地味スキル【荷物持ち】と【逃げ足】による、殺し殺され現代ダンジョン物拾い生活 作:自縛霊
ある日、人類は楽園を得た。
何の変哲もないある日のこと、全人類が異世界に転移しました。スマホの電波も届かない見ず知らずの場所に突如放り込まれた人々は、当然混乱の坩堝に陥ります。
狂乱、絶望、奮起。数多の感情が噴き出し、しかしそれはすぐに終わりました。
何故なら数分後には、全ての人々が元の世界に帰還できたからです。具体的には「帰りたい」と念じるだけで、一瞬で元いた場所に戻れました。
「なんだったんだあれ……」
そう困惑することはあれど、大半の人はすぐに異世界を忘れ、元の日常に戻って行きました。
ごく一部の、「もう一度異世界に行きたい」と思った人々を除いて。
異世界は彼らの願いに答えました。今や人々は念じるだけで異世界に行って、そして帰れます。
「マリー? そろそろ出かけるぞ」
「えっもうそんな時間?」
「そんな時間です、ほらほら準備しなさい」
「はぁい」
異世界に建てた丸太小屋で外出準備をしている、この子供達もその一人です。
やることが無くて一日中異世界にいる少女「マリー」、学校帰りに異世界で遊んでいる少年「サナダ」。異世界の中でも危険な領域へ赴き、死と隣り合わせの冒険でアイテムを持ち帰る。『探索者』と呼ばれる者の一人ですね。
「今日からミトラ山脈だね、良いもの見つかるといいなー」
「美味しい果物が見つかるらしいよ、是非とも食べてみたい」
無限に広がる異世界、無限に採れる果実と鉱物。有限という言葉の存在しない異世界を、探索者たちは無限の情熱で進み続けていきます。
「それじゃあサナダ、いつも通り戦わないで、楽にお金を稼ごーう」
「おーう」
二人が目的地へ転移して、その姿が掻き消えました。
ミトラ山脈と呼ばれる領域に移動した二人、山の麓に広がる森の中へ転移した彼らを出迎えたのは…………
Gaaaaa…………
熊でした、それも体長二メートルくらいの。
「……死んだね」
「終わったなぁ……」
凶悪なベアクローを叩き込まれたサナダが上半身を奪われ、倒れ込みました。そしてマリーも猫パンチの要領で頭からぺちゃんこにされて即死します、死亡までのタイム僅か10秒。
Guuuuu……
不味い飯で小腹を満たした熊が、そそくさと立ち去って行きました。
地球という恵まれた環境で育った人類は、過酷な異世界ではあまりにも貧弱で…………質の悪い骨肉は、熊のオヤツとしてすら不足なのです。
そうして死んだ二人は、丸太小屋で蘇りました。
「あっさり死んだね」
「見事な出オチだったね」
この異世界に有限という言葉は存在しません。例えそれが、かけがえのない『命』であったとしても。
この異世界は紛れもない楽園です。果実は尽きず、空気は澄み渡り、心を壊すことも無く、決して死に追いつかれない。例え生きたまま臓物を貪られようと、身体の半分が吹き飛ぼうと、手足が凍り付き砕ける様を眺めたとしても。命は失われず、情熱がある限り、何度でも挑戦できるのです。
「それじゃあ再挑戦だね」
「今度こそは長生きするぞー!」
もっとも、死を何度も経験して情熱を失わない人間は少数派ですがね。