地味スキル【荷物持ち】と【逃げ足】による、殺し殺され現代ダンジョン物拾い生活   作:自縛霊

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死因:頭から丸かじり

 突撃を決めたハナマルが一気にスピードを上げて前に出ました。サナダもそれに追随して、探検隊の先頭集団から離れます。

 

「よしよし良いね良いスピードだ! このまま奥地まで突っ込むよ!」

「はーい! まだ余裕あるから加速して大丈夫ですよー!」

「ほっほーう! そんじゃあ飛ばして行くぜぇ!!」

 

 ハナマルがぐんぐんと加速して、サナダも同様に前へ進みます。奥地へ進むほど樹木や藪が増え、足場が悪くなっていきますが、三人は一切ペースを落としません。

 

「もうちょっとで奥地に入るよ! 空気が変わって「あっこれヤバいな」ってなるから、そこからは背中注意だ!」

「はい? はーい」

「ちょっとサナダあんま分かってないでしょ、テキトーに返事してる時の声だよね今の」

「バレたか」

 

 サナダは「あっこれヤバイな」って感覚にピンと来ていません、そういう経験が無いのでしょう。

 それに対してマリーはピンと来ているようです、ニブちんのサナダに解説を始めました。

 

「ほらあれだよ、『森の奥に行ったら「ここから先は神の領域だ」とか感じて引き返した』みたいな話ネットに転がってるじゃん」

「あるな」

「そういうのだよそういうの! サナダは夜の森とか言ったこと無いタイプ?」

「それは無い方が自然だろ、夜の森とか普通に死ぬじゃん」

 

 ダンジョンほどではありませんが現世の自然も危険ですからね、現代人が気軽に探検して良いような場所ではありません。

 

「まあ分かんなかったら俺が言うよ、ぞわっと鳥肌が立つからすぐわかる」

「お願いしまーす」

 

 ハナマルは草木が生い茂る悪路をアクロバティックに踏破していきます。壁キックに空中ジャンプ、時には枝を足場に跳躍して、なるべく地面を踏まないよう意識して走っているようですね。

 

「ハナマルさん、二段ジャンプ上手いですね」

「おっ分かる? いつも走りまくってるからついでに鍛えてるのよ」

 

 【見切り】レベル5で習得できる二段ジャンプは探索の選択肢を大幅に増やしてくれる強力な技能です。ちょっと失敗したら頭から地面に突っ込んで首が逝くだけで、どう使っても強い素晴らしい能力なのですよ。ガチ勢でも時々ミスってますけど。

 

「そういうサナダさんは走るのが上手いね、この悪路でも安定して走れてる」

「実は【逃げ足】の効果なんですよ、レベル5の「悪路適応」でどこでも走れるようになるんです」

「いいなそれ、便利そう」

「おかげで乗り心地も良いんだよ? 背負われるマリーちゃんとしてもありがたい効果なのだ」

 

 悪路適応があれば大抵の地形は走り抜けられます、鉄骨渡りで全力疾走できる上にパルクールや崖昇りにも補正が乗る、非常に便利な効果なのです。なのですが…………

 

「ただ地味なんですよねぇ……二段ジャンプと違ってパッと見じゃ分かりませんし」

「あー……」

 

 そう、地味なのです。スキル全体の傾向として、戦闘に関わる技能ほど派手な能力を得やすく、そして直接戦闘に関わらないスキルほど地味な効果になりがちです。

 ですから【逃げ足】や【荷物持ち】のような地味で華の無いつまらないスキルをガッツリ鍛えているサナダとマリーは、ものすごいレアキャラなんですよ。SSRです、敬われるべきなのです。

 

「まあ……ほら、二段ジャンプは練習しないと役に立たないし、いつでも役に立つ効果は強いよ」

「そうだよサナダ! 二段ジャンプミスって頭から地面に突っ込んでるヤツらよりずっと有効活用できてるじゃん!」

「うぅ……二人共ありがとう……」

 

 二段ジャンプに失敗して頭から地面に激突して死ぬ、探索者にとってはよくある事ですね。レアアイテムを入手できた帰り道でそんな目に遭った日には、悲しみのあまりロビーで無差別殺人に走ってしまうでしょう。そうして八つ当たりされた人が報復に走り、ついでにその辺の人を殺して更なる報復の連鎖が起きる。これもまたロビーの日常です。

 

「良かったら後で逃げ足の鍛え方教えてくれない? レベル10は無理でも5の悪路適応は取っておきたい」

 

 トップギルドにとって「有用なスキル」の情報はとても貴重です。特に非戦闘スキルは鍛えている人が少ないですから、情報もほとんど出回りません。

 

「良いですよー、そんな難しいことはしてませんし」

「何ならマリーちゃんの荷物持ち修行も教えてあげよっか? 死にまくることさえ目をつぶれば簡単だよー」

「ぜひぜひ、後でお願い」

 

 別に修行法を秘密にする必要はありませんからね、みんなが強くなればダンジョンから沢山のアイテムを持ち帰って来てくれます。であれば有用な情報は積極的に広めて、探索者全体の底上げをするのが合理的でしょう。

 まあ二人の修行もとい苦行に耐えられる人がそうそういるとは思えませんがね、あれはあまりにも虚無ですから。

 

 そうこうしている間に三人が森の奥地、件の背中から襲われるエリアに突入しました。木々の密度が一段と高まり、走ってるだけで肩が気にぶつかるようになってきました。

 生い茂る葉が日光を遮り、広がる藪が足に絡まり、まるで森自体が人間を追い出そうとしているかのように感じられますね。

 

「うわっなんかゾワッと来た! 鳥肌立った!」

「サナダさんも感じたようだね、ここからは背中注意だ」

「マリーちゃんが後ろを見ておくよ、反応はできなくても何に殺られたかぐらいは確認できるはず」

 

 静かな森の中で、三人の足音がだけがざっざっと鳴り響いています。人間とかいう見るからに雑魚なオヤツが闊歩しているのに、寄ってくる捕食者も逃げ出す小動物も全く見当たりません。麓の森なら既に三頭は熊がやってきてバトルロワイアルが始まっているでしょう。

 

「…………静かすぎる、怖くなってきた」

「分かるよサナダさん、俺も正直怖い」

「静かすぎて生き物の気配がしないから、ここにいること自体が過ちに感じて来るよ」

 

 ざっざっざっ、と三人の足音が響き続けます。普通に考えてその辺にモンスターが居るはずなのに、全く見えない。不気味な状況です。

 そして、少し開けた場所に出たその瞬間

 

 

「……!?」

 

 

 ハナマルが、何者かに上半身を食い奪われました。

 

「サナダ! ハナマルが殺られた!」

「嘘!? 何の音もしなかったぞ!」

 

 脚だけになったハナマルを背に二人が走り続けます、命の危機に足が早まり、しかし敵は見えません。

 

「なんか地面から黒いヤツが飛び出してた! すぐ消えたから多分地面に潜ってる!」

「だったら木に登るぞ! 地面から離れれば手出しできないだろ……!」

 

 悪路適応の応用でサナダが樹上に飛び乗りました、木のうろを足場にした見事な跳躍です。フィギュアスケートなら5点は固いですね。

 

「ふう、これでひとまず大丈夫なハズ」

「ヤバイよサナダ、あれはヤバイ、潜るのも飛び出るのも早すぎる」

「そこまでか……なんだそのバケモ────」

 

 サナダがその言葉を言い切る前に、上半身を食い千切られてしまいました。地面に落ちた下半身も再び飛び出したソレに丸呑みされてしまいます。

 そうしてまるで、最初から誰もいなかったように、森は静寂を取り戻したのです…………

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