地味スキル【荷物持ち】と【逃げ足】による、殺し殺され現代ダンジョン物拾い生活   作:自縛霊

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二度目の邂逅

※ロビー第2区画 マーケット

 

 無事に帰還した二人が売却のため、ロビーにあるマーケットへやってきました。

 ダンジョンの戦利品を換金する方法は二種類あって、運営が定価で買い取ってくれる【プラットフォーム】に行くか、探索者間で取引を行う【マーケット】に行くかの二択です。

 

「ミトラリンゴの専門店があるんだっけ?」

「そうそう、客が増えすぎて店主の採集が間に合わなくなったんだと。だから他からも買い集めてるらしい」

 

 一面にバザーが広がっているマーケットを二人が歩いていきます。

 マーケットの基本は空いてる場所に風呂敷を広げて物を売り、そして売れたら風呂敷を畳んで帰るバザー方式です。件のミトラリンゴ専門店なんかはしっかりした建物も構えている、レアケースです。

 

「このネックレス良いね、おいくら?」

「2000マスですよー」

 

 マーケットは多くの探索者で活気に満ちています。売る者と買う者、二種類の人々がワイワイと温かな喧騒を織りなしていますね。

 

「これで3000マスぅ? ボッタクリじゃねー?」

「いやいや適正価格だとも。まあ分からなくても無理はないさ、なんせ君は見るからにセンスが無い」

「んだとテメェ!」

 

 クレーマーと店主の言い争いを発端とする乱闘も起きていますが、まあ穏やかの範疇でしょう。

 マーケットでの喧嘩は良くあることです、蹴り飛ばされたクレーマーが他所の商品を散らかして……

 

「私の商品がぁ!? 何しやがるテメェ!」

「ぐぁっ!? 文句は俺を蹴り飛ばした方に言えよ!」

「問答無用! お覚悟ぉ!」

 

 被害にあった店主も乱闘に加わります。巻き込まれては堪らないと逃げる者、面白そうだと参戦する者、そしてマリーたちのように外野から野次を飛ばす者。マーケットは喧騒に満ちて、とても賑やかです。

 

「そこだー! いいぞー!」

「ナイス後頭部殴打! イイの入ったよー!!」

 

 無限の命を得た探索者にとって暴力とはコミュニケーションの一種でしかなく……こうした乱痴気騒ぎも、ロビーの日常なのです。

 

 

 

 

 

 そうして乱闘を野次ったりしながら二人がミトラリンゴ専門店に着くと、丁度女の人が店から叩き出されていました。

 

「ボケが! 当店は前払いオンリーなんだよ食い逃げばっかされたからなぁ!」

「ふざけんな! 客を叩き出す店がどこにあるってんだ!」

「ここにあんだよぉ! ロビーに現世の常識が通用すると思うなや!」

 

 前払いを拒否したらしい客がサクッと殺されました、よくある光景です。ロビーで死んでもアイテムはドロップしませんから、この殺人も実態としてはちょっと追い出されたくらいのことです。

 ちなみに前払いを拒否した客は基本的に食い逃げします、命が軽いロビーにおいて刑罰や法という概念は希薄なのですよ。

 

 悪質な食い逃げ未遂から店を守った店主が二人に気づき、話しかけてきました。子供にも人気の店ですから、客だと思ったのでしょう。

 

「ああ、ビックリさせてしまったね。ようこそ【山林カフェ】へ、歓迎す……る…………」

 

 意気揚々と話しかけた店主でしたが、二人の姿を見て徐々に勢いを失っていきました。それもそのハズ、なんせ彼は………………

 

「あれ? さっきの初心者狩りじゃん、おひさー」

「おいおいサナダ、この人は初心者狩られさんでしょうが」

「それもそうだね。じゃあ改めて、やっほー初心者狩られさん」

 

 さきほど二人を殺そうとした、初心者狩りの長身男だったのです。

 

「な……なぜここが分かった……? 目的は何だ……報復か……?」

「いや、単にミトラリンゴ買い取ってもらいに来たんだけど」

「まさか殺した相手が店主だったとはねー、はてさてどうするか」

 

 流石に奪った相手に「これ買い取って」なんて言うわけにもいきません、マッチポンプにも程があります。

 売却のアテが外れてしまい、マリーは悩んでいます。自分で売るのは何かと手間ですからね、何とか彼に売りつけて、楽に換金をしようとしているのです。

 そうして気まずい時間が流れていると、サナダがふと何かを思い出しました。

 

「あっそうだ、確か店主さんたちは僕らに殺されて武器を落としましたよね?」

「そうだね、結構奮発して買った武器だったんだよ。それをこんなアッサリ奪われて……俺は悲しい…………」

 

 店主が段々と声のトーンを落として落ち込んでいきます、どうやらそれなりに良い武器だった様子。流石にミトラ山脈から安定して果実を持ち帰れる猛者です、相応の資金と装備はあるということか。

 

「じゃあマリー、アレを返してあげよう」

「えっ良いの? 結構良い武器っぽいよ?」

「僕らが振るには大きいからね、それに護身用ならいつもので十分じゃん?」

「それもそっか」

 

 納得したマリーがインベントリから大斧とマチェットを取り出しました、そしてそれを落ち込んでいる店主の手に握らせてあげます。

 

「ほら、もう無くしちゃダメだよ?」

「……無くしたのはお前らに盗られたからなんだが…………良いのか?」

 

 一応はツッコんだものの、店主も武器を奪われたことには納得しています。殺そうとした以上殺されても文句は言えません。ロビーにおいて殺人で装備を奪われるのは自己責任ですからね。二人が奪った武器はここの常識における“正当な報酬”であり、マーケットで適当に売り捌くのが当然の行いです。

 そこを特別に返してもらえるのですから、彼が二人の情け深さに感服するのも当然のことなのですよ。

 

「まあね、お礼はこのミトラリンゴの買取で良いよ」

「キッチリ鮮度も維持してあるから、安心して引き取ってくれたまえ~」

「ありがとう、本当にありがとう。感謝として、キッチリ買い取らせてもらおう」

 

 二人は果実を買い取ってもらえて幸せ、店主たちは武器が戻ってきて幸せ。ウィンウィンの関係というヤツです。まあ実態はマッチポンプですが、初心者狩りされそうになった分で相殺できます。

 

「ところでそちらの金髪の……マリーさんで良いか?」

「マリーでーす、可愛いでしょー?」

「お、おう。それでマリーさん、さっきはどこから俺たちの武器を取り出したんだ?」

 

 これは意外な事実なのですが、インベントリ能力は現状ほとんど知られていません。単純に会得した人数が少なすぎるのです、ガチ勢の中には数人ほど同じ能力を持つ人がいますが…………やはり、希少な能力には違いありません。

 

「これはスキルの効果だよ、レベル10になったら使えるようになったんだー」

「レベル10……? マジで言ってるのか……??」

「マジだよ、常軌を逸した修行の結果こんなことになってる」

 

 【アップデート1.0】の日から数か月、スキルレベル二桁の大台に乗った探索者は数えるほどしかいません。現状国内最強とされる【デスマーチ】マスター「サイトゥス」の持つ【剣術】スキルですらレベル11であると言えば、その凄まじさが伝わるでしょう。

 

「常軌を逸したとは何さ! 店主さんに言っとくけどね、ここにいるサナダだってやってることヤバイからね? 数か月もひたすらモンスターから走って逃げ回ってるのを見てドン引きしたからね私、「いつまで同じことしてるんだ……」ってさ!」

「しょうがないだろ怖かったんだから」

 

 サナダの【逃げ足】スキルの背景にも、マリー同様の常軌を逸した修行があります。いつか機会があれば、読者の皆様も知ることになるでしょう。

 

「なんというか……すごいんだな、お前ら」

 

 マリーがインベントリから取り出した果実はカケラも痛んでおらず、新鮮で芳醇な甘い香りを漂わせています。この保存状態の良さに店主もビックリしているようです。

 

「全く香りが落ちてない……この保存状態の良さも、インベントリの効果なのか?」

「おうともよ! インベントリの中は時間が流れないからね、鮮度も維持できるってワケ」

「本当にすごいな、この状態なら高く買い取るぞ」

「ヤッホー!」

 

 こうして二人は無事に臨時収入を得ることが出来ました。ロビー内では【マス】と呼ばれる通貨が使われています、電子マネーのようなモノですね。残高は探索者の魂に紐づけされていますから、奪われたり盗まれる心配はありません。

 

「やったねサナダ! ケーキ買って帰ろうぜケーキ!」

「いいね、俺はモンブランが食べたい」

「私はチーズケーキ食べるー!」

 

 臨時収入の使い道を考える二人はとても楽しそうです。それこそ現世にいる時より、ずっと。

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