地味スキル【荷物持ち】と【逃げ足】による、殺し殺され現代ダンジョン物拾い生活 作:自縛霊
「いやはや面目ない、決闘に夢中で約束を忘れてしまったよ」
決闘の末にノリで殺られてしまった処刑人さんが帰ってきました。約束通り斬首剣の職人を教えてくれるみたいですよ。
「ホントだよー! まあ二人ともノリノリだったし仕方ないけどさー」
「見てて楽しかったですよ、ナイス決闘です」
「嬉しいことを言ってくれるじゃないか、ありがとう」
褒められた処刑人さんは嬉しそうです、決闘は観客を沸かせてナンボですものね。
そうして一息置いて、処刑人さんが斬首剣の作り手を口にしました。
「実のところ、あの斬首剣を作ったのは私なんだ」
「えっ?」「マジです?」「戦闘専門じゃないの!?」
左から順にサイトゥス、サナダ、マリーです。まさかあれだけ戦える人が本業武器職人だとは思って無かったようで、三人ともビックリしています。
「ハッハッハ! 良いリアクションをしてくれるじゃないか!」
「いやいやいや……あなたメッチャ強かったのに、それなのに本業武器職人なの? マジで?」
「マジだ、副業処刑人なのだよ」
古い時代、処刑人は都度民衆から希望者を募るアルバイト方式だったといいます。であれば普段は武器を作り、時間のある時に斬首剣で罪人を殺す彼女は、クラシックな処刑人と言えるでしょう。
「処刑人って言っても、別に罪人を狙って殺してるワケじゃないでしょ?」
「探索者なんて大体人殺しだろう、イチイチ確認するまでもない」
まあその通り、探索者なんて大体人殺しですからね、裁判抜きで処刑しても特に問題はありません。
「で、私は斬首剣が好きでね、なんとかロビーに広められないかと苦心していたんだ」
「ほうほう」
好きなものを広めたい、人として当然の気持ちです。
「それで考えた、広めるならば良い物を作れば良いと」
「なるほど?」
当然ですが、探索者は良い武器を好みます。良質な武器を作れたのなら、多くの人が欲しがるでしょう。
「そしてさらに私は考えた、斬首剣を宣伝してくれる広告塔も必要だと」
「ふむふむ」
強い人が使っている武器はそれだけで人気になります。有名俳優の着てる服が売れまくる感じですね。
「そして、武器の良し悪しは使ってみなければ分からないだろう?」
「そうだね」
どんなものも使ってみなければ良し悪しはわかりません、カタログスペックという机上の空論では測れないものも多いですから。
「そこで思ったのだよ、「全部自分でやればいいじゃん」と」
「ちょっと待てい!」
二足の草鞋ってレベルじゃねーぞオイ。つまりこの人は制作スキルと剣術スキルを両方鍛えていると? 絶対時間足りないでしょ。
「つまりあのレベルまで戦闘経験を積んだ上で、この斬首剣を作れるほどの製作経験も積んでいると? 一体どれだけの時間を費やして……」
「いやいや、一点特化でレベル上げしてれば意外と何とかなるよ。私は斬首剣を使った戦闘と斬首剣の製作をひたすら鍛え続けたからね、この二つに限定すれば人並み以上の能力を発揮できるのさ」
彼女もまた極振りの民であった。スキルは復活に伴う肉体最適化ですからね、斬首剣ばっか扱ってれば斬首剣に向いた肉体になっていくものです。
まあそれはこの段階に至るまで何か月も斬首剣だけを極め続けた、彼女の異常な精神力があってのこと。ここまで極端な探索者は殆どいないでしょう。
「ちなみに安い素材ばっか使って練習してたから、安い武器を作るのはちょっと得意なんだ。まあそんなもの欲しがるヤツはそうそう居ないと思うが……」
「ちょっとその話詳しく」
「えっ?」
「いいから、詳しく教えてくれ、是非」
サイトゥスがちょっと引くレベルで食いつきました。初見ダンジョン用の捨て武器供給先になってくれる可能性がチラついて、冷静さを失っています。
「いやそんな大した物じゃないぞ……? 始まりの平原で取れる青鉛にミトラ熊の爪を混ぜて強度を確保しただけだし、そもそも布教用に安く沢山作るための小技だし……」
「つまりあの斬首剣は青鉛とミトラ熊の爪だけで安価に作れると? しかも量産も可能だと??」
「ま、まあそうだけど……そんな食いつくようなこと……?」
サイトゥス、ピンポイントで欲しい人材を見つけました。「安い武器」を「それなりの性能」で「大量に」用意できる、初見ダンジョン用の捨て武器供給先としてこの上ない人材です。ジャックポットですよ。
「処刑人さん、名前は?」
「ウ、ウードンだけど……」
「ゴードン的な?」「うどんじゃない?」
「私は香川県民だからね、やっぱうどんを押し出して行こうかなと」
ロビーでの名前は自由ですから、大喜利路線の名前も沢山あります。ソシャゲのユーザー名みたいな感じだと言えば伝わるでしょうか?
そしてサイトゥスは止まりません、目の前に現れた理想の人材を囲い込むべく全力で勧誘を行っています。
「ウードンさん、我々はあなたのような人を待っていた。話の続きはデスマーチの拠点でさせてもらっても良いだろうか」
「えっちょっ、あなたまさかデスマーチのサイトゥス!?」
「そうだ、さあ行こうガンガン行こう。そういうわけでマリー、サナダ、ここで解散とさせてもらってもいいだろうか」
「いいよー」「また遊ぼうねー」
一通り遊べたので二人も満足しています、サイトゥスも人材発掘ガチャでSSRを引けてハッピーです、ウードンだけが困惑しています。
「ちょっ私そんなトップギルドについてける人間じゃないんですけど!?」
「大丈夫だ、何も心配はいらない、ちょっとウチの主力武器にあなたの斬首剣を採用できないか検討するというだけだから」
それを聞いて状況を理解したことで、ウードンの目つきが変わりました。
「つまり…………布教チャンス?」
「そうなる、どうかな?」
「サイトゥスさん。その話、喜んで聞かせてもらおう」
これがのちに一世を風靡することになる「庶民の味方の斬首剣」の始まりでした……