地味スキル【荷物持ち】と【逃げ足】による、殺し殺され現代ダンジョン物拾い生活   作:自縛霊

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イベント告知

「やあ諸君、運営代表のポョムだよ」

 

 

 ロビーで活動していると時々、時間が止まる瞬間があります。

 

 厳密には思考速度の超加速なのですがそれは置いといて。これは運営がユーザーに干渉する時、話す時間を作るための措置です。

 

 

「今回のお知らせはイベント開催の告知だ。世間一般のゲームに倣って、我々もイベントを開くことにしたんだよ」

 

 

 もうすぐゲームクリアって時に横槍を入れられたら、誰だって嫌でしょう? 一時停止すればいくらでも時間を取れますし、話し終わったら続きも遊べる。そういう制度がこの時間停止です。

 

 

「題して『紅白キル合戦』! イベント専用マップで紅軍と白軍に分かれ、アイテムを取り合ったり殺し合ったりしてもらうよー!」

 

 

 ホログラムと蛍光色のコートを纏った運営代表ポョム……つまりロビーの創造主が……全ての探索者の前に現れ、イベント開始を告げました。

 

 

「イベント報酬も多めに用意したよ。特に目玉報酬『星空のヘアピン』は装備すれば経験値が増加する上、死んでも絶対に落とさない特別仕様だ」

 

 

 経験値増加アイテム、ネトゲにおける最強装備の一つですね。ロビーのやり込み勢にとっては、喉から手が出るほど欲しいアイテムです。

 

 

「そんなわけで明日からイベント開始だ、是非とも積極的に参加してくれたまえー」

 

 

 こうして、運営公認の殺し合いイベントが幕を開けました。

 

 

 

 

 

 

 

「サナダっサナダっ!」

 

「はいはいサナダだよ」

 

「私! これ! たのしみ!!」

 

 

 イベント告知が終わった後、マリーが自宅ではしゃいでいます。

 

 

「人がたくさん! でっかいチーム! 仲間も敵もたくさんいる!!」

 

「そうだね、みんな一か所に集まるもんね」

 

 

 ロビーは国別にサーバーが分かれていますが、逆に言えば日本人は全員同じ場所に集まります。ロビーに入場制限は無いですから、国民の何割かが一挙に集うこととなりますね。

 

 

「そして何より!」

 

 

 マリーがビシィッ! と、メニューに表示された画像を指差しました。

 

 

「この星空のヘアピン! メッッッッチャ欲しい!!」

 

「そんなに?」

 

「そんなに! 私こういう風景が覗いてるタイプの装備大好き!」

 

 

 表示された画像には宇宙ステーションの窓のように、内側に星空が見えるヘアピンが表示されています。マイクラのエンドポータルの中身みたいなビジュアルですね。

 

 

「ネトゲやってた時もこういう装備で見た目固めてたんだよね~! ねっサナダ!? 一緒に襟に着けてお揃いにしよう!!」

 

「良いよー。しかしマリーがここまではしゃぐなんて、珍しいね」

 

 

 サナダの言う通り、マリーがここまではしゃいでいるのは大変珍しいです。多分サナダでも二回くらいしか見たこと無いですね。

 

 

「ふふん、私はヘビーなゲーマーだからね! こえいうゲームっぽいイベントは否が応でも盛り上がるのさ!」

 

「マリーが楽しそうで僕も嬉しいよ、一緒に楽しもうね」

 

「うんうん! 私ら最強コンビでアイテム集めまくって無双しようね!!」

 

 

 イベントの内容はシンプル。ポイント鉱石を集めるか敵探索者のキルで陣営ポイントが増えるので、最終的に多くポイントを集めた陣営の勝ちです。

 

 ポイント鉱石はイベントマップの特定地点でのみ掘れますから、採掘場所を取り合う熾烈な戦いが起きることとなるでしょう。

 

 

「それじゃ、明日から頑張ろうねー!」

 

「おーう」

 

 

 

 

 

 

 そうして迎えたイベント当日、白軍としてウキウキでイベントマップ「紅白荒野」に移動した二人を出迎えたのは…………

 

 

「赤軍さーん、人手足りないから手伝ってくださーい」

 

「はいはーい」

 

 

 仲良くポイント鉱石を採掘する、赤軍と白軍の探索者たちでした。

 

 

「…………なぜ?」

 

 

 これにはマリーも困惑、イベントコンセプトガン無視ですよ。なんと非人道的な、ポョムの気持ちも考えてあげてほしい。

 

 状況を知るため、サナダが白軍の人に事情を聴きます。

 

 

「あのー、あっちの人赤軍ですよね?」

 

「そうだねー」

 

「襲ってきたりとかって……」

 

「いやいやナイナイ、このへん皆「セーフゾーン」の人たちだから」

 

 

 セーフゾーン、殺人と暴力の禁止された区画のことです。

 

 死に慣れてない人たちが集って、安全なダンジョンで慎ましく日銭を稼いでいる。それがセーフゾーンです。

 

 

「セーフゾーンのみんなで話し合ってねー。イベント参加はしたい、でも死にたくない。だったら殺し合わなければ、怖い思いもしなくていいじゃん?」

 

「まあ、それはそうですけど……」

 

「そんなわけで事前に停戦協定を結んで、みんな仲良く採掘してるわけなのさ」

 

 

 セーフゾーンの住民は探索者全体の七割を占めます。彼らは大した金を稼げないため、ロビーでは存在感がありません。

 

 しかし今回のイベントではその数を活かし、イベントそのものを制圧したようですね。ポョムが泣いてるぞ。

 

 

「お二人も採掘するだろう? はいこれツルハシ」

 

「あっはい」

 

「うーん……まあ、はい」

 

 

 不服そうな二人ですが、ひとまずもらったツルハシで採掘を始めました。安全にポイント鉱石を掘って、イベントマップ端の拠点に持ち帰る。生ぬるい時間が流れていきます。

 

 

 

 

 

 

「うえぇー……思ってたのと違うよぉ……」

 

 

 萎え落ちして自宅に帰ったマリーが落ち込んでいます、しおしおになってます。

 

 

「まさかこうなるとはねぇ……」

 

「もっとヒャッハーできると思ってたのにぃ……ぐえぇ…………」

 

 

 停戦条約と言えば聞こえはいいですが、やってることは堂々たる談合ですからね。悪ですよ悪。

 

 しかも問題はこれだけではありません。

 

 

「しかもさぁ……このペースじゃ総合ポイント足りないじゃん……」

 

「だよねぇ……」

 

「ヘアピンもらえないよぉーー……………」

 

 

 目玉報酬のヘアピンは紅白陣営の両方の合計ポイントでもらえます。そして殺しによるポイントが無い現状では、目標を達成するのは不可能です。

 

 マリーはどんどん落ち込んでいきます、床に転がってナメクジのようにウネウネし始めました。

 

 

「…………ふて寝する、サナダも付き合え」

 

「マリー……」

 

「ほら、はよ」

 

 

 横になったサナダをマリーがグッと抱きしめて、そのままふて寝体勢に入りました。

 

 

「もうさぁ……せっかく楽しみだったのにさぁ……」

 

「…………そうだね」

 

「ホントにもう……ヘコむ…………」

 

 

 語弊を恐れずに言うならば、実はサナダはマリーのことが大好きです。そして彼は落ち込んでいるマリーを見て、とてもつらい気持ちになりました。

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