地味スキル【荷物持ち】と【逃げ足】による、殺し殺され現代ダンジョン物拾い生活   作:自縛霊

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アルバイトの工夫

 ここはオウミ氷海、燃料採掘の聖地です。

 

 初日勢のオウミ、そしてその右腕たるヒノ。彼女らが大量の燃料を執念で採掘し、ロビーの調理環境と【ダルマ落とし】の元手となる莫大な資本を得た場所がここ「オウミ氷海」なのです。

 

 

「んー(掘った燃料をマリーの方に放るサナダ)」

 

 

 何も無かった初期のロビーに火を齎した偉業、そして探索者たちが生きる限り決して尽きぬ燃料の需要。この二つはオウミ氷海に「一攫千金の聖地」としての名を与え、多くの探索者を集め、そしてその悉くを退けました。

 

 

「ん~~(放られた燃料をインベントリに仕舞うマリー)」

 

 

 本来、燃料の採掘には異常な精神を持つ初日勢が適しています。死への適応、尽きぬ原動力、それによる異常な成長速度。極限環境での採掘作業に適応するには、これらの素養が必要でした。

 

 

「……!~~…………!(喉元を叩きボンベの空気切れを訴えるマリー)」

 

 

 しかし初日勢が都合よく働いてくれるかといえば、そんなことはありません。

 

 無尽蔵の需要とはつまり、どれだけ掘っても足りないということ。何日も何週間も何か月も、延々と燃料採掘に従事してくれるような人材は希少です。

 

 

「ん?」

 

「ん!んん!!」

 

 

 まして初日勢は数が少なく、優秀な彼らは好奇心を一番の行動方針とする自由人です。

 

 ロビーの全てで活躍を保証された彼らが、燃料採掘などという一つのコンテンツに留まり続けるハズもありません。

 

 

「ん、(マリーに手を伸ばすサナダ)」

 

「ん~~!!(手を引っ張ってサナダを抱き寄せるマリー)」

 

 

 つまり何が言いたいかというと、今エスケープ能力で氷海から脱出したサナダとマリーは────

 

 

 

 

 

 

────この職場において、最高の人材だということです。

 

 

「はーい! また燃料を持ち帰ってきたよー!」

 

「グッジョブですよぉ! お二方ぁ!」

 

 

 帰ってきたマリーが燃料を納品して、タコ部屋の燃料保管庫がググっと埋まります。バケツ数杯分の燃料をインベントリに詰め込んで一気に持ち帰る、こういう作業において【荷物持ち】は反則的な性能です。

 

 

「いやぁ良いですねぇ! 圧倒的な収集効率ですよ!」

 

「そうでしょうそうでしょう、マリーちゃんのインベントリはすごいでしょう」

 

「僕のエスケープ能力も便利でしょう」

 

 

 エヘンと胸を張るマリー、ドヤッとニヤけるサナダ、そして大量の燃料にはしゃぐヒノ。

 

 三人の間でタコ部屋に不釣り合いな、楽しそうなやり取りが広げられます。

 

 

「しかしマリーちゃんはちょっと不満があるんだよ」

 

「なんです?」

 

「それはだね────」

 

 

 控えめに言って大活躍のマリーですが、まだ不満がある様子。

 

 すぅ、と息を吸って一拍置いたマリーが、その不満を口にしました。

 

 

「──もっと一回でたくさんの燃料を集めたいんだよ!」

 

「インベントリ半分で空気尽きるもんね」

 

「そうなんだよ!」

 

 

 マリーがぎゃいぎゃいと文句を言います。

 

 

「私はもっと大量の燃料を! 一度に持ち運べるんだよ!! それなのに空気切れで強制送還されて不満なんだよ!!」

 

「あぁ、そういうことでございやしたか」

 

 

 納得したヒノに、マリーが更なる文句を言います。

 

 

「それにサナダのエスケープだってタダじゃないんだよ! 一日の回数に制限あるもん!」

 

「えっ?」

 

「バランス調整されてるから回数制限付きなんですよ、今日はあと五回くらいですね」

 

「はえー」

 

 

 さて、ここで意外な事実なのですが。

 

 

「ふぅむ……それって、インベントリ能力で解決できるのではありやせんか?」

 

 

 二人の目の前にいるヒノは【ダルマ落とし】の経営を担当する、問題解決のプロなのです。

 

 商品の安定した仕入れ、販売経路の構築、各種トラブルシューティング。社長であるオウミの考える「サイキョーの経営計画」を聞いて、現実とのすり合わせや細部の調整を行ってきた歴戦の補佐《介護要員》が彼女です。これくらいの問題解決なぞ造作もありません。

 

 

「えっどういうこと?」

 

「マリーさんのインベントリ能力は、"重量"で持てる限界が決まってるんでやしたよね?」

 

「そうだよー、かさばる荷物も気にせず持てるぜぃ」

 

 

 インベントリに体積制限はありません。例えば「50グラムのビル」みたいな軽くて大きい物があったとすれば、それを収納できるのです。なんですかこのチートスキルは。

 

 

「それでしたら『空気を収納』して、ダンジョンに持ち込むのはどうでやんしょう」

 

「あっ……確かに」

 

「…………その発想は無かった」

 

 

 それを聞いたマリーが手元の空気を収納し始めました。手元に空気が吸い込まれ続けるから、部屋の中にちょっとした風が吹いています。

 

 

「わっ! 成功したよヒノさん!」

 

「ほほーう。かなり便利ですな、インベントリ」

 

 

 酸素問題に解決の目が出ました。これで二人は潜りたい放題、馬鹿みたいな効率で燃料を集めて、燃料を司るロビーの神となる…………なら、良かったんですけどねぇ。

 

 

「それじゃあ行ってくるねー!」

 

「行ってきますねー」

 

「行ってらっしゃいなー!」

 

 

 この燃料問題を解決するまでには、もう一つちょっとした問題があったのです。まあすぐ解決する簡単なモノなのですけど。

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