地味スキル【荷物持ち】と【逃げ足】による、殺し殺され現代ダンジョン物拾い生活   作:自縛霊

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ゲームスタート

 これは数か月前、ロビーが開かれて少し経った頃の話。

 

 

 サナダと名乗るその少年は、体育が苦手でした。運動神経は足りているのですが、どうにも度胸が無く、ドッジボールやサッカーなどではうまく動けないのです。

 

 だから自分がみじめに思える、体育が苦手でした。

 

 

 父と母、そして姉に引け目を感じていました。

 

 父はかつて世界大会にも出た有名選手で、母もフィギュアスケートで大きな記録を残しています。姉に至っては剣道部の主将です。

 

 だから自分だけスポーツが出来なくて、サナダはなんとなく家族が苦手でした。

 

 

 そんなウジウジした日々を送っていた彼にとって、ロビーはとても魅力的な場所でした。無限の命、果てなき成長性、そして危険なモンスター。

 

 

「ここならきっと、僕でも……!」

 

 

 そう思った彼の期待は、叶いませんでした。

 

 度胸の無い彼はモンスターから逃げ回るばかりで、何の成果も得られません。なまじ逃走の才能があったのも良くなかったです。常人なら死ぬしかない状況からでさえ彼は逃げ延び、生き延び、帰還して。

 

 

 結局手元に残ったのは【逃げ足】などという、理想からは程遠い、情けなく感じるスキルだけでした。

 

 

 そんな風に沈んでいた、ある日のことです。彼はとある……何故かいつも同じ場所で荷物に潰されている……見覚えのある少女が、モンスターに襲われて、死にかけているところに遭遇しました。

 

 

 これも何かの縁だと思い、彼は少女を助けました。

 

 

 尻もちついてるところをササッと抱え上げモンスターから逃走、距離を取れたらエスケープ能力でダンジョンから帰還。【逃げ足】を使った見事な救出です。

 

 そしてそれを見た少女、マリーはこう言ったのです。

 

 

「すごっ! ダンジョンからいつでも帰還できるんだ! えっ何それ最強じゃん! チートじゃん!!」

 

 

 彼女の発言に深い意図はありません。単にすごいからすごいと言った、それだけです。

 

 しかし、自信の欠片も無かった少年の心にとって、その純粋な賞賛は、何よりも深く響いたのです。

 

 

「ねえねえそれじゃあ一緒にダンジョン行こうよ! 私メチャクチャ荷物持てるからさ! 一緒に行ったら役に立つよ!!」

 

 

 これはちっぽけな話です。自信の無かった少年が賞賛されて、頼られて、それが心の支えになった、それだけの話です。

 

 だからこそちっぽけな少年にとって、その少女の存在は、とても大きなものとなりました。

 

 

 

 

 

 本当に珍しく大はしゃぎしていたマリーが、大切な少女が、その楽しみなイベントを下らない連中に台無しにされて、サナダはとても嫌な気持ちになりました。

 

 シナシナになってるマリーが、彼女の楽しみを踏み躙って楽しそうにしている連中が、サナダは心の底から気に入らなかったのです。

 

 だから…………

 

 

 

 

 

 

「戦争を起こします」

 

 

 【ダルマ落とし】の拠点、ヒノのオフィスにて、サナダが宣言しました。燃料採掘の重要人物である彼らは、いつでもヒノにコンタクトを取れます。

 

 

「えっ」

 

 

 そしてマリーは愕然としています、何も聞かされてないですからね。

 

 

「何を言ってらっしゃいます?」

 

 

 ヒノも困惑しています、そりゃいきなり本題から入っちゃねぇ。

 

 

「イベントをここまま停戦状態で進めたら報酬取り切れないですよね?」

 

「まあそうですね」

 

「で、人がたくさん死ねばキルポイントで報酬取れますよね?」

 

「まあそうですけど」

 

「で、セーフゾーン勢たちもじゃんじゃん殺すにはどうすれば良いか? 大義名分を用意して殺し合わせる、つまり戦争ですね」

 

 

 理路整然と戦争を起こす合理性を説いたサナダが続きを話します。

 

 

「具体的には盗みです。拠点に集めたポイント鉱石は盗めるので、白軍の物をテキトーに盗んで不法投棄します。そうすれば「赤軍が盗んだ!」「濡れ衣を着せられた!」って殺し合ってくれるでしょう」

 

「わ、わぁ……」

 

 

 堂々と濡れ衣を着せると言われて、ヒノがドン引きしています。まあ彼女も人のことは言えないのですが。

 

 

「というかそっちも似たようなこと考えてますよね? 経験値増加アイテムは絶対に必要ですもん」

 

「いやぁ……まあ、確かにポイント鉱石を独占して暴利ふっかけようとは思ってましたけど……」

 

 

 酷い話ですね、ポイント鉱石の供給を絞って奪い合いを促進させるつもりのようです。あと集金。

 

 そんな非人道的な計画を聞かされてマリーがビビっています、「そこまでやる?」って顔してます。

 

 

「ふ、二人とも……そこまでやるつもりなの……?」

 

「マリーが珍しく楽しみにしてたのに、こんなくだらねぇ理由で潰されてたまるかって話だよ。あとシンプルに経験値増加が欲しい」

 

「我々としても、殺し合ってもらったほうが武器が売れて儲かるんですよねぇ。あと経験値増加は死んでも欲しいですから」

 

 

 サナダの動機は「ヘアピンが欲しい」3割、「マリーを苦しめた連中を地獄に叩き落としたい」7割くらいです。彼はマリーが大好きなので。

 

 

「私のため……」

 

「そう、マリーのため」

 

「へへへ……そっかぁ、嬉しいなぁ、へへ……」

 

 

 マリーがにやけています、ニッコニコです。彼女は大切にされる経験に乏しいですからね、こういうのは良く効くのですよ。

 

 

「ふむ……事情は分かりやした。それではお二人を、我々「戦争推進委員会」にご招待しましょう」

 

「やっぱり悪いこと考えてましたね。大方サイトゥスさんの発案でしょ?」

 

 

 どうやら既にヒノたちは、戦争を起こす準備を進めていたようです。

 

 

「ええ、その通り。赤軍のトップに座ったサイトゥスさん、白軍のトップに立ったロウシさん、そして我らがオウミ社長。この三人によって設立されたのが、戦争推進委員会で御座います」

 

「そしてそこに、僕とマリーも加わると」

 

「よろしくねー!」

 

 

 やりましたね、これでサナダとマリーは戦争推進委員会とかいうTHE・陰謀論な組織の一員となりました。字面が酷すぎる。

 

 

「お二人の作戦も、我々の計画に組み込ませていただきやす。共に、良い戦争を」

 

「良い戦争を」「良い戦争を!」

 

 

 いやぁ、いいですね、こういうの。ロビーを楽しんでるようで我々も嬉しいですよ。

 

 

 あとこのまま停戦状態だとポョムがガチで凹むので、是非とも上手くやってくださいね、頼みますよ。

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