ULTRAMAN GINGA with GOD EATER   作:???second

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新年早々の愚痴です。

ここしばらく、面白動画とかいろいろ気になったりで執筆にあまり集中しきれなくなって悩んでます。卿はここまで必ずやるぞ!と思っても…考えてもなかなか思いつかなくて筆が動かなかったり、パソコンがうまく動いてくれない時とか特にモチベーションがさがったりとか…
そして「この展開で本当にいいのだろか」とも。結構原作の流れをぶち壊してきましたから結構不安が強まってます。



終焉の時(後編)

「ウウウウウウウウガアアアアアアアア!!」

暗闇の中でアリサが叫ぶと同時だった。怪獣は狂ったように叫びながら、ユウたちに…正確にはユウに向かって手からエネルギー弾を発射した。

まともに照準を合わせていなかったため、直接は免れたが、すぐ近くに光弾が撃ち込まれ爆発するだけでも、難民たちをパニックにさせるには十分だった。

「うわあああああああ!!!」

「た、助けてくれええええええええええ!!」

難民たちは怯え、恐怖に慄いて散り散りになっていく。

「待ってみんな!」

サクヤが難民たちに向かって叫ぶが、彼らはもう自分たちの声を聞くほどの余裕はなかった。

「くそぉ!!」

コウタは銃神機で怪獣に向けてバレットを発射する。とにかくこの人たち全員が逃げきるまで時間を稼がねば…と思ったが、コウタのバレットを何発受けても、怪獣は体から被弾された時の煙を立たせたくらいで、何ともなかった。

「そ、そんな…効いてない…」

「アアアアアアアアアア!!!」

呆然とするコウタを無視し怪獣は手を振り回しその手から放つ光弾で無差別に周囲を攻撃し始めた。その一発が、コウタにも襲いくる。

はっとなって気が付いたときには、コウタを飲み込もうとしていた。しかしその時、コウタの前にソーマが現れ、タワーシールドを展開し、彼に代わって怪獣の光弾を防いだ。だが、やはりエネルギー弾を防ぎきれず、ソーマは吹っ飛んでしまう。

「ソーマ!」

すぐにエリックが駆け寄り、彼に手を貸そうと手を伸ばした。

「あ、俺…」

「ボーっと、してんじゃねェ…!」

気が付いたコウタが、思わず声を漏らすも、ソーマはコウタを睨み返して厳しい言葉を吐く。だが彼の言うとおりだ。パニくることもボーっとすることも許されない。

「グゥウウ…!!」

ボガールは空に向けても、地上に向けてもエネルギー弾を飛ばし続ける。そのエネルギー弾に恐れを感じ、先ほどまで第1部隊と難民たちを取り囲んでいた氷のヴァジュラでさえ驚きすぎて、文字通り尻尾を巻いて逃げ始めるほどだった。だが何体か、ボガールの無差別の光弾に体を砕かれていった。

「ぐああああ!!」

ユウにもその余波は来ていた。というか、彼が最も狙われていた。

必死になって避けていくも、アーサソールの騒動から引き続いての戦闘、たとえ応急手当と回復を受けても無理があった。しかも今は、ギンガに変身できない。当然、ユウは爆風によって吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられた。

「ユウ、大丈夫か!しっかりするんだ!」

「ぐ、うぅ…なんとか…ね」

激痛ばかりが走る体を、タロウの激励を受けながら立ち上がる。

「それにしてもタロウ、あいつを知ってたの?」

さっきタロウが知っている口ぶりだったので、ユウがあの怪物のことを尋ねる。

「かつて、私の教え子であるメビウスがヒカリと共に戦ってようやく倒せた、恐るべき怪獣だ…奴のせいで、あらゆる星の生命体が奴に食われ、滅ぼされたと聞いている。

悪質かつ悪食な…まさに自分以外を餌としか見ていない、凶暴な生命体…」

「…!!」

タロウの語るあの怪獣の話は、まさに自分たちの知るアラガミのそれとほとんど変わらなかった。アラガミ以外にもそんな恐るべき存在がいるというのか。

しかし、あの怪獣が現れたのはなぜか。それもリンドウやアリサのいたあのビルから。

ビルが爆発する前にアリサが持っていたダークダミースパーク。闇のエージェントたちがアラガミとスパ-クドールズとなった怪獣の合成生物『合成神獣』を作り出すために利用されていた。自分がギンガへの変身に使っているギンガスパークのように、変身する力をも与えられるとしたら…

「じゃあ、あの怪獣って…アリサが…!?」

ボガールが再びユウに向かって再度攻撃の姿勢を取っていた。

構わずボガールは移動を開始する。

しかも向かっているのは、逃げまどう難民たちだった。彼らの侵攻先に降り立つ。巨体で飛んで移動できる。瞬間的に難民たちに追いつくことなど簡単だった。

「ひ、ひいいいいい!!」

難民の誰かが、思わず腰を抜かして恐れおののく。自分たちの目の前に、アラガミよりもさらに巨大で恐ろしい生物が現れただけで、彼らは動くことさえままならなくなる。

まずい!まさか彼らを攻撃する気か!?

「やめろおおおおおお!!」

「ユウ!!」

ユウは彼らの元へ駈け出しながら銃形態に切り替え、ボガールの目の前の位置に向けてバレットを放った。だが、直接ボガールに直撃させず、ただ目くらましのためにバレットを撃った。ボガールはユウの撃ったバレットに驚いたのか、鳴き声を上げながらその場で足を止めた。

「早く逃げて!!」

ちょうど後ろに座り込んでいた難民の一部に、すぐに逃げるように怒鳴るユウ。難民の人たちはただひたすら頷いて、すぐにその場から立ち上がって逃げだした。

背後の難民たちが遠くへ行ったところで、振り返ったユウはボガールに向けて呼びかけを行った。

「アリサ!!僕だ!!ユウだ!」

届くかどうかわからないが、それでもそうせずにいられなかった。

すると、ボガールはユウの声を聴いたのか、彼に視線を傾けてきた。

その目は…あの時のアリサと同じだった。初めて極東に彼女が来訪した時の、アラガミを憎むあまり、ギンガというある種の異系の姿となった自分に対しても向けていた、憎悪の目に。

「ギイイイイイエエエエアアアアア!!!」

叫び声をあげ、集中的にボガールはユウに狙いを定め、光弾を放ち始めた。とにかくユウを殺す。それだけを考えているように。

「うわ!!」

自分の周囲に光弾が落ちてきて、爆発が彼を取り囲む。

「ぐ…アリサ…やめろ!やめるんだ!!」

ボガールの光弾を、何度も必死に避け続ける中、呼びかけを続ける。

自分の声なんて、全く聞き届く気配がなかった。だめだ…まるでこちらの声が聞こえていない…。自分の神機の装甲『バックラー』ではとても耐えられないのは目に見えている。

だから、避けるしかなかった。

しかし、アーサソールを巻き込んだ闇のエージェントとの戦闘で、応急で回復してもらっただけのユウの体は、再び限界の時を迎えようとしていた。

一発食らっただけで大ダメージなのは間違いないボガールの光弾を、必死になって避ける。そんな状態はすぐに終わってしまう。

「ぐ、う…はぁ…はぁ…」

「ガアアアアア!!」

ついに避けるだけの体力を失い、スタミナ切れで荒い息が出たところで、ボガールが地面を抉って蹴り上げる。その拍子にユウも宙へ放り出される。同時に、ボガールの光弾がユウ目がけて撃ち込まれた。しかも今度は、スナイパーのように正確に向かっている。

「く!!」

やむを得ず、ユウは神機を盾に変形、ボガールのエネルギー弾を防ごうとした。

だが、仕方がないとはいえ…それはユウにとって残された武器の一つを失うことと同義だった。

ボガールの攻撃は、神機では耐えきれるものではなく、光弾を受けた神機は…。

 

柄の部分だけを残し、剣、銃、盾の部位が粉々に砕け散った。

 

「がばっ…!!!」

血反吐を吐き飛ばし、ユウは古びた鉄橋の前まで吹っ飛ばされた。下は激しい濁流が流れる川。落ちたらひとたまりもない。

血がおびただしく流れ落ち、ユウはうつぶせに倒れこんでいた。神機は今の一撃であらゆる部位を失い、もはや機能していなかった。その場で死体のように倒れたユウを見て、ボガールは彼の方から方向転換する。

その目に狙うのは………逃げまどう難民たちや氷のヴァジュラ、第1部隊のメンバーたち。

ボガールは、彼らに狙いを定めた。一匹遺さず、食い残さない…そのつもりで。

その様は、アリサの面影など全く感じさせない、血肉に飢えた凶暴なアラガミそのものだった。

 

 

 

アリサは、アラガミたちに取り囲まれていた。ピターや氷のヴァジュラ、そしていつの間にか現れていたオウガテイルやコンゴウをはじめとしたあらゆるアラガミたちが集まっていた。

「はぁ…はぁ…はぁ…」

しかし、そもそもこの世界はアリサの深層心理そのものだ。このアラガミたちも、彼女自身のアラガミに対する憎悪と恐怖が作り出した夢…幻に過ぎない。

「いや、来ないで…やめて!!やめてよおおおおおおおおお!!」

だが、アリサはそれに気が付けるほど冷静ではなかった。さっきから続くピターへの恐怖が、今の目の前の幻影アラガミたちに対するそれにすり替わってしまい、恐怖から少しでも逃れるために、次々にアリサを食らおうとする目の前のアラガミを一体一体、切り伏せ、撃ち抜いていく。

だが、絶え間なく襲ってくるアラガミたちに、アリサはもう限界だった。体力以上に、精神的な方で疲れ始めていた。それでもアラガミたちは、アリサを食らおうと近づいてくる。

「ひ…ひぃ…!!」

尻餅をついて後退りするアリサは、両親が食われていた時に隠れた、あのクローゼットに隠れようとした。しかし、そのクローゼットはアラガミたちに食われていたのか、それとも壊されたのか…どちらにせよ消え失せていた。逃げ場さえも失っていたアリサは、怯えてその場で萎縮するばかりだった。

「いや…いや…死にたくない…死にたくない…助けて……パパ、ママ…」

もう両親が助けてくれるはずがないのに、いない父と母に助けを求める。

 

―――逃ゲルコトハナイヨ

 

そんなアリサの頭に、声が聞こえてきた。

誰の声?不思議に思ったが、自分の周りをおびただしい数のアラガミが取り囲んでいる今、アリサには頭を上げる勇気さえなかった。アラガミの顔さえも見たくない、少しでも恐怖から逃れようと目を背け、耳さえも閉ざそうとする。

だが、声の主―――おそらく声の高さから女性のものだろう。だがどこか野太い声と二重で聞こえてくる――――はアリサに声をかけ続ける。

 

―――ヤラレル前二、食ベチャエバイイ

 

―――ホラ、イツモヤッテイルジャナイカ

 

「いつ、も…?」

 

――――オ前ノ武器デ

 

「私の…武器…」

声に導かれるように、アリサはなるべくアラガミたちを見ないように、傍らに落としていた自分の神機を見る。もしや、この声の主は、アリサにアラガミたちを捕食形態で食らえと言っているのか?

「で、でも私…」

それでも怖いという前に、声はアリサを安心させようと呼びかけを続ける。

 

―――大丈夫、私ガ一緒二食ベテアゲルカラ

 

その時だった。神機が、アリサの意思と関係なく、自らアラガミの顎を出した状態…捕食形態に切り替わった。

 

―――サア、オ食ベ

 

―――死ニタクナイナラ、食ベロ

 

――― 一匹残ラズ

 

その声を受け入れたと同時に、アリサは神機を手に取った。そして目の前のアラガミに向けて、捕食形態となった神機を突き出した。

 

おいしい餌を目の前にした、獣のように舌なめずりしながら。

 

「イタダキマス」

 

その時のアリサの声は、彼女自身の声ではなく、彼女に声をかけ続けた正体不明の女の声のものになっていた。

 

 

 

自分の精神世界で、彼女が神機の捕食形態を使ったと同時に…現実世界でアリサがダークライブしたボガールも、動き出した。

「く…うぅ…」

ユウは、倒れたまま起き上がる。装甲も銃・剣も失い、もう神機は使い物にならない。

でも、ただ一つユウには残された手段があった。

それは…ウルトラマンに変身すること。そうすれば彼らを助け出せるはず。

…だが、今のユウは立ち上がることさえままならないほどのダメージを負っていた。

今のボガールを止められるのは、誰一人としていなかった。

うつぶせに倒れたまま顔を上げた時、ボガールが難民たちの前に降り立ったところだった。

両手の翼のような部位を広げ、ちょうど自分の足もとや目の前にいる、氷のヴァジュラや大勢の難民の人たちに近づく。

「あ、ああ…」

氷のヴァジュラも含め、標的にされた彼らは最早逃げる気力さえ失った。そして悟った。

今、自分たちはこいつに食われる…と。

ユウも理解した。ボガールとなったアリサが、次に何をしようとしているのかを。

「いかん、間に合わない!」

タロウが叫ぶ。ボガールの光線は、ユウに変身の間さえも与えようとしなかった。

「く…ウルトラ念力!」

タロウはユウを殺させまいと、ボガールの前に瞬間移動、念力を浴びせて動きを封じようとする。だが、ボガールはタロウの念力に全く動じなかった。

(しまっ…念力が弱まっている…!)

タロウもギンガと同じで、先刻の戦いで、ただでさえ少ないエネルギーが減少したため、ウルトラ念力の力が大きく弱まってしまっていた。

タロウの妨害などものともせず、ボガールはタロウを睨み返し、目から発した念力返しでタロウを押しのける。

「うわああああああ!!」

「タロウ!?」

吹っ飛んでいくタロウに目もくれず、引き続き自分が獲物と定めた小さな生き物たちに近づいていくボガール。

「や…やめ…!!」

止めろアリサ!と叫ぼうとした。だが、声さえもうまく出しきれなかった。

「キイィィィィァアアアアア!!」

上から飛び掛かるように、彼らにのしかかってきた。そして翼で身をくるめるように立ち上がると、ボガールはその翼の中に大きく膨らんだものを抱えていた。

「…!!」

 

バリバリ!!ムシャ!!グチャリ!!

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

「!!!」

「うっ…」

第1部隊は、絶句する。中でもコウタは吐き気を催し、エリックも青ざめていた。

「あ…ああ……」

ユウは、手を伸ばしていた。だがその手は、たとえどんなに待とうが届くはずがない。

あの翼の中に何が包み込まれていたのか、瞬時に理解した。

ついさっきまで守ろうとしていた人たち、あるいは倒そうとしていたアラガミが、まとめて…

 

 

 

 

食われたのだ。

 

 

 

 

翼を広げ、膨れた腹を叩くボガールの翼の中には、真っ赤で大量の血がおぞましく滴っていた。

「な、なんなのあの化け物…!?」

サクヤも長らくゴッドイーターをやって来たが、今の氷のヴァジュラや、アリサがディアウス・ピターと呼んだ黒いヴァジュラに続いて、こんな怪物は見たことも聞いたこともない。

だがボガールは、未だに食い足りないのか、今度は第1部隊の仲間たちや、その周辺でボガールを恐れるあまり彼らを取り囲んだ状態のまま固まっていた氷のヴァジュラに視線を傾けた。

「ち!!」

ソーマが真っ先に前衛に立って神機を構える。それを見てサクヤ、コウタ、エリックも銃を構える。だが、ボガールの他にも氷のヴァジュラもまだ生き残りがいる。

絶体絶命、だった。

 

 

こうなったら、もうこの手しかない。

ユウは、ギンガスパークを取り出し、変身しようとした。しかし…ギンガのスパークドールズは出てこなかった。

「ッ!!そ、そんな…!?」

目を開いてギンガスパークを見るユウ。最悪なことに、まだギンガはエネルギーが戻っていなかったのだ。

それと同時だった、ユウがまだ生きていることに気が付いたボガールが、再び彼に視線を傾けた。

忌々しげに唸り声を漏らし、標的を再度ユウに変えて近づいていく。

それを見て危機を察したエリックが、光線の発射前のタイミングでユウに向かって叫んだ。

「ユウ君だめだ!逃げろおおおお!!」

しかしすでに ボガールの両腕から邪悪なエネルギー弾が、ユウを狙って迫っていた。

先程までの光弾とは比べ物にならない破壊力。その光線によって、遠くからも見えるほどの大爆発によって、ユウが留まっていた古びた鉄橋は砕け散った。

 

 

 

ボガールの放った光線により、ユウたちの立っていた地点が爆発を引き起こした頃…。

「ユウうううううう!!!」

遠くからその地点で爆発が起きたのを黙視したコウタは、すぐにユウたちを助けようと、バレット発射の姿勢に入るが、それを阻むように彼らの前に立ちふさがる影が現れる。

3体の氷のヴァジュラだった。他の個体がボガールに食われたというのに、自分たちが標的から外れたことをいいことに、再び自分たちを狙い始めたのだ。

「この、邪魔なんだよ!!」

苛立ったコウタがヴァジュラたちに向けてバレットを放つ。だが氷のヴァジュラたちはコウタの弾丸を後ろに飛び退くことで避けてしまう。飛び退くと同時に、奴らは頭上に形成した氷の刃をサクヤたちに向けて連射し始める。それも2体同時によるもの。マシンガンのように放たれたその氷を、三人は必死に動いて回避を試みる。しかし、ゴッドイーターになって間もなく、まだ動きが確立しきれていないコウタは、ぎこちない動きを見抜かれたのか、真っ先に氷のヴァジュラの一体に狙われる。そのヴァジュラはコウタの頭上から飛び掛かってきた。

「あ…」

「避けろ馬鹿!」

頭上から襲ってきた氷のヴァジュラに驚き、一時動きが止まってしまうコウタを、駆けつけたソーマが彼を乱暴に殴り飛ばす。コウタは結果的に氷のヴァジュラの下敷きにならず、ソーマも直ちに真下から避けるが、氷のヴァジュラが着地と同時に、自分の周囲に氷柱を地面から生やして攻撃してきた。

「うああああ!!」

「ぐが…!!」

冷気と氷柱の不意打ちに二人は突き飛ばされる。

「コウタ!」「ソーマ!」

二人のもとにサクヤとエリックが駆けつけようとする。だが、彼女の前に別の個体の氷のヴァジュラが立ちはだかる。

「あなたたちなんかにかまっている暇などないのに…」

一刻も早く、残ったリンドウを助けたいと思うあまり、サクヤはその顔に怒りを見せる。新種の大型種三体。人員が欠けすぎたこの状況では、戦うことはあまりに無謀さを増していた。

「ちっくしょぉ…」

今の攻撃で、コウタとソーマはダメージを負わされた。ソーマは体が頑丈なためか、まだ動きが鈍るほどじゃなかったが、コウタはそうはいかなかった。動きが鈍りだしている。相手がヴァジュラクラス、それも3体を相手にしているこの状況では、次の攻撃は避けきれない。サクヤは遠目でそれを見て悟る。

(回復弾を撃ってコウタのダメージを軽減できれば…いえ、そんな余裕ないわね…!こいつら全部の動きを見ながらなんて、いくらなんでも…)

その時だった。サクヤの通信機にリンドウからの着信が入った。

『サクヤ、聞こえるか…?』

「リンドウ!大丈夫!?今どこにいるの!?」

『はは、ちとドジっちまってな。只今瓦礫の毛布を被ってるとこだ』

そうだ、ボガールが現れたのは、リンドウとアリサ、ユウがいた。リンドウだけはピターの電撃で体が痺れていたせいで脱出に失敗し、瓦礫の中にいるのだ。

しかし、助けるべき仲間がそれぞれ違う方角に位置している。

(どうすればいいの…ユウ君とエリックを助けようにも、そうしたら逆にリンドウが…!でも、たとえリンドウを助けることができたとしても…いえ、そもそも今の私たちじゃ、片方を助けることさえ難しい…)

リンドウを救うか、ユウを救うか…その選択さえ判断しかねた。

リンドウはビルの瓦礫の下から脱出を図っているが、それを手伝っている間に他のアラガミが寄ってくる。ユウの傍には…あのアラガミのような巨大生物が構えている。どちらにせよこの目の前の氷のヴァジュラを切り抜けようにも、いずれがれきの撤去という大手間か、ボガール相手への勝利の見えない戦いに挑まなければならなくなる。体力的に、今の自分たちではそもそも彼らを片方だけ助けることさえ難しい状況なのだ。

もう一つ。この危機を脱する選択肢があるとすれば………両方ともここに置いて自分たちだけ撤退すること。しかし仲間を見捨てることなどサクヤには選べなかった。ましてや、リンドウは自分にとって…

しかし、リンドウはサクヤに向けて…指令を出した。

『サクヤ!命令だ、残った皆を連れてアナグラに戻れ!』

その命令は、絶対に聞きたくなかったものだった。

「でも…!」

『聞こえないのか!皆を連れてとっととアナグラに戻れ!』

躊躇うサクヤに、リンドウはさらに強く復唱する。

『悪いが俺は、新入りたちを連れ戻しに行くわ!配給ビール、とっといてくれよ?

サクヤは全員を統率、ソーマは退路を開け!!』

「だ…駄目よ!私も残って戦うわ!!」

リンドウを見捨てて行けない。サクヤは反対して自分も残ることを選ぼうとするが、リンドウはそれを聞き入れなかった。

『これは命令だサクヤ、必ず生きて帰れ!!』

「嫌よ!いやあああああ!!」

サクヤは正常でいられなかった。リンドウの言葉は、言葉だけなら自分も生きのびることを約束しているように聞こえる。だがこの絶望的な状況からだと、その言葉を信じられなかった。

コウタも同じ気持ちだった。ユウのことを助けに行きたい。でも今の自分は次の氷のヴァジュラの攻撃を避けられる自信がなかった。それに……ユウたちの近くの怪物、目の前の氷のヴァジュラ、そしてピターがすぐ近くにいる。冷静に考えてみれば絶対に不可能だった。それに、自分たちが乗ってきたヘリもアラガミにいつ襲われるかもわからない。

ソーマはスタングレネードを取り出し、氷のヴァジュラに向けて投げつけると、まばゆい光がヴァジュラたちの視界を塗り潰す。視力を奪われ、ヴァジュラたちはもだえる。その隙にソーマが少し力をため、自分とコウタ、そしてサクヤの間を挟む氷のヴァジュラの頭上から神機を振り下ろす。バスターブレード神機のみが仕えるその破壊力抜群の技『チャージクラッシュ』で氷のヴァジュラはその頭を叩き壊され悲鳴を上げた。

「ガアアアアア!!?」

「ちっ…早くしろ、囲まれるぞ!!」

サクヤとコウタ、エリックに向け、ソーマが怒鳴る。

「け、けど…」

「ユウ君を見捨てるのか、ソーマ!!」

「馬鹿か!ここで俺達まで倒れたら、誰がリンドウたちを助けるんだ!さっき頼むはずだった救援部隊を要請する暇も何もねぇんだぞ!」

「………ッ、サクヤさん行こう、このままじゃ共倒れだよ!!」

ソーマのその言い分に吹っ切れ、コウタは心の中でユウたちに申し訳ない気持ちを持ちつつも、サクヤの手を引っ張る。

「嫌よ!リンドおおおおおおおおお!!」

だがサクヤは、それに気づくどころか、正常な判断ができない状態だった。ヘリの方へ自分を後退させようとするコウタの手を振りほどこうと必死になる。

ソーマのスタングレネードとチャージクラッシュによって隙を見せている今の内に、コウタと共にサクヤを引っ張り出し、急いで戦場から離脱した。

自分たちを見失った氷のヴァジュラタチを振り返りながら、近くのビル街を行くコウタは、一言だけ、切実な思いを口にした。

「こんな時に、ウルトラマンが来てくれたら…」

しかしそれは叶わない願いだった。彼が求めるウルトラマン…ギンガは、濁流の中に流されてしまったのだから。

 

しかし、エリックだけは…違った。

(………すまないソーマ!みんな!エリナ…!)

ユウを最後まで見捨てることができなかった。

三人が目の前を走ることに集中したところで、エリックは三人から踵を返してUターンしていた。

 

 

 

「…行ったか」

通信先から命令を下すと同時に、リンドウはようやく自分を下敷きにしていたビルの瓦礫から脱出した。だが、たくさんの瓦礫はゴッドイーターの体でも重すぎて、どかすだけでもそれなりの強敵と戦うくらい体力を使う。抜け出したと同時に、雨を受けながらリンドウは背中を瓦礫に預ける。タバコで一服したいところだが、この悪天候では火が消えてしまう。配給ビールとタバコの味が恋しいな…とリンドウは薄く笑う。

だがそんな彼を、いつの間にか彼の座っている瓦礫の傍で待ち構えていたディアウス・ピター…黒きヴァジュラが、まるで彼をあざ笑うかのように笑って見下ろしていた。

「ちょっとくらい休憩させろよ…体が持たないぜ」

その体中からは、翼のような器官が飛び出た。そこからは、不気味にも血がおびただしく流れておる。これはピターの血ではなかった。

ユウたちがさきほどまで保護していた、難民たちの血だった。翼のような突起すべてに、彼らの惨殺死体が突き刺さっていた。その中には……ユウを激しく非難したスザキのものもあった。アリサがダークライブしたボガールが暴れている間、卑劣にも逃げまどう難民の人たちを一人残らずどさくさに紛れて食らっていたのだ。当然、ボガールの目を盗んで逃げつつ。

「…おーおー、ずいぶんと食らったもんだ。なのに腹は膨れきれてないってのか?」

気の抜けた言葉だが、それとは裏腹の不快な思いを顔に表しながら、リンドウは神機を杖代わりに再び立ち上がる。

こいつの事だ。彼らだけじゃ飽き足らず、ユウたちも食らう気だろう。

ユウといえば、そういえばこいつに食われてしまったうちの一人は、ユウの知り合いだった。新入りには、あのスザキという男まで食われたのは黙っていた方がいいだろう。

「…てめぇに、新入りまで食わせるわけにいかねぇ。あいつは…俺たちの希望なんだ。

だから、ここで引導渡してやるよ。6年前のロシアでの分もまとめてな」

未来を託すべきと悟ったユウのために、逃がした仲間たちのために。今まで死していった多くの人たちのために。

決死の覚悟と決意を胸に、リンドウはピターに向かって歩き出した。

 

 

 

 

(あ、れ…?)

気が付けば、自分は、爆風に煽られ遥か空の上を待っていた。

落ちていくうちに、ボガールの姿が見える。あぁそうか…と彼は理解した。自分はやられてしまったのだ。何一つ、一矢報いることも、アリサの意思に触れることさえもできず、難民の人たちを救えず、ただされるがままにやられてしまったのだ、と。

スザキらの、自分に対する罵りの言葉が蘇る。

『無能の裏切り者』

夢を叶えたい、誰かを守りたい。

そう思ってゴッドイーターになっても、ウルトラマンの力を得ても、一度その力で誰かを守れても、結局いつか死なれてしまう。例え守っても、それを感謝してくれるどころか、こちらのことなど理解せずに批判する。

 

全てが、虚しくなった。

 

 

 

木端微塵に崩れ落ちていく橋から落ちていくユウが見たのは、今も雨を降らしている雨雲と、自分の真上に飛ばされたギンガスパークだった。

 

 

 

ユウは空とギンガスパーク、その両方に向けて手を伸ばすが、その手は決して届かない。

 

 

 

超えたいと思っていた空は、どこまでも遠かった。

 

 

 

濁流の中に落ち、ユウの意識は途切れた。

 


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