっすよ。なにせ敵は、あの虐殺令嬢っす」
アルルーナの側で、取り巻きの一人──ミッツ=ホーネットが囁く。
彼女の注意はナクア=アラクネーに向けられている。ナクアが参戦するくらいなら、アルルーナ一人を戦わせた方がまだ勝ち目はあったのではないかと思うほどに。
キルティ=パッチワークなど眼中にない。
虐殺令嬢が参戦した時点で、これはどれだけ素早く三対一に持ち込むかという戦いになった。
「言われるまでもねーし。三人がかりでも虐殺令嬢は手強い。でも、それよりも優先すべきはあの平民。……目障りなアイツを真っ先に潰すべきっしょ」
「ですが、アルルーナ様……」
「ほら。時間もねーし早く着替える! マインもぼーっとしてないで動く!」
「えぁ……? 決闘の時間ですぅ?」
話を全く聞いていないもつ一人の取り巻き──マイン=グレネードを呼び、運動場のように広い部屋『試着室』の真ん中に立つ。
二人と三人。少女達の視線が交錯する。向かい合い、睨み合う。
「……
瞬間。
少女達は光に包まれる。
『
少女達は各々の
アルルーナは一瞬だけ、自分達の
取り巻き、ミッツ=ホーネットの
取り巻き、マイン=グレネードの
そして、アルルーナ=ローズ=テウルギアの
(
点検は一秒もかからない。
魔術式は問題なく機能している。
確信を得た瞳は、正面に向き直る。
目に映るのは二種類の
一つはナクア=アラクネの
スケスケで裸同然の姿を晒している毒々しい青紫色のメッシュドレス。
ヴァルキリア魔縫女学院において、最も『
しかし、アルルーナの目を引いたのはそちらではなかった。
もう一人、頭にゴーグルを付けた黒髪の少女──キルティ=パッチワークが身に纏う
それを見た瞬間、アルルーナ=ローズ=テウルギアの頭は沸騰する。
「…………
それはシルエットだけ見れば、制服の『
きっと、同じ
だが、問題は本来ならば真っ白である制服が、
間違いなく闇属性。敬愛する祖母ペネロペ=ローズ=テウルギアと同じ
「三、二、一……決闘開始!」
だから、アルルーナは決めた。
最速で叩き潰す。ナクア=アラクネーの事は、その後で考えると。
「マイン! まずは──」
しかし。
しかし、だ。
アルルーナは見逃していた。
初見の
キルティ=パッチワークの
「
「──────え?」
直後の事だった。
キルティの振るった