地味スキル【荷物持ち】と【逃げ足】による、殺し殺され現代ダンジョン物拾い生活   作:自縛霊

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陽茉莉の世界

 今の時間は朝の6時。登山から休みなしで動き続けてたサナダとマリーは、少しの休憩時間を取ることにしたようです。

 そんなわけで陽茉莉・ウィリアムズ(マリーちゃんの本名)はソシャゲのデイリー消化のために、ロビーから現世に帰ってきました。

 

「んにゃあ~~、ログボ回収するぞーぅ」

 

 彼女が住んでいる屋敷は森の奥にあって、同居人もいないものだから酷く静かです。週一の配達受取以外で開かれない玄関も、部屋の隅で埃を被った母親宛ての荷物箱も、最後に着た日を思い出せない外出用の上着も、ゲームに人生を費やす彼女を咎めることはありません。

 

「ムッフッフ、金があるのに微課金貫いてる私偉すぎか~?」

 

 この屋敷の発声量ランキング第一位に君臨するデスクトップパソコンに向き合って、陽茉莉が自画自賛を口にします。痴情のもつれで母親諸共この屋敷に不法投棄された彼女は、口止め料と最低限の義理立てとしてかなりの額のお小遣いを渡されています。

 しかしガチャ石無限状態でやるソシャゲには張り合いが無い、あと子供が金をドバドバ使うのは道徳的によろしくない。そんなわけでガチャ計画に頭をひねる趣を味わうため、彼女はあえて月パス課金のみで遊んでいるのです。

 

「あっ、アップデート来てる」

 

 プレイしているゲームにストーリーの更新が来ていたようですね。マウスをカチリと鳴らすと、LANケーブルを通じて9GBのファイルが部屋に運び込まれていきます。

 しかし陽茉莉ちゃんは待ち時間がじれったい様子です。少しは待っていましたが、五分も経たないうちに立ち上がってしまいました。

 

「タイミング悪い! ちょっと休んだらサナダと家に花を飾ろうって時に!」

 

 そう言うと彼女はPCをつけっぱなしのまま、ロビーに戻ってしまいました。

 陽茉莉はもう外に出ることができません。彼女にとって屋敷の外とは「ゲームのマップ外」であり、この建物こそが世界の全てなのです。であれば、探索度が100%になった現世などより、未知と会話の詰まったロビーが大事なのは至極当然のことでしょう。

 唯一交流のある相手である母親も病院に行って帰ってきませんから、陽茉莉ちゃんが現世に帰ってこなかったとしても誰も困りません。彼女が一日中ロビーに居るのは、こういう背景があったワケですね。

 

 まあ時期が来ればロビー経由で現世旅行できるシステムを用意しますから、それまでの辛抱ですよ。我々運営に任せなさ~い。

 

 

 

 

 

「サナダぁ! 花飾るぞぉ!!」

「ひえぁっ!?」

 

 空虚な「陽茉莉の世界」から帰ってきたマリーちゃんは、戻ってくるなり大声で装飾開始の宣言をしました。サナダは突然の大声に悲鳴を上げています。

 

「いきなり大声出すな! ビックリするでしょうが!!」

「ごめんごめん、楽しみ過ぎてつい」

「まったくもう。ほら、花瓶は用意しておいたよ」

 

 確かに玄関には彼の用意した花瓶、もとい大きめのジョッキが置いてあります。これは昔マーケットで投げ売りされていたところを「ジョッキでジュース飲みたい!」とマリーが購入し、そして飽きて死蔵されていた物となっております。考えなしの浪費をキチンと有効活用する、サナダ君の生活力が光りますね。

 

「わーい段取りが良い、マリーちゃん段取りの良さだいすき」

「そりゃどうも、じゃあ保冷剤すりおろすからマリーもやって」

「はーい!」

 

 保冷剤の中身がおろし金に削られて、ジョリジョリジョリと溶けないかき氷が皿に盛られていきます。なんか「溶けないかき氷」って言い回しキャッチーで良いですね、青春漫画のタイトルにありそうな感じです。実態は食べた人の体温を吸い取り続けて凍死させる恐怖のデスかき氷なのですが。

 しかしマリーはそれを一口つまみ食いしてしまいました。保冷剤を食べるな。

 

「今食べた?」

「食べた」

 

 口の端に付いた氷の欠片が彼女のつまみ食いを物語っています。思考停止で氷を削っているせいで、言葉選びが雑ですね。

 

「味は?」

「天然水の味」

「へー」

 

 脳死で話しているせいか、サナダもデスかき氷を口にしました。

 

「確かに美味しい」

「ねー」

 

 この後腹を痛めた二人は、体調回復のために心中自殺(カジュアル)をすることとなります。保冷剤なんか食べるからですよ、幼稚園児でもあるまいに。

 脳みその溶けた表情をしながら二人がジョリジョリと氷を削り続けること10分ほど、花瓶一杯分のかき氷が無事に出来上がりました。

 

「かんせーい」

「いぇーい」

 

 溶けた脳が戻らずにしばらく「ぽけー……」っとしていた二人ですが、花瓶が視界に入ったことで脳のシワを取り戻しました。

 

「ヤバイ、削るだけで満足するところだった」

「ちゃんと飾るとこまでやらないとだよ、危ない危ない」

 

 理性的になったことで二人の手際も良くなります。あれよあれよとジョッキが氷で満たされて、摘んできた花が挿し込まれました。

 テキトーに引っ張り出したジョッキですが、意外と似合ってますね。花も花瓶も硝子っぽい見た目で統一されていますから、そういう美術品にも見えてきます。

 

「おー、すっごい良い感じ」

「かなり様になってるよー、美術館から借りパクしたみたい」

「言い方よ、わかるけど」

 

 言いたいことは分かります。精巧な氷の花が俗っぽいビールジョッキに飾られてるせいで、現代アート的なメッセージ性を感じるんですよね。

 ちょっと意味深な雰囲気にはなりましたが、玄関装飾計画は大成功です。二人の思い出が一つ、家の中に増えました。

 

「ねえねえ、サナダ」

「なに?」

「すっごい楽しかった!!」

 

 そう言ったマリーちゃんは嬉しそうに、心からの笑みを浮かべていました。

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