地味スキル【荷物持ち】と【逃げ足】による、殺し殺され現代ダンジョン物拾い生活   作:自縛霊

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サナダ吸い

 始まりの平原は今日もお祭りです。初心者狩りブームは加熱していて、止む気配がありません。とはいえ初心者も狩られ続ければ学習します。猟奇的な口上を述べるヤツは敵、なんか寄ってくるヤツも敵、目についたヤツは敵、殺すとアイテムが美味しいから敵……そうして初心者たちはロビーの作法に染まっていき、最終的にはこのようになりました。

 

「そこの子たち、ちょっと有り金全部置いて行ってくれないかな?」

「ちょっとだけで良いからさっ、ねっ?」

 

 中学生にもなっていないような子供たちへ弓矢を向けて脅迫をする、立派な探索者たちがそこには居ました。脅されてるのは我らがサナダとマリー、走り回って一休憩していたところを不意打ちされてしまったのです。

 前衛のジャージ青年がサナダの首に薙刀を突き付け、後衛のセーターガールはマリーに向けて弓を引いている。手を繋いでいないから【逃げ足】のエスケープも使えない、端的に言って大ピンチです。二人の言い包めスキルが試されますね。

 

「待って待って! 僕たちそんな大したもの持ってないですよ!」

「そうそう! マリーちゃんなんか武器すら持ってないからね!?」

 

 言うまでも無いことですが、二人はインベントリの中に拾い集めた大量の遺品を貯め込んでいます。脱初心者たちがインベントリ能力を知らないことに賭けた命乞い、完全にナメてかかっていますね。

 そしてその目論見は通じました、彼らはインベントリを知らなかったのです。

 

「確かにそうだね、君たちはカバンも背負ってないし大した武器も持ってないように見える」

「そうそうその通り! マリーちゃん食べても美味しくないよ!」

 

 両手を広げて何も持ってないアピールをするマリーちゃんはどう見ても普通の子供です。これを見て死体漁りのエキスパートだと察せる人間は少ないでしょう。

 

「うんうん、どう見ても普通の子供だもん。危ないモンスターを倒してアイテムを集めるなんてとても出来ないよね」

「そうですそうです、モンスターの相手なんてしてられないですよ」

 

 これは本当のことです。サナダもマリーも戦闘力は低いですから、モンスターを倒して稼ぐようなことは出来ません。その点人間は良いですよね、二人程度の戦闘力でも簡単に殺せますから。

 

「でもね、そんなことはどうでもいいんだ」

「うん、どうでもいいね」

 

 ですが残念なことに、今回は無力な子供ムーブが通じないようです。

 何度も初心者狩りをされた彼らが、どうして挫けず何度もダンジョンへ挑んだのだと思いますか? カモ扱いされて見つけ次第襲い掛かられて、それでも何度もダンジョンへ向かう。その強靭な精神力の源は、何だと思いますか?

 

「僕たちはね、ただ人を殺したいんだ」

「たくさん殺されたからねっ、その分他の人を殺さないとダメなんだよ」

 

 復讐心です。仕返し、報復、八つ当たり、とにかく殺す側に回ること。そうすることでしか、カモられまくった元初心者たちの魂は救われないのです。

 強い負の感情を前に理屈は通じません。命乞いの失敗を悟ったサナダとマリーには、もはや遺言を叫ぶことしか選択肢は無いのです。

 

「チクショー! せっかく色々拾えたのにぃ!」

「僕たちを倒しても第二第三の初心者狩りがあなたたちを……!」

 

 マリーの頭が射貫かれ、サナダの首が落とされ、二人の集めたアイテムがその場にドロップしました。迫真の遺言に脱初心者コンビも大満足です。

 

「っはーー! 満たされる! 無念の叫びに魂が満たされる!」

「サイッコーだね! あの死を悟った瞬間の悔しそうな表情ッ! 傷ついた魂が浄化されるよ!!」

 

 二人は略奪の愉悦を隠そうともしません。ロビーの作法に染まった彼らにとって、子供たちが必死に駆け回って集めたアイテムを殺して奪うことは何ら恥ずべき行為ではないのです。

 そんなわけで初心者狩りブームは次の段階、初心者狩り狩りブームに進化を遂げました。成長した初心者たちは殺され続けた無念を晴らすため、始まりの平原でひたすら殺し合いに明け暮れているのです。

 

 

 

 

 

「んにゃーっ! ヤラレターー!!」

「っはぁぁ……、してやられたなあ」

 

 自宅で復活した二人が大の字に転がって敗北の悔しさを表現しています。ジタバタと手足を振り回し「にゅわーー!!」と叫ぶ喧しいマリーに対して、サナダ君はぼけーっとアホ面で天井を眺めていますね。賑やかなマリーちゃんに落ち着いたサナダ君でバランスが取れてます、見ててしっくりくる感じですよ。

 ほら見てください、あの悟りでも開いたかのような穏やかな表情。"十"の字にのしかかったマリーちゃんが手足を振り回して叫んでいるのにあそこまで落ち着き払っているなんて、まるで娘の駄々を受け止めるお父さんのようです。

 

「サナダーっ! サナダぁーーーっ!!」

「あー……せっかく色々拾ってたのになぁ…………」

 

 あっこれ単に放心しているだけですね、名前を呼ばれているのに返事しないどころか目線すら動いてません。自分の上でジタバタ暴れてるマリーちゃんすら意識に入らない、完全な放心状態です。

 そして放心しているのを良いことにマリーちゃんの奇行は留まるところを知りません、ついにはお腹に顔を押し付けて呻き声を上げ始めました。

 

「ん"ん"ん"ん"~~~~~っっ!!」

「あぁ…………ヘコむぅ…………」

 

 自分のお腹に顔をグリグリされていて、なおもサナダは微動だにしません。しかしこれも仕方の無いこと、30分以上漁り集めた大量の遺品を横から掻っ攫われたのです。立ち直るには時間が必要なハズ。

 傍目に見れば「大の字になる少年とそのお腹に叫び続ける少女」という奇っ怪極まる絵面ですが、これも必要なことなんですよ。多分。

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